また、第三王女に大きな修正を加えております(←ここ特に重要)のでご注意ください。
2/5:サブタイトル微修正
1/24:誤字修正
ハンターたるもの、まずはハンターズギルドから発注したクエストを受けなければ狩猟はできない。
しかし一言でクエストと言っても、依頼主によって内容は様々。討伐はもちろん、採取を目的としたクエストもある。
人の数だけクエストがあるといっても過言ではない為、ハンターは様々なクエスト内容を見ることになるだろう。
そして多くのクエストをこなしてきたベテランハンターなら、誰もが一度は目撃しているはずである。
多くの依頼の中でも特に高難易度な依頼内容が記されたクエスト……通称「鬼畜クエ」の数々を。
グルメや収集家はもちろんの事、どうでも良い理由で高難易度クエストを依頼する者、果てにはこの世の者とは思えない相手からの依頼までもある。
そんなクエストの中でも、特に有名とされている依頼主がいることをご存知だろうか?
―溶岩竜ヴォルガノスの魚拓がとりたいから狩るのじゃ
―雌火竜リオレイアを飼いたいから捕まえるのじゃ
―かわいいウラガンキンがいるから狩ってくるのじゃ
やけに特徴的な語尾が気になるかもしれないが、そこはひとまず伏せて欲しい。
これだけでもその依頼主のぶっ壊れた精神を感じるだろうが、これだけで侮るようではいけない。
―寒いから金獅子ラージャンの毛皮で外套を作りたいからラージャンを狩るのじゃ
―帽子にするから眠鳥ヒプノックの尾羽をとってくるのじゃ
―寒くてやってられないからベリオロスと戦うのじゃ
……という、理由が滅茶苦茶な依頼は数知れず。数多く居る奇妙な依頼主の中でも、その破天荒っぷりはトップクラスに君臨するだろう。
上を目指す為にクエストをこなしていくハンターなら誰もが目にする、恐ろしい程の難易度を誇るクエストの数々。
―その鬼畜クエストの依頼主の名には必ず『わがままな第三王女』とだけ記してあるのだ。
「なんと……とうとう出よったか……」
慌しく移動する衛兵達の話を聞きつけ、眉間に皺を寄せる一人の男。
彼は白い髪に白いカイゼル髭を生やしている初老だが、その体は未だ老人という枠に収まらないほどに逞しい。
それもそのはず、このセバス=チャスゲン、今でこそ執事という職についているが、かつてはハンターを務めていた。
現に、頬に三本の爪痕を堂々と残しているワイルドな面構えをしているが、その身体には立派な執事服を着ている。
ではどこに仕えているのかというと……驚くなかれ、ここは王国、それも城のど真ん中だ。
オアシスを背に聳えるこの王国は『砂漠の大都市』と呼ばれ、数多くのキャラバンが行き来している為に貿易が盛んである。
彼はその王国に仕える、言わば『王宮専属ハンター兼執事』という大層な人物なのである。
最後に誰に仕えているのかといえば……いや、これは後にわかることなので、伏せておくとしよう。
「この情報が姫様に届けば、またワガママを申し出るに違い無い……!」
かつてはハンターとして多くの修羅場を体験し精神的にも逞しくなった彼だが、今はそれどころではない。
『ある情報』を聞いた途端、慌てて衛兵に守秘義務を与え、己が仕えている姫の下へと向かう。
それほどまでに事体は深刻であり、我が「姫」の性格上、興味を沸くような内容だったのだ。
情報が伝わっていないことを祈りつつ、セバスは静かな足取りで、しかし急ぎ足で「姫」の部屋へと向かう。
「時に爺よ、わが国に近い砂漠に、オニムシャザザミが出たそうじゃな?」
―時既に遅しとはこの事だと、セバスは深い溜息を吐きながら思った。
大人の男性ほどの大きさを持つプーギーのぬいぐるみや等身大アイルー人形などが飾られたファンシーな部屋。
王女に与えられた広い個室の中央に置かれたキングサイズベットの隣には、机と椅子が置かれており、声を上げた者はそこに座っていた。
学者向けの難しく分厚い本を広げている少女は席から立ち上がり、セバスと向き合った。
年齢は14歳だが小柄で、しかし太りすぎず痩せすぎずといった健康的な肉付きをしている。
メガネをかけているがこれは読書の為につけてあるだけで、実際の視力は2.0もあるという。
強気そうな青い目と広いデコ、そして金髪の縦ロールを一対垂らした髪型が特徴的な、典型的なお嬢様タイプ。ちなみにつるぺた。
―この少女こそ、ハンター達にとって悪名高いとされる、『わがままな第三王女』なのだ!
