ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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オニムシャザザミが野生を取り戻した頃、バルバレギルドはどうするのか。

モンハンデルシオンの投稿が遅れます、スミマセン(汗)
最近はどうやってデルシオンの物語を書こうかと悩んでそのまま遅延してしまうという本末転倒(汗)
本日中には投稿する予定です。

7/6:誤字修正。ご報告ありがとうございました!
2015/1/8:今更ながら誤字修正。ずっと操虫「棍」ではなく操虫「昆」と書いてました。


第45話「その頃バルバレでは」

 巨大な船のような集会場を、商人やハンターといったキャラバンが集うことで形成された市場「バルバレ」。

 『地図に載らない町』とも言われてはいるが、そこは大勢の人々で賑わっており、日々世界各地の情報が入り乱れている。

 そんなバルバレには多くの個性的な人物がいるが、今バルバレ中の人々の注目を集めている1人の男が居た。

 

師匠(シショー)ー!師匠(シショー)ー!」

 

 ランポスシリーズで身を包んだ若い青年が「師匠」と何度も叫びながら、岩竜バサルモスの翼を頭上に持ち上げながら走っている。これほど目立つ人物は居ないだろう。

 まぁハンターの大抵は大きな素材を背負っている事が多いので素材を持ち上げるという事自体は珍しいことではない。その青年が大声でワイワイ騒ぐから目立つのだ。

 

 そんな歳若い青年を迎える人が居た。ウェスタンハットが似合うダンディな男・【我らの団】団長である。

 青年は団長の姿を確認するとそちらへと向かい、素材を持ち上げたままペコリと頭を下げて会釈する。

 

「団長!ただいま帰りましたー!」

 

「よう新米ハンター!探索お疲れさん!」

 

「いつまでも新米って言わないで、せめてビスカって呼んでください!」

 

「わっはっは!お前さんはまだまだ新米さんだよ!」

 

 どうやら青年は礼儀を心得ているようだが、団長と同じく声がデカかった。まぁバルバレは多くの人で賑わう為、このぐらいが丁度良いのだろう。

 ランポスヘルムを脱ぎ捨て、健康的な褐色の肌に日に焼けた金髪、そして赤い目を持つ顔を露にさせた青年ビスカは、団長を後にして他のメンバーへと挨拶に回る。

 無口な加工屋に挨拶を交わし、妹のような加工屋の娘に「小さなかけら」を土産として渡し、看板娘にハイタッチをし、料理長にいつもの感謝を述べ、商人に「ありがと300万Z!」と言って笑い合う。

 元気そのものが青年となったようなビスカは、一番報告したい人に会う為にキャラバンへと走る。岩竜の翼を持ち上げたまま。

 

 

 

―――

 

師匠(シショー)!ただいま帰りました!」

 

「おう、よう帰った。それとワシは師匠じゃない」

 

 【我らの団】キャラバンの一つであるハンターとアイルー用の個室。そこにビスカの言う「師匠」は居座っていた。

 操虫棍「シャドウウォーカー」の刃をカブトムシのような猟虫をつけた右手に持つ砥石で磨く、白髪と引き締まった筋肉が目立つ初老の男性。【我らの団】のハンター・ジグエである。

 ハンターというよりも武士の印象を持たせるジグエは厳格な雰囲気を漂わせており、視線を変えることなく刃と砥石に集中している。

 その隣ではジグエと同じ姿勢でブレイブネコランスを布で磨いているオトモアイルー・トラの姿もある。無言だが、こちらは一生懸命磨いている、といった感じだ。

 

「見てくださいよ師匠(シショー)!初のバサルモス討伐で翼を剝ぎ取れたんです!」

 

「なぬ!?ワシが四匹目でやっと手に入れたそれを初回か!?羨ましいぞド畜生!」

 

 さっきの厳格な雰囲気はどこへ行ったのやら、自慢げに翼を掲げるビスカに掴みかかり悔しい悔しいと連呼する爺がそこにいた。

 元気と厳格さを併せ持つこの老人こそ、現【我らの団】結成のキッカケとなり、若きハンターを育成する役目を任されている【我らの団】主力ハンターなのである。

 

