ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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前話の感想でショタショタ言うから!


第56話「才能と欠点」

 人というものは自分自身でも解らない点が多すぎる。

 或いは才能であったり、或いは欠点であったり、或いは癖であったりと、自覚していない点は意外にあるものだ。

 他者から見れば「いやそれは可笑しいだろ」と思える点でも、当人は解っておらず普通だと考えていることも多い。

 

 少年ハンター・イリーダもその1人で、無自覚の欠点を多く持っていた。

 

 

―――

 

 砂上船から降りて旧砂漠に到着し、とりあえずエリア4に行こうと決めるまではよかった。

 

 ……イリーダの奇行にクカルが驚かされるまでは。

 

「ちょ、どこ行こうとしてんねん!?」

 

「え?こっちからなら近道できるかなと思いまして……」

 

「やからってゲネポスの入り口から通ろうとするんやない!」

 

 まさか大きく開いている道ではなく、ゲネポスといった小型モンスターが通る小さな穴を通ろうとするとはクカルも思わなかった。

 しかしイリーダは慌てて止めようとするクカルの意図が解らないと言わんばかりに首を傾げており、マジで潜ろうとしているのが解る。

 この奇行がベースキャンプからすぐ出たエリア1で早々に起こったというのだから、初っ端からの奇行にクカルは眉間を押さえてしまう。

 

「はぁ……あんさん、ホンマに方向音痴なんやな」

 

「面目ありません……」

 

 クカルの言葉に困ったように頬を掻くイリーダ。まるで年上のお姉さんに叱られた子供である。

 

 

 イリーダは才能があった。

 ハンターとしては体が丈夫な方ではなかったが、その身軽さと器用さは軽業師の域に達しており、覚えもよかった。

 重い武器を苦手とするが、片手剣や双剣といった軽い武器を持てば人並み以上の働きを持ち、双剣に至っては鬼人モードを維持し続けるほどの技量を持つ。

 

 その才能と引き換えたかのように失ったのが……方向感覚。これはハンターとしては致命的な欠点だった。

 

 イリーダは極度の方向音痴で、1人でクエストを達成したことは一度も無く、薬草を採って来るという簡単なクエストですら達成できなかったという。

 地図を暗記しても一度たりとも目的地に辿り着いたことはなく、近道しようとして変な道を通ったり、たまたま落石などが発生して道を塞がれたり。

 とにかく1人で行きたい場所に行った事は一度も無く、常に誰かを誘うか誘われるかしてチームを組んで行動することを決定付けられた。

 

 それでいて今もその奇行は止まず、近道がしたいからと洞穴に入ろうとする上、本人は無自覚だという始末。

 方向音痴であることは認めても、己の思考のズレは無自覚故に中々治らない。それがイリーダの欠点でもあった。

 事前にイリーダ本人から「自分は極度の方向音痴らしく、道に迷うかもしれない」と言われていたので同行したのだが、まさかこんなだったとは。

 

―まぁしかし、とクカルは苦笑いを浮かべる。

 

「ほなら、ザボア亜種かドスガレオスが見つかるまで、うちの横に付いてきぃな。なんなら手ぇ繋いたるで?」

 

 カラカラと笑うクカルではあるが、ちょっとしたからかい程度で悪気は無い。

 当のイリーダはといえば低い身長故のコンプレックスを刺激されたのか恨めしい目でクカルを睨むも、子供が不貞腐れているようで、クカルはさらにカラカラと笑ってしまう。

 尤も、背に腹は変えられないと理解したのか、大人しくクカルの横に付き、共にエリア4へ向けて歩き出すのだったが。

 

 クカルは歳は若いが経験は豊富な方だ。

 

 幼少の頃より大食いだった彼女は、肉屋の両親の手を煩わせまいと、若くしてハンターになったからだ。珍味を求めたから、と言っても過言ではないが。

 稼ぎつつ様々な食材を食べようと彼女は地方各所を点々と周り、様々なハンターを見て来た。善悪老若大食少食、狡賢いのも居れば潔いのも有りと多くの人を知った。

 もちろん、イリーダのように方向音痴なハンターも多数いるし、イリーダ以上に奇行を繰り出すハンターも居る。特にクエストを受注すれば「え、なにそれ」的な依頼主は沢山いる。

 

 この世界は広い。そして同じ人でも、世界の広さに比例するかのように多種多様。

 最初は食を満たす為にハンターになったクカルだが、今では多くの人と触れ合い、一緒に多くの物を食べてきた。

 だからこそクカルは、G級に挑むには不安だからという言い分もあるが、出会った人と狩猟するのを楽しみにしているのだった。

 

 

 

―――

 

 ここで1つ言っておこう……イリーダの方向音痴は、身体の方向感覚と思考のズレだけではない。

 方向音痴とは運も絡む。土砂崩れ、川の氾濫、落石など偶然も重なって通れなくなれば道に迷う事もあろう。

 また、もしイリーダが北へ行けばターゲットは反対の南へ行き、イリーダが南へ引き返せば別方向へモンスターが動くと、すれ違いも多く起こる。

 

 

 

 そしてイリーダはこれまでのソロ活動で……一度たりとも目当ての大型モンスターと出会った事がない。

 

 

 

 ぼこり、と地中から姿を現したのは、旧砂漠に住みつくようになった甲殻種・オウショウザザミ。

 先ほどまで獲物(ドスガレオス)を腹一杯になるまで食べてきたからか、周りにケルビや植物があったとしても食べようとせず、なんとなく見渡している。

 すると洞穴から何か小さな声が聞こえてくる……と思えば、洞穴から獣人族・チャチャブーの子ブッチャーが出てきたではないか。

 オウショウザザミを追いかけてきたらしく、すぐによじ登って頭頂部に仁王立ちし、あっしが見張るでヤンスと言いたいように周囲を見渡しだす。

 それを知ったオウショウザザミは安心したかのように脱力し、灼熱の日差しによって熱せられた体を冷やすべく、木陰で一休みするのだった。

 

 彼ら2匹が休んでいる場所はエリア1……そう、先ほどまでクカルとイリーダが居た場所だった。

 しかもブッチャーが現れたのは先ほどまでイリーダが潜ろうとしていた洞穴。もう少し遅かったら頭と頭がゴッツンコしていたことだろう。

 

 幸運か不運か、イリーダの方向音痴はオウショウザザミとブッチャーのコンビを避けたのである。

 そしてクカルとイリーダの目的は「ザボアザギル亜種とドスガレオスの狩猟」である。魚竜のキモも目当てだが。

 

 

 

 その目的である最初のターゲット・ザボアザギル亜種をエリア4で発見し、いざ対面しようと武器を身構える2人のハンター。

 ザボアザギル亜種はハンターの気配に気付き、試合開始のゴングであるかのように咆哮を轟かせるのだった。

 

 

 

 木陰でのんびりまったりしているオウショウザザミ・ブッチャーを差し置いて。

 

 

 

―続―

 




まんまおねショタみたいになっちゃったじゃないですか!(ぉ
そしてドスガレオスが犠牲になっちゃったじゃないですか!(ぇ

次回、ハンターVSザボア亜種!

それと、活動報告にて新しい投稿モノを記載しました(今更報告)

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