まぁ、それはともかくとして。
表は冷静を保っているが、内心はかなり焦っており、一筋の汗を額から垂らすセバス。溜息を零すのを懸命に堪え、まずは落ち着いた口調で王女に問う。
「失礼ですが、その話をどこでお聞きになられたのでしょうか?」
「なに、見張りの者がざわざわ騒いでおってな?つい耳にしてしまったのじゃ」
―給料削減を考えなければならんな。
姫の個室前には見張りが二名おり、その者達が騒いでいたのを聞いてしまったのだろう。
とりあえずその者達の制裁を考えるとして、今はこの姫の対処をどうにかせねば。
「で、どうなのじゃ?オニムシャザザミは出たのか?」
「左様でございます。現在は砂漠付近をうろついているだけで被害はございませんが……」
「爺よ、さっそくオニムシャザザミ討伐の依頼を発注するのじゃ!」
解かっていたとはいえ、ここまで単刀直入に言われるとさすがに感慨深いものを感じるセバスであった。
いつだって姫はワガママなのは知っていたが、相手の苦労を全く考えていないのだから恐ろしい。
しかも聞いた所によると、撃退したハンターの一人は、あの嵐龍の素材で出来た防具を纏っていたという。
そんな素晴らしい装備をつけた凄腕ハンターが4人もいて撃退がやっとだ。もし討伐して持って帰れと言われたら、どれだけの被害が出ることやら。
「何、心配するでない」
悩んでいたセバスを前に、王女は自分がするわけでもないのに自信満々に頷いてみせた。
「ハンターに任せておけば、万事解決なのじゃからな!」
―そう、これこそが、ある意味で王女の一番困った所なのだ。
王女は幼少の頃より、専属ハンター・セバスの昔話を聞いて育ってきた。
心踊るような冒険、モンスターとの激戦、仲間との出会いや別れ、突然の死、神秘溢れる古龍種の恐怖……。
経験豊富なセバスの昔話を誰よりも楽しみにしていたのは、他でもないこの第三王女だった。
だからこそ王女は、ハンターに憧れ、ハンターが強く誇り高い者だと知った。
同時に、ハンターは目的とクエストがあって、初めて狩りに出てモンスターと出会うものだとも教わった。
王女は無理難題な望みを発注してきた。ハンターならできると信じて。ハンターならどんなモンスターでも狩れると信じて。
結果的に依頼は達成されるのだから、余計にハンターへの信頼が高まってしまう。中には死んでしまった者も居るが、それが王女に伝わることは無い。
王女にとってハンターとは、依頼を必ず果たし、どんなモンスターにも打ち勝つヒーローなのだ。
そんな王女になってしまったからこそ、セバスは王女の執事に任命されてしまったのだ。
しかしセバスが王女の面倒を見るようになったからこそ、彼女は(若干)まともになったとも言える。
ワガママな彼女だが決して権力に頼ろうとはせず、己の力のみで我を通す高い行動力を持つ。
おかげで城内の誰からも気づかれずに街に向かい、今では「影のガキ大将」として子供達から慕われるほどだ。
そんな王女だからこそ、あえて渇を入れるのがセバスである。
「なりませんぞ姫!」
「な、なんでじゃ!?」
「オニムシャザザミは、下手をすれば古龍にも匹敵するという大物です。ハンターはよくてもギルドがそれを認めはいたしません」
「……秘密裏に」
「ネコート殿を困らせなさるな。相手が大物過ぎますぞ」
何せ彼女は、過去に「老山龍の全長を自分の手で測ってみたいから捕獲するよう依頼するのじゃ」と言ってのけた強者。
古龍種に捕獲は不可能だと知っているはずなのに、どうしてこんな依頼を申し付けたのか、セバスには解からず終いだった。知る必要もないが。
下手に出れば押し切られること間違い無しと、確固たる姿勢で挑まなければならない。
―と、思っていたのだが。
「……ぅ」
王女が目頭に涙を溜め、顔を真っ赤にして堪えている。
―い、いかん!!
セバスが宥めようとした……次の瞬間。
―――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
震動が城を揺らし、爆音が城内どころか城下町にすら響き渡り、城で飼っているモンスター達が跳ね上がる。
城下町の人々は一瞬だけ驚いた後、「ああ、また第三王女か」と納得して各々の仕事に戻った。
今もなお叫び声は轟き、城を軽いパニックで多い尽くしていた。
(くううぅぅぅ……お嬢様の泣き声は溜まりませぬ……!)
とっさにつけた耳栓で助かったものの、衝撃波によって壁に激突したセバスがよろついて立ち上がる。
そう、彼女が城内の者達から恐れられている最大の理由は、この泣き声である。
その泣き声は、かの『大咆哮』を放つ黒轟竜に匹敵するほどの音量を誇ると言われている。
この泣き声を聞いてしまえば最後、大半の従者は辞表届けを出すといわれ、逆にこれに耐え切ったものは絶大の信頼を寄せられ、彼女の侍女やセバスがそれに該当する。
とにかく、こうなった王女の前で取る行動はといえば、ただ一つ。
―バタン
とっとと部屋から出ておくに限る。
未だに城が彼女の咆哮によって揺れているが、流石に半壊まではしないので置いておくとしよう。
(さて、この後どうするべきですかな……)
ただでさえオニムシャザザミが襲来してくるかもしれないからと城が慌しいのに。
セバスは大音量の震動を体に受けながら、困ったように溜息を零して城内を歩き出す。
あの様子からして、泣き止んだとしてもまた脱走しかねない。ひとまずは精鋭を集め、姫の監視をさせておくとしよう……そう思い、セバスは頷く。
―そして翌日。
―またしても王女が脱走した。
―「オニムシャザザミを見に行く。心配するな」と手紙を残して……。
―完―
●当作品のわがまま第3王女
・執事からハンターのことを聞かされて育った為、ハンターに憧れている。
・わがままでハンターにクエストを依頼するのも、ハンターに高みを与える為もある(本人にとって)。