いつものように予想外に長くなってしまったので少し変なおわりかたになっています。
準備は整った。ニドキングは完全に痛みが消え動き出した。だがすでにミモザとハリーの術中にはまっていた。
「ケン!この《小型酸素ボンベ》を装着するの!」
「お、おう!」
渡された《小型酸素ボンベ》を急いで身に付けるケン。先ほどのニドキングの攻撃でできた岩影にさらに穴をほり、身を隠す。
「準備できたの」
「わかった」
短いやり取りのあとすぐに手持ちをサイホーン以外一旦戻し耳を塞ぐ。ケンもそれにならい耳を塞いだ。そしてハリーが作戦を開始した。
「マタドガス、“かえんほうしゃ”」
マタドガスが“かえんほうしゃ”を放った。その瞬間、
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
マタドガスの“かえんほうしゃ”がマタドガスが体内で調合した
「こ、このための《酸素ボンベ》か…!」
岩影に穴を堀り隠れてはいたがそれでも吹き飛びそうになったのでサイホーンにしがみついた。“まもる”や“バリヤー”なども使い衝撃に耐え続けた。その時間はほんの十数秒だったが四人には数十分に感じられた。
爆風が収まりあたりは一気に静まり返る。四人は想像以上の衝撃にすぐには動けなかった。それでも状況を把握しようとミモザが頭を押さえながら岩影から顔を出した。念のためギルガルドとニャオニクスを出した。遠くの岩影からはハリーが顔を出している。爆発があった場所は大きなクレーターになっていた。その中心に黒い塊が佇んでいる。ミモザは《シルフスコープ》を取りだし望遠で確認した。その黒い塊はニドキングだった。
(今度こそ倒したの…?)
ケンもエレキッドを出しミモザと岩影から顔を出す。ニドキングは動く気配がない。ハリーとアイコンタクトしハリーとリョウがニドキングに近づくことになった。二人はアーボックに乗り、それぞれアリアドス、ヤドンを出し少しずつ近づいていった。やはりニドキングは動かない。
(やっぱり今度こそ)
誰もがそう思った時、ニドキングの体の焦げが剥がれ落ちた。ハリーとリョウが身構える。ミモザとケンも戦闘の準備をする。ニドキングの体の焦げが剥がれ落ちた。その中から無傷のニドキングが出てきた。
「は!?」
四人が驚きのあまり固まった。ニドキングがゆっくりと目を開ける。そして、
「ガアアァァァァ!」
ニドキングが咆哮する。
「退避だ!」
二人は慌ててその場から逃げ出す。ニドキングはそれに反応ししっぽを振り回した。その風圧で二人はポケモンもろとも吹き飛んだ。
「うわあぁぁ!」
「アリアドス!“いとをはく”でクッションを作れ!」
アリアドスが急いで糸を何重にも重ね着地点に糸で編んだクッションを作ったが、二人と三匹を受け止めるには十分なものにはならなかった。
「ヤドン!“ねんりき”!」
「ヤアァァァー」
ヤドンの“ねんりき”で落下速度が少しゆっくりになったおかげで安全に着地できた。ニドキングはそこに“かえんほうしゃ”を放つ、それをヤドンの“みずのはどう”で相殺した。
「ここまでやってもダメなの…?」
ここまでいろいろやってきた。あれほどの爆発をもってしてもあのニドキングに傷ひとつつけられない。それどころかまだあれほどの力が残っている。この現実がミモザを追い詰める。
(ここからどうしろっていうの?)
頭を掴む抱え悩むミモザ。
(ここまできたの、絶対に四人で、最高の形でこの特訓を終えたいの、でも、もう…)
一晩徹夜ということもあって限界を越えたミモザの疲労はミモザから思考能力と精神力を奪っていた。加えて、ミモザはまだ10歳の子供である。普通の10歳に比べ遥かに大人びているとしても限界がある。
(どうしたら、どうしたら、ドウシタラ…)
どんどん気持ちが落ちていく。意識も混乱しカロスでサカキと出会うまでのひとりぼっちの日々が甦る。
(どうし、たら…!)
