艦娘アパート   作:リバプールおじさん

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現在小指が折れて片手が使えません。少し投稿ペースが遅くなるかと...


第7話 己と人の天秤

 

 

その狐の様な尾長と言う男は意外にもスマートに施設の内容を教えてきた。

 

 

元々学校として建築予定だったこと。それに伴い渡り廊下に沿うようにして部屋が割り振られていること。体育館がある事。

 

 

説明はしてくれたが実際に連れて行ってくれた場所はほんの僅かだった。

 

これでは部屋の内装すらわからない。どうしたものだか。しかも内装どころか艦娘に一人も会わなかった。おそらく部屋に押し込められている可能性が高い。

 

 

 

まぁどちらにしろもうここに収穫はなさそうだ。少しでも話を聞けたらよかったんだが...。

 

その場合はあのねーちゃんからもう一度依頼を受けるしかない。流石に2回目になればこの施設だって誤魔化しは効かないはずだ。

 

 

 

もうこのところは引き上げるか?

そうだな。よし、もう収穫はない。1つだけ聞いてから帰るか。

 

「なあ、尾形さん」

「はいはい、どうされました?」

「この施設、地下室みたいなものはあるのかな?」

「いえいえいえ、そんな物騒な設備は存在いたしません。我が孤児院は完全にクリーンでございます」

「なるほどね、では失礼。ホラ、瑞鳳。帰るぞ」

「う、うん...」

 

 

応接間のドアを開けて外に出る。

 

 

 

 

「尾形孤児院長」

 

そうやって探偵がいなくなった後に現れたのはガタイのいい先ほど応接間まで探偵を案内していたあの男。

 

「どうした、須藤」

「あの男の処分はいかに」

「あの男、地下室があるかと聞いてきやがった。感づいているかも知れん」

「では...」

 

「殺せ。今なら敷地内で仕留められる」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと。どうしたもんかな」

 

伸びをしながらそう呟く。

 

「大丈夫?肩凝ったの?」

「瑞鳳。肩凝らなくても伸びをしたくなる時はあるんだぞ」

「例えば?」

「そうだね、後ろから拳銃で撃たれようとしてる時?」

 

 

 

そう言って瑞鳳を突き飛ばす。瑞鳳が転んだので彼女には当たらなかったが俺の左の二の腕から血が吹き出た。

 

「チッ...」

 

そのまま地面に倒れこむ。

 

「え?幸治郎?大丈夫!?ねえ、ねえってば!!」

 

「ダメだと思いますよ」

 

「あ、あなた確かあのおじさん?」

「そうですよ。その浅田幸治郎?とか言いましたっけ。大丈夫ですかね、すぐに死んでしまいます。今一刻も早く病院に行かなければ」

「じゃ、じゃあ私が!」

 

「ダメですよ。少なくとも『条件』を飲んでいただかないと」

 

「『条件』?」

 

 

「そうです、あなたがこの孤児院に来てくれるのならすぐに救急車を手配します、しかしあなたがもしもこの孤児院にとどまらないようなら...」

 

そう言って懐から拳銃を取り出しトリガーに指をかけ銃口を倒れこむ彼の背中に向ける。

 

「今、ここで殺します」

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

どちらを救うか。自分か?幸治郎か?天秤の重さが釣り合っている。微動だにせずどちらにするか迷っている。

 

もしかしたら私がぼやぼやしてる内に痺れを切らしてトリガーを引いたら。

 

そうだ、彼が巻き込まれる話では無いのだ。だから私がここで。

 

「分かりました。行きます。だから...だから、こうッ、幸治郎に、手を......出さないで....」

 

 

最後の方は泣きじゃくって自分でも何を言っているのかさっぱりなほどにグチャグチャな声を吐き出した。

 

私がここに入ればいいのは分かっている。

でも貧しい癖に養ってくれる彼の。

 

寒い寒い夜に自分のコートを渡してくれた彼の。

 

そして少ししか見てないがその優れた頭脳の全力を傾けて自分の仲間のために働いてくれる彼の全てを、否定するような気がした。

 

今自分が孤児院に一歩を踏み出せば幸治郎は危険がなくなる。

ただ私が来る前からやっていたように探偵業をするだけだ。

 

でもそれで彼が幸せになれないのも知っている。人というのは感情が高まるとそれを抑えるために涙を流すようだ。

 

 

「さあ、どちらにしますか?」

 

 

 

「こっちだ、このクソ猿が」

 

 

 

 

「幸治郎!?大丈夫だったの?」

「探偵の腕なんぞ何の需要もない。探偵を殺したいなら頭脳を撃つべきだったな」

「貴様ッ!」

「遅い!」

 

 

そう言って警備員が構えた拳銃に何かの液体をかける。

 

 

それは一気に白煙となり蒸発した。

 

 

だがその一瞬が命取りだった。先ほどまで探偵が倒れ込んでいたところに血痕があるだけでそれ以外の跡は何もなかった。

 

 

「逃したか....」

 

舌打ちをして警備員は中に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「幸治郎?大丈夫?」

「あ?問題ないよ、ただ少し病院で銃弾だけ取り除かせてもらう。少し病院に寄り道するがいいか?」

「うん」

 

 

 

 

「で、最終的に13日入院しちまった...」

「頑張りすぎだからね、幸治郎は」

 

 

13日ぶりの家路に着く。

 

 

20分程歩きようやくアパートの事務所に着く。

 

机に乱雑に置かれた書類を整理して寝っころがろうとした時後ろから元気のいい声が聞こえて来た。

 

 

「こんにちは!雪風です!ここどこか知ってますか!?」

 

 

瑞鳳とは違う声に眠気を吹き飛ばされながら振り返るとそこにはスカートの無いセーラー服を着た瑞鳳よりさらに小さな艦娘、『雪風』がいた。

 

 

 

そう言えば瑞鳳が来てから1ヶ月近く経つもんな....。

 

 

 

 

まだまだ増え続けるであろうエンゲル係数を思いながら寂しく笑った。




よみずいランド行った方いらっしゃいますか?ガンビアベイが4月22日はゆうしぐの近くにありましたね。

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