ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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プロットのようなものは書けても実際に小説を書くとなると大変ですねぇ。
なにはともあれ、今回でやっと解決!またしても強引な気がしますがご容赦ください(汗)

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第51話「VS冠蟹・後編」

 スキル―――それは、モンスターの鱗や皮などを素材として作られた防具や装飾品などに宿る、不思議な力だ。

 

 不思議な力というが、防具であればハンターに能力を及ぶ理由をある程度なら理解することができる。

 例えば重厚かつ堅牢な甲殻を持つグラビモスの素材を使った防具なら、ガード性能が重さによってフォローされ、逆に重い防具故に鈍足となる可能性も有る。

 例えばゴム質の皮で身を覆われた毒使いゲリョスの素材を使った防具なら、絶縁性に優れた毒を通さない皮で包まれている為に毒への耐性が上がる。

 素材が上位種の物であれば硬度と性能は上昇し、場合にとっては下級装備にはなかった性能が身につくこともある。故にハンターは上を目指せば目指すほど、上位種の素材で作られた防具を求める。

 もっとも、どうして砥石を研ぐ速度が上がったり回復薬の効能が周りにも効くんだよと言われたら、「解らん」としか言いようが無い。

 

 しかし、防具を身に纏っているからといって容易くスキルが宿るわけではない。スキルとは各種防具に振り分けられている「スキルポイント」という数値が一定以上ないと発動しないからだ。

 このスキルポイントというのは過去に大勢のハンターや職人が結集して定めた数値のようなもので、現在は多くの鍛冶職人が防具を作る際、どのようなスキルポイントが生じるかを教えてくれる。

 

 そして―――スキルの発動は、防具や装飾品、護石などを着込んだ際に直感で理解できるらしい。

 

 

 

―――

 

「見ろよこの研ぎ速度!」

 

―シャッシャッ、ピカーンッ

 

「確かに速いな―――けどそれは後回しにしやがれ!」

 

 ドドルが自慢げに武器を研ぐ様子を見ていたダリーは、オウショウザザミの鋏を大剣で受け止めている真っ最中だった。

 ギリギリと上から押し潰してくる力に何とか抗えているのは、彼のスキル「火事場+2」のおかげだ……つまりはちょーピンチ、ということでもあるが。

 

 このまま押し潰してやろうかと力を込めるオウショウザザミだが、突如として目の前で電撃が弾けた為に怯んでしまう。

 その隙にダリーはドドルを八つ当たりで蹴飛ばして脱出。それを助けた電撃の正体は蝶のような虫―――ジグエが放った雷属性の猟虫だ。事前にマーキングしておいた甲斐があったというもの。

 眼前でバチバチと弾ける虫が纏わりつくことで怯え出したオウショウザザミは、鋏を構えて目の前を閉ざし、そのまま後退。小規模の雷とはいえ眼前で弾けると怖いものだ。

 

 猟虫による陽動が通用したとわかったジグエは操虫昆を使って音を鳴らし、オウショウザザミをこまめに誘導する。

 マーキングが切れるまでの間、行っては帰ってのヒットアンドアウェイを繰り返し、オウショウザザミの意識を猟虫へと移すことに成功した。

 

「お二方、危険じゃが時間もないのでな。至近距離で散開して撹乱しますぞ」

 

 ジグエは正座させたドドルを叱るダリーを尻目に声をかけ、遠くで獣人族2匹の喧嘩に巻き込まれているミラージャにも手を振って呼びかける。

 たっぷりと叱って精神的にも余裕を持てたダリーは、懲りた様子の無いドドルを連れて前線へ復帰。弓使いというだけあって回避テクに自信のあるミラージャも参加する。

 

 4人はオウショウザザミの懐に飛び込むようにして散開。

 足の隙間に潜り込むような回避は無いものの、周囲をウロチョロとされてはオウショウザミも困るというもの。幾ら機動性に富んだ甲殻種でも四方八方、しかも時に猟虫のめくらましがあってはターゲットを絞ることが出来ない。

