ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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 今回からは、フィールド移動を覚えたアラムシャザザミが数年の時をかけて成長した所です。
 前回から12年の時が経過しています。時間が経つのって早いよね!

 11/2:文章修正(段落付け・文章一部改定など


第14話「鬼ヶ島への挑戦・前編」

 時が経つのは早い。自然からみたら短い時間でも、生命からすればとてつもなく長く感じることも短く感じることもできる。

 そんな時の中でも、生き物は確かに生き続けている。進化し続けている。中には絶える者もいる。それらを踏み越えて生きていくのが、彼ら生命だ。

 生き延びた同士が戦いあう宿命がこようものなら、戦って勝ち取り、生き抜く。それが生命に与えられた宿命であり、義務。生き抜くための条件。

 

 

 

―モンスターとハンターの戦いも、その宿命と義務に乗っ取った、命がけの戦いに違い無い。

 

 

 

 今、ユクモの集会所にいるハンター達が揃って同じ方向を見つめていた。

 

 かつてはハンター不足で悩まされていたここユクモ村でも、あるハンターが配属されたのをきっかけに、多くのハンター達が募ってきた。

 旧大陸出身の者から新大陸出身の者まで幅広く、中にはロックラックやモガの村を中心としていたハンターまでやって来ている。

 それらのハンターは、ロックラック周辺やモガ村周辺におらず、ユクモ村周辺にしか現れないモンスターの素材が目当てなのが多い。

 加えてハンター故の、新たなモンスターに挑戦したいという高いチャレンジ精神。これに尽きるだろう。

 

 

―そしてそのチャレンジ精神は、より高みを目指す意欲の源でもある。

 

 

 そんなハンター達がざわめいている理由は、とある4人のハンターの姿があったからだ。

 

 1人は、パワーハンターボウⅡを担ぎ、ペッコUシリーズで身を固めた、黒い眼帯が特徴的なガンナー。後方支援を主軸にした、フリーの雇われガンナーとして有名な男だ。名はラクサジー。

 自称「ディフェンスに定評のあるラクサジー」。ちょっと性格にクセがあるのが難点。

 

 

 1人は、黒轟竜と覇竜の素材で作られた狩猟笛を持つ、バンギスシリーズで身を固めたゴツい男。右肩から左脇にかけて巻かれている赤いスカーフに映える牙が並ぶ口のマークを見れば、皆がどよめく。

 彼は轟竜と恐暴竜を主なターゲットとしたギルド旅団「レックス」の主力とされている有名なハンター。名はグエンガ。

 イビルジョーを怨敵とし、イビルジョー殲滅を喜びとする凶悪無比な男。

 

 そして残る2人。この2人こそが大半のどよめき、そして視線を奪っていた。

 彼らはかつて、とあるハンターと共に、ユクモ村の災厄……古龍種アマツマガツチを討ち取ったコンビなのだから。

 

 神々しい荒天シリーズで身を固めた美しき女ハンター・アザナ。恐らくユクモ一の巨乳の持ち主でありながら、その闘争心と勇ましさは真に漢らしい。

 金色に輝くゴールドルナシリーズで覆われた長身のハンター・カリガ。大柄であるグエンガを越える2mの長身と、年に似合わぬあどけない顔が悩みの種。

 そんな2人は、ユクモ村所属のハンターとして勤めて10年のベテラン。ユクモ村でこの2人は知らぬ者は居ない。

 

 そんな豪華メンバーが揃ってどうしたというのか。

 少なくともアザナとカリガのコンビでアマツを狩れる程なのだから、よほどの相手なのだろう。

 そんな4人組を見つめる(一部男は揺れるナニをだが)中、彼ら受付へと足を進めていた。

 

「こんにちは。凄いメンツですねぇ。どのクエストを受けるんですか?」

 

 長年受付嬢をしてきた彼女から見ても凄いらしく、思わず息を零してしまったほど。

 本音を零した後、己の仕事をするべく、彼らのリーダー格であろうアザナに声を掛ける。

 

 

 

 

「鬼退治へ行く」

 

 

 

 

 その瞬間、彼女ら4人と受付嬢を除く、全てのハンター達が叫びを挙げた。

 先ほどの言葉が信じられないと皆が耳を疑うが、それならこんな凄腕が集うのも無理はないとどよめく。

 

 

―鬼退治。それは「あのモンスター(・・・・・・・)」に挑むということだから。

 

 

