R団のズッコケ3隊長と不思議少女    作:長星浪漫

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今回は書いているうちにまたもや止めどころを見失い長くなってしまいました。



4-2「つかのまの勝利」

 「やったのか?」

 

 ケンが恐る恐る体を起こした。ハリーも立ち上がり今だ動かないニドキングを注視する。そこへミモザとリョウが走ってきた。

 

「おい!今の爆発はなんなんだ…て、倒したのか!?」

 

 リョウが黒こげのニドキングを見て驚きの声をあげる。

 

「すごいの…」

 

 ミモザも口をあんぐりと開けてニドキングを見た。

 

「まだ油断はできないけどな、アリアドス、スコルピ、見てこい」

 

 命令に頷いた二匹はニドキングの元へ向かう。マルマインはボール回収できる最長地点からボールに戻した。四人は集まり話し合った。その顔には疲れがみてとれた。

 

「さすがに疲れたな」

 

「あぁ、だけどこれで終わるだろう」

 

「早く寝たいぜ…」

 

「…あっ」

 

 ミモザが突然青ざめるそれを見た他の三人は一瞬で状況を察しニドキングの方を見た。ハリーが慌てて指示を出す。

 

「アリアドス!“まもる”!」

 

 しかし、アリアドスは“まもる”を使わなかった。いや、使おうとしなかった(・・・・・・・・・)

 

「アリアドス!?どうした!早く“まもれ”!!」

 

「!!!」

 

 他の三人は次のポケモンを出した。ケンはエレキッド、リョウはスリーパー、ミモザはフワンテを繰り出した。

 

「アリアドス!!」

 

 ハリーは必死にアリアドスを呼ぶがアリアドスは強い敵意をニドキングに向けたままだった。

 

「…!」

 

 目をカッと見開いたニドキングは無言のままアリアドスを“ふみつけ”た。

 

「アリアドス!くそっ、なんで“まもる”を使わなかったんだ…!まさか!」

 

「“ちょうはつ”されてたの!」

 

 ミモザが言葉の続きを引き取った。

 “ちょうはつ”されたポケモンは一時的に攻撃技しか出せなくなる。そのため“まもる”という指示がアリアドスに届かなかったのだ。

 アリアドスはその一撃で完全にひんしになってしまい、その場にはスコルピが残された。

 

「まずいぞ、スリーパー、“サイケこうせん”!」

 

「フワンテ、“エアカッター”!」

 

 リョウとミモザが遠距離から攻撃を放つが、ニドキングはそれを少ない動作で見事にかわした。

 

「はぁ!?さっきまでの動きと違うぞ!!」

 

「どうなってるの!?」

 

 めげずに攻撃を続ける。何発かは当たるがニドキングは意にも介さない。その刺し貫くような視線をただ目の前のスコルピに向けている。

 

「スコルピ!逃げろ!」

 

 ハリーの声に我に返り逃げ出すスコルピ。しかしニドキングはそれを許さない。

 

「がああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 雄叫びをあげると“だいちのちから”を発動した。スコルピの行く手の地面が隆起し、スコルピの逃げ場をなくす。その状況を何とかしようとミモザ、ケン、リョウか攻撃する。

 

「エレキッド、“スピードスター”!」

 

「スリーパー、“ねんりき”!」

 

「フワンテ、“エアスラッシュ”!」

 

 “ねんりき”でおさえ、“スピードスター”で削り、“エアスラッシュ”で切り刻む。今度はヒットしたがニドキングの勢いは止まらない。スコルピは必死で逃げようとするが隆起した岩が邪魔をする。

 

「ちくしょう!サカキ様のニドキング固すぎだろ!」

 

「技が効かない」

 

「…多分トランス状態に入ってるんじゃなの」

 

「トランス状態?たしか、精神的にかなり集中している状態のことだっけ?」

 

「まぁ大体そんな感じなの。今ニドキングは極度の集中状態なの。だから目の前のスコルピした見えてないの」

 

「なるほど…て!じゃあどうすんだよ!!」

 

「と、とにかく!なんとかあの集中を解くの!」

 

「「「了解!」」」

 

 四人は攻撃を続ける。だがニドキングは止まらない。

 

(!?いくらサカキ様のニドキングだとしても防御が固すぎなの)

 

「おいハリー!スコルピを回収できないのか!?」

 

「無理だ!回収可能範囲にはいれない!」

 

「あぁ!もうだめだ!」

 

 ニドキングの攻撃がスコルピに降り下ろされる。スコルピは少しでも痛みを押さえようと両手で頭を隠す。

 

「スコルビィ!!」

 

ずん…!

