ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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今回はバルバレへ行く為の準備です。私的【我らの団】メンバーが集結します!


第35話「我らの団」

―――【我らの団】と呼ばれる組織がある。

 

 こんな名前でも立派な正式名称で、組織というよりは殆どキャラバン隊として成り立っている。

 主にバルバレギルドが管轄している地域で活動しており、冒険心溢れる団長の下、屋台にもなる馬車で各地を旅している。

 彼らは団長と加工屋の竜人族を除き、時には大人数、時には少数と入れ替わりが激しかった。

 

 しかしある機会を境目に組織の人数は安定し、これまでよりも【我らの団】の知名度は格段に高まっていた。

 【我らの団】に一人のハンターが加入したことで、これまで謎に包まれていた『黒触竜』の生態と正体を突き止めたからである。

 最終的には、かの天空山の麓にあるシナト村の伝承に記された「天を廻る龍」を討伐したという華々しい戦果を挙げる結果となった。

 それらの切欠が、団長が【我らの団】を結成した理由の一つである『謎のアイテムの正体を探る事』だったのだから驚きだ。

 

 かくして、【我らの団】の名は広く伝わり、バルバレを中心に各地を回るキャラバン隊として有名になった。

 現在はハンターを含めた七名で構成されており、いずれも個性豊かでお人好しなメンバーとして慕われている。

 特にアイルーが多く、ルームサービスを含めて常時七匹、ある島にはもっと大勢のアイルー達が集まっているという。

 これはアイルーを愛するハンターによるものらしいが……少なくとも両の手では足りないほど居るらしい。

 

―――そんな彼らに、ある異常事態が起こる。

 

 

 その日、団長は古い友人に会うからと、旧大陸の端っこにある港に入港していた。

 暖かな日差しの下、鯨のような形状をしたイサナ船が波に静かに揺れ、その珍しい形状に港の人々が群がっている。

 そんなイサナ船には腹痛で寝込むハンターと船酔いで倒れているオトモしか残っておらず、甲板の上では勝手に入り込んだ子供達がはしゃぐ。

 砂浜に沿うようにして建てられた港は漁村も兼ねており、質素ながらも大きく発展し、多くの人々が行き交っていた。

 そんな人混みに紛れるようにして【我らの団】の各々は好き勝手に行動していた。

 

 加工屋の竜人族と土竜族の娘はこの大陸の加工法に興味を示して見学し。

 竜人問屋を営む老人は向こうの大陸でしか取れない貴重な鉱石を手に商売を始め。

 料理長である糸目のアイルーが腹を空かせたお客の為に中華鍋を豪快に振るい。

 【我らの団】の看板娘が資料を基に旧大陸のモンスターを独特的なイラストで描いている。

 そんな彼らを纏めるはずの団長はといえば、旧友と情報交換……という名目の自慢話をしていた。

 

 

 そんなほのぼのとした一日の夕飯時に……そいつはやってきた。

 

 

 事の切欠は料理長の屋台だった。

 夕飯時になったということで、片付けがあると言って先に船へ向かった竜人商人を除いたメンバーは食事にありつこうと屋台へと向かう。

 それぞれの成果を楽しそうに話し合う中、まずは加工屋の娘が、屋台に近づくにつれて異変に気づいた。

 

「あれー?なんか人が多くないー?」

 

「……やけに人が多いな」

 

 加工屋の娘の指摘に一同は不思議そうに店の様子を見て、加工屋は声を漏らす。

 確かに料理長の料理の腕前は凄いが、いくらなんでも店を囲む人混みは多すぎるし、何より食べに来たという雰囲気ではなかった。

 「スゲー」だの「なんだアイツは」だのと賞賛の声がほとんどだ。不思議に思った一同は、人混みの一番端にいる大男に声を掛ける。

 

「すまんが、一体何が起こってんだ?」

 

「おお、あんたら確かこの屋台のアイルーのお仲間だったよな?スンゲー事になってんだ、見てやれよ!」

 

 団長が声を掛けるや否や大男は興奮げに話し掛け、民衆も仲間が来たと知って彼らの為に道を明ける。 

 興味津々な女の子二人は我先にと走り出し、団長と加工屋はそれに続いて走り出す。

 

 その先には……。

 

「ガツガツムシャムシャバリバリモグモグンガンガ」

 

