戦姫絶唱シンフォギア 響き渡る魂   作:招き猫

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9月13日は立花響の誕生日。
おめでとう、ビッキー!!

不定期更新で期間が空いてしまいましたが、響の誕生日なので投稿できました。
まだまだ序盤なので、オリキャラの登場もありますが、未完にならないように頑張ります。


トリプル・デュオ
序奏前の静寂


『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』

 歌手デビューからわずか二か月で、アメリカの音楽界で注目を浴びるようになった新進気鋭の歌姫。ミステリアスさと力強さが共存するその歌声に発売したCDは飛ぶように売れ、最近では彼女の楽曲をテレビやラジオで聞かぬ日はないといわれるほどの人気ぶり。全米ヒットチャートを駆け上る彼女の姿に熱狂的なファンからは女王とも呼ばれている。

 今回の『QUEENS of MUSIC』での風鳴翼とのコラボは彼女からの提案を汲む形で実現することとなった。

 

『風鳴翼』

 日本で多くファンを持つ女子高生アーティスト。二年前までは、現在芸能界を引退(・・)した『天羽奏』とツヴァイウィングという名のコンビユニットを組んでいた経歴を持ち、今はソロで活躍中。ツヴァイウィング解散後の彼女の儚さを感じさせる歌声はここ数か月前から鳴りを潜めたが、今はパワフルな歌で変わらずファンを魅了している。

 彼女は海外挑戦を視野に入れていることを表明しており、今回のアメリカの歌姫マリア・カデンツァヴナ・イヴとのコラボからさらに世界に風鳴翼の名が広まることをファンや関係者が期待している。

 

 

 

 

「───ってなわけで、マリアさんも翼さんも日本とアメリカって違いはあるけど多くのファンを魅了するトップアーティストってわけよ」

 

 とある高校の昼休み、心地よい風が通る窓のすぐ横の机にいくつかの惣菜パンを広げながら男子生徒は得意げに自身の知るアーティストたちのことを語っていた。なぜか鼻高々に語るクラスメイトを若干不思議そうに眺めながら、古藤渡は弁当に持ってきた白飯を頬張っていた。

 

「ふーん、でお前はどっちのファンなわけ?」

「どっちかって聞かれると甲乙付け難いけど、強いて言えば風鳴翼かな。翼さんのことはツヴァイウィング時代から追ってるからな、奏さんが大怪我負って引退した後の黎明期もずっと応援してきたし。何より今の儚さを振り切った芯のある歌声がたまらなく好きでさ……」

(あ……また始まったな)

 

 一を聞いただけなのに十を答えるように話が止まらないクラスメイトに呆れる渡であるが、楽しそうに話すその様子に割り込む気にもなれず静かに耳を傾ける。今までも同様の話を聞いたことがあったので話半分に聞き流しつつ、渡は続いておかずの卵焼きを頬張る。

 

(ちょっと味付け濃かったか?)

「───それで俺がおすすめする翼さんの曲の一番は、やっぱりツヴァイウィング時代のフリューゲルなんだけどな。ってそういや、古藤は奏さんのファンだったんだっけ?」

「ん?……ああ、そうだな」

 

 弁当の味付けについて少し思案していた渡は、クラスメイトの問いに対して半ばぼんやりと答えを返す。そこで一度弁当を机に置き、その横に置いていたペットボトルからお茶を一口飲んだ。それから何かを考えるような素振りを見せてから、渡は青空を見上げてポツリと呟いた。

 

 「───俺はずっと前から(・・・・・・)あの人のファンだよ……」

 

 窓から吹く風は相変わらず、心地よく彼らの頬を撫でていた。

 

 

 

〇●〇

 

 

 

「これ残ってた最後の段ボールなんですけど、どこに置いておいたらいいですか」

 

 少し小さめの段ボールを腕に抱え、少し薄暗い部屋を覗きながら立花響は尋ねた。部屋の中は未開封の段ボールやそこそこ厚めの本、何かの紙束などが散見され、実際の広さより部屋を狭く感じさせていた。。

 

「それも他の段ボールと一緒に置いてもらって構いませんよ。足の踏み場さえ残っていればよいので」

 

 尋ねる響に答えるのはひとりの男性である。その声は抑揚こそないものの落ち着いており、聞き取りやすい。

 

