2015/1/8:誤字修正
シャガルマガラ討伐。このクエスト名だけでは、いかに難易度が高いかを知るには足りなさすぎるだろう。
何せ、鉄壁と名高いオニムシャザザミが狂竜ウィルス渦巻く天空山に闊歩している中、上位種のシャガルマガラを狩らなければならないのだから。
オニムシャザザミの対応の為にバルバレも多くのハンターを集わせたが、結果は全て惨敗。高い防御力に加え、ウィルスにより凶暴化しているから仕方ない。
もしシャガルマガラ一筋で狩りを行おうにも、気まぐれでオニムシャザザミが禁足地に脚を運んだらひとたまりもないだろう。
よってシャガルマガラ討伐に選ばれたハンター・ジグエはギルドに提案した。
同時狩猟も考えて、別件のオニムシャザザミ討伐に呼んだ3人のハンターと共闘させて欲しいと。
オニムシャザザミに詳しいとされる3人のハンターと同行することで、少しでも情報を得ておきたいとのこと。
さらに、上位シャガルマガラとオニムシャザザミを同時に相手にするのは4人でも厳しいが、4人もいれば生存率は上がるだろうと判断したからだ。
バルバレギルドはそれを承認した。討伐を優先したいとは言え、逸材のハンターをこれ以上失うわけにはいかないからだ。
3人のハンターは旧大陸出身で実力も高く、オニムシャザザミにも(ある程度)詳しいハンターとして、貴重な人材として扱っている。
本来ならユクモ地域で名を馳せている2人組に頼みたかったのだが、夫婦の事情を聞いて断念。おめでたとかなんとか。
そして討伐当日。天空山上空に分厚い暗雲が立ち込める中、彼らは各々のクエストを果たしに出発する。
―――
その日。2人は唐突に熱く語りだした。
「普通はこんなクエストを受注しろと頼まれたら断っていただろうが……敢えて言おう!受けざるを得ないと!」
「このクエストをクリアした暁には、私達は晴れてG級の仲間入りになるからよ!そして何より!」
「「G級クエストではクック先生が未知の樹海以外で目撃できると聞いて!」」
「……別にクック先生に会うんなら未知の樹海でもいいと思うんだが」
「「だってあそこはお邪魔虫が多いんだもん!」」
暗雲と雷鳴が轟く天空山でも夏の真昼のように明るくテンションの高い2人を相手に、何を言っても無駄だと再認識したダリー。
だがダリーもクック先生を愛している以上、彼らの言っていることに納得してしまうのだった。未知の樹海だとクック先生をじっくり観測できないし。
ゴールドルナ装備の弓使いミラージャ、アーティアS装備のガンランス使いドドル、ブラキS装備の大剣使いダリー。全てバルバレでの本気装備だ。
そう、彼らこそがクック先生をこよなく愛するクックラブトリオであった。最近ミラージャとドドルがめでたく恋人になったとか。
現在はイャンクックが頻繁に出るというバルバレを活動拠点としており、ギルドクエストを中心に様々なクエストをこなしているベテラントリオでもある。
それに加え、彼らは何度かオニムシャザザミに遭遇したことがある。数度は採掘目当て、そして最も接近したのは王国接近時。
大人しかった時期とはいえオニムシャザザミとの遭遇回数が多く、それでいて多種多様なクエストをこなし生き延びてきたベテラントリオ。
シャガルマガラ討伐を依頼したハンターの要望に全て当てはまる、充分な助っ人であった。
つまり―――彼らの受注したクエストは「オニムシャザザミ討伐」という、ある意味での死刑宣告だった。
「いやいやいや、死刑宣告は言いすぎだって」
ダリーは誰に言うつもりもなく手を高速で振って否定する―――何に否定しているかって?それは言っちゃいけねぇお約束ですぜ奥さん。
「この歳でまだ死にたくないわよ!せめてイャンクック希少種が出てきてこの目で目撃するまでは!」