「よく食べるニャルねアンタ!こっちも負けられないニャルよ!」

 

 高速で大量の飯を調理する料理長と、高速で大量の飯に食らい付く奇面族がいた。

 料理長の調理スピードは前々から知っていたが、それを高速で飲み込む奇面族にも驚いた。

 

「……なんじゃこりゃ」

 

 これには陽気で大柄な団長も額に汗を滲まざるを得ない。ソレほどまでの光景だったからだ。

 

「うわー、なにこの子、なにこの子!?すっごい食べるね!」

 

「これはチャチャブーですよ!ほら、私の描いたイラストに似ているこの子ですよ!」

 

 自身の三倍もの大きさもある皿に盛られた焼き飯を掻っ込むチャチャブーを見てはしゃぐ女の子達。

 加工屋の娘が応援するようにはしゃぎ、看板娘は先ほど描いたという奇妙なイラストを見比べてはしゃぐ。

 そんな二人を無視し、チャチャブーは自身よりもデカイ海老をバリバリと噛み砕く。恐ろしいものである。

 

「あいさすまんね、通してくだせぇよ」

 

 そんな二人と二匹を見ていた団長と加工屋がある声を聞き取って振り向く。

 人混みの中から現れたのは、四匹のアイルーが担ぐ御輿に乗ってやってきた竜人商人だった。

 小柄な彼は足腰が弱く、こうして御輿などに乗っていることが多い。因みにアイルーへの駄賃は30分で300ゼニー。

 

「おお、問屋の爺さんか。この大食いチャチャブーなら今さっき見たばっかで何が何やら……」

 

「それも一大事やろうが、こっちはもっと一大事やわ!とにかくイサナ船に来なされ!」

 

 普段から笑ってばかりいる竜人商人こと問屋爺が他人を急かす。大食いチャチャブーほどではないが団長は驚いた。

 きゃあきゃあはしゃぐ女子二人と料理対決に燃える獣人族二匹を置いておき、団長は加工屋は運ばれる問屋爺の後に続くべく走る。

 

 

 この港は交流が盛んではあるが、最も栄えているのは漁業。それに伴い、村人の大半は漁に関する仕事をしている。

 この辺りはルドロスやエピオスなどは居れど、ロアルドロスやガノトトスといった大型モンスターは出没しない恵まれた海でもある。

 そんな海でも夜になれば視界の悪さと荒れ模様故に危険な為、漁は基本的に朝と昼に行われる。

 そして夕飯時になると魚を降ろし、各々の家に帰宅する。いわば夕飯時は、最も街に人が集中する時間帯なのだ。

 そんな夕飯時に大食いの奇面族がやってくれば人々の注目を集め、船や積荷を片付けた漁師達の大半も集まるというもの。

 故に、港に向かおうとしていたのは竜人商人ぐらいであり、その事実を知ったのも彼だけだったのだ。

 

 

その驚愕の事実とは――――

 

 

 彼らの船……イサナ船の甲板の上に陣取っているのは、一匹のモンスターだった。

 背には巨大な巻貝を背負っており、その巻貝の口は分厚く大きな鋏で閉ざされている。

 ガタガタと震えているそのモンスターは、ちらりと鋏の隙間から顔と触覚を覗かせ、注意深く周囲を見渡していた。

 土竜族が創り上げた頑丈なイサナ船は潰れることはないが、重みに耐え切れず浅瀬の水面ギリギリまで沈んでいる。

 

 大きな鋏。真っ赤な甲殻。長い触角。四本の脚。つぶら(?)な目。

 新大陸出身の為に「その種族」を見たことはないのだが、このモンスターの特徴を現すのなら……。

 

「……蟹だな」

 

「蟹じゃろ?」

 

「おお、こりゃデッカイ蟹だな!」

 

 一人陽気に笑うは団長。その大きな姿を見て豪快に笑う団長を前に、蟹……甲殻種は慌てて鋏で身を隠す。

 残る加工屋と問屋爺は珍しい光景に若干唖然としている。問屋爺はこれで二度目だが、未だ頭の整理が出来ていない様子。

 先ほどまで甲板の上ではしゃいでいた子供達は団長と加工屋の背後に隠れて様子を伺っていた。この子供達が問屋爺に知らせてくれたのだ。

 

 しかし団長は笑うのを止めて腕を組み、今度は困った顔を浮かべて唸る。

 