「分かりました。じゃあ、さっき持ってきた段ボールの近くに置いておきます。一応区別つくように印でも付けておきますか」

「それはありがたいですね。なら、この付箋を使ってください。今日の日付と持ってきた順番さえ書いていただけたら私はわかりますので」

「了解です」

 

 青年の渡した付箋とボールペンを受け取り、響きは手早く日付と番号を記して段ボールに貼っていく。

 その横で男性は写真やら文章が書かれた何かの資料の束の整理を行っていた。青年の姿は、白が強い灰色の髪に長身痩躯で顔色もあまり芳しくなく、すぐに折れてしまいそうな枯れ枝を思わせた。身に纏うくたびれた白衣も男性のひ弱さを助長させている。

 

「いやー、すいませんねぇ。学校終わりに資料整理なんて頼んでしまって。響君だって予定があったでしょう」

「放課後は特に予定もありませんでしたし、尾茂田さんの頼みならこれくらいお安い御用です」

 

 涼しい顔をした響の近くで、へらへらと笑う白衣の男性の名は尾茂田垣。

 響と渡の保護者代わりであり、2人にとっては日常生活についていろいろと手助けをしてもらっている大人のひとりであった。

 2人とは一緒に暮らしていないが、街はずれの小さな一軒家で考古学者としての歴史研究を行う傍ら、渡と響が住む家にはよく顔を出していた。

 本日は、外部から送られてきた膨大な資料を整理するため尾茂田からの頼みで響のほうから彼の家を訪れていた。

 

「尾茂田さんにはお世話になってますから。そういえば尾茂田さんが連絡くれたとき渡もいたんですけど、この時間バイトなんで行けませんって言ってました」

「そういうことは気にしなくて良いのですけどね。しかし、実際響君がいてくれて助かりましたよ。急に資料がこんなに送られてくるなんて思いませんでしたから」

 

 尾茂田は紙の資料をトントンと揃えながら、溜息を吐く。その様子からは疲れが滲み出ていた。

 

「尾茂田さんを頼ってこんなに資料を送ってくるなんて、やっぱり尾茂田さんってその手の学会じゃ有名人なんですね」

「いやいや、そんなことありませんよ。分野の規模が小さくて、目指す人も少ないですから、私のような第一線を引いた陰気な科学者にもお鉢が回ってくるんですよ」

 

 そう言ってハハハと乾いたように笑う尾茂田であったが、そんな彼を横目に付箋を貼り終わった響は少し真剣な表情で口を開く。

 

「そんなこと言っても尾茂田さんは私の身体について理解(・・)しているじゃないですか」

 

 トントンと机で資料を揃えていた尾茂田は、一旦手を止めて隈の浮かべた顔を響に向けた。

 

「あのですね響君、確かに私は一端の考古学者として多少聖遺物に対しての知識はあります。ですが君のように身体と聖遺物の融合なんて聞いたことがありません。ましてや身体を武器に変化させることができるなんて、とても私の見識の外ですよ」

「でも……」

「でもではありません。もし君の身体について詳しく調べるなら、生化学者……いやそのなかでも聖遺物に理解がある人にしかできないでしょう。残念ながら、私の知り合いに条件の合う人はいません。響君がどうしてもというのなら私の元職場も頼りますが、それは響君自身が望んでいないのでしょう?」

「……はい」

 

 尾茂田の問いに対して響は、少し迷った後苦しげに肯定の意思を示した。

 それは自身の身体について知りたいという欲求とその特異性を不特定多数の人間に知られてしまうことによる恐怖心が鬩ぎ合ったことによってうまれた時間であった。

 彼女の脳内では、他者とは違い生き残ったという理由で迫害された過去の悪しき経験が思い出されていた。

 

「しかし、響君が自身の身体のことについて、何があっても知りたいと思った時は遠慮なしに言ってくださいね。全力でお手伝いしますから。響君のお父さんも娘さんの決めたことなら全身全霊で手伝いますでしょうし」

「フフフ……そうですね。お父さんは大変そうなときでも『へいき、へっちゃら』と言って私を励ましてくれましたよ。でもまあ、時々へたれる時もありましたけど、そこもお父さんらしさといえばらしさでした」