目に野望の炎を宿したミラージャは力強く宣言し、直後に「超強くて格好良いクック先生が出てもいいのよ?」と謎のウィンク。
続けざまに同じくクック先生をこよなく愛するドドルが同意する。
「そうだそうだ!加えて俺は子供が出来るまで生き延びてーなー」
「いいわねー!クック希少種の伝説を未来の子供達に語り継がないと!」
「未来に生きるのはいいが先にオニムシャを見つけてからな」
盛り上がる2人を戒めるダリー。ミラージャとドドルも慣れたもので、ダリーに忠告を受けた途端に静まり返った。「ちぇー」と言っているが気にしない。
未来予想(いや、妄想か?)で盛り上がるのはいいのだが、時と場合を選んで欲しい。時と場合さえあれば自分も参加したいと考えているが。
彼らは今、天空山を支配しているというオニムシャザザミを探している真っ最中だった。
しかし2人のテンションを見ていれば解ると思うが、探せど探せどオニムシャザザミが見つからず、調査が難航していたのだ。
途中で彼らに絡もうとして退治された狂竜化ババコンガという不運な奴もいたが、それ以外は大きな問題は無い。いや狂竜化したイーオスがウジャウジャいる時点で問題なのだが。
そして天空山のエリアをくまなく探し、二週目に突入した頃。
「居ないな」
ドドルが確認し。
「いないわね」
ミラージャが頷き。
「じゃあ合流すっか」
ダリーが提案して2人が頷く。
こうなることは、事前に
―――
天空山のベースキャンプで、1人のハンターと1匹のオトモが居座っていた。
ゴアSシリーズに身を包んだ老人ハンター・ジグエと、ラギアネコ防具を着たアイルー・トラである。
1人と1匹はベッドの上に腰掛けていたが、トラは焦る気持ちを抑えるようにソワソワしているが、隣で石像の如くジッと待つジグエを見て再び動きを止める。トラはこの繰り返しだった。
バルバレギルドより上位級シャガルマガラの討伐を依頼された彼だが、目の前に禁足地への入り口があるにも関わらず、じっとベッドの上に腰掛けたまま。
しかしジグエは瞑っていた目を開き、ゆっくりと立ち上がる。向こうから足音が聞こえてきたからだ。
ベースキャンプへ歩いてくる3人の影。彼らこそジグエが待っていた、ミラージャ・ドドル・ダリーのハンタートリオであった。
「ご苦労さん。その様子じゃと……」
「うっす。オニムシャいなかったッスわ」
ジグエが労いの言葉を投げかけ、ドドルが気軽に挨拶を交わして結果を報告する。当初は年上という事で礼儀よく接していたが、ジグエの頼みもあって敬語無しで話す事となっている。
彼らは事前に、ハンタートリオがオニムシャザザミを見つけられなかった場合、禁足地にいる可能性を考慮して、一度ベースキャンプにて合流するよう話し合っていた。だからこうして集ったのだ。
「ということは……」
そしてこういった自体が生じた先の事を想像し、ミラージャは顔を青ざめる。
「ふむ……どうやらこの先におる可能性があるようじゃのぉ」
そんなミラージャに対し、ジグエは観念したかのように言葉を吐き、ドドルとダリーの背筋に冷たい物を走らせた。
先ほどから冷気のように漏れる狂竜ウィルスが、禁足地に根源が居る事を物語らせている。
そしてこの先にいるであろうシャガルマガラとオニムシャザザミに、ジグエを除く3人が妙なポーズをして絶句する。
「しかし静か過ぎて逆に不気味じゃがの」
そう……ジグエの言うとおり、禁足地の方角からは全くと言って良い程に音が聞こえてこないのだ。
もし上位シャガルマガラとオニムシャザザミが同一の場所に居ようものなら激戦になることは必須。だが激しい音は聞こえず、静かなものだった。