気持ちが爆発しそうになった時、ミモザの頭をケンがポンと叩く。
「あきらめんな!ミモザ!」
驚いてケンの顔を見るとこっちを向いて笑っていた。
「あきらめなきゃなんとかなる!」
「そうだ!」
トランシーバーからもハリーとリョウの声が聞こえてきた。ミモザを気遣い勇気づける。
「俺たちはいつもあきらめなかった!」
「マサラでミュウを逃がしたときも!」
「サントアンヌ号強奪に失敗した時も!」
「
次々並べられる三人の失敗談。初めはただ聞いていただけのミモザもその多さに少し引き始めた。
「三銃士の元でただこきつかわれた時も!俺たちはR団のためにと働き続けた!そして!」
ケン、リョウ、ハリーが同時に(リョウとハリーは痛みに耐えながら)立ち上がった。
「「「俺たちはシント遺跡でサカキ様をお助けできた!!!」」」
三人の顔が誇らしげに輝いた。その顔を見てミモザの中で熱いものが燃え始めた。
「だからミモザもあきらめんな!」
「…ふん」
ミモザは帽子をかぶり直しながら立ち上がる。その顔からは“あきらめ”は消えていた。
「言われなくてもあきらめたりなんてしないの」
ミモザは我ながら単純だと思った。初めはサカキ様だけが自分のすべてだったが今は違う。ミモザはもう一人じゃなかった。
ニドキングが動き始める。が、足から崩れ落ちる。その光景に四人は希望を見た。
「外傷はないけどダメージはあるみたいだ!」
「あれだけの爆発だ、ダメージがないほうがおかしいか!」
ニドキングの動きはぎこちなかった。体がうまく動かないようだ。ニドキング自身も戸惑っているように見えた。
「はやく追撃を…」
「もうやってるぜ!」
リョウがにやりと笑う。ニドキングの影が揺れ動く。
「ゲンガー!“シャドーパンチ”!」
ニドキングの影の目がパチリと開き実体化する。そして影を帯びたパンチがニドキングの下顎をとらえた。ニドキングは反応できずもろにうけてしまった。
「ご…お…」
脳が揺らされ意識が飛びかけるニドキング。反撃するがゲンガーの体をすり抜ける。すでにタイプを考える余裕はなくなっていた。
「よーし!戻れアーボック!いくぞアリアドス!」
アーボックの入ったボールにアリアドスの糸をつける。そしてボールを思いきり投げた。ボールはニドキングの手前で開きアーボックが現れる。ボールはアリアドスの糸に引かれ戻っていく。糸を使うことによりより遠くにボールを飛ばせるといった作戦だった。
ボールから出てきたアーボックは“こおりのキバ”で噛みついた。噛みついた部分がこおり始める。
「ぎゃおおぉ!」
アーボックをなんとか引き剥がしたが、そこをゲンガーに攻撃される。それが繰り返され残った体力が削られていく。攻撃に対して反撃できないストレスがニドキングに溜まっていく。
「アーボック!冷やしたなら次は燃やせ!“ほのおのキバ”!」
「ゲンガー!“ナイトヘッド”!」
ニドキングの影にゲンガーの目が浮かび、ニドキングを見えない衝撃が襲う。そこにアーボックの熱せられたキバが襲う。
「がぎゃああぁ!?」
もはやニドキングの体力は風前の灯火だった。意識がどんどん暗い所へ落ちていく。一度は追い詰め、一度は倒され、そしてまた倒されようとしている。悔しさと怒りがニドキングの中で膨らんでいく。そして勝利への執着がニドキングの最後のリミッターを外した。
「“アイアンテール”!」
「もう一発!“シャドーパンチ”!」
ニドキングの両側からアーボックの“アイアンテール”とゲンガーの“シャドーパンチ”がとどめを狙った。しかし、その攻撃はニドキングに届くことはなかった。
「嘘だろ!?」
「こいつまだこんな体力があったのかよ!」
ニドキングは攻撃をそれぞれ片手で受け止めていた。そしてゲンガーを放す。アーボックはつかんだしっぽを引っ張り引き寄せる。アーボックは抵抗したが抗えず、ニドキングの“メガトンパンチ”をもろに受けてしまった。アーボックはなんとか意識を保ちニドキングに“かみつく”反撃する。ニドキングは避けられず肩を噛まれた。しかし、声をあげることはなく、それどころかアーボックの頭を押さえつけた。キバが深く食い込んだがニドキングは動じない。暴れるアーボックのしっぽをつかみ自らの口に運ぶ。そしてそのしっぽを噛みちぎった。
「ーーーーー!??!」
