戦姫絶唱シンフォギア 響き渡る魂   作:招き猫

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今日はクリスマス・イブ。
サンタを信じていたのはいつまでだったろうなと感じつつの連続投稿2日目です。




追跡者たち

 雲1つ無い青空。とある町の近くにある小高い丘の上。マウンテンバイクに跨がった2人の少年少女は町を見下ろしている。

 

「よし着いたな」

「うん」

 

 渡と響がマリアによる宣戦布告──フィーネテロ事件に介入すること決意してから次の休日。彼らは『QUEENS of MUSIC』の会場がある町を訪れていた。その町は、響が生まれてから中学時代の半ばまでを過ごした場所でもあり、彼女にとって因縁ある地とも言えた。

 

「案外早かったな」

「晴れてたし、迷わなかったらね。さっそくだけど、尾茂田さんが言ってくれてた場所行ってみる?」

「賛成」

 

 2人は話し合ったその日の内に、そのことを尾茂田へ連絡していた。彼らで決めたことを果たすために尾茂田の協力は不可欠であり、保護者でもある彼に隠れて行動できるとも思えなかったからだ。それに、渡が先に尾茂田に相談して了承されることも予想できていたために、彼らの行動は早かった。そうして、2人が尾茂田に相談すると彼は彼らの意志を尊重し、協力を快諾してくれた。ただし、2人の保護者である彼は彼らにいくつかの条件を出した。それは大きく分けて以下の3つ。

 

 1つ目は、事件に介入しても正体は極力隠すようにすること。これは彼らが特殊な人間であるためだ。ノイズへの対抗手段を持つことは当然のこと、響に至っては身体を武器へと変化させられる。そんな特異な彼らを狙う者がいないとも限らない。いや、公になった場合確実に狙われるだろう。日本政府にある対ノイズ兵器(・・・・・・)と違い、後ろ盾のない彼らの力は数多の国や組織から容易に悪意の手を伸ばされる。そうした集団特有の思惑を理解している2人、特に響はすぐに尾茂田の条件に了承した。寧ろ、尾茂田から提示されていなくても2人は進んで正体を晒すつもりは無かったため、ある意味この条件は念押しのようなものであった。

 

 2つ目は、フィーネテロ事件へ介入しても普段の生活に影響をもたらさないようにすること。つまり活動するのは2人が学校に行かない休日に限定し、大きな負傷をしないように心がけ、学業を疎かにしないということであった。渡と響がいくら職人と武器であっても、彼らはまだ未成年であり、高校に通う学生の身分。そして2人の意志を認めたとはいえ、尾茂田は響や渡のことを彼らの親たちから託されていた。2人の将来を考えた結果、彼はこの条件を彼らに示したのであった。これに対し、初めは事件に関わりづらくなると考えた2人であったが、尾茂田の心配も理解できたため、困難と感じつつ受け入れたのだ。尾茂田がその分の情報収集を自身へ任せるようにと胸を張っていたことも、要因の1つである。

 

 最後に3つ目は、できる限りノイズに襲われる人がいれば助けるということ。渡と響にとって、ノイズから助けることははほぼノイズを撃滅することと同義である。そして、2人は目の前のノイズを逃がすという考えはない。結果論で考慮すれば、わざわざ彼らに示す必要は無い条件であった。それどころか1つ目の条件を考えれば、目立つ行動を控えるように注意するべきところである。それでも尾茂田はこの3つ目の条件をあえて言及した。矛盾した条件。しかし、それを聞いた渡と響は特に理由を問うまでも無く了承した。1つ目の条件以上に言われなくても分かっているという様子、いやわざわざ念押しされたことに対する不満感さえ垣間見せた彼ら。しかし、そんな態度にも尾茂田はどこか満足げであった。

 

 そうして渡と響が3つの条件を守ることを確認した彼は、改めて情報収集を初めとした協力を引き受けてくれることとなった。保護者である尾茂田がこの程度の条件で協力してくれたのは、彼が2人の思いを理解している大人の1人であったからであろう。

 追加すると、彼と同様に2人の事情を理解しているのは白いナマモノ(エクスカリバー)であったりする。その言動のウザさから渡と響は決して認めないだろうが、彼らの付き合いもそこそこ長いのだ。2人が職人と武器を名乗るようになったのもエクスカリバーの影響であり、その力は認めているのだ。それを帳消しにするほどウザいが……。

 

 ともかくそういった経緯があり、渡と響は平日は尾茂田に情報収集を任せ、休日の今日にライブ会場のある町を訪れていた。ちなみに、移動は機動性を考慮して公共機関ではなくマウンテンバイクを用いている。

 当然だがバイクではない。2人とも、一応まだ運転免許は持てないのである。

 

