?「友達に向かってその言い方はないだろ!?」
浅田「うるせえよ、こちとら仕事やってんだよ。お前だって仕事じゃねえのか」
?「抜け出して来たんだよ、やってられるかよあんなむさ苦しい配管工なんて」
そう言ってズカズカと家に転がり込んでくる巨漢は俺の腐れ縁である井上東吾、29歳童貞である。
この男、一浪で大学に入ったので俺と同じ学年だったが1つこいつの方が年上である。
だがその身体能力の高さたるやオリンピック選手に次ぐ物がある。
特に体力が化け物で1周400メートルのグラウンドを20周しても息1つ切らさなかった。
ジャック「ミャー」
井上「おお!子猫じゃんか!どこかで買って来たのか?名前はあんの?」
浅田「あー、そこらで拾って来たんだよ。あと名前はジャックな」
瑞鳳「どうしたの幸治郎?お客さん?」
風呂から瑞鳳が出て来た。シャワーでも浴びて来たのだろうか、少し髪が湿っている。そして服が薄い水色のモコモコの寝間着になっている。まあもう夕方だしね。しかも猫ずっと触って毛がついたんだろ。
井上「....お前いつから彼女できたの?」
瑞鳳「え?彼女?...........私?」
浅田「まぁそう結論を急ぐなナメクジ脳みそ。こちらも拾い子だ」
井上「あ、そうなのか。いや、すごい綺麗な人だったからさ。でも拾い子か。なんで孤児院に預けないんだ?最近出来たところあるだろう」
井上「.....あそこは、なんかカツカツなんだよ。うん」
適当に誤魔化す。張り込みの証拠映像をどうしようかと困っていたところにこれだ。時々この男は異常に直感がいい。
井上「あ、そろそろシフトだ。戻るわ」
浅田「おお、そうか。俺は飯をせびられなかっただけ嬉しいぜ」
井上「お前言い方があるだろ!?」
瑞鳳「彼女.....彼女かぁ........」
なにやら瑞鳳がぶつくさ呟いているがどうでもいい。それより気になることがある。
浅田「なあ東吾、これからの話なんだが」
井上「おう!どうした?」
浅田「あまり俺の家に来ない方がいい。極力電話で事を済ませろ。それも公衆電話だ」
井上「どういう事だ?」
浅田「いや、なんと言うことはないんだが...少しつけられてる可能性がな」
井上「....分かった。気をつけるぜ」
浅田「助かる」
井上「じゃ、また来る...じゃねえや。電話すっかんな」
浅田「おう」
そう言って手を振りながら帰っていった。なんだかんだ言ってどうせちゃんと仕事をしに行くんだろう。
あいつに飛び火しなければいいが。
背中に向かってそう願った。
ーーーー
これからまた配管工の仕事だ。かったるい。
それにしても尾行されてる...か。あいつが家にくるなとはよほどの緊急事態だな。
そんな考えを巡らせていたせいか背後に忍び寄る影に全く気がつかなかった。その影の右手が持っている睡眠薬がたっぷりと染み込まれたハンカチの存在にも。
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?「....と、言った感じで孤児院の子達の生態調査進んでるヨ。案外人と変わらないネ」
?「そうか...気味が悪いな。急に現れた女か....そういえばそこのアパートの管理人の探偵が動き始めたと聞いたが?」
?「ああ、それならもうウチの手下が張り込みしてるヨ。出入りした人間は友達の関係なら拘束したって構わないッテ言ってあるカラ」
?「そうか....随分と骨のある下民もいたものだ」
下品な笑いを夜の帳に響かせた。
そんな東京都千代田区霞が関の夜。