天空山を二~三週してまで見つけられなかった3人組からすれば、オニムシャがここ禁足地に居るのは間違いないと思っている為、その不気味さを改めて体感する。
「つまり……どっちかが倒されたって事になるんじゃね?」
「「あ~……」」
ダリーの囁きに納得するドドルとミラージャ。倒されたと聞いて思い描くのは……。
「行ってみれば解ることじゃ。それよりも準備せんとな……トラや、支度を」
「解ったニャ!」
そんな3人組を放っておいて、淡々と狩猟の準備を始める老人とオトモアイルー。
持ち物点検、ミーティング、防具と武具のチェック……強大な敵を前に、ジグエは念入りに準備を行うのだった。
「流石爺さんハンター、渋すぎるぜ」
「けどこういうお爺さんに限って死亡フラグ多いのよね~」
「おい馬鹿ども止めろ」
どこまでも緊迫した空気を苦手とし、緊張感をブレイクする。それがクックラブカップルである。
――
念入りな事前準備を行ったところで、4人と1匹はついに禁足地へと足を運ぶ。
その後ろをチョコチョコとトラがビビリながら付いて来る。本来なら4人パーティーの場合オトモの同行は許可されないのだが、今回ばかりは特例である。
暗雲により周囲は暗く、初めて足を踏み入れたこともあって3人組は緊張気味だが、ジグエはその先頭を堂々と歩いていく。
しかしすぐに相手は見つかった―――暗雲よりも黒い物体がそこにあったからである。
まるで靄のように漂う黒いそれを、ジグエは以前見た事がある。シャガルマガラが狂竜ウィルスを纏っているものだ。
あれがあるということは、オニムシャザザミは……そう思っていた矢先。
「……ねぇ、オニムシャザザミって角あったっけ?」
「いや甲虫種じゃねぇんだし、無いんじゃね?」
「だよね……じゃあさ、あの骨ってもしかして……」
ミラージャが震える手で指差した先を見てみると―――そこには骨死体があった。
四つの足があり、巨大な翼があり、翼には太い腕らしき骨があり、そして見覚えのある角を生やした頭骨がある。
まさか、とジグエはその死体の存在を一瞬でも否定したかった。その特徴的な骨は、明らかにシャガルマガラの物だったからだ。
ではあの黒い靄に居るは何なのか。そう思ったと同時に、黒い靄は風に流され、その影に隠れていた存在が露になる。
そこに居たのは―――――――虹色に輝く蟹であった。
虹色とは言うが実際には違う。金属質な輝きを放つ白を基調に、角度を変える毎に様々な色合いと輝きを見せるという不思議なものだった。
恐らくは多種多様な金属が複雑に混ざり合った結果だと思われる。その輝きの一部に、貴重な鉱石と名高いレビテライト鉱石やフルクライト鉱石の色が混ざっていたからだ。
そんな不思議な光沢を持つ金属のような殻が、腕、足、体、鋏、そして背中と全身を甲殻種らしく覆っている。
しかし背中は異質だった。体と同じぐらいの大きさを持つ巻貝のようなそれは、歪な配置で棘のような物を生やしていた。
そのアンバランスさはまるで不規則さを求めた芸術品のようにも見え、一種の美しさを醸し出している。タイトルをつけるとしたら「虹色の王冠」だろうか。
大きな鋏は軽くて丈夫な王様の盾のようで。
大地を踏み締める四つの足は立派な装飾を施した騎馬の脚のようで。
身の纏う甲殻は王族が纏う豪華な鎧のようで。
頭の天辺に上って仁王立ちしているチャチャブーの子は王の家来のようで。
その蟹を知っている3人組はあまりの変りように驚いたし。
その蟹を知らない老人はあまりの美しさに絶句した。
かつてオニムシャザザミと呼ばれていた甲殻種は、
それだけの話だ。
―完―
シャガルマガラBGM、タイクンザムザ最終形態BGMのどちらかお好みのBGMを掛けてご想像してくださると嬉しいです。
次回、この謎の蟹の詳細が戦闘と同時に明らかになります。