「ハハハ、しかしいざというときに勇気出せるのも君のお父さんです。私もそれに助けられました。とにかく、娘さんである響君のことは洸さんから任されましたからね。大船に乗ったつもりでドンドン頼ってください」

「はい、渡ともども頼りにさせてもらいますよ。でも、今だけで見れば尾茂田さんのほうが私を頼りにしてますけどね」

 

 響はそう言って、ポンポンと軽く積み上がった段ボール箱を叩いた。そして彼女の後ろには同じような段ボール箱がいくつも積み重なっていた。

 

「はい、そのようですね。では私もこの資料をファイルに綴じれば一段落付くので、そうしたらお茶にしましょう」

「じゃあ、お茶は私に任せてください。紅茶葉ありましたよね、レモンティー入れますよ」

「おや、響君紅茶入れられたのですか」

 

 尾茂田が何の気なしに呟いた言葉に対し、響は身体がピタリと止まり苦い表情を浮かべた。

 

「……いや、エクスカリバーがですね。あいつアールグレイのレモンティーを飲みたいって……」

「あー、ああー……そうですか、エクスカリバー……彼ですか……」

 

 2人揃って微妙すぎる表情を浮かべる彼らであったが、すぐに頭を振って気を取り直す。

 

「と、とにかく、紅茶ちょっと練習してるので飲んでみてください」

「それじゃあ、いただきましょうか。……ああそうだ、お茶請けはこちらで出してきますのでご心配なく」

「分かりました、それでは台所借りますね」

 

 そう言いながら響はパタパタとスリッパで台所に向かった。

 そんな彼女を横目で見ながら、尾茂田は机に置かれた残りの資料をファイルに綴じていく。

 朱い判で『㊙』と押された資料には、大きめの明朝体でこのような題が記されていた。

 

 

───『聖遺物と生体との融合における観察記録』───

 

 

「はてさて、これは響君に言うべきでなのしょうかねぇ」

 

 灰の髪の間から浮かべるその表情は、薄らと笑みを浮かべていた。

 

 

 

○●○

 

 

 

「ただいま」

「あっ、渡、おかえり」

 

 店長に頼まれて長めに入ったバイトから帰った渡は、多少疲れを感じながら玄関の扉を開けた。そんな彼を台所からの響の声が出迎え、同時に美味しそうな匂いが漂ってくる。スパイシー且つ食欲をそそる香りに1つの料理を頭に思い浮かべた渡が台所を覗いてみると、そこには彼の予想通りの料理をつくる響が鍋のなかを丁寧にかき混ぜていた。

 

「お、やっぱり今日はカレーか」

「うん、野菜が安かったからね。もう少しだけ煮るから、他の用意しといて」

「了解」

(……っとその前に手洗わないとな)

 

 渡は手洗い等を済ませた後、手早く机の上の片付けや水拭きをこなしていく。その間に響のほうもカレーが完成したようで、2つの平皿にご飯と一緒に盛り付けて机に運んできた。どちらの皿にも大きく盛られたカレーからは、絶えずスパイシーな香りが漂い、少し煮崩れた野菜が顔を見せる。

 

「ほら、冷めないうちに食べよう」

「おう、もちろんそのつもりだ」

「「いただきます」」

 

 2人はすぐさまカレーを食べ始めた。バイト帰りでお腹の空かせた渡は少々ハイペースで食べながらもその旨さに舌鼓を打ち、響はゆっくりと食べながら自身の作ったカレーの出来に満足しつつもさらなる改良を考えていた。

 そうして美味しいカレーを食べながら、2人は今日の1日について話しを弾ませる。渡はアイドルファンのクラスメイトのことを、響は尾茂田に注いだ紅茶のことを。互いの話しに笑ったり、呆れたりと和やかな夕食を堪能している中でふと渡は思い出したように話しを切り替えた。

 

 

「そういえばマリアと風鳴翼の合同ライブって今日だってアイツ言ってたな、テレビでも生中継されるんだってさ」

「ふーん、そう。私はあまり興味ないな」

 

 クラスメイトの話を思い出した渡の言葉に、響は少し吐き捨て気味に拒絶の意を示す。そっぽを向いて少々機嫌が悪くなったようである。

 

