火山から出発し、早くも一週間が経過した今でも、メラルーとアラムシャザザミの旅は続いていた。
装甲が増したおかげで以前よりも帰りが遅いが、ドスファンゴの突進ですら物ともしない為に安全だった。
のんびりとした旅なので食料に不安を覚えていたが、火山で溜め食いでもしたのか、あまり問題にはならなかった。
この調子なら渓流付近での補給が少なくて済むかもしれないと考えていた。
―そう、この光景を目の当たりにするまでは。
信じられない光景がメラルー達を襲った。
歩き辛そうにしているアラムシャザザミの上では、数匹のメラルー達が揃って目の前の光景を眺めていた。
かつては緑と水が豊かな土地だったはずの渓流。そこが全て滅茶苦茶になっていた。
木々は倒れ、朽木がちらほらと転がり、地が削られ、落雷の焦げ跡が点々と見え、川の流れが大いに乱れている。
ある程度の緑や水は保たれているものの、動物やモンスターの死骸が散らばっている以上、眺めるのにはお勧め出来ない。
おまけにアラムシャザザミの足が中々進まない。原因は足場の悪さと、つまみ食い。
だがまぁ、ここはまだいい。むしろ、自然の驚異が爪を向けたと諦めが付く。
問題はこの付近に建てられた人々の村だ。そこはもっと酷い。
自然に調和した平和な村だったからこそ、倒壊し、朽ちて廃墟となった今の光景は堪えるものがある。
メラルー達はつまみ食いで足を止めているアラムシャザザミの上で呆然としていた。
少し前まで元気な村人達と触れ合ってきたのだから、まさかこんな事になっているとは思いもしなかったのだろう。
―川魚を分けてくれたご主人、どうしたのかニャ……。
青メラルーがそんな事を考えていると、ある声が聞こえてきた。ニャーニャーという、自分達と同じくアイルー科の獣人族の声だ。
どこにいるのかと見渡していると、すぐそこまでこちらへ近づいてくる、数匹のメラルー達の姿を発見。
―とりあえず、生き残りが居たようでほっとしたメラルー達であった。
ここから先は、メラルー達の会話が続きます。
アラムシャザザミは砂漠へ旅立つ為に食事を取って動かないので、空気だと思ってください。
「一体全体、どうしたんだニャ?」
「どうしたもなにも、嵐が襲ってきたんだニャ」
「それは見たら解るニャ。ただの嵐にしては強すぎやしニャいか?」
「そうなんだニャ。あまりにも強いから、数日前から村人皆が警戒していて、ユクモ村に避難したぐらいなんだニャ」
「あ、そうなのかニャ?ということは皆無事なのかニャ?」
「無事だニャ。だから安心していいニャ。ハンターさんも残らず避難したニャ。俺らは逃げ遅れたけど、洞窟に隠れて難を逃れたんだニャ」
「一安心だニャ~……それにしても、そんなに強い嵐だったニャんて、まるで古龍並だニャ~」
「そうニャ!俺らは見たんだニャ、雲に隠れていた古龍の姿を!」
「マジかニャ!?……空に浮かんでいた気球はそういうことだったんニャね。この嵐の爪跡も納得だニャ」
「そうなんだニャ。遠くの大陸から来たっていう老人ハンターが、もしやと思って避難前に連絡したらしいんだニャ」
「この大陸にも古龍が居たとは……仲間にも伝えておかニャいと」
「けど、実は古龍以上に厄介なことになっているんだニャ~……」
「どういうことニャ?古龍が居るってだけで大問題じゃニャいのか?」
「古龍も嵐も、今はどこかへ行ったみたいなんだニャ。そしたら、この間、ドボルベルグを黒焦げにしたっていう噂のモンスターが出たんだニャ!」
「ニャ、ニャんだってー!?ハンターさん曰く、メチャクチャ強い奴なんじゃ……ニャ、ニャニャニャっ!?」
「ニャ、ニャんだ!?急に蟹が慌しく動き出したニャ!?」
「ちょ、餌釣り係り、マンドラゴラで……ニャにーっ!?マンドラゴラ見せても反応しニャい!?どういうことだニャ!?」
「そ、そういえばそのモンスター見たの、つい昨日だったんだニャ……遠目だったけど、物凄く怒っていたニャ……」
「えーっ!?それってかなりヤバ……ニャ、スピードアップした!?やっぱあのモンスターに脅えているのかニャ!?」
「ちょ、本当に大丈夫ニャのかこの蟹!?」
「この間も怯えて走っていたから、今回も止まらニャいかも……ええい、このまま砂漠へ行くけど、一緒にどうかニャ!?」
「あのおっかないモンスターから逃げられるニャらどこでもいいニャ!俺らも連れて行ってくれニャ!」
「りょーかいニャ!このまま全速力で渓流を脱出するニャー!はいよー、カーニー!」
―任せておけー!