 攻撃を滅多にせず回避を優先するから広範囲も空振りだし、かといって油断していると頑強ではあるが細身である足をジグエが狙ってくるし、大振りの攻撃を仕掛けようとすれば猟虫が目の前を遮る。

 なのでオウショウザザミが出来ることは「ガードを固めつつ常にチョコマカ動くこと」ぐらいだ。鋏を閉じて目の前を塞ぎ、忙しなく足を動かして細かい移動を繰り返す。気の長くなるような防戦だが、オウショウザザミも弱点を守る為に必死なのだ。

 このため、オウショウザザミは己に作用していた狂竜の力と護石の力を抑え、元の防御本能を開花。隙あらば倒してやろうという野性味を残しつつ、己を守る為に地道に防御を固めるのだった。

 

 

―ちなみに獣人族2匹の戦いだが、何故かボクシングごっこに発展していた。ジャブ、ジャブ、ロー!ワンツーワンツー、ストレート!

 

 

 それは置いておいて、4人はオウショウザザミの攻撃を制限する為に回避を優先するも、至近距離まで近づけたからか各自の意見を述べていた。

 

「さっきの護石の欠片さ、すっげー強力なもんだぜ?だって砥石高速化が発動したんだからよ」

 

「あ、私も護石飛ばし食らったんだけどさ、私の場合はちょーっと氷に弱くなったって感じがする」

 

「ふむ……」

 

 すぐそこに大型モンスターが迫っているというのに、基本避けるようにしているからか若干の余裕を4人は持っていた。年老いてもふざけていても流石はベテラン、ということか。

 

 先ほどオウショウザザミが振った鋏から弾き出された護石の欠片。あれは地味に面倒なものではないかとジグエとダリーは考えている。

 ドドルのアーティアSは研ぐ速さが低下するスキル「砥石使用低速化」がギリギリ発動するかしないかという数値だった。その数値を覆しプラスへと発展するとなれば、この欠片だけでどれだけのスキルポイントが詰まれているというのだろうか。

 かと思えばミラージャの当った護石は「ちょーっと氷に弱くなったって感じ」と言えるぐらい、微妙に氷耐性にマイナスが振られたのだろう。飽くまで「氷耐性弱体化」が発動したわけではない。

 ダリーはこの現象―仮に「護石やられ」としよう―はランダム性が多すぎる、ある意味で一番厄介な症状として考えている。とりあえずドドルが得た物は大きいからよかったものの―――と考えたところへ。

 

「ダリー殿、これを」

 

 オウショウザザミの振り下ろした鋏を避けて近づいたジグエが何かを手渡し、それを咄嗟に受け取ってダリーはオウショウザザミから距離を取る。

 受け取ってから気づいたが……ハンターとしての経験と直観が、この護石の欠片から大剣に関わる力が備えていると理解できた。それをよく知ろうと手に握る護石に意識を向けた。

 

「お主なら『集中』できるじゃろ?」

 

「……もちろん」

 

 集中―――オウショウザザミに決定打を与えられる大剣の溜め攻撃、その溜め時間を短縮できるスキル。

 

 ダリーは意図を瞬時に理解し、ハンドサインで他の2名に指示を送る。それに頷き、ドドルとミラージャは2人の元へと駆けつける。

 ハンターが一箇所に集まったのを良い事に、纏わりついた事へのイラつきもあってかすぐさまオウショウザザミは身を赤黒く染め、威嚇……というよりは()る気を見せ付けるようにして鋏を広げて接近。

 ゴニョゴニョコチョコチョとミラージャとドドルに耳打ちしてジグエと練った作戦を説明すると、クック馬鹿ップルはサムズアップで応じた。

 

「行動開始!」

 

 ダリーが合図を送るとドドルは離れ、ミラージャ・ダリー・ジグエの三人は固まって武器を構える。

 オウショウザザミはどちらかといえば固まっている連中を一纏めに叩き潰したいと思っているのか、両手の鋏を広げて接近。

 動きが速いことは理解していたが、ミラージャは咄嗟に弓を構え、オウショウザザミの顔を狙い打つようにして発射。オウショウザザミはそれに対し、広げていた鋏を合わせることでガード。

