おめでとう!ヤオザミはブシザミに進化した!
嘘です、そんなモンスターいません、妄想です(汗)
今回、ヤオザミがユクモへ来てしまったかが明らかに。
10/31:文章修正(段落付けなど)
2014/9/29:今更ながら誤字修正
―時は昔。人々が新天地を目指して海を渡る頃。
まだ名は無く、後にユクモという名がつけられる予定の集落があった。
人々がひとまず安心して暮らせるようになり、新たな自然の恵みと脅威を知る為の周辺探索の拠点が築いていく。
そこには大勢の人々で賑わっており、様々な希望と野望を抱き海を越えて集ってきた。
人々の居住地を建てる者、探索部隊を組む者、新たな商売を試みる者、それらを纏め上げ指示する者。
海の向こうからやってきた彼らは、それぞれの思惑と想いを寄せて集落を築いていった。
中には遠い大陸から派遣されたハンターも混ざっており、今後の周辺探索に念を入れているのが解る。
とはいえ、ここより先は未だ未知の領域であることには違い無い。
何も調べていない食べ物を信用していいかと言えば、もちろん駄目だ。毒性があるかもしれない。
今後の探索で必要となるのは、生息しているモンスターの確認と、食料が確保できるか否かだ。
なので、しばらくは他の地域から送られてくる食料を頼りに生きていかなければならない。
今、集落に辿り着いた漁船から様々な魚介類や保存食が箱詰めになって運び出されている。
何人もの船員が船から大きな箱を持ち出し、集落の人々へと分け与えていた。
「これで最後だ……っと!」
今、1人の屈強な男が己の倍ほどもある箱を船から降ろす。
どすんっと音を立てて置かれる様子を見て、船長らしき髭を生やした男が頷いた。
「ご苦労さん!さっそく村の皆に届けないとな」
「船長!」
さっそく届けようと船員達に命令しようとした船長だが、そこへ別の船員が慌しく駆け寄ってきた。
何事かと船長はその船員の様子を見るが、まずは落ち着かせることを優先する。
「おう、そんなに慌てるんじゃねぇよ。で、どうした?」
普段は大人しく管理が得意な彼が慌てるほどだ。彼を知るからこそ、船長は冷静になってその報告を待った。
「船員からの報告なんですが、航海の途中、一匹の食用ヤオザミが逃げ出したみたいなんです」
食用ヤオザミとは、いわゆる養殖物のザザミである。
ザザミソを手軽に食べたいという村人が小さい頃のヤオザミを捕まえ飼育していたのが始まりで、それを養殖する事に成功し、今やある村の名物となった物だ。
食用として飼われたヤオザミは輸出物としても人気で、今回の集落にもそれらが届けられている。
しかし、食用とはいえ仮にもモンスター。逃したら酷い目に合う。それを逃がしたと聞いて船員は驚いただが、肝心の船長はと言えば。
「なんだそんなことか。それならもう知ってるぞ」
「あれ?ご存知だったんですか?」
あっけらかんとそう言った船長を前に、船員は思わず唖然としてしまった。
てっきり怒られるかと思っていたが、船長の事を考えれば当然かもしれない。
この船長は細かい事を気にせず、しかし船員の事は気にかけるという、良くも悪くも大柄な人だった。
「聞いた話じゃ、逃げたヤオザミは海に飛び込んだそうじゃねぇか。ヤオザミ一匹逃げたって大した事はねぇ。むしろ被害が出なかったから良しと思って放っておいたのよ」
「は、はぁ……」
本当に大柄な人である。船員はそう思わずにはいられなかった。
「なーに、海のど真ん中に落ちて無事な訳ねぇだろ。大型のモンスターに喰われるのがオチだぜ」
言うだけ言った船長は、んなことより運ぶぞ、と船員に怒鳴るように命令する。
思わず船員は慌てて荷物を運ぶが、それでいいのかなぁ、と呟いてしまう。
まぁ、船長の言うこともご尤もだ。
