ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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 いつもギリギリでヒヤヒヤしながら書いている作者です。しかも短めと来た。情けない(汗)


第50話「VS冠蟹・中編」

 まるで日が経過し黒色化した血のように赤黒く染まったオウショウザザミ。

 弱点である背部を覆う巻貝の至る箇所にある棘らしき物―――護石の効力が滲み出て赤く染まり。

 シャガルマガラを食したことで分泌された「狂竜の力」が体中を巡る体液に流出したことで黒く染まった。

 人間としての狂気ではなくモンスターとしての狂気を物語るような異様さに、ハンター達は後退りせざるを得ない。

 彼らも幾度と無く狂竜ウィルスを体感したことにより、その恐怖を理解している。体を蝕むようなあの感覚は、悪夢にうなされる時よりも酷い嫌悪感があるからだ。

 

 しかし。狂竜化したオウショウザザミ自身は理性を削がれたわけではない。

 元々の知性が高いわけではない。長期間に渡り侵食された結果ウィルスに耐性を持つようになり、体内に蓄積されたそれを適量分だけ流出したことにより理性を保てるからだ。

 頭頂部にジグエが乗り掛かった時に噴霧した狂竜ウィルスは、体内に巡らせる物が一部流出した、いわばガス漏れのようなもの。意図して出したわけではない。

 

 オウショウザザミの体内は長きに渡り侵食されたことで、狂竜の力は毒素として認識しているが、それは己にのみ(・・・・)使える(・・・)毒素(・・)と思い込んでいるのだ。

 オウショウザザミは、この狂竜化の力を用いて己の攻撃本能を刺激させているのだ。だからこそ殻に滲み出た護石も反応を示し、早々に効果を発揮できる。

 

 

 能力アップはもちろんのこと、防衛本能ではなく攻撃本能を剥き出しにして戦う。

 守る為の戦いではなく倒す為の戦い。両者の違いはモンスターが示すとなると解りやすいほどの違いを見せ付ける。

 

 

 

―――

 

 オウショウザザミが跳んできた。高さは無いが走り幅跳びの如く勢いをつけて。

 狙いはジグエ。先ほどから彼が放つ猟虫が視界を邪魔してくるからイラついているのだ。

 

「はっ!」

 

 しかしジグエは操虫昆を地面に突きたて、強引に体を浮かしてオウショウザザミを飛び越える。

 確かに勢いは早かったが、数多くのモンスターの突進や跳びかかりを経験してきたジグエにとって充分に捕捉できた。

 そのままオウショウザザミはガリガリと地面を削って滑るも、身を屈ませて一気に跳び、空中で身を捻って方向転換して着地。ハンター3人を視界に捉える。

 

 唯一捉えられないのは、オウショウザザミの攻撃範囲外から狙撃を続けているミラージャだ。

 とはいえスピードも迫力も先ほどとは段違いな為、距離が離れているからといって油断はしない。こちらへ敵意が向けば即座に弓をしまい、猛ダッシュで逃げる。

 ちなみにブッチャーが襲い掛からない理由は、「筆頭オトモは挫けないニャ!」と張り切っているアイルー・トラが尚も挑み続けているからだ。頑張れトラ、ブッチャーの妨害行動阻止は君の手に掛かっているんだ!

 

 かといって、剣士組だって必死になってオウショウザザミの動きを見極めようとしている。

 ブッチャーの妨害が減った分だけ対処はしやすいものの、オウショウザザミの動きに切れが入ることで一撃一撃に恐怖を与えてくる。

 まずは攻撃力の増加。攻撃力というよりは怪力という表現に近く、地面に鋏を振り下ろしただけで周囲に地震を起こし、間髪入れず次の一撃を振り回してくる。

 次に跳躍力。走ることですらもどかしいと思ったのか、オウショウザザミは大中小関係なくジャンプを繰り返してハンター達に接近する。

 そして遠距離攻撃。毒水を霧状に噴射したり、薄めた麻痺毒を細い線を描くようにして噴射したり、滞空する睡眠毒の霧を撒き散らしたりと種類が豊富だ。事前に身構えて小刻みに震える、という動作があるのが救いだろう。

 

 だが赤黒く染まったオウショウザザミの何が怖いかといえば、その積極性にあるだろう。

 考えても見て欲しい。ティガレックスやジンオウガ以上にドス黒く染まった多脚生物がジグザグに跳びながら迫ってくる様を……恐ろしいったらありゃしない。

 単純な強さを誇るラージャン、踏み抜きながら迫るイビルジョーとは違った恐怖をハンター達に味あわせ、必死になって逃げるという選択肢を強いてしまう。

 

 故にハンター達は正面を避け、なるべく周りこむようにして動くのだが……理由はそれだけではない。

 モンスターが攻撃性を見せる原因は様々だ。獲物を狩る、縄張りの主張、雌を巡る戦い、好戦的または本能的な排他などなど……その原因は、モンスターを狩れば狩るほど解ってくる。

