ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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クエスト名:お昼寝モンスターズ

最近の話題で有名なオニムシャザザミってモンスターを知っているだろ?
そいつが樹海で見つかったって情報を手に入れたんだ!こいつぁ見逃せないぜ!
そいつからザザメタルを5コ採掘してきてくれ!残りは持っていって構わないさ!
エスピナスも見つかったって話だが……まぁ、起こさなけりゃ大丈夫だろうな。

依頼内容:ザザメタル5コ納品
依頼主:噂好きな商人
確認済モンスター:ひび割れたオニムシャザザミ・エスピナス


第30話「ガラダというハンター」

 唐突だが、ここでガラダという名のハンターについて紹介しておこう。

 彼は変わった経歴を持っており、ハンター歴は1~2年と浅いが、それ以前はある職人だった。

 ハンターになる前の彼は、なんと鍛冶職人として働いていたのだ。2~3年程度の雑用だったが。

 元鍛冶職人の彼が何故ハンターになっているのかといえば、それは彼の仕事先に起因している。

 

 彼は、ドントルマよりも遠く離れた山村に暮らしており、ドントルマに通ずる小さな鍛冶屋で働いていた。

 近隣に生息するモンスターの素材を加工して武器や防具を造る。他の鍛冶屋と全く変わりない仕事だった。

 しかし彼は、そこで働く父の後ろ姿と鍛冶屋の雰囲気に当てられ、見習いとして働くようになった。

 だが親方の竜人族は、厳しい・いかつい・恐ろしいの三種が揃った頑固親父で、ガラダの腕を認めることはなかった。

 幼少の頃より鍛冶の様子を見て来た彼の才能は若くしてそれなりにあったのだが、それでも親方は首を縦に振らない。

 

 しかしガラダは、親方の反応を当然だと理解し、さほどショックを受けることは無かった。

 一言で職人技と言っても、技量・経験・才能・勘……人間の技能の中で一つでも僅差があったのなら、それは大きく異なってくる。

 その技を己の物にする為に何よりも必要なのは、己を見極める事……ズバリ日々の繰り返しに他ならない。

 ガラダの父ですら、才能がありながらも親方から扱かれ続け、10年掛けてやっと弟子として働けるようになったと聞く。

 鍛冶屋職人とは、いわば長年の努力によってようやく道が切り開けるという難問。

 ハンターと鍛冶職人どちらが難しいかといわれれば、真っ先に後者を選ぶほどに難しいとされているのだ。

 

 そんな親方だが、ある日ガラダに試練を言い渡した。

 今日も鉄鉱石で刃を作れと言われるだろうと、ガラダは金槌を持って親方の前にやってきた。

 そして親方は、ごく当たり前のように彼に言うのである。

 

 

「今日からハンターやれ」

 

 

 この時のガラダの驚愕っぷりは、父曰く、幼少の頃に初めてドスファンゴに遭遇した時よりも驚いていたという。

 既にハンター登録を(本人が知らない内に勝手に)済ましたという、戸惑うことも断ることも質問することも許されない状況だった。

 親方から渡されたのは、ハンターの署名、親方の紹介状、それと親方から譲り受けたウォーハンマー……それだけ。

 

 

「なんか閃くまで帰ってくんな」

 

 

 その三つを持った彼は、親方に蹴られて外に放り出され、親方からそう言われたらしい。

 唖然とする彼を慰めたのは、彼の父と、ドントルマまで彼を連れていくという村長の息子さんだけだった。

 

 

 こうして彼は、親方を除く村人全員から見送られ、ハンターとして(強制的に)旅立ったという。

 

 

『親方は昔ハンターだったらしいが、モンスターの素材を見たら急に自分の防具が造りたくなって、その日から鍛冶屋になったそうだ。

 お前は体が頑丈だし運動も出来るからな。ハンターとしての素質を見出したから、あんなことをしたんだろうよ』

 

