ハンター三人による壮絶なジャンケンの結果、敗北したハンターは……。
「これに狩ったら俺、クック先生に会いに行くんだー!」
「これに狩ったら私、ドドルと街中デートするんだー!」
「……マジで?」
かかってこいやオラー!と言わんばかりに武器を展開するクック馬鹿ップルこと、ドドルとミラージャ。
レウス装備のダリーは急遽そこらへんで雇ったネコタクに頼み、報告する為に王国へ向かって行った。ガッツポーズが印象的だった。
ジャンケンの結果とはいえ、趣味と思考が合う二人がこの場に残れたのは良い方なのだろう。この二人なら充分な力が発揮できるからだ。
覚悟完了した二人に対し、オニムシャザザミはゆっくりとマイペースで歩んでくる。
二人と一匹の距離は徐々に見える範囲にまで近づき、気づいていないかのように六つの大タル爆弾Gへと歩いてくる。
ミラージャは持っていた弓を構え、弦を引く。オニムシャザザミが爆弾のすぐ傍にまで近づいたら矢を放ち、発火させる予定だ。
爆発させたら王女はどうなるんだと思うだろうが、王女が現れた地点はヤドの上側……爆発範囲よりギリギリ外に位置している。
双眼鏡で見ていなかったとはいえ、視力の高いミラージャの見解もあってギリギリ爆発に巻き込まれないはずだ。振動は受けるだろうが……。
王女の安全を優先するよう頼まれた上に、オニムシャザザミ自身は大して危険だとは言えない。
なにせオアシスを目指しているだけだから、餌を使って王国を迂回させることだってできる。大量の餌を必要とするが。
ここはダリーだけでなく二人も撤退し、王国に報告するのが正しい判断なのだろう。
しかし、現在の王国は緊急事態に陥っている。国のお偉いさんはともかく、モンスターを碌に知らない国民は不安にしている者が多い。
いくら噂では大人しいオニムシャザザミとはいえ、モンスターには違い無く、街を破壊しかねない力があると聞けば怯えてしまう。
老山龍や砦蟹が山脈の間を闊歩していると聞くだけでも、いつこの国に襲ってくるかと人々は恐れ、その度に国が宥めて治めようとしている。
そんな人々を放っておけない。それがダリーを含めた、二人の心境だ。
おふざけが多く、趣味でイャンクックを狩猟したいと言い出す彼らだが、根っこは人を守る為に狩りの道を選んだハンター。
時には不安に怯える者達を安心させてやりたいという自己満足が彼らを動かすことだってある。
故に足止めを続行。しかし王女への被害を最小限に抑えるため、ベストな距離で誘爆させる必要があった。
ミラージャが弦を引き、オニムシャザザミがタル爆弾に近づくのを待っている。その前ではドドルがランスを構えており、彼女の盾となっている。
効果は薄いだろうが、流石に大タル爆弾Gを六つ同時に爆破すれば、怯むなりして撤退するかもしれない。
そしてオニムシャザザミが大タル爆弾Gに接近。気づいているのか気づいていないのか……恐らく後者だろう……足取りは変わらない。
オニムシャザザミの身体が巻き込まれ、王女がいるだろうヤドに爆発が及ばないような距離を見出すべく、ミラージャは瞬きもせずに睨みつける。
―そして、矢が放たれた直後、大爆発が山脈に響き渡った。
オニムシャザザミの甲殻は未だに強化され続けている。
突然変異によって得た特異体質は、食した鉱石を徐々に甲殻へと滲ませて混合させ、甲殻の硬度を上昇させている。
また、それを繰り返すことで甲殻が徐々に厚くなり、表面の古い甲殻を盛り上げて自動的にはがす役割もある。
そして良い鉱石を食せば食すほど、その鉱石を主成分にして混合を繰り返し、より良い甲殻を構成していくというトンでも仕様となっている。
もちろん旧火山で食したバサルモスの甲殻も反映されている為、甲殻はかなり強くなっている。
加えて鉱石以外にも様々な物を食べている。肉、虫、草、木の実、そしてキノコ……雑食性である彼は何でも喰らいつき、栄養としてきた。
つまり何が言いたいかというと……大タル爆弾G×6の爆発に耐え切ったのだ。
「嘘ぉっ!?」
「マジかよっ!?」
もしかしたらという予想を裏切った展開に、ミラージャとドドルは驚く他無い。
もちろん無傷というわけではない。甲殻の表面に数多の焼け跡や罅割れを起こした。
とはいっても、オニムシャザザミにとってのダメージは、生命の危機には至らないほどのもののようだ。
凄まじい威力を誇る爆弾を6つも浴びながら多少のヒビと焦げを残す程度というのだから、その高い防御性を物語る。
しかしオニムシャザザミにとって一番恐れたのは、爆発ではなく爆音である。
爆発による衝撃は音にも影響を与え、激しい振動と風圧が体中に響き渡り、恐怖心を植えつける。
では何故音で恐怖を覚えるのだろうか?その答えはモンスターにある。
この世には爆炎のようなブレスを吐くモンスターもおり、それを吐けるモンスターは大抵強者として君臨している。火竜などがその例だ。
よってオニムシャザザミにとって爆発とは強敵の出現に他ならない。甲殻にヒビが入った以上、危機感を抱くのも同然。
故にオニムシャザザミの取った行動は――――。
―ボコボコボコボコ……