「えーっと、尾茂田さんが言ってた所は……東京番外地と浜崎病院跡だっけ。どっちから行く?」

 

 懐から取り出したメモを見ながら渡に聞く響。メモには尾茂田が情報収集した、最近ノイズに関する事件が発生したらしい場所が書かれていた。前日に彼が伝えてくれたその情報を手がかりに、2人は自分たちなりにマリアを追うつもりであった。メモに書かれた2つの場所はどちらも都心から離れた場所に存在し、今いる所から距離があるものの、2人は今日中にそれらを巡るつもりのようだ。

 

「確か垣さんの話しじゃ、浜崎病院の方はつい最近ノイズが発生して騒動があったらしいからそっちからにしようぜ。事件の鮮度が高い方が手がかりも多いだろ」

「OK」

 

 2人は目的地に向かってペダルをこぎ出した。マウンテンバイクで切り裂く風は心地よく、そのまま彼らはギアを上げた。燦々と輝く太陽を背にして、彼らは加速する。

 

 

 

○●○

 

 

 

 数時間後、渡と響は浜崎病院跡地に到着した。浜崎病院はその外観の老朽具合や付近の雑多さから、閉院してからかなりの年月が経過していることを伺わせている。その不気味さは心霊スポットに近いものを連想させるだろう。

 

「廃病院ってのは聞いてたけど、予想以上だね」

「ああ、肝試しとかホラーゲームに出てきそうな所だな。こんな所近づくのはお化け好きか廃墟マニアとかだけじゃないか」

「同感。でも私たちは今ここに着ているわけだけど」

「そこは手がかり探しのためにしょうが無い。あれ、もしかして響怖いのか?」

「……はぁ、そんなわけないじゃん……」

 

 茶化す渡に対して、響は軽くため息を吐く。そんな話しをしながら廃病院の中に入るべく入り口を探していると、2人は黄色いテープのが貼られている箇所を発見した。廃病院正面の入り口に当たるであろう箇所に掛けられたテープに近づいてみると、一緒に『立ち入り禁止』の立て札も吊り下げられていることが確認できた。

 

「やっぱり、私有地だろうしこういうのあるよね」

「いや響、よく見てみろ。このテープとかやけに新しいぞ」

「……なるほどね。この病院が潰れてから付けられたにしては奇麗すぎる。しかもこんな入り口だったら、雨風に晒されてすぐにぼろぼろになってるか外れているはず」

「だろ。ってことはつい最近この病院で何かあったからこの札を取り付けた。……垣さんのくれた情報の信憑性も上がるってもんだ」

「あの人、ひょろっとしてたり頼りなさそうだったりするときもあるけど、かなり幅広くスキル持ってるよね」

「胡散臭い雰囲気もあるからな垣さん。せめて見た目だけでもなんとかしたら良いのに」

「私も初めて会ったときは、なんだこの人とか思ったんだよね」

 

 苦笑いする2人。とにかく立ち入り禁止の表記はあるものの、わざわざここまで来たのだからと彼らはテープをくぐって敷地内に進入する。外から眺めるだけでは得られないこともあるのだ。

 しかし廃病院内に足を踏み入れてみると、響が得も言われぬ違和感を感じ取った。彼女は指先から何かピリピリと痺れるような感覚に眉を顰める。

 

「ねえ渡、なんだか痺れない?」

「ん? 俺はそんな感じしないが。調子悪いなら、病院の外に出とくか」

「別にそこまでじゃないよ。微かにピリピリするだけ。動くのには、ほぼほぼ影響ない。それに2人じゃないと調べられないこともあるでしょ」

「……それもそうだが無理はするなよ。響が大丈夫ってんなら信じるけどな」

「ありがとね」

 

 2人が廃病院内を歩いて行くと、経年劣化による傷もあったが、明らかな破壊痕も各所に発見できた。損壊の状態からそれらが数日以内にできたものであろうことも読み取れる。

 

「ホコリの積もり具合とかから見ても最近のもの。……廃病院内(ココ)で何が騒動があったのは確かみたいだな」

「そして破壊の痕跡ってことは、誰かが戦ったってこと。ノイズから逃げるだけじゃこんな痕は残らない」

「ああ、だがこれがマリアに関係するかは分からないな」

 

 さらに廃病院内を探索して奥へと進んでいくと、途中で少量の黒い灰を発見することもでき、彼らはここにノイズが現れていたという確証を強くした。そうしていくと、不意に1つの部屋の前で渡が立ち止まる。何か考えた素振りを見せた後、彼はその部屋の中心にまで立ち入り、床に手を触れた。

 

「渡何かあったの?」

「……聖遺物の気配がある。響、ちょっと武器に変化してくれ」

「なるほどね、OK」

 