 そのままミラージャは連続で矢を発射してオウショウザザミの視界を塞ぐ。その隙にジグエは操虫昆から発射したマーキング弾が鋏へ着弾したのを確認すると、ドドルが行った方向とは反対の右斜め前へ移動する。

 

 視界を鋏で塞がれているからかオウショウザザミは気にせずこのまま体当たりしてやろうとするが―――ここで足を止める。

 急ブレーキを掛けたからか慣性の法則に従って後ろ半分が軽く浮くものの、脚が着地した途端に折り畳まれ、一気に跳ぶ。

 オウショウザザミが跳んだことで見えた先には、先端から火を吹かすガンランスを構えたドドルの姿が。オウショウザザミは僅かな熱源を背面から感じて、緊急回避を繰り出したのだ。

 ミラージャ達までの距離はあった為に竜撃砲は空振りとなるが、そこへ即座にオウショウザザミが振ってくる。鋏を身構え、攻撃しようとしたドドルを襲おうとするが、鋏にジグエが放った猟虫が纏わりつき、ちょっかいを掛けられた事で気がそれる。

 

 ここまでは作戦通り―――ミラージャは回避の為に反転したオウショウザザミを見てほくそ笑む。

 

 危機察知も強化されたのか、オウショウザザミは後ろから強烈な一撃(竜撃砲など)が来ると解り、背面を守ろうと跳んで逃げ、空中で反転する癖がある。

 今まではその強度故に通常の攻撃では刃が立たず、攻撃認定させてもらえなかったが、竜撃砲は別だった。だからこそ、ジグエが幸運にも回収できた『集中』の護石を使ってダリーに素早い溜め攻撃を行えるようにし、前後から同時に一撃をお見舞いする。

 オウショウザザミの癖も相まって、今のタイミングなら確実に大剣の溜め攻撃が当たるはず―――そう思っていた。

 

 

―グギュルル……

 

 

「……腹が減って動けねぇ」

 

「あんたはボケ役じゃないでしょぉ!?」

 

 なんということか。ダリーも護石やられが生じており、それがよりにもよって『腹減り倍化【大】』だったなどとは。

 盛大に腹の虫が鳴った途端にダリーはへたり込む。空腹とは言わなくても、スタミナを消費する大剣の溜め攻撃は発動できないようだ。

 

 ミラージャがへたり込んだダリーを起こそうとした時……ズウン、と音と振動が響く。

 そこには、不発とはいえ一時は溜めを行おうとしていた事を察知して振り返ったオウショウザザミが、今まさに鋏で薙ぎ払おうと身構えていた所であった。

 

「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!」

 

 ジグエの叫びが轟く。殻が向けて一回り小さくなったオウショウザザミの高くない体長を、操虫昆を使ったジャンプで跳び越えたのだ。

 ギリギリオウショウザザミを跳び越え、自然落下でオウショウザザミの眼前に姿を現す。

 突如として塞がれた視界に驚いたオウショウザザミは、眼前に現れた障害物を排他すべく、ミラージャとダリーを狙うべく振った鋏をジグエに向けた。

 

―ドグシャッ!

 

 鋏の一撃をモロに受けた身体から嫌な音を立てて、ジグエは吹っ飛んだ。

 

「爺さん!」

 

 ゴロゴロと地へ転がるジグエを見たドドルは叫び、その叫びに呼応するかのようにジグエはすぐさま態勢を立て直した―――右腕を抱えて。

 立て直したといっても操虫昆で支えていながら苦しげだし、今にも倒れそうな程にフラついている。あれでは戦うのも怪しいだろう。

 

 いや、それよりもオウショウザザミだ。ドドルは放った直後だから竜撃砲は使えないし、ダリーはまさかのスタミナ切れ。

 ダリーに肩を貸して逃げようとするミラージャを、オウショウザザミが逃すわけがないだろう。己に背を向けたまま、オウショウザザミはミラージャを追いかけていく。

 必殺の一撃は両者とも尽き果て、ジグエは再起不能に追い込まれた……万事休すとはこのことか、とドドルは真摯に敗北を悟った。

 

