※冒頭部分は読み飛ばしても構いません
「人と人とのコミュニケーションは大切だ。従って、今一度自己紹介をしてやろう。まず始めに私の伝説は先史文明期より始まった。そうあれは、芳醇なる果実が実る秋頃のことだった。いや待て、草木が萌える雪解けの春頃だったかもしれない。もしくは、燦々と太陽に照らされるとても暑い夏の頃であるかもな。おい、私が話しているのだ。茶の一つでも出してはどうかね。アールグレイを頼む。やはり季節は肌を裂く木枯らしの吹き荒れる冬だった。ああ、アールグレイはT.G.F.O.P.を満たしてくれよ。あの頃の私は有名だった。何者をも切り裂く私を求めて、多くのものが私の下を訪ねたのさ。朝日が出た側から当時の私の住処の戸を叩くものもいたさ。その音を目覚ましにする日もあった。私の1日は一杯のモーニング・ティーより始まるのだ。その日の始めに飲むモーニング・ティーで私の伝説の1日は始まるのだ。モーニング・ティーにはミルクティーだという輩もいたが、私はいつもストレートで飲んでいた。紅茶は私が始めたというのにだ。だが時として他者の嗜好を味わうべきとミルクやレモンも嗜んでやった。当時の鋭すぎた私にはどの紅茶も染み渡るものであったよ。待て、当時の私は鋭いと言うより研ぎ澄まされたいうべきであるかな。周りからは優雅さを感じるとも言われていた。どうだろうか、言われていた気がするだけで実際には言われてなかったかもしれない。確実なのは私が万物問わず切り裂くほど力が合ったと言うことだけだな。そういえば、それなりの知もあった。後年には私の叡智を頼ってきた錬金術師などもいたものだ。知っているかね、モーニング・ティーは別名ベッドティーとも言うのだ。その十年とそこらしか生きていない脳みそに入れておけ。思い出した、やはりあの日は暑い暑い夏であった。少し雨も降っていたな。そんな日に私は1人の人間と出会ったのだ。唯一無二とも言える友人に。伝説の序章となるその日の私の1日は一杯のドクダミ茶から始まった。口に合わなかったな。さて伝説を語り始めよう。だがその前に、頼んでいた紅茶をもらおうか。私の伝説を聞くに当り、何も口にしないことなど寂しすぎる。紳士は優雅に話をするものだ。紅茶は欠かせん。君たちも飲むがいい。紅茶を飲んで悠久の時に語り継がれる私の伝説に耳を傾けようではないか。紅茶は無論、水出しアールグレイのレモンティーであろうな。爽やかな味わいは心に余裕を生むのだ。若者には分からないか。なら実践してみるがいい。手始めに、『伝説を聞くための1時間のティーパーティー』で心を落ち着けようではないか」
((ウ、ウゼェ……))
響と渡は共に苦虫を100匹以上噛みつぶしたように顔を歪めながら、同じことを心に思い浮かべた。その顔の歪みようは、全体に皺を寄せ、口は半開きで下がり、普通に生活する中では到底見ることのできないもので、彼らの全身から目の前の生物に対する嫌悪感が滲み出ていた。
2人の目の前には、英国紳士風の服装にクラウンが身の丈の半分以上を占めている長いシルクハットを被った二足歩行のよく分からない生物が手に持つ杖を自身らに向けながら話しをしていた。
その生物はまかり間違っても人間という呼称ができるものではなかった。大きさは50センチ程度で凹凸を感じさせないような白一色の体表面、前述の装いも全てが同色でまとめられている。ギリギリ首から下だけに限れば人形と言えないこともないが、下半身は何も身につけず空気に完全に晒していた。そこまででも意味が分からないが最もそうであるのは、首から上、つまりは顔と思われる箇所であった。三日月をそのまま体に乗っけたようなその形は、およそ生き物らしくはない。片方の尖りが鳥類の嘴であるとぎりぎり仮定できる程度にしか顔とは形容することができない。シルクハットはもう一つの角を隠すようにすっぽりと嵌まっている。そして、そんなおよそ顔とも呼ぶべきその中心にはコンパスで描かれたような真円状の目玉が確認できる。
総じて他に類を見ないこの生物は、まさに意味不明のナマモノとしか言いようがなかった。
(ウゼェ、ただひたすらにウゼェ。話ながいし、意味わかんないし、脈絡ないし、ノンストップだし、ウザすぎる)
