ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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MH4の世界観に入ってから大まかな道筋は浮かんだのですが、書くのに時間がかかります。
次回からは本編やデルシオンのこともあり、更新は二週間に一度になります。申し訳ありません。


第37話「鬼VS鬼」

 バルバレが管理する地方にも多くのフィールドがあるが、その中に地底洞窟と地底火山という二つのフィールドがある。

 これは火山活動によって生まれた洞窟であり、場所は統一されているものの、火山の活性によって二つの顔を見せるのだ。

 火山活動が静かならばアプトノスやケルビが住まう程に穏やかな環境となり、逆に活発ならば降りるほどマグマが溢れていく。

 しかし基本的には薄暗い洞窟に変わりなく、大半のエリアには影蜘蛛(かげぐも)ネルスキュラの巣が広がっている。もっとも、火山が活性化すると居なくなるのだが。

 

 火山が活性化する時期は厳しい環境となり、それに適応できる強大なモンスターが多数生息するようになるのだが、今はそうではない。

 この時期は安定期に入っているらしく、洞窟は光蟲や雷光虫による神秘的な灯りが灯され、静かな時が流れている。

 それでも大型モンスターが生息していることには変わりなく、危険には違い無い。

 

 

 そんな今の地底洞窟には、鬼蛙(おにがえる)テツカブラが生息していた。

 

 

 両生種に俗するモンスター、テツカブラ。その厳つい顔と巨大な二対の牙から「鬼蛙」の二つ名を持つ。

 このモンスターの解りやすい特徴を挙げるなら「巨大な口と顎」だろうか。

 動くものなら何でも獲物だと認識して襲い掛かる習性は、テツカブラの旺盛な食欲と獰猛さを物語っている。

 食欲と獰猛さといえば、バルバレでも確認されている凶悪な獣竜種、恐暴竜イビルジョーにも当てはまるだろう。

 しかし、イビルジョーは生態系を狂わすほどの食欲と凶暴さを秘めている。テツカブラ程度では比較の対象にすらならない。

 そんなテツカブラが誇るのが、自身の身体並みに巨大な口と、岩をも噛み砕く大顎である。

 

 巨大な口はジャギィをも丸呑みにし、顎は自分と同じ大きさの岩をも噛み砕き、下顎から伸びる巨大な牙は岩盤をも抉る。

 世界広しと言えど、テツカブラのように不釣合いな程に巨大な口を持つモンスターはさほど居ないだろう。

 そんな大顎を違和感無く発揮するパワーは、若きハンター達を苦しめること間違いなしだ。

 動きが単調ではある為に避けやすいが、その分威力は凄まじく、鬼の二つ名は伊達ではないことが解る。

 

 そのテツカブラは今、寝床であるエリア9に移動していた。

 先ほどアプトノスを喰ったばかりらしく、口元は血と残りカスで汚れ、満腹なのか汚らしいゲップをする。

 彼の他にゲリョスという競争相手がいるのだが、餌の違いと猛毒故か、今のところ衝突することはない。

 また、このテツカブラは上位クラスの実力を持つらしく、牙はより雄雄しく伸び、鱗は歴戦の傷を数多く負っていた。

 その堂々さたるや、ゲネポス達は道を開けるかのように逃げ出し、クンチュウは其の場で丸まって身を守る程。

 幸いな事に今のテツカブラは満腹な為、動いていたとしても小型モンスターは獲物と捉えてはいないようだ。

 

 

 揚々と寝床へと向かう途中、テツカブラはある物を発見する。

 それは赤と白に分かれた、ゲリョスともネルスキュラとも違う奇妙な姿をしていた。

 しかしそれはゲリョスやネルスキュラ、そしてテツカブラよりも大きく、怯える気配もなくゆったりと歩いていた。

 それがテツカブラの癪に障ったのか、テツカブラは後ろ脚に力を込め、四肢を使ってドタドタと走り出す。

 崖ですら跳躍し飛び越える脚力を生かした突進は類を見ない速度を誇り、さほど時間を掛けず獲物へと接近していく。

 

 

―だが、その本質故の直進がいけなかった。

 

 

―ドグシャッ!

 

 

 今、テツカブラの頭角に痛撃と衝撃が走った。

 横から割り込んできた衝撃は強烈な打撃となってテツカブラを襲い、推進力を上書きする程の力により吹っ飛ぶ。

 耐久性に優れるはずの厳つい頭骨が粉砕寸前に陥ったことでテツカブラは痛みに悶え、誤魔化そうとジタバタ暴れ出す。

 

 だが、敵に容赦という言葉は無かったようだ。

 

―ドゴ、ゴガ、グシャ、バギ

 

 まさに滅多打ちというべきか。

 跳躍しながら暴れているというのに、その一撃は着実に命中し、確実にテツカブラの命を陥れんとしている。

 肉厚な身体と硬質の鱗、それらを支える強硬な骨が、その攻撃を前に粉砕という末路を向かえる事となる。

 それでも、今もなおテツカブラを殴り続ける影は容赦しない。息絶えたと解るまで殴打し続ける。

 