「しっかしまぁ、モンスターが俺達の船に陣取ってビクビクしてるたぁ、何事なのかね?」

 

 流石の団長でも、麻酔で眠っていない大型モンスターを目の前にするのは初めてだ。

 強さ故に自分からは襲わない飛竜種がいると聞いた事はあるが、ハンターでもない自分達がこうしている事自体が異例なのだろう。

 村の子供達ですら、最初はこのモンスターに驚いていたものの、動く気配がないからか恐怖よりも好奇心が勝って観察している程だ。

 経験豊富な団長と落ち着きのある加工屋ですら、イサナ船の甲板に居座っているモンスターをどうしようかと悩んでいる。

 

「まてよ……確か……ああー!そうやそうや!」

 

 問屋爺が唐突に声を上げ、二人の注意がそちらへと向く。

 

「なんだ、何か知っているのか問屋の爺さん?」

 

「思い出したわいな、こいつぁオニムシャザザミっちゅーやつや!」

 

 オニムシャザザミ―――問屋爺の言葉を聞いて二人はあることを思い出す。

 確か現在の新大陸では二~三匹しか確認されていないという甲殻種の内の一体……それも強大なモンスターと聞いた事がある。

 ハンターが加入してから今まで、陸海空を渡って冒険を繰り返した。その忙しさのあまり他の事が疎かになっていたようだ。

 

「わいら商人の間では結構有名なモンスターでな。元々新大陸出身っちゅーこともあって話には聞いておったが……」

 

 あくまで話に聞いていた程度でしか知らなかったモンスターを目の当たりにできるとは、と問屋爺は感慨深く頷く。

 商人同士のネットワークは大陸同士の間を無視する程に広い。儲けの為に情報交換するのも商人の知恵だ。

 故に問屋爺はその皺の数以上の、長い間旅をしていた団長と加工屋ですら凌ぐ情報量を保有している。

 団長と加工屋ですら知らなかったオニムシャザザミの情報が出てきたのもそのおかげだ。

 

 さらに、問屋爺がうんうん唸りながら記憶の引き出しを探った所、他にもわかった事がある。

 このオニムシャザザミは大型モンスターの中でも特に大人しい分類に入っていること。

 オニムシャザザミの素材は希少価値が高く、商人の間でもレアな素材として名高いこと。

 何故かオトモアイルーのように子供のチャチャブーが付き纏っていること。多分あの大食いチャチャブーの事だろう。

 そしてオニムシャザザミはここのところは旧大陸を歩き回っていたこと。

 【我らの団】が滞在しているこの港町は旧大陸の端っこにあり、この蟹とはたまたま遭遇したのだろう。

 

 

―まぁそれは兎も角。

 

 

「……で、この蟹はどうするんだ?」

 

 長年破天荒な行動を起こす団長と付き合ってきたおかげで見に付いた冷静さを持って加工屋が一言。

 ここに何故いるのかという理由は解った。次にするべきことは、この蟹をどうするべきなのか、だ。

 いくら大人しい分類とはいえ仮にも大型モンスター。迂闊に扱えば暴れてしまいかねない。

 村人の大半はアイルー対チャチャブーの大食い対決に夢中だし、今からどうこうすることは難しいだろう。

 

 なので、団長はこう応える。

 

「さぁな?」

 

 呆気なくそう答えた団長は、これまた楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

―ちなみに大食い対決の結果は。

 

 

 

「ゴェーップ」

 

 あれだけ食べておいて小山のように腹が膨れただけで済んだチャチャブーが倒れ。

 

「つ、疲れたニャル……もう動けんニャルよ……」

 

 豪快に調理器具を振るう料理長が筋肉痛を起こして悔しそうに倒れ。

 

―カンカンカンカーン。

 

「はーい勝負は引き分けですよー!」

 

 加工屋の娘がゴングを鳴らし、看板娘が試合終了を告げた。

 賭けをしていた民衆の大半は悔しそうに嘆くが、それでも二匹の健闘を称えて拍手を送るのだった。

 

 

 

―完―




ちなみに【我らの団】のハンターが倒れた理由は食当りです。何を食ったのかは内緒。オトモは言わずもがな。

ここで一つ言っておきたい事があります―――いつも沢山の感想ありがとうございます!励みになります。

……今更な気がして今まで言えなかったんです、すみません(恥

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