 

 

―――

 

「ふう……」

 

「どうしたニャ、溜息ついて」

 

 遠くで看板娘に岩竜の翼を見せつけ自慢するビスカを見つめているジグエに、トラは問うた。

 武器磨きを終えスッキリとした表情を浮かべるトラの顔を見たジグエは、ふむ、と呟いて己の白い顎鬚を擦る。

 

「……ワシも歳だと思ってな」

 

 このジグエの一声に、トラは全身の毛が逆立つほどに驚いた。

 

「ニャニャ!いつも『まだまだ若いもんには負けん』と言っていたお前さんがかニャ!?」

 

 トラとジグエの付き合いは長い。大した年月は経ってはないがお互い解り合っている。

 ジグエは老いてもなお夢を抱いて生きてきた。妻を病で亡くし、娘が遠くへ嫁に行った頃になって、ハンターになろうと決心し、旅立ったほどだ。

 その冒険心と歳に似合わぬ体力と気力に目を付けた団長にスカウトされ、現在は腕利きのハンターとして、そして【我らの団】の主力として誇られている。

 

 しかしジグエは思う。

 

「気持ちはな。しかし体力がの……」

 

 そう、気持ちは若いつもりでいても、歳を重ねるにつれて衰える体力は現実味を帯びてきた。

 もちろん、上位クエストを受注すれば依頼を達成し無事に帰還する自信はある。僅かハンター歴1~2年でありながら、多くのクエストをこなしてきた経験は伊達ではない。

 しかしここの所息が上がることが多くなり、しんどいと思うようになってきた。疲労の蓄積かといえばそうではないと知り、自分も歳をとったと自覚するようになったのだ。

 今でもハンターとして働いてはいるが、ビスカという新人を育成する立場もあり、ハンターとしての仕事の数も減ってきたといえる。

 

 溜息を吐くジグエだが、ふと聞こえた足音に視線を移す。そこには部屋に入ってきた団長の姿があった。

 

「まぁ歳云々はともかく、気持ちがあればそれで充分だろうさ!」

 

「おお、団長。お前さんは体力があっていいのぉ」

 

「はっはっは!俺なんかよりハンターさんの方がタフだろうさ!ハンターっていう仕事が疲れるだけの話さ!」

 

 冒険心が強いことと一番歳が近いことが幸いして、出会って早々に仲良くなった二人。

 ジグエには落ち込む姿は似合わないからと元気付けようとする団長に、ジグエはカッカッカっと短く笑う。

 

「物は言い様じゃな」

 

 カッカッカ、とジグエが笑うが、すぐに止める。

 

「……して、ワシに何の用じゃ?」

 

「シャガルマガラが例の場所に現れたそうだ」

 

 唐突に真面目な顔をする二人の間柄を前に、トラは唾を飲んで話を伺う。メインオトモとして話を聞くべきだろうと。

 そして理解した。『例の場所』とは、トラとジグエにとって最大の敵と戦った場所。そこに最大の敵が再び訪れたことに。

 

「お前さんも聞いているだろうが、ここ最近は天空山を中心に狂竜化したモンスターが多数発見されている」

 

 ジグエは黙って頷いた。査定の意味を込めて。

 

 最近は表に出ることが少なくなったとはいえ、ジグエも名の知れたハンターだ。同業者の仲間や教え子であるビスカから嫌というほど話を聞いている。

 特に原生林で起こったといわれる大爆発事件は、元を正せばゴア・マガラを含めた大型モンスターがぶつかりあったのが原因だと聞く。大方、広範囲に散った狂竜ウィルスにゲリョスの火花が散って粉塵爆発したのだろう。

 そのゴア・マガラが各地を点々としており、最後に姿を目撃したのが天空山。間違いなくそのシャガルマガラは、徘徊していたゴア・マガラが進化したものだ。

 

「しかも厄介なことに、俺らが逃がした蟹さんもそこで大暴れしているんだそうだ」

 