「ひょっひょっひょ。ついにヤツ(・・)に挑むのかね?」

 

 そんな周囲のどよめきざわめきを無視して、落ち着いた様子で受付嬢と打ち合わせをしていたアザナ。

 そんな彼女に声を掛けたのは、常に酒を飲んでいる小柄な老人。ユクモ村のギルドマネージャーだ。

 

「ええ」

 

 そんな老人に対して、アザナは素っ気無く返事を返すだけだった。

 だが老人も彼女の性格を理解しているようで、「ひょっひょっひょ」と笑いながら話を続ける。

 

「長かったようで短かったなぁ。お前さんの一番の目的だったから仕方ないか」

 

「その為の12年間です」

 

「そうか。チミはその果てに何を望むのかね?」

 

「勝利」

 

「ひょっひょっひょ。相変わらず素っ気無いのぉ。じゃが、それでこそチミらしい」

 

 そういって老人は酒を飲んで、酒臭い息を吐く。

 受付嬢から「島へ行く気球を出すので、しばらく時間がかかる」と聞き、皆にそれを伝える。

 自由時間ということで、ラクサジーは女をナンパしに、グエンガはひとっ風呂浴びてくると言って温泉へ向かっていった。

 受付前に残されたのは、アザナとカリガの2人だけだ。

 

「苦労を掛けるな」

 

「何を今更。アザナさんについていく。それだけで僕は十分です」

 

「……そうか」

 

 長年コンビを組んできた二人だが、こんな短いやりとりも昔から変わっていなかった。

 互いを理解し合っているからこそ、余計な言葉は不要。それだけで2人は成り立っていた。

 ……カリガとしては、それだけではないのだが、それはまた後に話す機会があるので、そこで話そう。

 

「ああ、よかった。まだ残っていらしたのですね」

 

 聞き慣れた声を耳にして2人が振り向けば、こちらへと歩いてくる女性の姿があった。

 ユクモ村の村長だ。妙齢でありながら知識が豊富で、多くのハンターや村人に慕われてきた。

 口数の少ないアザナは軽く頭を下げ、彼女の代弁者であるカリガが村長に挨拶をする。

 

「お久しぶりです、村長さん」

 

「ええ。お久しぶりです。先日の嵐龍討伐のご協力、本当にありがとうございます」

 

「よしてくださいよ。そのお礼を言うなら、僕らを呼び止めた()に言ってください。そういえば、()は元気にしていますか?」

 

「ええ。元気にしていますわ。つい先日、崩竜の討伐を達成したそうですの」

 

「本当ですか!?やりますねぇ、あいつも。それが聞けてよかったです」

 

「ええ。本当に逞しい方ですわ。……話を変えますが、ついに……?」

 

「ええ。アザナさんの夢でしたから」

 

「そうですか……あの(・・)()についてはどの程度知っていますか?」

 

 世間話のように軽い雰囲気から一転、村長は神妙な表情でカリガに問い掛ける。

 村長の言う「あの(・・)()」の脅威性と強大さなら噂程度で知っているが、彼女が知りたいのはそんな些細な情報ではないだろう。

 

「かつてヤツ(・・)に挑んで負けてきたというギルドの一員を勧誘しました。ヤツ(・・)にリベンジすると言って、戦い方や特徴は彼が洗いざらい吐いてくれましたよ」

 

 このままではギルド「レックス」の名折れだと張り切っていた彼の、勇ましいまでの誇り高さ。

 だからこそアザナは、凶悪だと名高いハンターを信用し、荒々しくも気前のいい彼の素顔を知ることが出来た。

 互いに素顔を晒したから、彼は話せるだけの情報を提供してくれたのかもしれない。

 

「そう……それでしたら、私が伝えることは少ないようですが、あえて言わせてもらいますわ」

 

 そういって村長は、カリガとアザナの両者を見比べてから、彼女が知りうる情報を伝える。

 

「数年前から発見された、ユクモ村に近い、山一つしかない小さな島。そこは何故か大型の肉食モンスターが存在しない上に、自然の恵みで満ち溢れていますわ。

 皆こぞってその島を手に入れようとしました……。しかし、それは全て無駄に終わりました……そこに住まう支配者(・・・)が、それを許さなかったから」

 

 一呼吸置いてから、村長は黙って聞き続けている2人を前に、話を続ける。

 

