ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

51 / 86
頑張ったけどグダグダになりました(汗)

9/1:誤文修正。ご指摘ありがとうございました。


第49話「VS冠蟹・前編」

 冠蟹(カンムリガニ)オウショウザザミ。

 度重なる狂竜化により身体の性質が変化し、古く分厚い表層部を排他することで得たオニムシャザザミの新たな姿。

 様々な鉱石を超密度で合成と圧縮を繰り返して出来た虹色の甲殻が全身を包み、装甲が減った分だけ小さくなったのが特徴だ。

 

 しかしこのオウショウザザミ、実は自分の体が変貌したことに全く気づいていない。

 

 己の本質が攻撃寄りに変化したことで自然と防御性はなりを潜め、食らった鉱石類を無造作に甲殻へ反映させる量が減った。本蟹が知らぬ事の1つである。

 その性質を最小限にすべく筋肉の表面を覆う甲殻の深層部にのみ集中させた結果、様々な甲殻と金属類が表層部の分厚い甲殻に圧縮され、深層部は超密度の甲殻となった。これも知らぬ事の1つ。

 そして必要最低限となった防御本能は、表層甲殻へ滲ませる予定だった合金を、己の最大の弱点である背中に施し防御能力を向上させていた。これが最たる変化の1つ。

 それらをオウショウザザミ自身は全くもって理解していない。人間がベッドを変えるなりして体が多少変化したことに気づかないのと同じだ。

 

 しかし変化に気づかない最大の原因は先ほどの戦闘―――天廻龍シャガルマガラから強烈な一撃を受け、ひび割れしていた甲殻どころか背中のヤドをも粉砕されたことにある。

 甲殻は気づいていたとしても、ヤドが破れたことで最大の弱点部位を曝け出したと勘違いしてパニックを起こし、全身の変化に気づく余裕が無くなったのだ。

 ザザミ種にとってヤドで隠していた弱点部位が晒されることは死活問題。シャガルマガラを亡き者にしたのは―――人間で言う「キャー!エッチー!」と同じ心境であった。

 シャガルマガラが死亡したことで一時的に安心感を取り戻し、食す事で落ち着く事には成功したが―――それはあくまで一時的でしかない。

 

 

 背面故に新たな甲殻で覆われていることを知らず、今も弱点部位が曝け出していると思い込んだまま。

 オウショウザザミが外敵であるハンターと遭遇した途端に凶暴化したのは、ある意味で必然であった。

 

 

 

―――

 

 ドドル、ミラージャ、ダリー、ジグエ、そして特例として参加したオトモアイルーのトラ。

 禁足地に足を踏み入れ大きく変貌したオニムシャザザミと対峙した途端、彼は猛然と襲い掛かってきた。

 未知の姿を曝け出したことで、今までの常識が覆されるかもしれないという不安が過ぎる3人のハンター。ジグエは年甲斐故の肝っ玉でなんとかなったが。

 

 

 しかし、その予想はある意味で覆された。

 

 

―ガインッ!

 

「ドグバッ!?」

 

 素っ頓狂な叫びを上げたとはいえ、ドドルはガンランスによるガードで一撃を食い止めることに成功し、大きな衝撃を受けつつも後方へ跳ぶだけに留めた。

 アーティアSと彼が持つ護石に宿る「ガード強化」と「ガード性能+2」による効果も大きいが、ドドルが素っ頓狂な声を上げるほどに―――オウショウザザミの一撃は軽かったからだ。

 

 しかし考える暇はない。オウショウザザミは追撃を仕掛けんと、小柄になった分、前回遭遇した時よりも格段に増したスピードでドドルに迫る。

 だが横からミラージャによる弓攻撃がヤドに当る部分―甲殻で覆われて傷一つ負わないが―に受けたことで目標を変化。弱点を攻撃した者に容赦はしないとばかりに先ほどよりも速度を上げ、ミラージャに向け走る。

 

 セカセカと動くオウショウザザミを見て夜中Gに遭遇した時に似た悪寒を感じたミラージャだが、前で大剣を掲げ己の盾となってくれるダリーを信じ尚も弓を射出。

 カンカンと甲高い音を立てて弓を弾きつつ、一回り小さくなっても尚大きな鋏を振り上げ、目の前に立ち塞がるダリーの大剣を圧し折らんと鋏を振り回す。

 その鋏による攻撃をガードで容易く受け止め、僅かな隙を狙ったダリーはガード姿勢から強引に大剣を振り上げる。

 

―ゴガッ!

