ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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やっつけかんがあります。申し訳ありません(汗)
ぶっちゃけ年末を甘く見てました。する事いっぱいあるんですよー(涙)

とにかく、今年最後のヤオザミ成長記の更新です。決着つけただけでもほっとしてます。
ではでは、楽しんでもらえれば幸いです。

5/2:いまさらながら誤字修正


第26話「ハンターVS鬼鉄蟹、決着!」

 第三王女は興奮の連続だった。

 

「ガンバれー!ガンバるのじゃーハンター達ー!」

 

 自分が戦っているわけでもないのにジャブをしながら応援する第三王女は、普段以上に子供っぽく見える。

 王女がここまで熱中することはあまりない為、爺やことセバスはヘルムの下で微笑んでいた。

とはいえ、距離が空いているとはいえ危険には違い無い。

 何せ、巨大な甲殻種オニムシャザザミと二大ハンターとの激しい戦闘が繰り広げているのだから。

 

 砦の前で行われている戦いは、激戦と呼ぶに相応しいだろう。

 通常であればハンターは人数が多いほど有利になる。しかしこの戦いは人によっては足手まといでしかならない。

 巨乳を揺らすも無駄の無い動きでオニムシャザザミの一撃と脚の間を縫いながら、溜め込んだハンマーで殴りかかるアザナ。

 高い防御力と切れ味を保てる硬度が自慢の大剣で受けて流し、滑り込むようにして一撃を放つカリガ。

 そんな二人の攻撃を連続で受けても揺らぐことなく、次々と槌のような鋏を振り回すオニムシャザザミ。

 

 機動性と防御性という二極の戦い方でありながら、互いを邪魔することなくパワフルな一撃を確実に当ててくるハンター。

 その三つを持つ上に状態異常を宿す霧を噴出す事のできる、多彩かつ堅実な戦い方を見せるオニムシャザザミ。

 長年の経験を持つ元ハンター・セバスから見ても、熟練された動きと優れた身体能力を持つ事が解る。

 自分があの場に入ろうものなら、ブランクや歳の事もあって一撃死するのがオチだろう。それほど高次元なのだ。

 

「キー、キーキー!」

 

 ちなみにセバスは、観戦がてら、何故か王女の元に現れた子供のチャチャブーを相手にしている。

 このチャチャブーの被り物の防御力が高いことこの上なく、双剣では中々有効な一撃を与えられないのだ。

 

「爺!そのチャチャブーはわらわの子分なるぞ!相手にするのは良いが、殺しちゃ駄目なのじゃ!」

 

 しかも王女のこの言い様。どこでどう知り合ったのかは解らないが、王女はこのチャチャブーにご執心の様子。子分扱い云々は子供の発想だろう。

 獣人族とはいえ害があると区別しているだけマシではあろうが、こっそりチャチャブーの方を応援している辺り、微妙な気分になる。

 とにかくチャチャブーがぶん回す杖が地味に痛いので、双剣で相手をすることに。

 老人とはいえ、彼も立派なハンターには違い無い。チャチャブーと思って侮らず、ヒットアンドウェイで戦う。

 

 幸いなのは、あの二人と一匹の間に割り込まなかった事か……いや、このチャチャブーも割り込めないと解っているのかもしれない。

 

 

一方のアザナはといえば。

 

「ぐあっ!?」

 

 やはり楽土との戦いに比べると厳しく、その身にオニムシャザザミの一撃を喰らってしまった。

 鋏を盾のように構えて突進する攻撃は致命傷にはならずとも、正面からの攻撃を完全に防ぎ、ハンターを吹っ飛ばす程の威力がある。

 かの嵐龍の防具を纏っているからか、致命傷にはならずとも、砦の壁に背をぶつけるほどに飛び、骨を幾つかやられてしまう。

 

 しかし水を求めている上に先ほどの爆弾で珍しく気が立っているオニムシャザザミは容赦しない。

 すぐさま敵を見据えて鋏で叩きつけようとするオニムシャザザミを前に、痛みを堪えてアザナが走る。

 岩の壁を削るように粉砕するが、敵が居ないと解るとすぐさま方向転換し、見つけ次第彼女に向かって歩き出す。

 鋏を乱雑に振りながら走るその姿は、まるで癇癪を起こした子供のよう。かなり苛立っているのが解る。

 