アーボックは必死に離れようとするが、ニドキングの腕力にかなわない。刺さったキバがニドキングの肩を攻撃し続けるがやがて動きが止まってしまった。ニドキングは動かなくなったのを確認し口を放す。口の周りはアーボックの体液で濡れていた。ニドキングの口が熱を帯びる。
「アーボック!」
アーボックは目を回し動けない。
「“かえんほうしゃ”なの!にゃおにゃお!“サイケこうせん”!」
しかし、ニャオニクスは困ったように首を振った。
「射程範囲外、今から接近するにしても間に合わないの!」
「エレキッドでもかなり無理だくそっ!」
そうこうしている間に“かえんほうしゃ”の準備が整いニドキングは攻撃を放…てなかった。
「がほっ!…ぐ、げほっ!?」
喉をおさえむせている。その隙にアーボックが
アーボックはかなり生命力の高いポケモンだ。頭さえつぶれていなければ個体差はあるものの再生できる。特にハリーのアーボックは元R団幹部のキョウに直々に鍛えられたので、その再生力はすごかった。
ニドキングはのけぞった上体を戻しアーボックを“ふみつけ”る。アーボックは必死でかわすが息が完全にあがっている。再生を行うと体力をほとんど失ってしまう。そのため逃げ切れずしっぽを足で踏まれてしまう。
「シャー!シャー!」
必死に威嚇するが当然意味がない。頭を押さえられ完全に動けなくなる。そこへ背後から再びゲンガーが現れ“シャドーパンチ”をニドキングの首の後ろに打ち込んだ。ニドキングはすぐに“からてチョップ”で対応するが、体を透けさせかわす。再び影に身を隠す。
「よっしゃあ!やったれゲンガー!」
ゲンガーの攻撃にリョウが活気づく。その間になんとかアーボックを回収しようと二人で近づいていく。ゲンガーが影から姿を現し三度“シャドーパンチ”を放つ。今度は鳩尾の辺りを狙っている。アーボックを押さえつけているので完全にノーマークだった。しかし、その拳をニドキングが受け止めた。
「!!」
ゲンガーが驚いて固まる。そのままゲンガーを影から引きずり出した。
「ゲンガー!?」
アーボックは解放されなんとか距離をとろうとする。ゲンガーを掴んだままニドキングは拳を握る。
「“メガトンパンチ”なの!」
「だったら効かねえぜ!」
リョウがガッツポーズをする。が、その自信は粉々に打ち砕かれた。
「ぐぁ!」
ニドキングの“メガトンパンチ”がゲンガーの実体をとらえた。
「にぎゃあぁぁ~!?」
叫び声と共にゲンガーが吹き飛んだ。
「はあぁ!?」
ハリーとリョウが目を丸くした。ゲンガーは逃げようとするアーボックの背中にあたった。ゴーストタイプのゲンガーにノーマルタイプの攻撃は当たらないはずだ、しかし攻撃が当たった。その理由にミモザはすぐに思い当たった。
「“かぎわけ”られてたの!」
“かぎわける”は相手の正体を見極めゴーストタイプのポケモンにもノーマルやかくとうタイプの攻撃が当たるようになる。始めの一撃を受けたときにすでに“かぎわけ”られていたようだ。
ニドキングはのびてしまったアーボックのしっぽをむんずと掴み大きく二、三回振り回すとゲンガーをゴルフのように弾き、さらにアーボックをハンマー投げのように同じ方向に投げ飛ばした。
「おおお!?」
「やべぇ!」
投げられた方向はハリーとリョウの方向だった。逃げようにも間に合わない。
「あっ、そうだ!ボールに戻せ!」
「そ、そうか!戻れ!ゲンガー!」
「戻れ!アーボック!」
ギリギリでボールに戻る。しかし、目の前にはニドキング。
「またこのパターンか!」
「いや、ハリー、おれのマネネにまかせろ!」
リョウがマネネを前に出す。ニドキングはマネネを見下ろした。その威圧にも動じずマネネはニヤニヤ笑っている。ニドキングがパンチを構える。それを待っていたようにリョウが指示を出す。
「マネネ!“アレ”をやるぜぇ!」
「キシシー!」
マネネは両手を前に出し構える。
「“バリヤー”!“ひかりのかべ”!“リフレクター”!」
マネネの前に三枚の壁が出現した。
「わっはっは!この三重の壁を越えられるもんかよ!」
「…」
ニドキングは静かに拳に力を込める。そして、渾身の一撃を打ち込んだ。
お疲れさまでした。
このお話も残すところあとわずかの予定です。
次回投稿、なるべくはやくできるように全力を尽くします