 ドントルマまで送ってくれた、村長の息子さんからの言葉が頭の中で木霊する。

 ガラダがハンターとしてドントルマに降り立った頃から今まで、彼と親方の言葉を忘れた覚えが無い。

 ガラダの村で親方を知らない人は居ない。小さな村だから当たり前だろうが、ドントルマでもその名は少なからずも知られている。

 彼の伝説も幾つか御伽話のように聞かされたことがあったが、だからといって何故自分がハンターとして出ることになったのか。

 小さな村で育った彼は都会であるドントルマはめまぐるしく、来たばかりのころは不良ハンターにも絡まれたりと、当初から散々な目にもあった。

 そんなガラダを救ってくれた上に今でも仲良くしてもらっている彼も、実は未だに慣れていなかったり……。

 

「おいガラダってば!」

 

「んだべっ!?」

 

 思考と回想という名の海に浸っていたガラダは、突如として脳に届くようになった声に思いっきり怯む。

 驚愕の後の空虚感によってようやく周囲が見えるようになったガラダは、改めて目の前を見る。

そこにはギザミUヘルムがドアップで映っており、それがバルテトだと解かると途端に萎縮してしまう。

 しかしバルデトは、ガラダと同い年だとは思えぬほどに、見て解かるほどにビビっていようとも遠慮はしない。

 

「んだべ、じゃねーよ!話聞けってのまったく!」

 

「すす、すまねぇべバルデトさ……」

 

「だからさん付けはよせって!」

 

 完全に萎縮していようが、バルテトは無遠慮にガラダの背を強めに叩く。

 これが苛めているわけではないのは互いに理解しており、決して仲が悪いわけでも上下関係があるわけでもない。

 これはバルテトにとっての激励であるし、ガラダが怖がりだということをバルテトは知っている。だからこそガラダは、これ以上謝ることを止め、話を続ける為に尋ねることにする。

 

「は、はいだべ……そ、それで、なんの話だったっぺか?」

 

「あのさ、お前ってどーしてそんなに気絶させんのが得意なんだ?」

 

 そういってバルテトが振り向くと、そこには、既にフィジクとラメイラに狩られたファンゴの姿があった。

 このファンゴはガラダのハンマー攻撃によって気絶し、そこへ二人がトドメを刺したことにより倒したものなのだが……。

 ハンマーの当て方が物凄く上手く、ピンポイントで脳震盪を起こし、スタンさせる。

 そんなガラダの動きを見て思ったことをバルテドが尋ねると、フィジクとラメイラも同意するかのように頷く。

 

「えっと……親方からの教えで『自分の打ちたい所を打てるようになれなきゃアカン』って教わったんス。だから、なんつーか、慣れてるっていうか……」

 

 ただでさえアイアンストライクという大きなハンマーを、慣れているという理由で的確に頭部を狙う。

 ちょこまかと動くランポスですら狙って出せるのだから凄いものだと、ガラダを除く三人は思う。

 

 だがしかし、彼の話には筋がある。ただ熱い鉄を叩けば良いというわけではない。まずは打つべき場所を見つけ、そこを的確な力で打つ。

 目と力を鍛えてきたからこそ、その技をハンマー使いとしての応用とすることができたのだ。

 確かに動き回る獲物の頭を狙うというのは大変だが、鍛冶をやり続けてきた忍耐力は諦めを知らず、執拗に狙う。

 ハンターとしての経験も生かされてきた頃合になると、避けながら頭を狙う、という芸当ができるようになってきた。

 

「つくづく、彼を仲間に入れることができてよかったと思うよ……」

 

「私も同意するわ」

 

 そんなガラダをスゲースゲーと言いながら背を叩くバルデトを見て、フィジクとラメイラはしみじみと呟く。

 何せ彼は今まで、背が低いだの、弱そうだからだのと言われて仲間外れにされてきたのだ。

 それがどうだ。彼は的確にスタンを狙うハンマー使いとして、ラメイラとフィジクにとって無くてはならない人材となっていた。

 

 ハンターは見た目で決まらない。同じ装備でも一見すれば上位なのかわからないし、実力だって測りきれない。

 人々が集うハンター界において、上級ハンターについてきて素材にありつく初心者ハンターだっている。

 故に、優れた装備=熟練ハンターとは限らない。何事も実際に見てみないと解からない、ということだろう。

 

 

「オレは?ねえオレは?」

 

「大丈夫よ、バルテト君も頼りにしているから」

 

「もちろん!任せときなよペチャパイ姉ちゃん!」

 