なお、上記の台詞はイメージです。アラムシャザザミが掛け声と共に鋏を振り上げ、猛ダッシュしたので。
こうして、アラムシャザザミ(とメラルー達)は、全速力で渓流から逃げ出した。
そして彼らが渓流の領域から脱した後、先ほどまでアラムシャザザミが佇んでいた場所にはある姿が。
それは、渓流を荒らした元凶である嵐龍アマツマガツチによって、縄張りである霊峰を追い出されて苛立っていたジンオウガだった。
やはり、アラムシャザザミの危険察知能力は異常なほどに優れていた、ということだろう。
そしてようやく砂原へ到着。途中ハプニングもあったが、行きと同じ期間で帰ることができた。
メラルー達どころか、なんとなくだがアラムシャザザミも、故郷の光景を眺めてほっこりしている。
とりあえず、旅も終えたところで、アラムシャザザミはここで解放することに。
短いようで長かったが、暢気ながらも頼りになる奴だったと、メラルー達は思った。
旅の荷物をヤドから降ろし、アラムシャザザミにマンドラゴラを与えて労わることにしよう。
だがしかし、メラルー達は失念していた。
数ヶ月も砂原を離れ、家族としばし仕事を忘れ、アラムシャザザミの甲殻が増したことへの安心感が原因と見られる。
そしてアラムシャザザミ自身も、火山による適応力と、甲殻類故の脊椎動物以下の知能の低さ故に忘れていた。
この砂原における、もう一匹の支配者の存在を。
その支配者は、アラムシャザザミが居なくなってもなお闘争心を滾らせていたことを。
そしてその支配者は、滾らせた闘争心を満足に晴らせる相手が得られず、相当苛立っていたことを。
―甲高いディアブロスの叫びと共に、アラムシャザザミとメラルー達は空を飛んだ。
ちなみにディアブロスも鍛えていたようで、パワーが二割増しだった。
少なくとも、重装甲の鎧蟹を突進だけで吹っ飛ばしたのだから間違いは無いはず。
それからのことは多く語れないが、それはもう物凄い攻防だったという。
渓流に暮らしていたメラルー曰く「嵐なんか屁じゃないぐらいに激しかった」とのこと。
後日、鉱山夫ハンターが気まぐれで採掘してみたアラムシャザザミの甲殻がハンターギルドに贈られたらしい。
複数の鉱石が複雑に、そして絶妙なバランスで混ざり合った素晴らしい鉱石だと研究者は驚愕の結果を示した。
そしてこの貴重な鉱石を「ザザメタル」と名づけ、鉱山夫ハンターの新たなターゲットとして睨まれるようになる。
もっとも、大抵の鉱山夫ハンターは未だ防具が整っていないので、返り討ちは確定である。
ひび割れた甲殻にツルハシを振るう方がまだ被害が少ないとの情報もあるので、そちらをオススメする。
―完―
次回、いよいよアラムシャが更なる高みへと目指す!