ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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日頃からコツコツ書かないとこうなる。


第59話「ドンドルマの現状」

 今のドンドルマは危機的状況に置かれている。

 

 唐突かもしれないが、大地と緑が広がり、風が吹き、火山が滾るこの大自然では唐突な出来事など幾らでもあり、些細なことだ。

 そんな些細なことですら人間にとっては時に脅威ではあるし、大自然は時に生物という形で牙を向くことだってある。

 人が暮らす場所ならどこでも言えることで、険しい山脈に守られた大都市ドンドルマも例外ではない。

 

 現にドンドルマは、先日のモンスター襲来により街全体の機能が低下しつつあった。

 修復作業に出歩く人、本店が崩れたので仕方なく出店を開く人、そして治安維持に励む警備員と悪い意味も兼ねた賑わいであった。

 とはいえ街が半壊したにも関わらずこれだけの人々が広場に募っているのは、それだけ街を愛しており、人々の為に復興しようと活気になっている証拠か。

 

 だが緊急事態には違いなく、世界各地から様々な人々がドンドルマの危機に駆けつけている。

 ドンドルマの頂点たる大老殿から各地へ依頼を発注し人手が増えつつあるが、中には街の復興を手伝おうと自ら足を運ぶ者も多い。

 各地から物資を届けに来た商人。バルバレギルドに許可を貰い遠征しに来たハンター。遥々ロックラックからやってきた商人とハンターなど。

 

―そして筆頭ハンター率いる筆頭チーム、彼らから頼まれドンドルマに駆けつけた【我らの団】もそうだった。

 

 

 

―――

 

 ドンドルマの緊急事態に応じてくれた【我らの団】を迎えた筆頭ハンターは、今日改めて例の事実を知った。

 【我らの団】主力ハンターのジグエが、腕を失った事を理由にハンターを引退したという事実を。

 

「……聞いていたとはいえ、いざ見ると心を痛めますね」

 

 ドンドルマの広場の片隅に停められたキャラバンの傍で、片腕を失ったジグエの姿を見た筆頭ハンターが顔を顰める。

 本当に心を痛めているかのように苦しげな表情を浮かべる筆頭ハンターだが、肝心のジグエは軽く笑いながら彼の傍に立つ。

 

「ほっほっほ、心配は要らぬよ筆頭君。お前さんも元気を出さんかい」

 

 そういってバシバシと乱暴に片腕で背を叩かれた筆頭ハンターは苦笑いを浮かべるばかり。ほっとしたようで困ったような微妙な心境らしい。

 筆頭ハンターにとって【我らの団】は、大きな貸しがある事を抜きにしても、ぶっきらぼうな自分でも快く受け入れてくれる良い有人だと思っている。

 特に明るさと厳格さを併せ持つジグエは自分の事を息子のように接してくれる為、会う度に心を落ち着かせてくれる。同時に頭の上がらない人でもあるが。

 

 まぁジグエに関しては置いておこう。問題は今後の【我らの団】の活動内容だ。

 ここでようやく【我らの団】団長が会話に混ざる事となる。団長もドンドルマの事態を重く受け止めており、表情は真剣だ。

 

「ジグエ、いや教官殿が狩猟に出られない事は解ってくれたと思う。ビスカも先日ようやく上位入りし、新入りのハンターも増えたのはいいが……」

 

「……問題はG級ではない事だな」

 

 団長の言葉を【我らの団】鍛冶職人が繋げる。

 

 現在のドンドルマがすべきことは、全部で4つある。

 1つ目はドンドルマの復興に必要な物資を仕入れる事。これは近隣の地域に限らず遠い場所―ロックラックやバルバレなど―から輸入される。

 2つ目はドンドルマにモンスターの侵入を許さない事。上記の輸出品護衛も含め、必要があれば周辺を荒らすモンスターを狩る必要が出るだろう。

 3つ目はドンドルマの補強。復興だけでも忙しいのに、大老殿は【戦闘街】の強化も狙っている。これには理由があるのだが、【我らの団】を含めた一部しか知られていないので省くとする。