「ペチャパイ言うなあーーー!!」

 

 

 さて、話は戻すが、今回彼らの目指す相手は「ひび割れたオニムシャザザミ」だ。

 この呼称はそのままの意味で、ショウグンギザミ特異個体との戦闘で全身がひび割れていることを指す。

 すぐ下には新しい甲殻が再生しつつあるので問題は無いが、ハンター達にとっては棚から牡丹餅状態。

 商人達がこのひび割れから甲殻や鉱石を採取しようとクエストを依頼し、それをハンター達が受注する。

 いわば採取クエストに等しいのだが、お零れでオニムシャザザミの素材が手に入れられるのは美味しい。

 

 もちろんフィジク達も素材を求め、ここ樹海にてオニムシャザザミを探している。

 群がるランポス達を蹴散らしつつ探索を行った結果、ようやく見つけたのだが……ここからが問題だった。

 

「……寝てるな」

 

「……んだな、寝てるっぺな」

 

 あのバルテトですら静かに眺めている先には、二匹の大型モンスターの姿があった。

 

 身体中に鋭い棘を生やしている、古龍にすら打ち勝つといわれる飛竜種・エスピナス。

 覇竜の頭蓋骨を背負う、世界中に防御力の高さを知らしめている甲殻種・オニムシャザザミ。

 その二匹が仲良く並び、木陰の下でグウグウと暢気に眠っているのである。

 

 本来なら大型モンスター同士となれば縄張りを主張して争うものだが……この二匹なら話は別。

 エスピナスもオニムシャザザミも攻撃的ではなく、むしろ外敵が諦めるまで防御に努めるタイプだ。

 故に互いに敵と判断せず、このように並んで眠っている。並んでいるのは偶然であろうが。

 

 しかし、片方は丸まって、片方は無防備に鋏を下ろしどっしりと眠っている様子を見ると、とても強いモンスターには見えない。

 この様子だと、タル爆弾を爆破させても起きはしないだろう。何せ両者ともある意味で頑丈なモンスターなのだ。これには敵意が抜けても仕方ない。

 

 とはいえ、強いモンスターには違いないため、四人は慎重に観察を続け、頃合を見て近づく。

 この時はハンターとしての自覚もある為かバルテドも静かに移動を開始し、眠っている二匹に近づいていく。

 四人がまず棘竜に接近して間近で観測するが、エスピナスは起きる気配もなく、グーグーと寝込んでいる。

 一方のオニムシャザザミも、ひび割れた甲殻があるにも関わらず、プウプウと眠気泡(?)を吐き出して眠っている。

 

「なんか拍子抜けすんなこいつら見てっと」

 

「けど好都合だ。このまま採掘してしまおう」

 

 あまりにも堂々とした昼寝を前にバルテドが唖然とするが、フィジクはピッケルを片手に採掘を始めようとする。

 観察していた時はピッケルの音で起きないかとガラダが心配していたが、眠りが深いようだから大丈夫だろうと推測。

 フィジクがピッケルを振り落とし甲高い音を立てるが、それでも二匹は起きる気配が無い。

 

「どうやら読みが当たったようね」

 

「まずはザザメタルを五個採掘して、その後は皆で採掘しよっか」

 

 目覚めぬ巨体を見て改めてほっとするラメイラだが、フィジクは最初から気にしなかった様子。

 ゴオゴオというエスピナスの鼾をBGMに、ピッケルでひび割れを砕く音が樹海に響き渡る。

 

 

 

―だが、世の中そんなに甘くは無いようだ。

 

 

 

―キー、キーキー!

 

「……なんだっぺ?」

 

 交代でラメイラが採掘しようとした時、ガラダが辺りを見渡す。

 どこからか聞こえてくる声に耳を傾けて周囲を見渡すものの、中々見つからない。

 横で見つからないなら上か?とバルテドが大きな覇竜の頭蓋骨の頂上を見上げる。

 

 

―そこには、太陽の光を背に、キーキーと喚いている奇面族の影があった。

 

 

―そして、ここからがこのクエスト最大の難所であることを、四人は知らなかった。

 

 

―完―




ラメイラにはほとんど胸が……ウワナニヲスルヤメ(ry

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