前回のあらすじ
「ダグトリオを倒し、スピアーから逃れニドキングの猛攻をかいくぐった四人は島のなかにある洞穴にむかうのだった」
最近は気温の変化が激しいのでお体にお気をつけください。
なんとかニドキングを振り切った四人は島の中にある洞穴で焚き火をしながら休んでいた。見回りに行っていたケンが戻ってきた。
「どうだった?」
リョウか有り合わせで作ったスープをケンに渡す。ケンは受け取ったスープを飲みながら報告を行う。
「見る限りニドキングどころかポケモン一匹見当たらない」
「イトマルも反応なしだ」
ハリーがイトマルを撫でる。イトマルはハリーたちを中心に半径一キロメートルの位置から百メートル毎に円を描くように糸を巡らせていた。イトマルが出した糸はイトマルの第二の神経と言われるくらい敏感で、獲物がそこに触れただけで獲物の情報を感知できる。
「なら、しばらくは安全だな」
「これからどうする?」
「サカキ様が指定されたリミットは明日の正午、あと十六時間位だな」
「まだ、時間はあるな。少し休むか?」
ケンがそう提案した時、ミモザがわって入ってきた。
「それは…ちょっ…だめなの、休んでる暇なんて……やめて………ないの!…きゃあ!」
ミモザが悲鳴をあげる。ケンたちはその光景をほのぼのした様子で見ていた。
洞穴に到着し、中に入ると野生のポケモンがすでに巣として使っていた。四人を見るなり襲いかかって来たかと思えば体を擦り寄せたり、なめまくったりして滅茶苦茶なつかれた。特にミモザがお気に入りらしくさっきから離れようとしない。
「そうは言ってもミモザ、お前がその状態じゃな…」
「うるさいなの!とにかく!急ぐに越したことはないの、あと倒すべきはニドキングとドサイドン。どちらも超ヘビー級のポケモンなの。一匹にかかる時間を考えるならすぐにでも行動すべきなの!」
「じゃあ、またニドキングの所に戻るのかよ?」
リョウが勘弁してくれと言わんばかりの表情でミモザに聞く。しかしミモザは首を振った。
「先に狙うのはドサイドンの方なの」
ケンが意外だといった様子でミモザに問う。
「場所はわかってるのか?」
「わかるわけないの」
「じゃあ、なんで所在不明のドサイドンを先に?」
「簡単な事なの、ニドキングはどちらかというと夜行性で、ドサイドンはそうじゃないからなの。今からならドサイドンを狙ったほうが勝機があるの」
「なるほどなぁ」
「場所も見当はついてるの」
「本当か!?すごいな…」
ハリーが食いつく。ミモザはまとわりついてくるおじいさんのような見た目のドラゴンポケモンをひっぺがし、ケンの持ってる地図を指差す。
「恐らくドサイドンはこの砂漠地帯にいるはずなの。ポケモンは自分の得意とするフィールドは本能的に熟知しているはずなの。いわ・じめんタイプなら砂漠か岩山に行くはずで、この島には岩山はないの」
「なるほどなぁ、言われてみればその通りだ」
「よし、じゃあすぐに準備するぞ!」
「ミモザ、準備できたら呼ぶからしばらくあのドラゴンポケモンと遊んでてくれ」
ケンがそのドラゴンポケモンを指差してミモザにそういった。
「…」
しかし、ミモザは動かなかった。その顔を見ると、なにかを言おうか言うまいかと考えているようだった。
「ミモザ?」
ケンが心配して呼び掛けるとミモザは意を決した様子で顔をあげた。
「あの!聞いてほしいことがあるの!」
「な、なんだ?」
ミモザのただならぬ様子に面食らいながらも三人はミモザの前に正座(雰囲気的に)した。それを確かめるとミモザは話し出した。
「聞いてほしいのはミモザの過去についてなの」
「ミモザの過去?」
なぜ急にそんなことを言い出したのか、三人は困惑した。
「また森の中の時みたいになってしまうかもしれないの。その時のためになんでああなってしまうのか知っておいてくれたほうが都合がいいと思ったの」
「お前が気を失った事と関係があるってことか?」
「そうなの、あとミモザについて知っておいてほしいの…」
ミモザは頬を赤らめた。出会った時は敵意が見えそうなくらいだったが、窮地を共にくぐり抜けたことで少しだけ心を許してくれたのだろう。ケン、リョウ、ハリーはこれ以上は言うまいと黙ってミモザの話を聞くことにした。