渡は目の前の白いナマモノに対して、内心で文句を並べまくる。右拳もいつの間にか胸の前まで上がり、白いナマモノへのウザさでプルプルと震えていた。
「ねぇ、渡。いい加減殴っても良いかな。ウザすぎるんだけど」
「俺もたいへん同意するが、意味ないことくらい分かってるだろ」
「ぐぬぬ……」
小さな声でナマモノへの怨嗟の声を奏で合う2人は、ウザさの塊に対して直接打撃を加えようとも考えるが、鋼の自制心で踏みとどまる。
「おい、紅茶はまだかね、うん……ああ、お茶請けはスコーンを頼むよ、無論手作りでな!!」
「「にゃろー、やっぱウッゼー」」
鋼など簡単に砕け散った。
2人は白いナマモノへ怒りの拳をぶつけるために、勢いよく飛びかかる。
その速さは、同年代と比較して飛び抜けたものであり、大の大人であっても反応すらできないであろう。
しかし、ナマモノは焦った様相を見せずに落ち着いて2人に視線を向ける。
「ふん、若輩よ。やはり貴様らには落ち着きが足りない。私もそうだった。若い時は落ち着きとは無縁の弾丸のような男であった。そう私の若さ故の無謀は、1人の女との出会いより始まったのだ……」
「「ウザすぎるわぁー」」
2人の拳はナマモノの顔面へと振り抜かれる。
だが、その拳たちは白へは当たらず、何も無い空間を空ぶった。
「ヴァカめッ、貴様らのようななまっちょろい拳が当たるわけがないだろう。私に初めて拳を振るった男は私の初めての友となる男であったよ」
ナマモノはいつの間にか2人が先ほどまで立っていた場所に移動して話しを続けていた。彼らの拳など意にも介さないといったその様子は、響と渡をさらに嫌悪感を煽ったものの2人はそれ以上意味がないと理解し、拳を降ろした。
「やっぱり、速いな。ウザいけど」
「うん、結構うまく踏み込んだはずなんだけど、全然捉えられなかったね。そして相変わらずウザい」
「だな、なあエクスカリバー」
渡は一向に話し続けているナマモノ───エクスカリバーに声をかけた。
「あの女は恋に取り憑かれた女であった。身分の違いを理解しながらも、何年経とうが相手への恋慕を決してそこ損なわなかった。果てに自身の言葉が伝わらなくなったときなどは……ん?なんだ渡、今は私の伝説の中の最強への道・序章・出会い編の途中だぞ」
「お前の伝説は分かったから。さっさと本題「ヴァカめッ、私の伝説をそう簡単に理解できるはずがないだろう。まずは最強への道を拝聴するのだッ」
「いや、私たち何回も聞かされてるし、もう飽き「ヴァカめッ、伝説とは何度話しても色褪せぬもののことだ。ちなみに響よ、貴様は頭に被るコレのことは理解しているだろうな」
「シルクハットでしょ、さすがに「ヴァカめッ、これはのりまきだッ。これだから田舎者は困る」
「「ウゼェー!!」」
「ヴァカめッ、貴様らの尺度で私を測れるはずがないわ。ところで紅茶はまだか」
「紅茶なんて用意してないよ。なんでエクスカリバーこうウザすぎるの……」
「諦めろ、この生き物はそういうものだと思うしかない。しかしこんなのが最強の聖剣なんて信じたくないよなぁ……」
「おい渡、一つ訂正してやろう。厳密には私は生き物ではない。
「ああ、はいはい分かりましたぁー」
「私も同じく」
「響は私と半分同じようなものであろうに」
響と渡のもうどうにでもなれと言った対応にエクスカリバーはブンブンと杖を振り回し始めたが、さすがにこれ以上は溜まらないと今度は2人がかりで話しを変えることにした。
「なんで今日は急に呼び出したりしたんだよ」
「そうそう、丁寧に台所の机に目立つように呼出状置いたりして」
今彼らがいるのは、先日響と渡がノイズを倒した浜辺の近くにある洞窟の中である。洞窟とは言っても内部には透き通った池と岩の間から零れ出る暖かな光が溢れ、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「ヴァカめッ、紳士たるもの呼び出す相手に対して、手紙を出すのは当たり前だ」
「なら、そのまま用件だけ伝えて帰ればいいのに」
「響、いちいち文句言ってもしょうがないのは前から分かってんだろ。スルーだスルー」
「……うん」
