しかし今回、アラムシャザザミが主役ではありません(爆)
11/1:文章修正(段落付け・文章一部改定など
それは、渓流の村で発注されていたクエストから始まった。
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この間、眠れなくて村の外れを歩いていたら、ズシン、ズシンって地震が起こったんだ。
慌てて村の皆を起こしに行ったんだが、皆は地震なんか無かったっていうんだよ。
例のアラムシャザザミが出歩いているし、そいつの仕業じゃないかって皆は言うんだが、本当にそうなのか?
このままじゃ、気になって益々眠れなくなっちまうよ!頼む、ハンターさん!謎の地震の正体を暴いてくれ!
―狩猟環境不安定
―不眠症気味な村人より
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このクエストを見たアザナは、アラムシャザザミの警戒と観察(という名目の敵前調査)の為、即座に受注。
それに付き合わされるように同じクエストを受注するのは、彼女の期間限定の相方であるカリガだ。
観察は人数が多い方が良いとはアザナの談だが、惚れた弱みというべきか、普段なら不安がるカリガは躊躇無く賛同した。
ついでに地震の正体であろう、尾槌竜ドボルベルクの調査も考慮することとなり、準備を整える。
ちなみにアームスは、とうとうアラムシャザザミの怒りを買ってしまい大怪我を負った。
命に別状はなかったものの、大怪我には違いないので、ユクモ村で療養中だ。全治1ヶ月。
この時代では、ユクモ地域のモンスターの生態系を調査することを主な目的とされている。
発見や観測こそされているものの、討伐や捕獲の回数は少なく、未だ解明されていない点が多い。
例えば、近年になって渓流付近で発見され、調査員や新人ハンターの観察記録が多数ある獣竜種・ドボルベルクがいるとする。巨大な身体にハンマーのような尻尾を持つ、木を主食とする草食性の大型モンスターだ。
だが、そこまでしかハンターギルドは解って居ない。いくら姿形、食性や特徴を理解していたとしても、解っていない箇所は多い。
例えば攻撃手段だとか、凶暴性の有無だとか、有効とされる素材が剥ぎ取られるかどうかなど。
しかしこの時期はまだ装備が不足しており、ジャギィやアシラといったシリーズが最新鋭だと云われているほど。
ドボルベルクのような大物はベテランのハンターぐらいでしか倒すことができないが、人数が少ないのが現実だ。
詳しい情報を知るには、一定数の討伐・捕獲を繰り返すなりして戦闘記録を作成しなければならない。
さらにそのモンスターの亡骸をハンターギルドの拠点に送り込み、解剖して肉質や材質を詳しく調べる必要がある。
リオレウスやナルガクルガといった既知のモンスターなら、多少の肉質や性質の違い程度で済ますことができる。
しかし、このユクモ地域は近年になって発見されたばかりの新しい土地だ。新たなモンスターが見つかる可能性は高く、発見する度に詳しい調査や解明をしていかなければならない。
つまり、新たなモンスターから装備品を作り出すには時間がかかるのだ。
もちろん、ユクモ村にも立派な職人さんは居る。笑顔と元気が取り得の粋な職人さんだ。
彼は豊富な技術と技量を持って大陸を渡ってきたが、それでも知らないモンスターからいきなり装備品を作ることはできない。
どんな肉質か、どんな性質を持つのか、切れ味はよくなるのか、どのようなデザインにすべきか。
素材の質を知り尽くしているからこそ、レウスシリーズやナルガシリーズといった優秀な防具や武器を作れるのだ。
調べてもいない素材を使ったとしても、すぐにはできず効率が悪いだけである。
だからこそ、できる限り新種モンスターの詳しいデータや観測記録を必要としている。その代表格がアラムシャザザミであり、ドボルベルク、ということだ。
そして当日の夜。地震の正体はあっと言う間に姿を現した。
―ガヅンッ!