 珍しく最初から本気を出しているオニムシャザザミに喜びを隠し切れないアザナだったが……だからこそ名残惜しいと思う。

 今回の依頼はあくまで防衛。温厚で餌があればそちらに引き寄せられるとはいえ、モンスターには違い無い。

 捜していた王女も見つかったことで、オニムシャザザミを王国から遠ざけることが優先だ。

 出来ることならもう一度本気で戦いたかったが、今の一撃を受けた以上、下手をすれば命を奪われてしまう。

 冷静にそう判断したアザナはハンマーを背負ってそのまま逃走。オニムシャザザミの矛先が逃げるアザナを捕らえ、追いかけてくる。

 

 これだけオニムシャザザミが怒りに任せて追いかけるのは珍しいが、絶好のチャンスだ。

 今のアザナは砦の壁に沿うようにして並走している。オニムシャザザミもそれに続いている。

 

 そしてオニムシャザザミはある場所を通り過ぎる。

 

 そう、この壁……つまり砦の正面には――――

 

「今だカリガ!」

 

「はいっ!」

 

 砦の上から聞こえる相棒(カリガ)の声と、遅れて轟く甲高い音。

 

―――砦の正面には、撃龍槍が実装されている!

 

 

―ガシャンっ!ガゴォンっ!

 

 

 パイルバンカーと呼ばれる技術が取り込まれた撃龍槍はオニムシャザザミの横を直撃。

 ハンターとしてクエストで何度か見たことがあるとはいえ、至近距離で観るとその威力と衝撃は凄まじい。

 だがそれよりも驚愕したのはオニムシャザザミを見てからだ。いくらなんでも撃龍槍なら……そう思っていた。

 

 撃龍槍はオニムシャザザミに突き刺さることなく、衝撃で遠くまで吹っ飛ばしただけだった。

 ひび割れこそはある。くっきりと杭で打ち込まれた痕もある。オニムシャザザミは倒れたままもがいているが……。

 それでも老山龍や砦蟹は深い傷を負い、下手をすれば深々と刺さることだってある。なのに吹き飛ばすとは。

 それだけ撃龍槍の威力の高さとオニムシャザザミの頑丈さが拮抗していたのだろう。ビリヤードの原理そのものだ。

 

 そしてオニムシャザザミが起き上がると、ガラガラと回転する撃龍槍を見て跳びあがり、一目散に逃げていったではないか。

 下手をすればディアブロス以上の攻撃力を持つ近代兵器だ。桁違いの威力を目の前にすれば逃げるのも当然だろう。

 逃げるオニムシャザザミの背を眺めていたら、横からトテチテと走る妙なチャチャブーを見かけた。

 ……あのチャチャブーはなんだろうと思ったが、放っておくことにしよう。

 

 アザナは正直助かったと思っている。オニムシャザザミの性質を考えれば、撃龍槍で倒せずとも、戦意を消失させ逃げるだろうと考えていた。

 今の一撃で逆ギレを起こし再び襲い掛かってくるのではないかという不安もあったが、予感が的中してよかった。

 

「アザナさん、ご無事ですか?」

 

 緊張が解けてへたり込んだ所へ降りてきたカリガがやってきた。

 

「無事ではない。肋骨を何本かやられた。これではハンター稼業がおろそかになる」

 

 本来なら骨折の激痛で苦悶の表情を浮かべるのだろうが、表情の硬いアザナは別だ。身体は痛がっているが。

 しかしカリガは、これはこれでラッキー、と思ってしまった。

 婚約して豊富な資金があるのに、アザナは一向に休養を取らなかったのだ。夫婦としての生活すら送っていないし。

 

「うむ!見事であったハンター達!というか凄かったのじゃー!」

 

 ふと響く幼い声に二人が振り向けば、そこは嬉しそうに、しかし偉そうにつるんとした胸を張る少女の姿が。

 後ろにはセバスがいるが、困ったように肩を竦めている。どうやらこのデコ娘が第三王女のようだ。

 

