活動報告で皆さんの個性豊かなハンター達を見て妄想を膨らませております(笑)
ザボアザギル亜種の真価が発揮されるのは、やはり膨張状態だろう。
原種である化け鮫ザボアザギルも空気を取り込むことで体を膨張させる能力を持つが、亜種とは大きく違っている。
原種は空気を取り込んだとは思えないほどの超重量となり、跳ねるたびに氷海の氷を割るほどだ。
故に軽く跳ねるか転がるかしかできない程に鈍くなる上、膨張状態が解け空気が抜ける際に大きな隙を生じてしまう。
ところが亜種は、膨張状態こそが真の姿と言わんばかりに、通常状態と比べ物にならないぐらいの動きを見せる。
まず空を飛んだと思ったかのように高く跳びはね、やはり空気とは思えないぐらいに重いジャンププレスを仕掛けてくる。これが結構痛い。
さらに前はモチロン横にも転がる。不意討ちで横に転がった際に巻き添えを受けたハンターは年毎に上昇の勢いを辿っているとかなんとか。
しかも何度も跳ねられる。地面を割りながら、ボヨン、ボヨンと連続で跳ねてくる。これもかなり痛い。
極めつけはその頻度。これでもかと言わんばかりにコロコロ変わるし、瞬時に膨らみ瞬時に縮むと隙が少ないというオマケ付き。
亜種の放つ麻痺液がこれまた曲者で、膨張中に麻痺ったら終わったと思っても良いだろうしかも広範囲に麻痺液を撒き散らすし。
G級の亜種というだけあり、原種と似たり寄ったりだろうと甘く見たらダメだという良い例だ。ガララ亜種なんか肉質が違うし。
しかし、各地を旅し、多くの狩猟を経験してきたハンターなら対策は抜かりない。
その土地でしか生息しないモンスターは余所から来たハンターにとって初見そのもの。故に出来うる限りの対策は練るのが常識。
地形、その土地の生態系、対象モンスターの正確な情報など出来うる限りの情報集は基本として、様々な道具を用意しておくのも手だ。
多めの回復アイテムはモチロン、閃光玉、各種トラップ、もしもの場合のこやし玉やモドリ玉など、邪魔にならない程度に持ち歩く。
用意することに越したことなどない。生死を賭ける仕事と旅を前に、生き残れる為の準備を万全にしておくのは当然のことだと、放浪ハンター達は心得ている。
上位から上がったばかりとはいえ、各地を旅したというイリーダとクカルも、その1人だった。
実に20分もの間、ザボアザギル亜種の動きを見極めるべく、回避行動と防御行動を重視して霍乱してきた2人。
その動きや地形の把握も済んだ今、先に動き出したのはイリーダだった。
「よし、乗れました!」
段差を利用して跳躍し、的確にザボア亜種の背鰭を切りつけたことにより隙が生じ、その隙に背鰭にしがみ付く。
「ほな頼むでぇ!」
しがみ付かれたと知ったザボア亜種は抵抗の意を示すために暴れ出し、巻き添えを食らわぬようクカルは全速で離脱。
人間でも言えることだが、背面とは手が届きづらく、同時に視界に捉えづらい為に隙が生じやすい。
それはモンスターにも言えることで、昨今のハンターは段差などから飛び降りてモンスターの背に乗ろうとすることが多い。
モンスターの背にしがみ付き、本来なら武器とは使わない、しかし出し入れが簡単な剝ぎ取りナイフでザクザクと背を刺すのだ。
当然、モンスターは振り下ろそうと暴れまくり、時には咆哮で怯ませようとする。
だがイリーダも上位に入ってから乗り攻撃を覚え、その後は各地で様々なモンスターに乗ってきた。両生種特有の動きも覚えたので万全だ。
クカルが傷ついた体に回復薬を投じている中、イリーダは隙を見てザクザクと剝ぎ取りナイフで刺しまくり……。
「あ~れ~」
「よっしゃ、うちの出番や!」
大いに転げたザボア亜種から落ちて行くイリーダを余所に、回復し終えたクカルがハンマーを握る手に力を込めながら走る。
背中を刺されもがき苦しむ今のザボア亜種は絶好の的。意外と当てづらい頭部にハンマーの一撃をお見舞いしようとぶん回す。
その隙に今度はイリーダが回復に回ろうと回復薬を投じる。隙があるからといって飛び込むより、傷ついた体を癒し体力を整える方を優先したいからだ。
柄を握る両手と支える両腕に力を込め、強烈なハンマーの一撃をザボア亜種の頭部にお見舞いするクカル。
手応えはある。しかしその手に感じたのは、ゲリョスのような皮の弾力と、甲殻種のような頭蓋骨の硬さ。
上位級のそれらに匹敵するが故に頭を回すことなく、背の痛みと頭部への痛みにもがき苦しむだけ。流石はG級なだけあって耐久度とタフさは桁違いだ。
続けざまに連続で叩きつけている中、ザボア亜種は横転して起き上がる。ハンマータイムはこれまでのようだ。
ハンマーを納めて走る中、ザボア亜種はクカルとは逆方向へと歩いていったではないか。
走りつつもザボア亜種がどこへ行くかと振り向きながら見ると、ザボア亜種は身を捻りながら地中へ潜っていく。
事前に調べていたとはいえ初見なので、最初は原種のように地中から奇襲をかけるのかと身構えていたが、地中移動の際の振動は遠ざかっていくのが解る。
さらに、出会って当初に投げたペイントボールの臭気がココとは別の所から匂ってくる所からして……。
「ん、エリア移動したみたいやな」
「急ぎましょう、捕食して体力を回復させてしまうと面倒です」
「せやから、虎鮫が掘った穴から通ろうとするんやない!」
先ほどまでザボア亜種が掘った穴に入ろうとするイリーダの首根っこを掴み、ズルズル引きずってエリア移動するクカル。
食欲旺盛故に良い嗅覚を持つ鼻で臭気を辿り、ザボア亜種が移動したであろう洞窟へ繋がる入り口へと走る。イリーダを引きずって。
―クカルとイリーダが洞窟へ入っていき、ザボア亜種が居なくなったからとアプケロスが出てきた直後。
ボコリと地面が隆起し、地面を突き破って這い出てきたのはオウショウザザミ。体についた土を身震いして払い、周囲を見渡す。
今度はブッチャーも一緒だ。オウショウザザミが地中移動に居ても問題の無い、都合が良過ぎる隙間に入り込んでいた。
地中から出てきたキラキラ輝く甲殻種に驚いたアプケロスが威嚇するが、餌にするつもりだったのかオウショウザザミのクラブハンマーが命中。きゅうしょにあたった!