とある河にて、重々しい金属音と地鳴りが岩場に隠れている二人に襲い掛かる。
身体が揺れることで、カリガはついアザナの揺れるモノを見てしまうが、肝心のアザナは目の前の光景に夢中だった。
尾槌竜ドボルベルクと鎧蟹アラムシャザザミが争っている。
この渓流の頂点に君臨するドボルベルクから見たら、アラムシャザザミは侵入者でしかない。
自慢の尻尾をアラムシャザザミに叩き付けるが、ガード体勢に入っていた為に両の鋏で防がれてしまう。
しかし、さすがの鋼鉄の殻を持つアラムシャザザミでも、ドボルベルクの尾槌はキツいようだ。
このままでは鋏が壊れてしまうのと思ったのか、すぐに体勢を崩し、二度目はバックジャンプでかわした。
これを見たアザナは珍しいと思った。しかし、無理の無い話だと納得も出来た。
ディアブロスにドボルベルク。これら二匹は解り易いまでのパワータイプだった。
あの二匹のパワーを前にすれば、流石に暢気なアラムシャザザミも危機感を抱き、戦わざるを得ない。
逆に言えば、ドボルベルク並のパワーが無ければアラムシャザザミに攻撃は通らない、ということだ。
あれほどまでのパワーを生み出すには、やはり人間の筋力だけでは足りない。やはり武器や防具の強化は必須か……アザナは尾槌竜と鎧蟹の激戦を見ながら、そんな事を考えていた。
―そんな時だ。カリガが異変を察知したのは。
(アザナさん、アザナさん)
コツコツと肩を叩かれてやっと我に戻ったアザナは、何事かとカリガを見る。
そういえばいつも思うのだが、カリガの方が自分より年上なのに、何故自分をさん付けで呼ぶのだろうか?
二つ下なんだから気にするなといつも言っているのに……いつ直るんだろうか。
(どうした?)
(周りの様子が変です)
(周り?)
小声でそう言われて、二匹の争いを眺めていた視線が横へと向いた途端、目の前を横切る黄色い光が視界に入った。これは雷光虫だったか。
しかし、一匹だけではない。彼女の視界には、渓流中の雷光虫らしき光が溢れかえっていた。
これだけでも異変だというのに、ガークァやケルビが一斉に同じ方角、しかし雷光虫とは反対方向へと逃げていく。
―何かが来る。
そんな予感がカリガにも過ぎったのか、二人同時にガークァ達に混ざって避難することに。
幸いな事に、ドボルベルクはアラムシャザザミに頭を押し付けているのに夢中のようだ。
二匹に見つかることなく横を通り過ぎ、逃げるモンスターの群れに混ざりこみ、距離を置くことに成功した。
この位置なら、急いで後ろへダッシュすれば、すぐに安全地帯へ逃げ込むことができる。
―そして二人が物陰から二匹と雷光虫の大群を見つめていた時、
見たことも聞いたことも、ましてや今まで見たモンスターのどの分類にも当てはまらない姿をしていた。
雷光虫の群れに囲まれたそのモンスターは、飛竜のような翼は無いが、強靭な四肢を持って大地を踏み抜いている。
牙獣種のように体毛が生えているが、蒼い鱗も混ざっている以上、竜の類には違い無い。
なによりも、体中から溢れ出ている電撃とプレッシャーが、並大抵のモンスターの比ではなかった。
電撃はフルフル以上、プレッシャーはリオレウスやナルガクルガに匹敵するかもしれない。
そんな脅威性を物語るモンスターだからこそ、二匹の反応はそれぞれ違っていた。
アラムシャザザミはといえば、そのモンスターを前にして、一目散に地中へと潜って逃げた。ディアブロスやドボルベルクですら相手することができるアラムシャザザミが、だ。
知能は低いものの、相手の姿を見ただけで強いと本能で理解したのかもしれない。
何にしても、そそくさと逃げ出す程の何かを感じたのには違いないだろう。
一方のドボルベルクはそうではない。両者の大きさの問題で自分よりも弱いと思ったのか、逆に意気揚々と立ち向かってきた。
長きに渡る渓流の頂点故の傲慢さか、それとも己のパワーを信じきった自信からか。
だが、そんなドボルベルクを前にしても、蒼と金色の獣のようなモンスターは立ち止まらない。
その身体に雷光虫達を纏わせ、前足がしっかりと地面を踏みつけ、唸り声を上げる。
すると、無数の雷光虫から電撃が放たれ、それがモンスターに蓄電していくではないか。ドボルベルクが何をするのかと威嚇するが、それでも蓄電は止まらない。
―嫌な予感がする。
(逃げるぞ、カリガ)
(え?けどこの距離なら……)
(いいから!)