 

(手応え―――あり!)

 

 ダリーは体で感じ取った意外な事実に目を丸くしつつも大剣を握ったまま横転、鋏による追撃を回避する。ミラージャもそれを見て弓を畳み、背を向けてダッシュ。

 ちょこまかと動くターゲットが二つ。鋏で防御姿勢を取りつつキョロキョロと見渡す中、頭上のブッチャーがキーキー鳴いて飛び降りる。

 ダッシュで逃げるミラージャはブッチャーが追うと解り、オウショウザザミは足元をすり抜ける人間に狙いを定め出す。

 

 しかしそれも頭上からの攻撃―――ゴアS防具に身を包んだジグエの操虫棍による叩き付けがヒットしたことで怯んで止まる。

 ジグエは好機とばかりにオウショウザザミにしがみ付き、懐から剝ぎ取りナイフを取り出そうとするも、オウショウザザミはそれを許さないとばかりに暴れ出す。

 脚を伸ばして体を上げたり降ろしたりを繰り返したり、縦横無尽に体を揺らしてハンターを振り落とそうとする動きを前に、ダリーはギャグマンガみたいに踏んだり蹴ったりされぬよう必死で逃げる。

 

 ジグエは全身を使って頭頂部にしがみ付くも、オウショウザザミはしぶとく暴れている。このスタミナから見て、シャガルマガラの亡骸を食らったのは事実なのだろう。

 それでもジグエは多くのモンスターの乗りに成功した経験を持つ。体力こそ衰えているものの、引っかかりや出っ張りを掴むなどして工夫してしがみ続けていた。

 オウショウザザミが大人しくなったのを見計らい、すぐさま剝ぎ取りナイフを振りかざして突き刺そうとし―――

 

―ガスッ!

 

 刺さりはした……したのだが、動かない。切っ先が入っただけで、それ以上入る気配が無いのだ。

 硬質だけならモンスター1と言っても過言では無いバサルモスの甲殻ですら切り裂ける剝ぎ取りナイフが通用しない。

 事前に懸念されていたから動揺こそしなかったが、ジグエは少なからずドッキリした。

 

 だからだろうか、オウショウザザミの全身から黒い靄のようなものが溢れ出ていた事に今更ながら気付き、咄嗟に飛び降りてしまう。

 ジグエはオウショウザザミの後方へ飛び降りた為にオウショウザザミは気づいておらず、飛び降りた後も暴れに暴れまくる。

 黒い靄―――狂竜ウィルスと思われる物が体に浴びていない事を確認した後、広がりつつある靄から逃げんと走りだす。

 

 黒い靄がオウショウザザミを覆うも本体は靄の中から動かないようで、チャンスと見たハンター全員は距離を取りつつ集結。

 トラはなんでかチャチャブーの子と激戦……という名の一方的なイジメに発展していた。まぁトラは強い子だから、チャチャブーに弄られても大丈夫だろう。

 その間に4人は、これまでの戦いでそれぞれが学び体感したことを報告する。

 

「ふむ……聞いていた話とは随分違うのぉ」

 

 仕方ないだろうが、とジグエは後付けする。

 

 ジグエはクックラブトリオだけではなく、オニムシャザザミと直接対峙したことのある2人のハンターから手紙越しで情報を集めていた。

 分厚い甲殻による重い一撃、様々な状態異常攻撃を得意とすること、護石を取り込んだことで追い込む度に変化する性能、地中からの奇襲。

 聞ける限りの情報を取り込み、オウショウザザミが攻撃的になっているにも関わらず、上記の攻撃はあまり仕掛けてこない。

 攻撃方法は似通っているとはいえ、格段にスピードが上がり、一撃一撃が鋭くなっていることは認めよう。事実、何度か痛い一撃を貰ってしまった。

 