「……蟹というと、オニムシャザザミのことか?」

 

 運の悪いことに変な物(ジグエもビスカも頑なに話そうとしない)を食って腹を壊したあの三日間。その日に現れたというのが蟹ことオニムシャザザミ。

 団長や看板娘から聞いてはいたが、ギルドマスターから旧大陸とユクモ地方で有名なモンスターだと聞いた時は驚いたものだ。

 噂では高い防御力を誇っており、その甲殻は市場で高く取引されているのだとか。基本的に大人しい事もあり、ギルドは撃退だけに留めるよう世間に警告している。

 

「そうだ。あいつが天空山を陣取っていて、並のハンターじゃ立ち入りですら出来ない状況になっていんのさ」

 

 ハンターズギルドが注目しているほどの大物だ。確かに並のハンターでは太刀打ちもできないだろう。

 さらに聞いた話ではあるが、オニムシャザザミも狂竜ウィルスに感染しており、凶暴性が大きく向上して非常に危険だとも聞いた。

 幸いなのは、オニムシャザザミが殆どの大型モンスターを縄張りの侵入者と見て攻撃を加えている為、シナト村に大きな被害が出ていないことか。

 

「そんな時にシャガルマガラが出てくるとはの……しかしワシよりも強いハンターが他にもおるじゃろうが」

 

「それがな、殆どのハンターは蟹退治に出かけちまっているんだと。しかも大抵は大怪我して帰ってくるそうだ……死者も出ている」

 

 高く売れる甲殻を纏うモンスターは、欲に目の眩んだハンターにとっては格好の獲物。そしてハンターは欲が強い者が多い。

 それだけならまだいい。怪我を負おうが自己責任である為にかまわないのだが、死傷者が出ているとなればギルドも黙ってはいない。

 とにかくオニムシャザザミを狂わせているであろうウィルスの根源、シャガルマガラを討ち取る必要がある。狂竜化して困るのは決してオニムシャザザミだけではないのだ。

 

「とにかく確実にシャガルマガラを打ち倒せるハンターが欲しいと、ギルドマスターから伝言を頼まれてな……頼めるかい?」

 

 団長もギルドマスターも、ジグエが年老いておりながらハンターとしては若輩者であることは理解している。

 しかしジグエは仮にも、シャガルマガラを討ち取ることが出来た男だ。シャガルマガラを討ち取った事のあるハンターは今のところジグエしかいない。だからこそ確実性を求めて頼むのだ。

 

「あい解った」

 

 そういうとジグエは傍らにあった操虫棍を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。

 トラもその後に続くようにしてランスを持ち、胸を張る。……愛くるしさゆえに「ドヤッ」としているようにしか見えないのが悲しい所か。

 

「トラ、お前さんも来てくれるな?」

 

「当然ニャ」

 

 そう頷いたトラの顔は凛々しかったが、後ろ脚がカタカタ震えていたので台無しだ。

 それを指摘しケラケラと笑うアイルー達を怒鳴るトラだが、図星を突かれた彼は滑稽でしかない。

 そんなトラと愛するアイルー達をみて微笑んだ後、ジグエはカツンと昆の柄で床を突く。団長は静かにそれを見つめていた。

 

「さて……老いぼれ最期のクエストにならんようにせなな」

 

 ゴキゴキと首と肩を鳴らし、ジグエは真剣な眼差しで操虫昆の刃を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「その前にギルドに相談じゃな」

 

「何のだい?」

 

「最悪な事態は予想しておった方が良いからの」

 

 

 

―ジグエが申し出る『最悪な事態』が的中することになることを、この時は知らない。

 

 

 

―完―




ジグエとビスカが腹を下すほどの食べ物の名を言わないのは、他人への思いやりが成す技です。

ちなみに当作品ではシャガル・マガラが討伐されたのはモンハン4主人公だけ、という設定です。
時が経てばシャガルを討ち取るハンターが増える見込みです。
そもそもラスボス級の古龍種がそうホイホイ出たらたまらないですよね(苦笑)

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