食用ヤオザミは小さいし、ここらの海には、海中での活動に適した「海竜種」なるモンスターも居る。気の毒だろうが、生き延びているはず無いだろう。
そう思った船員は、海を渡ってきた食料を心待ちにしている人々のために、せっせと働くのだった。
―ところがどっこい、ヤオザミはしっかりと生きていたりする。それも逞しく。
ヤオザミが漁船から逃げ出し、長い月日が流れた今になっても未だ成長を繰り返している。
孤島の豊かな自然に感謝すべきか、新たな環境に対応して生き抜いた彼を褒めるべきか。
とにかくこの鉛色のヤオザミ、立派に大きくなったものだ。
まだダイミョウザザミには至らないものの、今まで背負ってきた飛竜の頭蓋骨が小さく見えるほど大きい。
さしずめ、ブシザミとでも呼ぼうか。
―そのブシザミは今、とても困っていた。
彼が今いる所は、驚くべきことにリオレウスとリオレイアの巣であった。
飛竜の食べ残しであろう散乱した骨の山を、鋏で一つずつどかしながら、自分の身体に合うヤドを探していた。
……リオレウスに襲われないか?とっくの昔に諦めて獲物を探しにいった所だ。
彼の妻であるリオレイアも、ようやく生まれた我が子のお守りに忙しく、蟹を相手にしている所ではなかった。
彼らもドスジャギィと同じく、岩より硬く山より動かないブシザミを相手に諦めを知ってしまった。
この間の振り回し騒動もそうだったが、あれ以降、何度も挑んだが結果は惨敗。
年々鉱石を食らい硬くなったヤオザミは、自慢のサマーソルトやファイアブレスでも殺すには至らず、逃がしてばかり。
さらには重量までも増してしまい、体当たりをもってしても物ともしなくなってしまった。
もはやリオレウスからしてみれば、岩を相手にしているようなもの。
居ても食べ残しを食らうか骨を漁るだけなので大した被害もないし、子供達を襲うことも無い。
その結果、放置という無難な結論に至ったわけだ。
―
丁度良いサイズのヤドが見つからない―――ブシザミは久しい危機感を覚えた。
いくら鋼鉄の殻を手にしたとしても、大事な所を剥き出しにするようなことはできない。
それ以前に、ヤドを背負うという、本能と言う名の習慣を捨てきれるはずがなかった。
―さて、どうしたものか……。
巣を彷徨うブナバブラの羽音と火竜の子供達の鳴き声が響く中、ブシザミは硬直する。
だいぶ日が傾き、リオレウスが仕留めた獲物を巣へ持ち帰り家族そろってかぶりついていた頃になって。
―よし。こことは別の所へ行こう。
弱小の頃より命がけで生き延び、ついにチート級の硬さを身につけたこの孤島。そこからついに旅立つ決心がついたのである。
大きくもなった。強くもなった。ついでに毒も制するようになった。
最初の頃は脅威が少なかったからここに留まり生きてきたが、今では飛竜ですらなんとかできるぐらいにまで成長した。新天地を目指すなら今だ。
そう決心したブシザミは歩を進め、勢い良く崖から飛び降りた。
そんなブシザミの奇怪な様子を眺めていた飛竜夫婦は、やれやれやっと出て行ったか、と言わんばかりに軽く息を吐く。
子供達は遊び相手がいなくなって困るのかブシザミを止めるようにやかましく鳴くが、諦めて餌にありつくことにした。
余談だが、陰で見ていたジャギィの報告を聞いたドスジャギィが無駄に喜んだのは少し先の話。
さらに余談だが、このブシザミの急降下をモロに受けたロアルドロスが呆気なく絶命。
シャギィの群がリオレウスに次いで繁栄するようになるのは、遠いようで割と近い話。
―こうしてしばしの間、ヤオザミ改めブシザミの、新たなヤド探しの旅が始まるのだった。
―完―
次回、新たなフィールドを目指して蟹が旅立つ。
とりあえずロアルドロス君、ごめんなさい(汗)