「その支配者はかつて、なんらかの理由で遠い大陸から迷い込んだ、小さなモンスターだったそうです。

 そのモンスターは新たな地で強く成長し、強大なモンスターとなりましたの。かの『ユクモの魔王』こと片角のディアブロスと互角に渡り合い、食物を求めて多くのフィールドに姿を現してきました。

 一部では守り神として崇められているほど温厚で暢気な子ですが、そんな子が選んだ島……『鬼の住む楽土』を荒す者には一切の容赦はないと聞きます。

 かつて彼に挑み、辛くも勝利を収めたハンターは、楽土の所有者として君臨し、富と名誉を欲しいがままにしたようです……1年の間まででしたが」

 

 勝利を収めて島を手に入れたというのに、何故1年間という期限付きなのか。

 その理由を村長は告げる。そのモンスターを知る者なら誰もが知っているであろう、最大にして最悪の特徴を。

 

「彼は殺せません。殺そうとした所で彼は身体(・・)()一部(・・)()()てる(・・)。一時的にその者を恐れ、捨てた体を囮に逃げ延びるだけです。

 だからこそ、勝利を収めた1年後、彼はその島へ舞い戻り、島の支配者として再度君臨するのです。その術を手にしているモンスターは、世界広しと言えど、彼を含めた三匹(・・)のみ。だからこそ、彼らは古くから生きながらえることができました」

 

 ハンターだけでなく、様々なモンスターが渡り歩くこの世界で、たった三匹のみが生きながらえている。

 それだけでも驚愕ものだが、彼らも野生を知るハンターだ。有り得ないことなど有り得ない。

 

 それこそ、これまでにいくつも発見されている変異種というモンスターの存在が、その意味を明らかにしている。

 亜種という分類のモンスターは数多けれど、変異種の存在は数が少ない。

 突然変異で姿を変えたという彼らは、亜種や原種とは違った力を手に入れ、今もなお生きながらえている。

 その例が、『ユクモの辻斬り侍』ことツジギリギザミであり、『神出鬼没の無法者』ことアグナコトル希少種。

 彼らも突然変異で生まれた数少ない生き残りで、強大な力を持ってユクモに君臨している。

 

 

―それはヤツ(・・)にも言えることだ。

 

 

「解っていますよ。それを知っておきながら、僕達は戦うことを決めたんです。ラクサジーもグエンガも、それは解りきっています」

 

 心配そうに見つめてくる村長を前にして、カリガは柔らかな笑顔を浮かべる。

 本来ならモンスターから弱き者を守る為に存在しているのが、彼らハンターと呼ばれし者。

 しかし彼らは、時には相手が自分達では敵わないような力を持っていようとも、戦いを挑むこともある。

 その代表格と言えるのが、彼の相方である、闘争心盛んなアザナだろう。

 

「カリガ、気球船の準備が出来た。すぐに出発する」

 

 受付譲と話していたらしいアザナがカリガを呼び止める。

 了解、と軽く返事を返してから、再び村長へと顔を向ける。

 

「心配しないでください。ヤツ(・・)に敗れたからといって、怪我は負えど死にはしません。それに俺達は、勝つつもりで行くんですから」

 

 そういってカリガは、村長に軽く別れの挨拶を述べた後、アザナの元へと向かう。

 どうやら他の2人を呼び止める為の話し合いをしているらしく、すぐに二手に分かれて移動し始めた。

 そんな2人の様子を見ていた村長は、不安そうな顔を一転させ、くすりと面白そうに笑う。

 

―いつだってあの2人は、一緒に無茶なことして帰ってきましたものね。

 

 そんなことを考えてしまったから、クスクスと笑い声が止まらなくなってしまう。

 村長の笑う様子を眺めていたのは、酒を口に加えているギルドマネージャーのみ。

 そんな彼は、若いっていいねぇ、と呟いて、また酒を飲むのだった。

 

 

 

 

 

―12年間、この時を待ち続けていた。

 

 ヤツ(・・)と初めて出会ったのは、私がユクモへ来たばかりの頃だった。

 その圧倒的な防御力を持ったモンスターは、暢気でありながら、世間を闊歩するだけの実力を秘めていた。

 

 最初見た時から、戦いたいと思っていた。だがヤツは、私のことなど眼中になかった。装備を多少整えて挑んだとしても、無視するだけ。

 ヤツが支配者になる以前―ユクモ中を渡り歩いていた頃、幾度も私は挑み、無視された。

 その都度、過去に一度コンビを組んで以降に相方と呼べる仲になったカリガに止められたのは懐かしい。

 