 響の身体が解け、籠手とマフラーになって渡に装着される。

 

(微かに染み込んでいる()を感じ取りたい、いけるか響)

(任せて、雑音補正と音量アップをやってみるから)

(頼むぞ)

 

 彼は続けて床に手を触れ、何かを感じ取るように意識を集中する。すると、彼の中には徐々に様々なリズムが聞こえ始めた。

 

(……この特有のリズムやっぱり聖遺物だな。しかもこの感じ『ガングニール』で間違いない。しかしこの音の重なりよう、1つじゃないな。いくつかの聖遺物があったってことか)

 

 渡はこの場所の音を聞いていた。普通の人では決して聞き取ることのできない特殊な音を。これは彼の体質とも言うべきものであった。聖遺物やノイズが発する特殊なエネルギーを一定の音として感じ取る特殊能力。過去のとある経験からこの力を身につけた彼は、今日に至るまでに多種多様な場面でこの力を活用してきた。あるときは尾茂田の研究の手伝いのために、またあるときはノイズと相対するために。そして今、その力によって彼はこの場所に聖遺物の気配を感じ───否、聞き取ったのである。その存在は無くとも、聖遺物が発したエネルギーがこの場所に染み込み、奏続ける音の流れが彼には聞こえている。

 また、この能力は響の補助によって精度が向上する。彼だけでは直接受けることになる雑多な音の群れを、彼女が調律することで彼はリズムとして聞き分けることができるのだ。特にノイズは、響の調律なしで聞き続ければ頭痛に繋がるほどのひどいリズムである。そのひどさは、マリアによってテレビ画面に映ったノイズを見ただけで思い出され、脳裏をかき乱すくらいであった。

 そんな力のことを、渡や響は『音感知能力』と呼んでいた。

 

(ガングニールがあったってことはマリアがここにいたってことか? ってことは複数の聖遺物はマリアが持ち込んだ? でもなんでこんな場所に? ここに何か研究設備があったのか? だがここに来るまでにそんなものはなかった。もう撤去された? そもそもこんなボロい建物で研究設備なんてあるか? わかんねえな……ってかノイズの音も混じってやがる、戦闘があったことは確定か)

 

 いくつかの確信とそれ以上の疑問が渡の頭の中を渦巻いていく。音を感じ取りながら考えに耽り、思考の沼に嵌まっていこうとする中で、響が話しかけた。

 

「ねえ渡」

「ん? なんだ響」

「もうやめて良いかな?」

「別に構わないが、どうかしたか?」

「ちょっとね、まず戻る」

 

 籠手とマフラーが発光し、すぐに渡の隣に響が現れる。すると彼女は掌を見ながら何かを確かめるように、何度も握り始めた。

 

「ふう……」

「大丈夫か響、さっきの痺れが気になってんのか?」

「うんそんなとこかな。武器から戻ったらマシになったんだけど、さっきまでちょっと痺れが強くなってたから。念のため戻ったんだ。ところでどう何か分かった?」

「とりあえずここに複数の聖遺物が少し前まで保管されてたってことは分かったな。後、微かだがガングニールの音もあった。ってか無理すんなよ」

「うん。でも原因はわかんないからどうしようもないかな。幸い、痺れが強くなったって言ってもノイズと戦うくらいなら問題ないから、安心して。それよりガングニールもあったって本当?」

「ああ、響に近い音だから間違いない。だがそこまで(・・・・)だな。ガングニールがあったってことだけだ」

「……そのガングニールを誰が使ったのか。もしくは使われなかったかは分からないってことだね」

「そうだ。マリアが使ったってんなら、追いやすくもなるが。ガングニールは奏姉も使っていた。そうだよな響」

「うん、多分間違いない」

「だから結論は出せない。それにどっちが使ってたにしろ、そうでないにしろ、ココで考えても疑問は次々出てくる。今は残りの探索を続けた方が懸命だと俺は思う」

「だね」

 

 疑問について話合いながら、彼らは廃病院内の探索を続行した。しかし、それ以降目新しい発見は無く、彼らは少し消沈しながら廃病院の壁に空いた大穴から外に出た。

 

「よっと」

「おい転ぶなよ。瓦礫とかあるしな」

「大丈夫だよ。ねえ、結局ココで分かったことでマリアを追えるのかな?」

「それは分からねえ。でも貴重な手がかりを手に入れたのは確かだ。このタイミングでガングニールを含めたいくつかの聖遺物がココにあって、ノイズもいた。それをただの偶然じゃねえって信じるしかないだろ。俺たちが舞台に上がるにはな」