先ほどまで戦闘があったことなど知る由も無く、オウショウザザミは仕留めたばかりのアプケロスの肉を食べ始める。
隣ではブッチャーが器用にも火を起こし、ハンター達がお約束で歌う歌を鼻歌で歌いながら焼き始めた。チャチャブーが器用にしたってこれは……。
イリーダの方向音痴は思考や知覚だけの問題ではない。運も絡んでいるのだ。……しかし、それが必ず悪運だとは限らない。
確かにターゲットとしているモンスターが見つからないのなら悪いことだろう。見つけて狩るなりしなければ意味が無いからだ。
しかし彼はともかく、彼と共に狩猟へ出た者達は一部でしか知らないことがある―――乱入したモンスターも遠ざかるからだ。
自然界において絶対などない。それは2匹同時狩猟のクエストでありながら、受注した直後に別の地域から乱入してくるモンスターなど当たり前に居る。
イリーダはその乱入モンスター……特に乱入で最悪とされる、ラージャン、イビルジョー、そしてセルギアスにも遭遇したことはない。
故に。
―――
「そっちに行きました!追いかけましょう」
「ちょ、そっちやない、そっちは砂の滝やぁぁぁ!」
2人がザボア亜種を追いかけるべく洞窟から出れば、地中から現れたオウショウザザミが鉱石を求めて洞窟に入り。
―――
「クカルさーん、早く行きましょうよぉ」
「ちぃと待ちぃや……よし、魚竜のキモ、ゲットやでー!」
移動がてら小休憩にとヤシの木が茂る場所でガレオス数匹を狩り終えて移動すれば、後から来たオウショウザザミが剝ぎ取った直後のガレオス達を食べ始め。
―――
「お、流石は旦那やな。支給品が用意されとるで」
「ありがたいですね。持ち込めるだけ持ち込みましょう」
魚竜のキモを納品しようとベースキャンプへ戻れば、エリア1に出没したオウショウザザミが腹いっぱいだからと居眠りを始める。
ちなみにクカル達は砂漠の方へ移動した虎鮫を追いかけるべくエリア1とは反対方向へと走っていく。
まるでご都合主義の塊のようなすれ違いは、2人とオウショウザザミの出会いを阻害し続けていた。
これは幸運の方であろう。オウショウザザミは未知の未知。そんなモンスターが乱入したら2人とて危ういだろうから。
そして2人の幸運は、意外な形を迎える。
「ドスガレオス……ですね」
「うわぁエグいわぁ」
ガレオス達が泳ぐ砂漠のエリアにポツンと置かれたのは、ドスガレオスの死体であった。
既にヤオザミだけでなく、元リーダーであったことなど忘れたかのようにガレオス達が群がって死肉を貪っている。
その光景を遠くから眺めていたイリーダとクカルだが、呆然と眺めるイリーダに対し、クカルの表情は明るい。
「討伐対象がさっさとおっ死んでくれてラッキーや。せやけど、あれじゃ剝ぎ取りは無理やろぉなぁ」
「そういう問題じゃ」
「じゃどういう問題なんや?大方、虎鮫に食われてもうたんやろ。世の中弱肉強食が常やで」
彼女達は知らない。このドスガレオスを喰らったのが甲殻種であることなど。
そしてそれを知る由は無い―――何故なら。
―ザバァッ!
「……っ!?ザボアザギル!」
「真打登場っちゅーやつかぁ?」
すぐそこの地中から出没したザボアザギル亜種を前に、2人は素早く武器を構える。
死肉に群がっていた小型モンスター達が逃げ惑う中、ザボアザギル亜種は2人のハンターに向けて咆哮を轟かせるのだった。
―続く―
オウショウザザミがすっかり空気(笑)