 しかしジグエは健在だ。回復薬で応急手当を施しているとはいえ、あの蟹の一撃を受けて致命傷にならなかった理由は―――。

 

「あいつ、一撃が随分軽くなったな」

 

 ガンランスという武器を扱っているからこそ、何度もオウショウザザミの攻撃を盾で受けることになったドドルが囁く。

 

 そう、オウショウザザミは一撃が軽い。だからこそドドルに限らず、ガードスキルを持たないダリーの大剣ですら防げたのだ。

 オニムシャザザミは分厚い装甲を生かした防御力を持つが、その硬度や重さは攻撃にも転じられ、一撃が強大なものとなっている。

 攻撃力のソースとなっていた甲殻が大分剥がれたのだから、一撃が軽くなるのは当然といえば当然だろう。

 

「だが桁違いに硬ぇぞ。手応えはあったが、この装備のスキルが発動してアレだから相当な」

 

 しかし「軽くなった=弱くなった」というわけでは無いと伝えるべくダリーが言う。

 

 ダリーの防具はブラキSシリーズで統一されており、己の危機や威圧を感じると高い身体能力を引き出す「底力」や「挑戦者」といった攻撃的なスキルが多い。

 パニック状態のオウショウザザミが常に怒り続けていることで、現在のダリーの攻撃力は桁違いなものになっており―――それをオウショウザザミの甲殻は容易く受け止めたのだ。

 甲殻は非常に硬いもので出来ているようで、薄い甲殻故に武器が弾かれることはないにしても、良い素材で出来た大剣ですら傷が全く付かないという。

 剝ぎ取りナイフですら切っ先しか入らないのだ。その防御力はむしろ強化されたといっても過言では無い。

 

 さらにいえば、軽くなった分だけ素早くなり、純粋なパワーで勝負してくるということにも繋がる。

 硬度が増して軽くなった甲殻故に動きは素早い。その性質は旧大陸の地中深くに生息する甲殻種と酷似しているのだが、彼らが知る由は無い。

 そしてガード関連のスキルを持つことで並のハンターよりは防御力があるドドルを、呆気なく吹き飛ばすほどのパワー。もし以前の分厚い装甲がある状態で殴られたら即死だったろう。

 この攻撃が以前よりも素早く、そして連続で繰り出すようになったのだ。移動速度が増したこともあり、油断はできない。

 

「それより厄介なのはあのチャチャブーよ!ほんっと邪魔!」

 

 そんなことよりも、と言わんばかりにミラージャがヒステリックを起こす。漫画みたいに膨れたタンコブが印象的だった。

 

 とにかく邪魔なのが、オニムシャザザミの頃から居付いているというチャチャブーの子供だ。

 チャチャブーに漏れず知能が高いらしく、遠距離からチマチマ攻撃するミラージャや、同じ獣人族であるアイルーに狙いを定め邪魔を仕掛けてくる。

 しかも鳥兜のようなお面が硬く、物凄いタフな為に何度追い払おうとも一定時間後には復活し、不意討ちのように邪魔を仕掛けてくるのだから性質が悪い。

 

 さらにこのチャチャブー、オトモアイルーよりも便利な点がある。それはモンスターをも鼓舞するダンスだ。

 チャチャブーがオウショウザザミの頭頂部でダンスを披露すると、オウショウザザミはやる気が上がったのか途端に張り切りだす。

 

 やっとスタミナが減って疲労状態化と思えばチャチャブーのダンスでリセットされ、ガンナーが足を止めれば猛然とチャチャブーが迫る。厄介なことこの上なし。

 

「しかし何よりも厄介なのは……」

 

 ジグエは表情を歪ませる。その視線は空を見上げ―――その直後。

 

―ガゴンッ!

