やはりというかなんというべきか。
オニムシャザザミに挑んだ経歴を持つグエンガから、事前の情報は聞いていた。
その時のメンバーの1人にガンナーが居たのだが、そのガンナーはヘヴィボウガンだったという。
なら弓はどうなるのかといえば、ある程度予測は取れていた。加えて武器の性能に主点を置かないラクサジーの装備は、パワーハンターボウⅡ。
他のメンツの武装に比べても、圧倒的にパワーが劣っているのは明確である。
すなわち。
―ガキンッ!
「うーん、なんというか、予想通りだったね」
語尾に、ごめん、と付け足すラクサジーの顔には、焦りも罪悪感も大してなかった。
確かに自分は、超美人だという理由で雇い主と定めたアザナから、後方支援に徹してくれと事前に言われていた。
しかし弓矢が全てあの硬く分厚い甲殻によって弾かれたとなると、さすがにやる気も削がれるというもの。
「だぁぁったらぁぁぁ!とっととやることをぉ、しろぉぉぉい!!」
「ぶるあああ」と叫べそうなほどに特徴的で野太い声を上げながら、グエンガが怒鳴る。
ジンオウガに吼えられてもマイペースで居られるラクサジーもさすがに参ったのか、とっとと怪力の実を食べる。
彼のスキル「広域化+2」により、その力の上昇は主力であるコンビにも伝わっていく。
「ていっ!」
「どりゃっ!」
アザナのハンマー「凶鏡【妖雲】」とカリガの大剣「ハイジークムント」の溜め攻撃がオニムシャザザミの脚に直撃。僅かな傷を造る。
鈍い金属音を立て、その衝撃が武器を伝って体に浸透していくが、今は一瞬の隙ですら許されない。
重量級の巨体であるにも関わらず、オニムシャザザミは忙しなく4本の脚を交差させ、遠心力を用いて鋏を振るう。
2人は前転で距離を取ることでそれを回避し、オニムシャザザミの懐へと潜り込む。懐へ潜り込まれたことで、オニムシャザザミは脚も鋏も届かないと判断し、身を屈める。
―毒攻撃か。ジャンプ攻撃か。地震攻撃か。
―屈めた身を震わせたことで、次の行動を理解した。
「離れろぉぉぉぉ!」
グエンガの獰猛な叫びを合図に、アザナとカリガは武器をしまって後ろへと跳ぶ。
次の瞬間、オニムシャザザミの身体から紫色の煙があふれ出し、周囲を毒霧が覆う。
幸いな事に2人は飛び込んで回避することで、毒を受けることはなかった。しばし充満された毒の中で佇むオニムシャを見つめながら、2人は起き上がる。
「ここまでは、グエンガさんの言った通りですね」
「ああ。ある程度だが、動きは読めた」
息を切らしつつも未だ余裕のある2人が、汗を手甲で拭いながらオニムシャを見続ける。
過去にギルドメンバー全員で挑み、オニムシャザザミに敗北したというグエンガ。そのグエンガが解るだけの情報を聞きだし、オニムシャザザミの攻撃パターンを知った。
基本的にはダイミョウザザミと動きは似ているが、それ以上に攻撃パターンが多い。
―先の、鋏同士を擦り合わせることによって生まれる金属音。あれは一度放つとしばらくは使わないらしい。
―両の鋏を地面に打ち付けての広範囲攻撃。外しても耐震持ちでないハンターは震動を受ける。
―ジャンププレス攻撃。主に懐に潜り込まれた時に使用し、咄嗟に軽く飛んで周囲を吹き飛ばす。
―同じく懐に潜り込まれた際の対策か、体を持ち上げ地面に叩き付ける、素早い地震攻撃。
―空を高く跳び、遠い所にいるガンナーですら狙い付けて踏み潰す、ハイジャンププレス攻撃。
―先ほども放った、広範囲の毒霧攻撃。身構えて震えるのがその合図だ。
―そして。
「皆、そろそろ走った方がいいよ?奴がいない」
そういって忠告するラクサジーはといえば、既に狂走薬を飲んで逃げていた。
毒霧が晴れ、いつのまにかオニムシャの姿がないことを確認してから、3人も同じく走り出す。バラバラになって走り出した途端、そいつは地中から現れた。
―アカムトルムの頭蓋骨が。
まるで生き物のように口を開いた状態で地中から現れ、ハンターに食らい付くヤド噛み付き攻撃。
走り続ければ当たることは無いが、もし止まればヤドに噛み付かれ、大ダメージを負う事になる。そのためにも、潜っては噛み付くを繰り返すヤドから懸命に逃げ出すのだ。
最後にはハプルボッカの如く出現し、地面に着地して周囲を見渡す。
オニムシャザザミが宙に現れた時点で接近済みで、3人のハンター達が武器を構える。
それを知った彼が次の行動を取るより先に、それらは振り下ろされた。
―そして、ハンマー、狩猟笛、大剣の同時攻撃を受け、脚一本にヒビが入る。
甲高い音が響いた。アザナ、カリガ、グエンガの三人はその音に対し反射的に距離を取った。
しかしその音がオニムシャザザミの叫びだと知ったのは、彼が口から泡を吹き、脚を交互に地面に打ちつけているのを見たからだ。
―オニムシャザザミは次の行動を取るべく、両の鋏を打ち鳴らす。
「グエンガ!」
「間に合わんっ!」
アザナがグエンガに聴覚保護の旋律を頼むには、あまりにも遅かった。
オニムシャザザミの巨大な鋏がくっつきあい、それを上下逆方向に動かし……。
―ギュイイィィィィィィ!!