そして、ミモザが話し出した。
「あれは五年前なの…」
ー五年前ー
当時ミモザはカロス地方のコボクタウンのお屋敷に両親と使用人三人を含む六人で暮らしていた。その日はミモザが四歳の時から始めた【サイホーンレース】のジュニア部門の大会があり、大会の開催場所のショウヨウシティからの帰るところだった。老執事が動かすポニータの馬車に両親と一緒に乗っていた。その日は準優勝で、悔しさを両親に訴えていた。
その時、急に馬車が何者かに襲われた。馬車は派手に破壊され、繋がれていたポニータが逃げ出した。ミモザの両親は【バトルシャトー】で「デューク」と「ダッチェス」の称号を持った凄腕のトレーナーだった。馬車が攻撃される前に危険を察知し、ミモザを抱え脱出していた。
「何事だ!」
ミモザの父が家族を背にボールを構える。
「じい、ミモザを連れてできるだけ逃げて」
ミモザの母もボールを構え夫の横に並ぶ。ミモザは不安になり両親に駆け寄ろうとしたが、老執事に止められる。
「お嬢様!じいと逃げましょう!」
「いや!パパ!ママ!」
ミモザが必死に老執事の手から離れようとしていると、攻撃してきた相手がその姿を現した。その相手を見たミモザの両親は驚愕した。
「まさか…なぜこのポケモンが!?」
構える二人の前に現れたのはカロス地方伝説のポケモン、イベルタルだった。
イベルタルはミモザの両親を見つけると咆哮した。その姿はまるで死をばらまく悪魔のようだった。ミモザの父が老執事に命令する。
「じい!早く逃げろ!」
「は、はい!」
老執事は我にかえると暴れるミモザを抱えて走り出した。その背中を見送ったミモザの父が視線を戻した瞬間、イベルタルが“シャドーボール”を打ってきた。
「ギルガルド、“キングシールド”!」
『シールドフォルム』になったギルガルドが“シャドーボール”をはねかえす。すかさず、ミモザの母がニャオニクスに指示をだす。
「ニャオニクス、“サイコキネシス”!」
エスパーの力で攻撃するが、まるで効果がないようだ。
「伝承の通り奴のタイプはあく・ひこうのようだな」
「そのようね」
ミモザの母が後ろをちらっと見た。そして再びイベルタルを睨み付ける。
「でも、たとえ伝説のポケモンでも関係ないわ」
ミモザの父が襟をただした。
「もちろんだ。デュークの名のもとにあの子の逃げる時間を稼ぐ!」
二人はイベルタルとの戦闘を開始した。
イベルタルはそんな二人を不吉な目付きで見下ろし、両の羽根を大きく広げた。
ミモザは老執事と逃げていた。
「うぅ…パパ、ママ…」
老執事の腕に抱かれながらミモザは泣いていた。老執事は必死に走りながらミモザをなだめる。
「お嬢様、辛抱なさってください、大丈夫ですから」
ミモザを慰めるためとはいえその言葉に自信はなかった。あの二人が確かな実力者なのはわかっているが、相手はカロス地方で“死”を象徴する伝説のポケモンだ。その強さは未知数である。
(ですが、あのお二人なら必ず…!)
そう思った矢先、背後から悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁぁぁ…」
「ぐわああぁぁ…」
「!!」
老執事が振り向いた目の前にイベルタルがその恐ろしい巨体をさらしていた。イベルタルの背後、ずっと後ろにミモザの両親が倒れていた。
「旦那さま!奥様!」
老執事は最悪の状況をすばやく認識し、自分のボールに手をかける。そして二つのボールを投げる。
「クレッフィ!ルカリオ!」
ボールから出たクレッフィはすぐにミモザの両親のもとにむかい、それを妨害しようとしたイベルタルに対しルカリオが応戦する。
「お嬢様!じいの後ろにお隠れください!」
イベルタルの周りに赤い光が渦巻く。
「むっ、ルカリオ!“はっけい”!」
ルカリオがイベルタルに触れ、気を打ち込む。イベルタルはダメージこそ小さかったが少しマヒした。その間にイベルタルの攻撃範囲から外れる。その瞬間、“ゴッドバード”が放たれ地面が大きく削られた。
(このままでは…クレッフィ、まだか!)