 だが、今回はそうはいかない。

 

 あれから強くなった。武器も防具も、全て強者から奪い鍛え上げた一級品だ。

 幾つものモンスターを討伐してきた。情報を徹底的に調べた。仲間を集めてきた。

 

 

 

―ここは、ヤツ(・・)が住まう島……『鬼が住まう楽土』。

 

 

 

 気球から降り立った小さな島は、とても美しい自然が保たれていた。

 木々が緑色に染め、至る所にキノコが生え、川の水は澄んでおり、草食種や獣人族が静かに暮らしている。

 これらを脅かすようなモンスターは少なく、居たとしても狗竜程度でしかない。

 こんな豊かな地でありながら、何故ラギアクルスやリオレウスといった強者が影ですら存在していないのか。

 

 

―それらは全てヤツ(・・)の物だと理解しているからだ。

 

 

 地震が起きた。私たち4人と大地を容赦なく震動させる大地震。

 そんな震動が襲っているにも関わらず、モンスター達はゆっくりと移動するだけ。

 しかしその移動する先は、ある場所から遠ざかっていることが明白だった。

 

 

 ぽっかりと緑に穴が空いたような、地面しかない場所。そここそが、この島の主が眠る場所であり、地震の発信源だからだ。

 

 今、その場所から覇竜アカルトルムの頭が地中から出てきた。

 無論、こんな地にアカムトルムは居ない。これはただの頭蓋骨だ。

 地中から這い出てくるアカムトルムの頭蓋骨。そしてそれをヤドとするモンスターが姿を現す。

 

 

 

―鮮血のような鮮やかな赤色で統一された、幾重もの鉱石が入り混じった甲殻。

 

―まるで盾どころか城壁のように分厚く巨大な、鋼鉄製の鋏。

 

―ウラガンキン並の巨体とその体に見合う頭蓋骨を支える、強靭な4本の脚。

 

 

 

 その巨体を睨み付ける3人の男達。

 

―1人は富と名誉を欲しいが為に、弓を構える。

 

―1人は倒れた仲間とギルドの汚名を返上する為に、旋律を奏でる。

 

―そして1人は戦いを終えた後に想いを伝える為に、剣を構える。

 

―そしてこの巨大な()を輝いた目で見つめているのは、1人の女性。

 

 

 

 

 

「今日こそ、本気で挑んでもらうぞ……」

 

 

 

 

 

 アザナが己のハンマー……凶鏡【妖雲】を構えた瞬間、昔から温厚で暢気だったはずの蟹が動き出す。

 両手の鋏を盾のように構える。これは明らかな敵意であり、威嚇行為。

 

 

 

 

―まるでアザナの挑戦を了承するかのように、鬼鉄蟹(おにてつがに)は、鋼鉄の鋏を打ち鳴らす。

 

 

 

 

 

「オニムシャザザミ!」

 

 

 

 

 

 その叫びに呼応するかのように―――鬼鉄蟹オニムシャザザミは、両の鋏を擦り合わせ、咆哮のような強烈な金属音をかき鳴らす。

 

 

 

 

 

 

―いざ、鬼退治!

 

 

 

 

 

―完―




 蟹さんが本気になりました。ここまでくるのに長かったです。

 今回はハンターの説明から。データはMHP3rdを参考にしています。

 アザナ(剣士/武器:凶鏡【妖雲】 /防具:荒天シリーズ)
 力の解放+2をいかに発動するかが勝利の鍵。オニムシャ戦に一番乗り気なのは彼女。長年ユクモの蟹に挑もうと心がけ、ついに念願の時が来た。

 カリガ(剣士/武器:ハイジークムント/防具:ゴールドルナシリーズ)
 破壊王で部位破壊なるか。しかし彼にとっての優先事項は激運らしい。何ゆえ?オニムシャザザミを討ち取ったらアザナに何かするらしい。

 ラクサジー(ガンナー/武器:パワーハンターボウⅡ/防具:ペッコUシリーズ)
 広域化と早食いによるサポートを中心とした支援型ガンナー。基本戦わない。雇われガンナー。自称「ディフェンスの高さに定評のあるラクサジー」。

 グエンガ(剣士/武器:吼鼓【鬼咬】 /防具:バンギスシリーズ)
 前回は弾かれまくりだった。斬れ味ゲージ+1でようやく攻撃が通ることを祈る。かつてオニムシャザザミにやられた経験者が1人。リベンジが目的。

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