 そして戦っている中でジグエは、このオウショウザザミが暴れている原因が「何かを隠す為」ではないかと考えた。

 オウショウザザミはハンターが背面へ周りこもうとするだけでもジャンプして逃げようとする為、背面に何かあるのではないかと勘繰ってしまう。

 

 だから、まずオウショウザザミの背中に一撃食らわせてみる。それを目的に何度も背面へ周りこんだ。

 しかしそう上手く行かないのが世の中っていうものでして。

 

―カキン

 

「ぬ」

 

―ガツンッ

 

「ぬおっ」

 

―スカッ

 

「ありゃ」

 

―キキキキキン

 

「やっぱり」

 

 一番手はジグエ。巻貝らしき背中に操虫昆の先端が命中するものの、弾かれる。

 二番手はドドル。アドミラルパルドと呼ばれる鉱石で作られたガンランスの切っ先が入らない。

 三番手にダリー。大剣は動作が遅い為、振るう頃には避けられるのが大半だった。一撃は重い為、4人の中でも確実にダメージを与えられるが。

 最後はミラージャ。どれだけ集中しても矢を簡単に弾いてしまう。せっかくのユミ【凶】の連射も弾かれては意味が無い。

 

 そう、軽い一撃だとオウショウザザミは攻撃されたことですら気づかないのだ。

 素早く背後に周りこんで一撃を与えてもすぐに方向転換して攻撃することから、オウショウザザミは背面から攻撃を受けても平気になった、と解っていない様子。

 もしこのまま放っておけば、通りすがりのアイルーですら「さーちあんどですとろい!」と言わんばかりに猛然と襲い掛かるだろう。

 しかしハンターの中で、オウショウザザミに有効な一撃を持つのはダリーのみ。それもあの硬度に気づくほどの威力を与える、となれば溜め攻撃ぐらいだ。

 

「なぁ、後ろからドーンって出来るか?」

 

「出来たらやってるだろ」

 

「真空波とか出せたらいいのにねー」

 

「俺を狩人じゃなくて超人にさせたいのかお前は」

 

 ガッツンガッツンと鋏同士をぶつけあって威嚇するオウショウザザミを前に、クックラブトリオは久々に漫才を繰り出す。

 そうでもしないとこの先やってけれるか、という意味もあるだろう。狩猟時間は残り半分を切っており、下手をすればこの状態のままのオウショウザザミを置いて逃げなければならない。

 そしたらこの蟹がどこまで暴れるものか解ったものではない。ハンターである以上、命が絡めば諦めも肝心だが、お人好しでもある三人組は他者の為に頑張ってしまう性質なのだ。

 

 そして、この老ハンターとオトモアイルーも同じ。

 

「どーにかして奴の動きを見切らねばならん。その為にも、避けて避けて避けまくって、観察しまくるぞい」

 

 息は荒いが、それ以上にやる気に満ち溢れた眼でオウショウザザミを睨みつけ、操虫昆を持って構えるジグエ。

 アイルーのトラも、傷だらけタンコブだらけになりながら凛々しく仁王立ちしているではないか。

 自分達よりも年上のハンターがそういう姿を見ると、不思議とホっとしてしまう。まだやれる、という気合が彼らにも伝染するかのように。

 

 4人と1匹がそれぞれのスタイルで武器を構えると、威嚇していたオウショウザザミが右の鋏を振り回し、空を切る。

 まさか真空波が!?と身構えるミラージャだが……何も起こらない。今の動きになんの意味が……。

 

―いや、意味はあった。

 

「な、なんだこりゃ?」

 

 ドドルの体に何かがぶつかり、防具の関節部に挟まったようだ。

 慌てるドドルと身構えたミラージャを置いて、囮となったジグエとダリーをオウショウザザミが追いかける。

 それを良い事に何が挟まったのかと慌てて取り出した所。

 

「……護石?」

 

 ドドルの手の平に収まる、形こそ無骨なそれは、紛う事なき加工前の護石。

 なんでこんなものが?ジグエとダリー、そしてトラがオウショウザザミとブッチャーの相手をしていることを良い事にミラージャと一緒に眺めていた。

 

「ぬ!?」

 

 この時、ドドルに電撃走る!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 そして何を思ったのか、其の場で武器を研ぎ始めた!

 

「研ぐのが早くなった!」

 

 そして研ぎ終わる!

 

「はいー!?」

 

 あまりにも早く終わった研ぎ研ぎタイムに驚くミラージャ!

 

「漫才なら後からにしろ!!!」

 

 ダリーの突っ込みは防戦中でも健在であった。

 

 

 だが、オウショウザザミの鋏から放たれた護石の欠片が、この戦いの鍵にしてオウショウザザミのもう1つの特徴を示すことになる。

 

 

 それを知るのは、もう少し先。

 

 

―完―




次回こそ、次回こそ完結するんです!(汗

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