ちょっとシリアスかもしれない。
Pixivにもあります。
いくら願おうと守れなかった約束。
それでも戦い続けた。そして平和は戻った。
だが、彼女は……
◇
2018/04/03 ???
「……ここは、いったい何処だ……?」
彼女が目覚めたとき、その一帯は平和を取り戻したように緑が広がり、少し先を見渡せば海が広がっていた。どこかの岬ではあるが、そのどこかははっきりしていない。
その岬の中に彼女――――――初月はいた。初月が持っているものは、共に海を駆け抜け、戦い続けた艤装と、1本の刀。それだけだった。艤装も刀も、果てには彼女自身もすでにボロボロだった。
だが彼女はその身に鞭を打つように起きる。そして、目の中に広がるその世界をみて、彼女はほっと溜息をついた。
(平和に、なっているな……)
彼女は平和になったことが嬉しかった。だが、心に引っかかるものはあった。
それは、彼女の姉妹がいないこと。いないというよりかは、いなくなったが正しい。
「何のためにここに居るんだ……?」
彼女の記憶にはない岬。だからと言ってどこに行くにも情報は全くない。
その時、彼女の後ろに誰かが降り立った。
「うわっ!?だ、誰だ?」
初月は驚き腰を抜かした。そこには、白い髪にポニーテール、服はセーラー服に近い姿の少女、というよりかは天使が現れた。
天使の瞳は澄んだアクアブルーで、普通の人から少し離れている印象があった。
「今ここに居るのは、あなただけです」
天使はそう告げた。初月は、動揺を隠せなかった。
「他のみんなは……どうなってしまったんだ?」
「言いにくいですが………いません。貴方だけが、ここに来てしまったと言った方が」
初月の質問に少し機械気味の声で返す天使は、細い指を鳴らしてグランドピアノを出した。
それを見た初月は、さらにびっくりしてしまう。
「怖がらないでほしいです……一回だけでもいいんです。ピアノを、弾いてみましょう」
天使は怖がりながらも初月にピアノを弾いてほしいと願う。
初月がピアノを弾けることを知っていることを天使が知っているということを、初月は戸惑ったものの、しぶしぶ弾くことにした。
初月はピアノに置かれた楽譜を読み上げ、感覚を思い出すように少し弾いてみた。
その音色は初月にとっても懐かしい音色であった。
「いくぞ?」
初月は天使に合図を送りピアノを弾き始めた。
そして、天使は途中からきれいな歌を響かせた。
ゆったりとした局長に、天使のその声が混ざり合う。そして、それは一つの「願い」のような形になって『最果て』の岬に響き渡る。
気づけば、初月は音楽が好きなあの頃の自分に戻っていた。
天使の声が途切れ、そしてピアノによる最後のインストを弾いていたとき、初月はかつての自分と、様々な葛藤、そして守れなかった3人の姉のことを思い出し、涙を流していた。
最後の1音を弾き終わったときには、すでに涙で視界が埋まるほどだった。
天使はそれを見て、初月に1つの提案をした。
「もう一度、やり直しますか?」
「過去を……か?」
天使の提案に初月は何かを感じ取った。
「自分が成し遂げられなかったことがたくさんある、今のあなたからはそう感じ取れました。その時成し遂げられなかったことは、もうどうにもなりません。それでも、あなたがチャンスを欲すのであれば……わたしの能力で、戻しましょう。」
天使は冷静に言った。
「この場所には戻ってこれません。ですが……わたしはあなたの心の中に居ます」
「……!」
初月は泣き止んだ。涙が止まり、天使を見つめた。
「覚悟があるなら、これを持って立ってください」
自然と初月は天使の指示に従うように立った。そして天使は、ピアノで弾いた楽譜を渡し、覚悟があるとみて能力を使うことを決意した。
「あなたの心の中に居ます。何があろうと音楽を忘れないでください。それでは、これを最後だと思って、成し遂げられなかったことを成し遂げて――――――」
初月は天使の声を聞き続けたかったが、ほどなくして能力によって初月が心の中でやり直したいと願っていた時間まで巻き戻った。
その岬には、天使ただひとりが残った。
(この最果ての世界に、もう2度と誰も来ないことを祈っています)
天使は祈った。最果ての世界に来てしまったものは、本当の死を選ぶか、やり直すか、放浪するかのどれかしかないのだから。
◇
2016/04/03 PM6:30 鎮守府
「――――――よっ!」
初月は聞きなれた声を聞き、再び目を覚ました。
「なんだい……照月姉さん」
「今日、初月の誕生日でしょ?みんな待ってるよ?」
ああ、行く。と言って、初月は照月を帰した。そして、カレンダーを見る。
その日にちは紛れもなく、2017/04/03を指していた。最果ての世界で初月が目を覚ましたのは、2018/04/03。まさに1年前なのである。
「平和でいることが、何よりも大切だな……」
そうつぶやくと、初月は照月に言われたパーティー会場に向かって歩いて行った。勿論、最果ての世界で弾いたあの楽譜を持って。
END