地中に潜って逃げる、である。
「……逃げた?」
「かな……?」
一時は襲い掛かってくるのではないかと構えていた二人だったが、正直言って拍子抜けだった。
とはいえ、構えを解いて楽にしていいかといえばそうではない。もしかしたら地中から攻撃してくるかもしれない。
そう思って身構えたまま、周囲に気を配る三人。固いはずの地面に潜れるだけの力を持っている以上、油断ならない。
そう思って構えていた二人に、ゆっくりとした振動が襲い掛かる。
来るかと二人の距離を近づけて固まるが、揺れはすぐに収まったものの、揺れは後方へと向かっていく。
徐々に遠ざかっていく揺れを追うかのように後ろへと振り向き―――その理由を知る。
「地中を伝って王国に向かうつもり!?」
ミラージャの言うとおりだった。オニムシャザザミは地中を移動して困難をすり抜けようとしていたのだ。
ドドルが「しまった」と言ってオニムシャザザミの行く方角を……正しくは王国のある道へと見る。
「このまま地中潜行して行ったら、砦ごとすり抜けるんじゃねぇだろうな……!?」
砦蟹や老山龍に無く、鬼鉄蟹にある特徴―――それは地中を移動する能力。いくら山脈に立ちはだかる砦でも、地中深くまで防壁を張っているわけではない。
もしこのまま地中を移動しようとするならば、砦をも通り越して王国に向かいかねない。
―とりあえず、ミラージャとドドルがすることといえば。
「へい、ネコタクシー!」
ミラージャの呼びかけに、どこからともなく「ニャニャニャ~ン」と鳴いて、アイルー達が台車を牽いてやって来た。
「急いで砦に向かってくれ!ギャラは弾むぜ!」
台車に乗り込むドドルの発言を聞いて、目にゼニーコインを光らせるアイルー達。
こうして、二人のハンターを乗せたアイルーの台車は猛スピードで砦に向かうのだった。
一方、ヤドの中に居る第三王女とブッチャーはどうなったのかといえば。
「あいだだだ……」
「キィ~……」
気絶していた。
当然といえば当然だが、爆発の衝撃はヤドにもしっかりと届き、軽い少女と奇面族を浮かして頭をぶつけてしまったのだ。
やっと王女が目覚めて起き上がろうとするが、自慢のデコに大きなタンコブが出来て軽く涙が滲んでいた。微かに震えても居る。
けど泣かない。だってわらわは強い子だもん。今にも泣き出しそうなのを必死に抑えようとする少女であった。
で、ブッチャーはといえば……。
―王女のスカートに頭を突っ込んでいた。
「ど、どこに顔を突っ込んでおるのじゃ貴様ぁーっ!?」
―ガィンッ!
「ギッ!?」
とりあえずその辺にあった骨でブッチャーの頭を殴る、顔を真っ赤にした第三王女。
しかし頑丈なお面をつけたブッチャーには効果が薄く、逆に目を覚ますだけに終わった。
ちなみに目覚めたブッチャーが直後に見たものは「デフォルメしたアイルーの顔」だとか。
「しかし爆弾をも防ぐとは驚きじゃ!流石は噂の蟹野郎じゃのぉ!」
ペシペシと足元の床(頭蓋骨)を叩く、すっかり機嫌を直した王女。これでも褒めているらしい。
ずっとヤドの中に居る上に暗くなったので、ボコボコと掘る音は聞こえるも、外で何が起こっているのかは解らない。
今もなおオニムシャザザミは鋏と脚を上手く使って地中を潜行している為、外に出ようとも出られないのが現状だった。
ハンターはどうしたのだろうなーとか思うが、今となっては見えない。もしかしたら一戦交えて撤退したのかもしれない。
無事だと良いなーと思い、今は居ないハンター達に向けて手を振ったのだが、最後まで分からず終いだった。
まぁそれは良い、とヤドを登り、進路方向の先を見る。
あそこに見えるは王女が住まいし王国。やっとの思いで帰ることができたのだ。
―オニムシャザザミはきっとわらわを城へ送り返してくれるのじゃな!
そう信じて止まない王女はご機嫌だった。
そしてある事を思い出した王女は、傍らにいる奇面族の子を見やる。
「キー?」
どうしたんでヤンスか?と言わんばかりに王女を見上げるブッチャー。
いずれ別れが訪れると解かっていたが、いざ別れの時が近づくと思うと寂しさがこみ上げる。
本来の彼女なら、嫌がっていようとも「わらわのペットにしてやろう」とワガママを言って持って帰るだろう。
彼女はモンスターや城の者達になら無茶な事はできるが……友達には無茶を強いない主義なのだ。
「……お前ともお別れじゃな。短い間だが、楽しかったぞ」
「……キー……」
手を差し出す王女の寂しげな表情を見た時、全てを悟ったブッチャー。
顔が無いから表情こそないものの、悲しそうな声色を上げてから、差し出した手をキュっと握る。
―種を越えた友情が、いつまでも続くと信じて……。
この時、一人と一匹は忘れていた。
このオニムシャザザミが、なおも王国へ向けて脚を進めているということを。
しかし、王国には、ある切り札があった。
元ハンター執事ことセバスの知識と人脈を駆使し、ある二人組のハンターが雇われたのだ。
つい最近になって、鬼を楽土から追い返したという伝説のハンターを……。
―完―
次回、第三王女編、完結!……だと良いな(ぇ