 

 重い振動がミモザたちの近くまで響き渡る。

 

「あぁ…」

 

 ハリーはその場にへたりこんだ。目線の先では完全に降り下ろされたニドキングの腕がスコルピのいるであろう隆起した岩の中に叩き込まれている。

 

「スコルピ…?」

 

 力なく名前を呼ぶ。ポケモン同士の戦いで相手が戦闘不能の状態『ひんし』になるのはよくあるが、野生のポケモンなどとの戦闘では殺されることもある。今の状況は後者の可能性の方が高い。

 

「と、とにかく!ニドキングをあそこから引き離すぞ!」

 

「了解!」

 

「わかったの!」

 

 フワンテ、エレキッド、スリーパーが攻撃を放つ。今度はニドキングも全く動かずに攻撃をその身にうけた。しかし腕をスコルピに振り下ろしたまま動かない。いや、動けない(・・・・)ように見えた。

 

「ちょっと待つの、ニドキングの様子がおかしいの」

 

「え?」

 

 ケン、リョウ、ハリーも攻撃を止めニドキングをよく観察してみる。確かにさっきまでとは違うように見えた。振り下ろした右腕を引き剥がそうと必死になっているようにも見える。

 

「…スコルピの体液でくっついてるとか?」

 

「気持ち悪いことを言うなハリー!」

 

「スコルピの体液にそんな成分はないの…あれはもしかして!」

 

 ミモザが何かに感づいた時、スコルピの周りの隆起した岩がガラガラと崩れ落ちた。同時に紫色を基調とした巨大な体が現れる。

 

「ゲラアァァァァ!」

 

 雄叫びをあげニドキングを押さえ込んでいるのはスコルピの進化形ドラピオンだった。

 

「スコルピが進化したあぁ!?」

 

 おやであるハリーが一番驚いた。ミモザは今がチャンスと三人をせきたてる。

 

「とにかく今はニドキングを倒すことを優先するの!」

 

「「「お、おう!」」」

 

 フワンテ、エレキッド、スリーパーが攻撃を再開する。ニドキングは避けようとしたがドラピオンにがっちり止められて避けられない。攻撃がすべてヒットする。

 

「ゴ、オ、オ…」

 

 先程とは違い確実にダメージを受けているようだった。

 

「なんだ?効いてるぞ?」

 

「なんだかわからんが好機だ!」

 

 なぜ攻撃が効くようになったのか?それはニドキングがトランス状態が解除されたからだ。目の前で完全なる弱者だと思っていた相手が急に自分に匹敵する力で押し返してきた。そのショックで集中状態がかきれてしまった。集中状態がきれたことにより、その時まで忘れていたダメージが一気に戻ってきた。

 

「ハリー!今なの!」

 

「わかった!ドラピオン!“じごくづき”!」

 

 ドラピオンのハサミの先がニドキングののどを捉えた。

 

「カハッ…」

 

 のどを押さえて後ろに下がるニドキング。ドラピオンが前に出る“つめとぎ”で攻撃を高め一点に集中する。

 

「“こおりのキバ”!」

 

 ドラピオンがニドキングの肩に噛みついた。その部分からこおりが広がる。

 

「ア、ガガ…」

 

 あまりのダメージに意識が飛びそうになるニドキング。ドラピオンは攻撃の手を緩めない。

 

「“つじぎりぃ”!」

 

 ドラピオンのハサミがニドキングの急所を的確に捉える。

 

「………っ!!」

 

 この攻撃が決め手となった。ニドキングは白目を向いて完全に意識を失った。そんなニドキングを遠巻きに見守る四人。ドラピオンは臨戦態勢を保ったまま注意深くニドキングを観察している。

 数分待ったが今度は動かなかった。

 

「やったのか?」

 

 恐る恐る聞くケン、他の三人も少しずつ警戒を解いていく。

 

「起き上がらないな?」

 

「よく見たら白目をむいてるぞ」

 

「倒したの?」

 