鋏同士を擦り合わせ、鼓膜を破るような金属音をかき鳴らす。
幸いなのは耳を塞げばある程度軽減されるが、両の手が塞いでしまうデメリットがある。
この間にオニムシャザザミは何をしでかすのか。至近距離で耳を塞いでいるからこそ、耳を塞いでいる三人は焦っていた。
特にグエンガ。彼はこの先の、オニムシャザザミの行動を知っていたから。
―今、鮮血のように赤かった甲殻が、徐々にオレンジ色に染まっていく。
徐々に赤に黄が混ざりオレンジになっていく鋼鉄の甲殻。三人が危険を感知し離れていったのを合図に、天辺から足先までオレンジ色に染まる。
それを確認するかのようにオニムシャザザミは体を揺らし、鋏を振り上げる。
本来なら重くゆったりとした動きを見せていたが、今は違う。
鋏全体で叩き付けるような攻撃ではなく、鋏の先端をハンターに向け地面に突き刺す。
それだけならまだよかったが、これが連続で、しかも素早く交互に襲ってくるのだからたまらない。
「これが!?」
「ああそうだ!この色だ!この色になってから急激に攻撃力が上がりやがった!」
そんなオニムシャザザミの連続攻撃から逃げる為、アザナとグエンガは並んで走る。
グエンガはこの光景を目の当たりにした事がある。色が変わって何が変わったかといえば、その攻撃力。
攻撃の速度が上がるだけでなく、一発一発の攻撃力が最初期とは比べ物にならない程に高まっている。
―実際、カリガが鋏で遠くまでぶっ飛ばされていたし。(回復薬グレートで対応)
さらに攻撃パターンも増加されている。後方へ向け一気に跳ぶヤド突進、ジグザグに歩きながらの連続攻撃など、特異固体の盾蟹と同じ行動があった。
「それにしても、一体どういう仕組みだ……?」
何故、甲殻の色を変えた程度であそこまで変化が生じるのか。
オニムシャザザミがアザナとグエンガを追いかけていることを良い事に、カリガは治療を続けながら観察していた。
アマツマガツチのように見た目が変わっていくのは見たが、ここまで変化が激しいのはある意味で異常といえる。
「体をよく見てみなよ。何かが埋め込まれているだろう?」
ラクサジーからそう言われて、カリガは目を凝らしてオニムシャザザミを見る。
確かにオニムシャザザミの甲殻には、所々がデコボコとしており、その小さな突起が発光している箇所があった。
そういえば、体の色が変色した時から発光していたはず。
「あれは護石だ。恐らく鉱石に混じっていくつも食らってきたんだろうね。なら話がわかるよ」
後方支援に回り、オニムシャザザミの攻撃をあまり気にしなくて済むからこそ解る。
ラクサジーはこれまでの変化や、オニムシャザザミの生態を考慮してきたからこそ、その結論にたどり着くことができた。
―オニムシャザザミの更なる特質。それが……。
「護石の力を使って、自身を強化している……?」
―オニムシャザザミの脚が2人によって一部破壊された今、金属音を鳴らしながら青へと変色していった。
―鬼との戦いは、まだまだ続くようだ。カリガは2人の元へ駆けつけながら、そう思った。
―完―
オニムシャザザミ、驚きの5大形態。長期戦覚悟は必須。砥石と回復薬、忍耐の種や硬化薬類は多めにね!
では最後に、オニムシャの形態一覧、装備のスキル一覧、素材一覧を紹介して終わりにします。
●オニムシャザザミの形態一覧
・オレンジ:攻撃UP【大】・破壊王・納刀術
攻撃力と攻撃速度がアップする。また攻撃時はハンターのガード強化を無視する。
・青:状態異常攻撃+2・早食い+1・調合成功率UP
周囲のキノコや薬草を食べて状態異常攻撃を中心に戦う。
・黒:防御UP【大】・ガード強化・ガード性能+2
鋏を構えて防御形態になることが多くなる。一切の攻撃が通らなくなり、斬れ味が白でも弾かれる。
・鉛色:現在はまだ秘密
●鬼神シリーズのスキル一覧 (剣士)
・鉄壁(ガード強化とガード性能+2の複合スキル)
・免疫(状態異常と属性やられを無効にする)
・防御UP【大】
・スローライフ
・不運
●鬼神シリーズのスキル一覧 (ガンナー)
・要塞(反動+2とブレ抑制+2の複合スキル)
・免疫(状態異常と属性やられを無効にする)
・防御UP【大】
・スローライフ
・不運
●主に剥ぎ取れる素材一覧
・ザザメタル改
アラムシャ期のザザメタルよりも希少な鉱石が多く混合されている甲殻。別名「殻鋼石《カクコウセキ》」。
・鬼鉄蟹の巨爪
オニムシャザザミの鋏から取れた巨大な爪。肉厚で、そのまま大剣として使われることも。
・鬼鉄蟹の巨鋏
オニムシャザザミの巨大な鋏。ザザメタルが凝縮されたその硬さ故に加工が困難とされる。
・複合袋
毒素のみをスポンジのように吸収して蓄える、体内器官の一つ。扱いには困難を極める。
・鬼鉄蟹の浄化膜
複合袋に蓄え切れない毒を浄化して排出する、体内器官の一つ。あらゆる毒素に対応可能。