野生の勘による生存本能か、あるいはプレッシャーに押し負けただけか。アザナはカリガの腕を掴み、安全地帯に向けて走り出した。
その勢いと強さは、彼女よりも高身長である彼を容易に引っ張り出したほどだ。彼女の力強さを物語らせる。
―オオォォォォン!
遠吠えが背後で轟いた直後、凄まじい光と音が渓流中を襲った。
これではまるで……いやまさに雷が落ちたような音と光ではないか。
どうなったのか振り向いて見てみたいが、それを許せるほどの度胸が二人には無かった。
幸いなことにすぐそこに安全地点がある。ドボルベルクの調査も終えたし、一応は達成できた。
今はただ、狩人が野生の狩人を恐れ、逃げることでしかできなかった……。
次の朝。渓流に住む村人達は、朝から奇妙な光景を目の当たりにしていた。
まずはアラムシャザザミの出没。しかし村を襲ったわけではない。
子供ですら平気で通り過ぎるほどにのんびりとしたアラムシャザザミ。そんな彼が忙しなく走っていたのである。まるで何かから逃げているかのように。
これを見たメラルー達は大慌て。何せアラムシャザザミが自分から走り出すとは思わなかった。メラルー達は急いで荷物を抱え、アラムシャザザミの後を追うのだった。
そしてもう一つ。
これが村人にとっても、後日に報告を受けるハンターギルドにとっても衝撃的な出来事だった。
―それは、まるで雷に撃たれたかのように焦げていた、ドボルベルクの死体だった。
アザナとカリガの報告を受け、その証拠を見にやってきた村人とギルド関係者は大騒ぎ。
村人達は、今は見えぬ新たな脅威に怯えている。こんな巨大なモンスターを黒焦げにした程の相手なのだから、仕方ないだろう。
ギルド関係者は、ドボルベルグの解剖をしようだとか、新種モンスターの発見が先だとか、仲間内で揉め合っている。
強敵が現れた以上、その存在の確認だけでなく、それに対抗しうる装備を急いで作り上げたいというのが彼らの想いなのだろう。
アザナとカリガはといえば、ドボルベルクの亡骸を呆然と見つめながら、モンスターの脅威を改めて知ったのだった。
―ユクモ地域には、未だ発見されていないモンスターがいる。今回で学んだことは、それに尽きた。
霊峰に続く崖の上から眺めている、後に雷狼竜と呼ばれるようになるモンスター。
彼が見下ろす先に居るのは、若きハンター二人と、黒焦げになった元・渓流の主と、多くの人々。
しかしあれらへの興味が薄いのか見るのを止め、遥か地平線へとその鋭い眼を向けた。
―遥か地平線の先。雷狼竜ジンオウガの眼には、暗雲と雷光が微かに映っていた。
―完―
アマツフラグが立ちました。村、大ピンチ!
そんなこんなで、ジンオウガの登場です。ドボルは噛ませ犬(酷)
この時代では初めての登場です。この回は前々から想定しており、書きたかった内容でした。文章が乱雑していますが、そこはご了承くださいませ(汗)
雷耐性がある程度あるので戦えない訳ではないですが、上であることには違いないです。