 

 彼ら4人の目の前にオウショウザザミが落ちてきた。黒い靄の中で跳躍し、ここまで跳んできたのだろう。

 

「なんでパニック状態になっておるのかのぉ」

 

 そうノンビリと言った後、4人は猛烈な勢いでダッシュ。

 陥没していないのでそのままオウショウザザミは跳躍し、逃げる4人のハンターを追うようにしてジャンププレスを繰り返す。

 跳んで、踏む。それを逃げながら繰り返すのだから、3人のハンターはギャグを挟むことなく恐怖心に駆られて走り続ける。

 

 ハンター達にとっての謎であり、彼らが撤退できない理由。それは「オウショウザザミが何故暴れているか」ということ。

 そもそもオウショウザザミ―――元オニムシャザザミがターゲットとなった理由は「狂竜ウィルスにより凶暴化し暴れること」にある。

 狂竜ウィルスの根源であるシャガルマガラが死亡しているのならウィルスは自然と無くなり、ザザミも大人しくなることだろう。大人しくなりさえすればターゲットとする理由がなくなる。

 しかし現在のオウショウザザミは狂竜ウィルスに汚染された様子は無い。汚染されたモンスター特有の「黒いオーラ」が漂っていないからだ。

 

 もし狂竜化とは関係なく、本能としての凶暴性が増して暴れているのなら、今後もギルドはこの蟹を討伐対象として捉え続けなければならない。

 だがこのオウショウザザミの場合、外敵を攻撃する理由が違って見える。好戦的或いは徹底的なのではなく、まるで怯えているが故に暴れているようだからだ。

 特にハンターの誰かが後ろへ回りこもうとすれば瞬時に振り向いたり跳んだりと、背後を特に気にしている事がこれまでの戦いで解っている。

 

 兎に角、オウショウザザミの本質を見極める為にも戦う必要が出てきた。

 変化したとしても日が浅いはず。だからこそここで戦った方がより情報を得られ、かつ生き延びる可能性が高いと踏んだからだ。

 それは3人組も解っているらしく、ザザミの連続ジャンププレスが止まったのをキッカケに再度武器を握り、構える。

 どこまで戦えばいいのかと考えたが、これまで同様、ギリギリまで粘って戦えばいい。そう判断したが故の、覚悟だ。

 

 しかし向こうも負けてはいない。トラをケチョンケチョンにしたチャチャブーが鋏を構えるオウショウザザミの頭頂部にのぼり、気合を入れるべくダンスを踊る。

 カツンカツンと鋏同士を打ち付けて威嚇し、ハンター達を見据えるオウショウザザミであったが―――ここで変化が起こる。

 

 背中に背負っていた巻貝の棘が輝き出し、白を基調に虹色が混ざるオウショウザザミの甲殻が変質しだしたのだ。

 甲殻は白からゆっくりと赤に染まっていき、鮮やかな鮮血で染められたような全身が露になる。

 そして再び鋏を打ち鳴らし、地面に叩きつける。これは攻撃というよりは相手を威嚇しているつもりなのだろうか?

 

―護石による能力変化。

 

 ジグエとクックラブトリオが、オウショウザザミの変色する様を見て思い出した情報。

 まだまだ隠しているであろうオウショウザザミの本気を死なない程度に引き出す為、ハンター達は尚戦いを挑み続ける。

 

 

 

 だが、ここで更なる変化をオウショウザザミは見せ付ける。

 

 

 

 先ほど食したシャガルマガラに含まれる「狂竜の力」。ゴア・マガラ時には鱗粉として流出したそれは体内または外皮に滲み出るもの。

 それを骨や爪・角を除いた肉質全てを食したオウショウザザミに全く影響が無いかといえば、当然NOと言える。

 そしてオウショウザザミが進化しても、体内に毒素を蓄積し、それを貯蔵する器官は健在。故に本能は体内に蓄積した狂竜ウィルスを毒素(・・)として(・・・)認定し、蓄積(・・)した(・・)

 

 

 

 大事な大事な弱点部位を守る為、強敵と定めたオウショウザザミは狂竜の力をわが身に宿し、黒く変色するのだった。




ハンター達が戦う理由はオウショウザザミの攻撃性がどうなっているかを見極める為。
未知のモンスターと戦う際、モンスターの性格や本質も見極めるものかなぁと思い描写しました。

オウショウザザミに変化して一番変ったのは重量。滅茶苦茶軽くなりました。まんまタイクンザムザ最終形態ですね(汗)
しかしオウショウザザミの実力はこれからだ!大した変化はないでしょうが(汗)

……もっと語彙やボキャブラリーが多ければ上手い考察や無駄の無い文章が書けるんでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。