「……そうだね。私たちは飛び入り参加希望者なんだから、登るための階段を探すしかないよ」

「とりあえず、ガングニールが目印になるかもしれないって希望的観測がついただけで儲けものだ」

「うん。じゃあ、必要になったとき感知は任せたよ。調律は私がするから」

「頼むぞ」

 

 2人が探索を終え、次なる目的地へ向かうべく、マウンテンバイクを止めた場所に足を進めようとする。しかし、そんな彼らに突如声が掛けられた。

 

「ちょっとあなたたち!」

「「ッ?」」

 

 

 その声は、響と同じ女性の声であった。渡たちが声のする方を向いてみると、少し離れたところから一人の女性が歩いてくるのが見えた。どこかスーツに似た紺色の制服を来た大人の女性は、怒った顔をしながら二人へと近づいてくる。

 

「ここは立ち入り禁止ですよ、立て札がありませんでしたか?」

「ああ……すいません気付きませんでした。」

「……すみません」

「まったく注意してください」

 

 どうやら女性は2人が廃病院内に侵入していたことを注意しに来たようだ。彼女は彼らに多少追加して注意喚起した後、敷地内から出るように促した。

 

「立ち入り禁止の看板はちゃんと見つけてくださいね」

「はい」

「分かりました。ところであなたはどなたですか?」

「私はここの調査を任された公務員ですよ」

「……へえ、そうなんですか」

 

 女性の身分を聞いた渡は心の中で少し考える。そして女性の歩いてきた方向をちらりと見てみると、複数の車両が視界に入った。周囲には女性と同様の制服を着た人達も確認できる。

 それから、彼は少々大仰気味に女性へと話しかけた。

 

「あの公務員さんがなんでこの廃墟の調査を? もしかして取り壊しでもされるんですか、ここ? ボロいですからね。その分良い雰囲気出てますけど。公務員さんもそう思いませんか?」

「はぁ……よく分かりませんが」

「ふぅん、そうですか。でも僕たちこういう雰囲気好きなんです。ホラーっぽいのが。……そう言えば調査と言ってましたけど、まさか何か(・・)ここに出たんですか?」

「……申し訳ないけど、こっちも守秘義務があってその質問に答えることはできないの。さあ、ここは危ないからさっさと帰りなさい」

「了解です。いやぁ、すいません、変な質問してしまって、ちょっと期待してしまったんですよ。お化け(・・・)が出たんじゃないかって」 

お化け(・・・)なんて出ていませんよ。はい、さようなら」

「はい、ご迷惑おかけしました。じゃあさっさと行こうぜ」

「……うん」

 

 礼をしてそそくさとその場を後にする2人。少し早足気味にマウンテンバイクの所まで行き、そこから走り出した。ある程度風を切った後、渡は響に話しかける。

 

「おい響、さっきの人どう見る?」

「……何、渡の好みだったりするの?」

「違えよ。さっきのやりとりの話だ」

「はいはい。『調査』、『公務員』、『お化けなんて出ていない』……渡の言いたいことはそういうことでしょ」

「分かってんじゃないか。『お化けではない何かが出た』、ハハ」

「笑ってるの?」

「ああ、思いもよらぬ手がかりだからな」

 

 渡は口元に弧を描きながら、マウンテンバイクのギアを上げた。先よりも速度の上がった彼の身体で空気が切り裂かれていく。彼に離されぬようにと、後ろから響もギアを上げて追いかける。

 

「ちょっと急に上げないでよ!」

「すまねえな。でも今日中に番外地にも行くんだから、速いほうがが得ってもんだ!」

「急がなくてもまだ時間あるよッ!」

 

 2台のマウンテンバイクは多少の喧噪を纏いながら、速度を上げていった。

 

 

 

○●○

 

 

 

 とある大部屋。薄暗い中で近代的なモニターの光が並ぶその場所で、大柄な一人の男が資料に目を通していた。彼が手元の資料に集中していると、後ろにあるスライドドアが開いて女性が入ってきた。

 

「司令、ただいま調査より戻りました」

「おお帰ったか友里(ともさと)。急に浜崎病院の調査頼んで悪かったな」

「大丈夫ですよ。それに仕方ありません。調査部の方も人手が足りないのですから」

「うむ、F.I.S.が『記憶の遺跡』を襲撃したおかげでな。紛失された聖遺物の確認がまだまだ終わっていない」

「だからこそです。それと司令も多忙だと思いますが報告書の確認お願いします」

「ああ分かった。……ったく、忙しくて映画も借りにいけねえな……」

 

 男はぼそりと呟きながら一瞬残念そうな表情を見せる。しかし、すぐに切り替えて女性の提出した報告書に目を向けた。

 

 

 

 

 







(クリスマスに予定なんか)ないです


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