そう思ったときクレッフィが戻ってきた。その手にはギルガルドとニャオニクスの入ったボールを持っている。老執事はそれを預りクレッフィにミモザの両親の安否を確認した。クレッフィは悲しそうに体を振った。老執事は目頭をおさえる。
(伝承にあるイベルタルの固有技“デスウィング”。敵の命を吸いとってしまう恐ろしい技。まさか旦那様たちも…)
老執事はルカリオに戦闘を任せミモザに駆け寄った。そして二つのボールを渡した。ミモザは泣き腫らした目で老執事を見た。老執事はミモザに笑いかける。
「お嬢様、あなたは気高き旦那様、奥様の娘です。だから一人で行けますね?」
ミモザは驚きなから首を振った。
「じいは?ミモザを一人にしないで!」
激しい激突音が聞こえた。ルカリオとイベルタルが激突しているが、徐々にイベルタルか圧倒していく。老執事とミモザにもう時間はなかった。
「お嬢様!どうか、ご理解ください!もう時間がないのでございます!」
「……うぅ!」
ミモザも子供ながらにわかっていた。目の前に広がる最悪の現実を…
「ううぅ…!」
ミモザはボールを抱きしめ走り出した。
「お嬢様!お屋敷にお戻りください!そうすればメイドがいます!クレッフィ、お前もいってくれ」
クレッフィは頷いてミモザのもとに向かった。老執事はそれを見て安心したように笑った。そしてイベルタルに向き直る。
「さて、最後の花舞台です」
老執事が自分のモノクルに触れる。キーストーンが輝きルカリオのメガストーンが反応した。ルカリオの体が輝きメガルカリオにメガ進化する。
「さあ、命を燃やしていきましょう!」
イベルタルの両羽根が大きく広げられる。
老執事とメガルカリオがイベルタルに突っ込んでいった。
ミモザは走った。
「う、うぇ…」
涙をこらえ息も絶え絶えにただひたすら走った。
「パパ、ママ…」
脳裏に両親の顔と老執事の顔が浮かぶ。今すぐに戻りたいと思ったが、それが無駄であるということも嫌になるほどわかっている。
「うぅ…、きゃっ!」
石につまずいてこける。その拍子に膝を擦りむいたようだ。痛みに顔を歪めながらもミモザは立ち上がる。
「早く逃げなきゃ…早く…!」
その時ミモザの後ろで強い光が走り、イベルタルと青色の大きな鹿のようなポケモンが対峙していた。しかしミモザに振り替える余裕はなく、ひたすらに走り続けた。
そして五日かけてようやくコボクタウンの家に着いた。しかし様子がおかしかった。
「誰…?」
そこには赤いスーツに赤いサングラスの珍妙な姿の人間が大勢いた。その人達が屋敷から荷物を出し入れしている。あっけに取られて見ていると一枚の写真が入った写真立てを持った赤スーツが出てきて別の赤スーツに喋りかける。
「これはどうする?」
聞かれた赤スーツはちらっと写真立てを見て首を振った。
「いらないだろ、捨てちまえ」
「OK」
赤スーツが写真立てを捨てようとした。それを見てミモザはその赤スーツにたいあたりした。
「だめー!」
「うお!?なんだコイツ??」
「それはミモザとパパ、ママが写った大事な写真なの!返してなの!」
「はあ?ちょっ、おい!」
写真立てを取り返そうとするミモザと赤スーツの戦いが始まった。そして、その騒ぎを聞きつけてその場のリーダーであるらしい恰幅のいいやはり赤いサングラスをかけた男が一人の女性を引き連れやってきた。
「なんの騒ぎだ?」
赤スーツ二人はすぐに姿勢を正した。その時に写真立てから手を離したのでミモザは写真立てと一緒にコロコロ転がった。恰幅のいい男が赤スーツ二人に聞く。
「あれは誰なんだゾ?」
「はっ!クセロシキ様!それがよくわからないんです。急に飛び付いてきて…」
クセロシキがミモザをまじまじと見る。ボロボロではあるが着ている服はかなり上等な服で、幼いながらもその顔には気品のようなものが見てとれる。
「クセロシキ様」
クセロシキが思考を巡らせていると後に控えた女性が声をかける。ミモザはその声を聞いてハッと顔をあげる。
「ペパー…なの?」
ミモザはよろよろと立ち上がり女性にそう問いかける。呼ばれた女性は赤いサングラスを取り、まとめていた髪をおろした。
「そうですよ、ミモザお嬢様」
その女性ーーーペパーはスカートの裾をつかんでお辞儀した。ペパーはミモザの家に仕える二人のメイドの内の一人だった。いつもは黒を基調にしたワンピースタイプのメイド服を着ているが、今は周りの赤スーツと同じ色のメイド服を着ている。なぜペパーがそんな服を着ているのかわからなかったが、とりあえず知っている人がいるだけでミモザは安心した。
しかし、次の一言でミモザは言葉を失ってしまう。
「ミモザお嬢様。残念、生きてたんですね」
ありがとうございました。
お気づきのかたがほとんどかと思いますが、洞穴にいたポケモンは「ジジーロン」です。この島はR団があらゆる地方から集めたポケモンを育てるための島という設定なのでカントーにいないポケモンもでてきます。
ミモザの過去はもう少し続きますので、もうしばらくおつきあいください。