「かのオニムシャザザミと真っ向から戦うとは見事なものじゃ!褒美ならいくらでも」

 

 

―ごげんっ

 

 

 その小さな頭に、アザナの拳骨が落ちてきた。

 

「これは国王や国民、そして誰よりもお前を案じていたセバスを心配させた罰だ!王女とは言え子供が出ていい場所ではないんだ!まずは反省しろ!」

 

「アザナさん、気絶してるんで無理です」

 

 命を粗末にしないタイプのハンターであるアザナの怒りを前にカリガが止める。

 アザナが我に戻った頃には、頭から煙を上げて倒れる王女と、気遣って頭を擦るセバスの姿が。

 

 

 この後やってきたダリー・ドドル・ミラージャの見た光景は……。

 

 

「あ、ありのままに今起こった出来事を……」

 

「そのネタはもういい」

 

「けどコレって凄い光景よね、ある意味で」

 

 

 呆然としている三人の前では、涙目になった第三王女をガミガミと叱るアザナの姿が。

 横では「割り込めませんていうか割り込んだら死ぬ」と言わんばかりに縮こまっている男二人が。

 子供とはいえ王女を前に遠慮なくオカン属性を発揮し叱る様は『命知らずのアザナ』の噂に相応しい光景であった。

 

 

 とにかく、三人が思って言いたくなった言葉は一つ。

 

 

 

「「「ざまぁwww」」」

 

 

 

 彼らもまた、王女の鬼畜クエストの被害者だったのだ。

 

 

 

 その後は大騒ぎだった。

 一つは、オニムシャザザミを追い返してくれたハンター達を国中がお祝いして。

 一つは、第三王女が元気な姿で帰還した事で城中(特にセバス)が喜んだとして。

 そして一番の理由は、オニムシャザザミに襲われなくて良かったという安堵感だった。

 

 その日は国中を挙げて、ハンターを、そして帰還しお土産まで持ってきた王女を祝して祭を開いた。

 オニムシャザザミ用に残しておいた食料をパーッと使い、飲めや喰えや歌えやの大騒ぎとなった。

 ついでにアザナとカリガの結婚を公式に知った人々は、結婚祝いだと言って大勢の隠居ハンターが盛り上げた。

 もちろんクック大好きトリオも食いつき、それなりに交流があったこともあり、(二名の)質問攻めのオンパレードだった。

 有名なハンターが結婚したというのに、二人は大っぴらにしたくないと隠していたのだから、知らない者の方が多かったからだ。

 

 この日を境に、「アザナとカリガ、伝説ハンターコンビの電撃結婚」が広まったとか、広まらなかったとか。

 

 はっきりと言えることは二つある。

 一つは、アザナは負傷と恥ずかしさのあまり、しばらくクエストに出ることがなかったという。 

 もう一つは、第三王女がしばしの間、まるで嵐の後の静けさを物語るように大人しくなったという。

 王女は迷子中に負傷したのか、自慢のデコと頭頂部にでっかいタンコブができていたそうな。

 

 

 

 ちなみに騒ぎの原因であるオニムシャザザミは、現在は遠く離れ、行方知れずだという。

 哀愁漂う背中のヤドの頂部では、一匹のチャチャブーが寂しげに王国がある方角を見つめていたとか。

 

 

 

―完―




新属性「オカン」
主に子供を叱る女性に宿る不思議な説得力。効力はあの第三王女を大人しくさせた程。
迷惑なハンターに攻撃をぶつけると、報酬が減ることなくキャンプ送りにできる。

悪戯したり悪い事をした子供はしかってやるのが基本。アザナはそう考えてます。
生ぬるいと思うでしょうが、相手はあのアザナ。きびしーく叱りましたので、ご想像にお任せします(笑)

今年はハーメルンに投稿できてよかったと思います。
より高い評価や詳しい評価を頂けた上に、大勢の方々に読んで頂けたのですから。
皆さん、このヤオザミ成長記を読んでくれてありがとうございます。
もちろん来年からも続けるだけ続けていき、皆様に楽しんでもらえればと思います。

ではまた来年にお会いしましょう!良いお年を!

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