 鬼の名を冠する蛙を殴り殺そうとする正体は……鬼の名を冠する蟹であった。

 

 鬼鉄蟹(キテツガニ)オニムシャザザミ。彼は海を越え、旧大陸からこの地に脚を運んだのだ。

 背には別のテツカブラの死体から拝借した頭蓋骨を纏っており、雄雄しく伸びる牙と厳つい頭蓋骨が鬼の名を助長している。

 

 そんなオニムシャザザミは、体中から黒いオーラのようなものが溢れ出ており、全身の甲殻を赤黒く染めていた。

 それは頭蓋骨からも漏れており、身体から出すそれとは違い濃厚な黒い液体を溢れ出ている様は、まるで鬼が嘔吐しているよう。

 その様は呪われているかのようであり、事実オニムシャザザミはかつての温厚さを失い、狂ったように攻撃的になっていた。

 

 

 故にテツカブラを殴り続けるという奇行に出たのだが……そのテツカブラにも異変が訪れる。

 

 

 黒いオーラは両の鋏に入っているヒビからも溢れ出ており、それがテツカブラに降り注いだらしい。

 殴られ続けている最中にも黒いオーラを浴びたテツカブラは、やがて静かになり、急に動かなくなる。

 一見すると息絶えたようにも見えた為、オニムシャザザミの動きが緩まったのだが……その直後。

 

―ゴアアアアアア!

 

 テツカブラが突如として咆哮を轟かせ、大きく跳躍。オニムシャザザミが即座に振り下ろした鋏は虚しく地面を突くだけに終わった。

 オニムシャザザミは即座に突き刺さった鋏を向いて反転。後方では着地したテツカブラが身構えており、その異質な姿を目撃する。

 

 全身に紫を混ぜたかのようなドス黒い色に染まり、目を真っ赤に光らせるという、恐怖心を掻き立てるような姿だった。

 先ほどまで分厚い鋏に殴られた箇所が見受けられるが、テツカブラはそれを気にしていないかのように四肢に力を込めている。

 互いに向き合う中、テツカブラは大きく口を開け、禍々しさを交えた咆哮を轟かせる。

 

 狂気が入り乱れる鬼の咆哮を前に、オニムシャザザミは怯むことなく、むしろ両の鋏を広げて威嚇の姿勢を見せる。

 ガツン、ガツンと鋏同士を打ち鳴らす様は、まるで売られた喧嘩を買って滾る不良のようだ。

 

 その滾りはオニムシャザザミだけではなく、頭蓋骨からピョコンと跳び出た「ソイツ」も同じだった。

 頭蓋骨の頂上に立つのは、このバルバレ地方には存在しない奇面族、チャチャブーの子だ。

 オニムシャザザミと共にやって来たチャチャブーにはブッチャーという名があり、鳥兜風の仮面を被っている。

 当然というべきかブッチャーからも黒いオーラのような物が溢れ出ており、我武者羅に杖を振り回して攻撃性を示していた。

 

 黒に汚染された三匹が攻撃の姿勢を見せた後、互いに突撃。

 テツカブラは巨大な口を開いて突進し、オニムシャザザミは両の鋏を広げゆっくりと前進し、やがて激突する。

 オニムシャザザミの鋏は頑丈な牙を押さえ、テツカブラは押さえられながらも前へと押す。

 硬直状態であることを良い事にブッチャーは頭蓋骨からテツカブラの頭へと跳び移り、杖でボカスカと殴る……が、効果はいまひとつのようだ。

 

 

 大人しいとされていたオニムシャザザミがここまで凶暴化した理由は、体中から溢れている黒いオーラ―――狂竜ウィルスにある。

 狂竜ウィルス……感染したモンスターを狂わせ凶暴化させる、未だハッキリと解明されていない謎の物質だ。

 その謎の物質の根源がどこから来ているのかは解っている。

 

 

 ゴア・マガラ……別名「黒蝕竜」。その存在は近年になって明らかになったが、今もなお謎が多い。

 そのゴア・マガラはなんの因果か、地底洞窟に姿を現していた。

 

 

 

 鬼と鬼の戦いを観戦するかのように、崖の上で濃密な黒い鱗粉を撒き散らしながら。

 

 

 

―完―




このゴア・マガラはゲーム本編に出てくるものとは別物です。
ゲーム内のストーリーに出てくるゴアとシャガルは【我らの団】のハンターが討伐したという設定です。

鬼VS鬼が書きたかった。テツカブラもお気に入りなので(笑)
オニムシャザザミが狂竜化した経緯は次回に書きます。

アイルーは発症しないのにブッチャーが狂竜化した理由→おつむが悪いんです(謎)

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