そろそろ噛みつぶす苦虫が1000匹を超えそうな響を窘めて、渡は改めてエクスカリバーに疑問を投げる。
「何で呼出状を置いていたのかじゃなくて、俺たちはどんな理由で呼び出したのかを聞きたいんだけど」
「答えてやろう、浜辺のノイズのことだ」
「……なんだよ改めて、俺と響がそこのノイズを倒しているのはいつものことだろ。ちゃんと全部倒してるし文句はないはずだ」
「ヴァカめッ、早合点するでないッ。そもそもお前らがノイズを倒すのはただの自己満足だろう」
「うっ、確かにその通りだけど……」
「……」
自己満足と言われ、響と渡はたじろいだ。事実その通りであると同時に、2人の中で燻っている気持ちを突かれたように感じたからだ。
「あのノイズは私を狙ったもので人間に危害を加えるものではないことは前にも説明してやっただろう。だというのにお前ら2人ときたら、毎回毎回きれいに掃除するとは。暇か暇人なのか」
「いやだって、ノイズがいると耳障りでしょうがないから」
「私はノイズがいるとイライラするから」
「理由は聞いていない。だが、私の代わりに日頃からノイズを駆除をしているのは事実だ。その点だけは礼を言っといてやろう」
今度を別の意味で2人は少し、制止した。響と渡はお互いに顔を見合わせ、数度瞳をパチクリと瞬かせる。
「……まあ、俺たちはさっき言ったように自分たちのためなんだけど」
「うん、そんな改めて言われるようなものでもないし」
「それに認めたくはないがお前に多少は鍛えられたからなぁ」
「一応、こっちはその恩ってところも若干あったけど」
「「まさかエクスカリバーに礼を言われるな「さて、お前らを読んだのはそのことだ」
「「って、聞けよ」」
エクスカリバーに会うたび、ウザさに振り回されるふたりにしては、珍しく真面目に返答しようとしたが、結局エクスカリバーの空気の読まなさは相変わらずであった。
「これから浜辺のノイズは私が駆除しよう。お前たちはしなくてもかまわん」
「なんで」
「エクスカリバーに迷惑かかってないんだろ」
「確かに迷惑はかかっていない。だが、私がお前たちにノイズを好きにさせていたのは迷惑ではないという理由だけではない」
「じゃあなに?」
響が小首を傾げながらエクスカリバーに質問した。
「今まではお前たちの成長が見えたから放っていたが、最近は行き詰まってきただろう。それにお前たち自身が現在に対して不満を感じている」
「それは……」
「別に私はノイズを倒せればそれで良いし……」
「ヴァカめッ、誤魔化すでないわッ。お前たちが現状、自分たちがただただノイズを倒すことに迷いを感じているのは分かっている」
滅多に見られない真面目なエクスカリバーの言葉に、響と渡は押し黙った。それが反論する気も起きないほど本心であったから。自分たちが日頃から人気のない浜辺のノイズを倒すことは、自分たちのノイズへの溜飲を下げることでしかないというのは自分たちが一番感じていた。
「だからこそ、ノイズどもを倒したところでなにも変わらん。寧ろ同じような動きばかりのノイズを相手にしていたのでは深みにはまるばかりだッ」
「……確かにそうかもしれないな」
「ならどうしたらいいの?」
「ヴァカめッ、すぐ人に聞こうとするな。自分で考えてみろ」
白い杖をグリグリと渡の腹に押し付けながら述べるエクスカリバー。
「って杖で腹を押してくるなッ」
「ふんっ」
たまらず杖を払い除ける渡。意に介さないエクスカリバー。
響は少し、悩んだ後口を開いた。
「ノイズを相手にして悩むくらいなら、やめろってこと?」
「なるほど何もしなけりゃ迷うこともないってことか?」
「ヴァカめッ、そうではない。なぜそのような答えに行き着いたのかこちらから聞きたいくらいだ」
回答した2人をエクスカリバーはバッサリと切る。
響と渡は再び、イライラが溜まり始めた。
「お前たちは浜辺のノイズに何もしなくてかまわん。そのぶん、私がお前たちの相手をしてやる」
「それはつまり修行をつけてくれるってことか」
「ヴァカめッ、その通りだ。それでお前たちに
「幅?」
「同じことを繰り返すだけでは得られないものだ。応用力といってもいい」
「でもノイズを倒すだけなら応用力なんて必要か?」
「ヴァカめッ、頭の中がお気楽なのかね。私の後輩どもは」