 四人は寄り添ってさらに数分ニドキングを見つめた。しかしやはりニドキングは動かない。今度こそ勝利を確信した四人は飛び上がって喜んだ。

 

「「「「やったー!」」」」

 

 四人は抱き合って喜んだ。現在ボールから出ている四匹も勝利を喜んだ。

 

「これでサカキ様の出された課題もクリアだな!」

 

「たった1日だけど長かったの…」

 

「残り時間はあと二時間半か」

 

「結構時間余ったな」

 

「とにかく、これで終わりなの」

 

 四人はその場に座り込んだり寝転んだりした。

 

 

 

 その様子をスピアーのもつカメラ越しにサカキとマチスが見ていた。

 

『がはははは!やりやがったぜあいつら!』

 

 モニターの向こうでマチスが豪快に笑った。あまりに大声で笑ったので近くで寝ていたライチュウが飛び起き、何事?といった様子でキョロキョロした。

 

『ボス!あいつらなかなかやりますね!』

 

「あぁ、そうだな」

 

 サカキは椅子に深く座りながらモニターに映る四人をじっくりと観察した。

 

「四人とも顔つきが全く違うな。ケン、リョウ、ハリーは自信に満ちているし、ミモザは“おびえ”が消えている」

 

 四人の明らかな変化を確認しサカキは満足そうに微笑んだ。だか、その微笑みはすぐに悪い笑顔に変わる。

 

「あの四人の成長はおれの予想を上回ってくれた。だが、特訓はまだ終わってない(・・・・・・)

 

『ええ?どういうことです?』

 

 マチスが画面に張り付く。サカキは気にせずゆったりと足を組み換えた。

 

「この特訓の目的は『中隊長三人の鍛え直し』『ミモザの精神的強化』がメインだが、あと一つ…」

 

『もう一つあるんですか?』

 

「フフフ、我がR団が開発したある“生物兵器”の実験だ」

 

『生物兵器?』

 

「まぁ、見ていればわかる。そろそろだ」

 

 

 

 場所は戻り草原。四人は残ったアイテムでポケモンを回復していた。

 

「あっ《げんきのかけら》も《げんきのかたまり》も使いきっちまった」

 

「まじか!マルマインとキリンリキがまだ回復できてないのに」

 

「《キズぐすり》系も使いきっちまったぞ」

 

「まぁいいじゃねぇか、もう終わったんだし」

 

 四人が談笑していると急にあたりの空気が変わる。それに真っ先に気づいたミモザが三人に伝えようとしたらすでに三人もある方向を見ていた。その顔は蒼白だった。

 

「おい、まじかよ…」

 

「こんな、まさか」

 

 ニドキングが目を見開いている。しかし起き上がろうとしない。だが、その体が痙攣しているかのように脈動している。そして、ビクンと痙攣する度に体が変化している。四人はすぐに気持ちを切り替えそれぞれボールを投げる。ルージュラ、スリーパー、ドラピオン、フワンテを繰り出した。

 その間にもニドキングの体が変化していく。

 

「なにが起こってるんだ?一体?」

 

 攻撃しようにも状況が把握できないので手のだしようがない。ミモザも自分の知識の中から現状を説明できるようなものを探すがまるで見つからない。

 ニドキングの体の変化が続き、ゆっくりと立ち上がる。

 

「構えろ!」

 

 四人が攻撃体制をとる。ニドキングの体の変化が止まる。その姿を見た四人は口を開け固まった。

 

「これ…なんなの?」

 

 ニドキングの姿形は完全に変わっていた。体長は三メートル程になり、筋肉が異常に盛り上がっている。皮膚はまるで鎧のように変化し、体中のとげが鋼のように固くなっている。キバや爪も禍々しく変化し、その目は狂気に満ちていた。

 見開かれた目が四人を見据えた。

 

「!!!!」

 

 瞬間、四人の体がまるで蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。ニドキングはしばらく四人を睨み、なにを想像したのか舌なめずりすると咆哮した。

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「…………!!!!」

 

 その咆哮を聞いた四人は恐怖に勝る危機感で我に返る。

 

「か、固まってちゃ危ないの!みんな散るの!」

 

「「「お、おう!」」」

 

 ミモザの指示で四人はバラバラに分かれた。ニドキングは特に慌てずあるポケモンをターゲットにしていた。

 

「ギィィ」

 