 

 

―――しかし。

 

 

 

「筆頭オトモはぁぁぁ―――」

 

 

―ダダダダダ

 

 

「挫けないニャアァァァァァ!!」

 

 

―カアァァァン

 

 

 ラギアネコアンカー。オトモ武器の中でも優秀な雷属性を持つ、ぽかぽか村の漁で採れた海竜の端材から作られた武器。

 そして筆頭オトモが「師より受け継ぎし槍さばき」と自慢げに語る、かつての師である筆頭ランサーを見習って編み出した必殺技。

 アイルーとは思えぬほどの突進力から繰り出されるジャンプ攻撃に、オトモ武器で1・2を争う雷属性を持つラギアネコアンカー。

 

 

 それらが合わさったトラの最高の一撃が、オウショウザザミの背に……そしてオウショウザザミそのものに届いたのだ。

 

 

 バチリと背面から伝わる電撃と硬い何かがぶつかったような衝撃に、オウショウザザミはビクリと反応を示して急停止。

 突如として止まったオウショウザザミを見たミラージャとダリーはどうしたのかと振り向き、筆頭オトモの一撃が当ったのを見たドドルは口をあんぐりと開き、筆頭オトモことトラはあまりにも硬かった為に武器越しに手が痺れてしまったようだ。

 誰もが動きを止める中、動く影があった。トラのストレートパンチをドテッ腹に食らって気絶していたはずのブッチャーだ。

 「大丈夫でヤンスか!?」と言わんばかりにオウショウザザミの王冠のような背に昇り、カンカンと杖で叩いて反応を確かめる。

 

 そのブッチャーの行動が目覚ましになったのか、オウショウザザミは動きだした。戸惑っているように、忙しなく、そして何度も後ろを振り返りながら。

 カンカンとブッチャーが杖で背面を叩くことによって、オウショウザザミは自分の背の異変にようやく気づきだしたようだ。

 もしかしてと思い、オウショウザザミは足を大きく伸ばし、背を地面に向かって何回か打ち付ける。軽くとはいえ、ウラガンキンが地面に叩きつけるような音と衝撃が地面に走る。

 

 オウショウザザミは自分の背を視覚で確認できないためにこのような行動を取ったのだが、どうやら背中が硬い何かで覆われていると理解したようだ。

 それが理解した途端、攻撃性を示す赤黒い色が見る見るうちに消えていき、元の虹色とも白とも言いがたい不思議な色彩を取り戻す。

 そして呆然とこちらを見る二人のハンターを見て思う。弱点が曝け出されていない今、この戦う気の無い相手を放って置いて逃げてもいいのでは、と。

 腹は膨れているし、危機らしい危機も無いし、そもそもココは暗くて狭いし何も無い。留まる理由は何一つ無いし、戦う理由も無い。

 

 

―故に、オウショウザザミはブッチャーを乗せたまま地中へと潜り、別の地域へと地中移動することを決めたのだった。

 

 

 まさかの展開からスムーズに結末まで進められていき、取り残されたハンターは呆然とオウショウザザミが居た場所を見つめていた。

 ジグエも動かない片腕を抑えながらその光景を見ていたが、狂竜ウィルスの根源が消えたことで暗雲が去り、そこから漏れる光で意識と痛みを取り戻して眉を歪めた。

 

 

 暗雲の間から漏れる光を浴びてフラフラと立ち上がったトラの姿を見たドドルは。

 

 

「おトラさん(・・)と呼ばせてもらっていいッスか?」

 

「……ニャ?」

 

 

―このクエストの立役者にして勇者である筆頭オトモ・トラに、尊敬の意を示さずには居られなかったという。

 




後日談はまた来週。戦闘描写じゃないから少しは更新が早くなる……かも。
それと、近々モンハン小説の最後を飾る「―完―」を消す予定です。

活動報告にて、今後の作者の大まかな小説活動について記したいと思います。
大した事では無いと思いますが、よろしければ確認してくれると嬉しいです。

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