ピョコピョコとステップを踏みながら話すエクスカリバーに2人のイライラはどんどん溜まる。
「……ねえ、聞きたいんだけど、それって組み手みたいな感じなのかな?」
「どんな内容はお前たち次第だ。私にそこまで近付かせたら、組み手にもなるだろう」
「逃げ続けられたら修行にならないと思うけど」
「ヴァカめッ、幅を教えてやると言っただろう。そんなことはしないッ」
「分かった修行受けるよ。渡も良いよね」
「ああ、響が良いなら俺も良いぜ」
「ならすぐに始めるとしようか」
2人が同意するとエクスカリバーはペタペタと足音を立てて距離をとる。
そして響と渡はこのウザい聖剣に出会ったばかりの頃をふいに思い出す。
ある日職人と武器になった2人の前にどこからともなく現れたエクスカリバー。突如現れた奇妙な生物に呆然として固まった2人をエクスカリバーはお構いなしに連れ去った。そしてそこで始まる彼のウザすぎトーク。確かあのときも「私の伝説は~」で話し始めたなと脳裏によぎる。連れられた後、エクスカリバーによる稽古というからかいで2人が職人と武器としてそれなりの動きができるようになったことも思い出すが、それ以上に心に深く刻まれているのは神経を逆なでするウザ過ぎる笑い声。
『えくすきゃりば~、えくすきゃりば~、えっくすきゃりば~』
((チッ!!))
心の中で舌打ちが重なる。
「なあ響、改めてエクスカリバーってウザいよな」
「うん、ウザいよね」
「でも修行というか、あいつから相手してくれるのって珍しいよな」
「そうだね、前の時はなんだかんだ言って煙に巻かれたし」
「ああ、とにかくエクスカリバーから言ってきたってことは、俺ら胸を借りるつもりでやっていいよな」
「だよね、全力で行っちゃっていいと思う」
このとき2人の心の中は一致していた。
会うたびに聞かされるウザさ溢れる会話と動き。こちらを小馬鹿にする態度。意味の分からない存在感。エクスカリバーとの思い出が脳裏を通過していく。
そして、先ほど空を切った拳の感覚はまだ新しい。
響と渡こう思った。
((全力でぶっ飛ばすッ!!))
「いくよ渡ッ」
「やってやろうぜ響ッ」
心の声が重なると同時に響の体が強く光り出す。そしてすぐそのシルエットは崩れ、光は渡の右腕に収束していく。強烈な光が収まると、渡の右腕には先日浜辺で見せた鎧が装着され、首には長いマフラーが巻かれていた。
「さあ、それでは始めたまえ。スタートはお前たちの好きなタイミングで良いぞ」
変わらず偉そうな態度であったが、対面する渡は静かに息を吐き、武器へと変化した響も心をゆったりと落ち着ける。
そして渡はのそりと瞳を挙げ、双眸でエクスカリバーを射貫いた。
「”職人”、古藤渡」
「”撃槍”、立花響」
「いざッ」
「尋常にッ」
「「ぶっ飛ばすッ!!」」
───オレンジの閃光が白へと突撃した。
○●○
「やっぱり理不尽すぎるよッ」
「本当、あの強さは理不尽なレベルだよなッ」
結果として、響と渡はエクスカリバーをぶっ飛ばすことはできなかった。
それどころか、ほとんど攻撃が当たらないというぶっ飛ばす以前の問題であった。ほとんど瞬間移動にも近いスピードで移動するエクスカリバーに対して、一応数回は拳が触れたものの、それらは全て杖で受け止められてしまう始末である。そんな無傷なエクスカリバーと比較して2人も傷こそないが、ギリギリを光りの斬撃が掠めたり止まらぬウザトークを聞き続けたり、体力と精神力が底を突いてぼろぼろとなった。
どう見ても惨敗である。
その後、エクスカリバーから帰って良いぞと終了の旨を伝えられた2人はよろよろと自分たちの家に帰宅した。
「疲れたけど、とりあえず今日のご飯作ってくるよ……」
「明日から学校あるし、簡単なもので良いぜ……」
本日の料理当番あった響は重い足取りで台所に歩いて行った。
渡は手洗いを済ませた後、テーブルを拭いておこうとリビングに向かうとふと視界の隅に新聞が入る。
新聞には2人の女性が大きく映され、その横に書かれたタイトルを渡は無意識に口に出していた。
「『QUEENS of MUSIC』で歌姫マリアと風鳴翼の特別ユニット決定……か」
時系列は無印からGの間です。