 金属が軋むような声を出すとドラピオンに向かっていく。気づいたハリーがすぐに対応する。

 

「ドラピオン!“シザークロス”!」

 

 ドラピオンが両腕を交差させるように振り下ろす。しかしニドキングはそれを片手で打ち払った。

 

「く、ならばさっきみたいに押さえ込んでやる!」

 

 ドラピオンがニドキングにつかみかかる。その行動の意味を察し、ケン、リョウ、ミモザはニドキングに向かっていく。ニドキングはドラピオンの腕をがっちりとつかみ先程とほぼ同じ状況ができあがった。さっきと違うところといえば体長が大きくなったニドキングがドラピオンを見下ろしていることだ。

 

「よし、今だ!」

 

 ハリーの合図に他の三人が攻撃を開始する。その瞬間ミモザをとんでもない悪寒が襲う。

 

「あっ、ひっ…!?なんな、の??!」

 

 ミモザは頭に浮かんだビジョンに驚愕した。あまりにも信じがたい光景に自分がおかしくなったのかと思ったが、そのビジョンはすぐに現実のものとなった。

 ニドキングはまずドラピオンの両腕を握りつぶした。

 

「ガゲゲアァ!?」

 

 痛みに暴れるドラピオンを微動だにせずに押さえつけ、握りつぶした両腕を持ちながら振り回した。そしてミモザたちが放った技にドラピオンをぶちあてすべてのダメージをドラピオンに肩替わりさせた。

 

「ギアァァ…」

 

 か細い悲鳴と共にドラピオンはひんしになった。ニドキングはドラピオンを片手で持ち直し、スリーパーに向けて投げつけた。

 

「はぁ!?さっきまでとパワーが全然違うじゃねぇか!」

 

 スリーパーはエスパーの力で防ごうとしたがドラピオンのあくタイプが邪魔をしたため止めきれずに直撃する。

 

「リョウ!」

 

 ケンが助けにいこうとしたが地面が盛り上がり行動を阻む。

 

「これは…!さっきの“だいちのちから”!」

 

 慌てているとニドキングがこちらに向かってくるのが見えた。

 

「まずい!ルージュラ、氷の壁を作れ!」

 

 ルージュラは砂漠でワルビアルに対して作ったとのよりもさらに分厚く大きい氷の壁を作った。先ほどの“かえんほうしゃ”の威力も考慮し作れる最高のものを作った。しかし…

 

「ガアアァァァァ!」

 

 凄まじい声をあげ渾身の一撃を氷の壁に叩き込んだ。すると氷の壁は一瞬で砕け消えた。

 

「おい…まじか…?」

 

 目の前の現実に思考が止まるケン。その間にニドキングはルージュラとの距離をつめる。そこへフワンテの“エアスラッシュ”が放たれた。

 

「ニドキング!こっちなの!」

 

 ミモザがなんとか注意をそらそうと震えながらも叫ぶ。ニドキングは足を止め左腕をフワンテの方に向けた。その動作に一瞬困惑したが、すぐになにかわかりフワンテに下がるように指示を出そうとしたが、

 

ポテッ…

 

 すでにフワンテは口の辺りにニドキングのとげが突き刺さった状態でひんしになっていた。

 

「“ミサイル…ばり”?なんでニドキングがこの技を…?」

 

 もう少し位置がずれていたら当たっていた、と気づいたミモザはその場にへたりこんだ。

 

「ミモザ!…あっ、しまった!ルージュ…」

 

 ミモザに気をとられたうちにニドキングの“メガトンパンチ”がルージュラの鳩尾をとらえていた。

 

「ルージュラ!」

 

 ずるずるとニドキングの異様に大きな拳からずり落ちるルージュラ。ものの数分で四匹のポケモンを倒したニドキングはニタリと笑うと空に向かって吠えた。




長い文章を最後まで読んでくださってありがとうございます!
ニドキングについての説明は次の御話で書く予定です。

オクタンについてなのですが、調べたら“えんまく”を使えないということがわかりました。しかし、使わないと成立しない場面もありますので以下のオリジナルの設定を追加します。
「本作中のオクタンが使う“えんまく”はオクタンのはく墨を霧状にして吹きかける攻撃で、煙ではなく霧状の墨」
という感じで今後も使っていきますがご了承ください。

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