「あー、やっぱり響、ライブは今でも苦手か?」

「当然……いや、苦手と言うより嫌いだよ。ライブに行ったことでノイズに襲われて大けがを負ったし、治っても前の学校でいじめられた。嫌な思い出ばっかりで好きになる理由がないよ」

「でも、お前歌は好きだろ。特に楽しそうなJ-POPが。(ぶき)のお前を纏っている時によくリズムとってるのが聞こえるし」

「……それは確かにそうだけど、歌とライブは別物だし……」

「個人的には歌があるからこそのライブだと思うけどな。それにさ、響だって前に自分で言ってただろ、『私は奏さんの大ファンですぅ』って」

「そんな舌足らずな言い方をした覚えはないよ。というか内容も違うし。確かにあのライブで奏さんにプラスの感情を覚えたけど、それはあくまでもノイズから助けてもらった感謝や奏さんの人助けの姿勢への尊敬の気持ちだよ。ファンではないと思う」

「いやいや、それはあんぽんたんが過ぎるぞ。響があの人の曲をいつも聴いてるのは知ってるし、特にフリューゲルがお気に入りだってのもな。そもそも言わせてもらえば、『奏さんみたいに私もノイズと戦うッ!!』って言いながらノイズに殴りかかっている響が俺にとっての初響だったわけだし。これでファンじゃないって、へそで茶を沸かさにゃならん案件だぞ」

 

 

 響との出会いを思い出す渡の向かいで、言われてみればそんなこと言ってたっけと若干顔を紅潮させる響。昔の自分について思い出そうとする響であったが先ほどの話しの中であることに気付き言葉を荒げた。

 

 

「ってか、渡なんで私が奏さんの曲聴いてるの知ってるのッ。渡には言ったことなかったはずだし。もしかして無意識に口ずさんでた?」

「いや、響の部屋に貼ってあるあの人のポスターの下の棚にCD置いてたからな。お気に入りっぽいフリューゲルなんて特に飾ってるレベルだったから」

「なんで知ってんのッ!! もしかして私がいないときに勝手に部屋に入った? うわー渡さんデリカシーないわー。年下の部屋に勝手に入るとかないわー」

「年上って言っても1歳(ひとつ)しか変わらないからな。それに響がいないときには勝手に入ってない。この前のエクスカリバーと訓練した日の夜に、修行の話ししようとお前の部屋に行ったんだけど、扉を叩いても返事が無かったからな。その時に念のために入ったんだよ。まあ、響は机に突っ伏して夢の中であったけどな」

「………」

 

 少々ふざけた口調で渡を非難した響であったが、渡の言い分に心当たりがあり恥ずかしげに視線を泳がせた。

 エクスカリバーによる訓練(しごき)で武器状態とはいえくたくたとなり、机に向かったところで記憶が途切れていた日があったからだ。気付けば朝方であったが、響は自身に毛布が掛かっていたことを覚えおり、今になって考えると渡のおかげなのだろう。善意で自身の部屋に入っていた渡にデリカシーなどと言った自分が急に恥ずかしくなり、響の視線はさらに虚空をさまよい続けた。

 そんな響の心など露知らず、渡はカレーを食べながら話しを続けていた。

 

 

「ってか話しが逸れたけど、とりあえずさ響は歌のことも奏姉(かなでねえ)のことも好きなんだろ。風鳴翼は奏姉(かなでねえ)とユニット組んでたわけだし、合同ライブちょっと見てみようぜ。確か出番は今の時間だったはず。大丈夫だって、響の気分が悪くなればすぐ消すからさ」

「ウンイイヨ……」

 

 

 微妙に片言な了承をした響の言葉を聞き、渡は近くのリモコンを手に取りテレビを点けた。

 その彼の表情は何かを期待するようなもので、それを横目で見た響は仄かに安心した気持ちになる。先ほど渡は響の心配をしていたが、彼女自身は自分がライブ映像を見てあのときのことを思い出しても気分が悪くなることはないだろうという確信に近い予想があったからである。それは、自身が今はもうノイズへの対抗手段を持っているからなのか、もしくはそれ以外の理由なのかは響自身意識していないことであった。しかしそれでも、彼女の中で自身の過去は既に乗り越えているという自信と思いがあった。

 

 

 

 

 ライブ会場に大量のノイズ現れたその瞬間までは───

 

 









次回から、戦姫絶唱シンフォギアGの時系列に入ります。







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