 材料集めや護衛などモンスターの狩猟も含まれる為、【我らの団】教官ことジグエのスパルタ訓練を受けたビスカを貸すことが出来るだろう。

 

 そして4つ目の内容。これがG級ハンターの居ない【我らの団】にとっての痛手であった。

 

「G級モンスターの影ありっていうのは痛いな」

 

 そう―――ドンドルマ周辺でG級モンスターの存在が確認されたのである。

 

 ドンドルマとバルバレの調査によると、旧砂漠のザボアザギル亜種を始め、バルバレで確認・研究された新種モンスターの亜種が各地に点在しているという。

 いずれも長年生き延び新たな力を得た末にG級の世界へ突入しており、亜種と断言されるモンスターが多数確認されている。

 

 原種以上のパワーを持つ爆弾魔・荒鬼蛙(アラオニガエル)テツカブラ亜種。

 空中性能と耳の硬度が上昇した軽業師・白猿狐(ハクエンコ)ケチャワチャ亜種。

 鎧を纏わなくなった代わりに膨張能力が異常に強化された虎鮫(トラザメ)ザボアザギル亜種。

 

 これらの他にも亜種が存在しており、いずれもG1級、G2級の実力を備えていると調査結果で明らかになっている。

 さらに亜種に限らず原種のG級も確認されており、最近の調査ではリオレウスやジンオウガなどの姿も確認されたらしい。

 飽くまで目撃情報だけで詳しい調査結果は明らかになっていないが、いずれにしてもG級ハンターの助けが必要になるだろう。

 

 だが筆頭ハンターをはじめ、ドンドルマが頭を抱えている問題が1つあった。それが……。

 

「現在ドンドルマに滞在しているG級ハンターでは数が足りないのが現状だ。もし上位クエストに紛れ込んだりしたら大変なことになる」

 

「しかもオウショウザザミの姿もあると来た。泣きっ面にランゴスタって奴かね」

 

 筆頭ハンターに引き続き、いつもは明るい【我らの団】団長ですら重い溜息を吐いてしまう。

 

 オウショウザザミ。【我らの団】及びクックラブトリオの報告で明らかになった甲殻種モンスター。

 荒武者(アラムシャ)鬼武者(オニムシャ)、そして王将(オウショウ)と次々に名と形が変貌することから「進化し続ける宝物」とギルド内で囁かれている。

 そんな蟹がドンドルマ近隣で目撃されたという情報を聞き、ドンドルマはコレだけで様々な問題が生じるだろうと頭を悩ませていた。

 

 その甲殻は希少そのもので、脱皮した殻の大半を入手したクックラブトリオが半数近くを売り払った所、物凄い金額で取引されたとも聞く。

 めでたくG級ハンターになった彼ら3人を尻目に、世間はオニムシャザザミ―正確にはオウショウザザミだが―の素材に目を付けるようになった。

 ハンターはもちろん商人もザザミの素材を狙うようになり、ギルド暗部では闇商人や裏社会出身ハンターの取締や暗殺が絶えなくなった。

 

 つまり、オウショウザザミを狙った密猟者や密猟ハンターが挙ってドンドルマに集う可能性が出てくる。

 もちろん密猟者が返り討ちに合うのはどうでもいい。許可なく挑んで死にましたと言われても、それは自業自得だろう。

 問題なのはオウショウザザミに刺激を与えて暴れさせてしまう事と、現状のドンドルマに密猟者が募って治安が悪化することだ。

 さらに言えばオウショウザザミは世界に1匹しか確認されていない特別な甲殻種だ。そんなモンスターが仮に密猟者に狩猟されてしまった場合、素材は根こそぎ奪われることだろう。

 その為ギルドは、オウショウザザミと密猟者の動きを同時に観察しなければならない。必要あればオウショウザザミを撃退し、悪事を働く密猟者を即成敗するのだ。

 

 すなわちドンドルマは、半壊した街を復興及び強化し、治安維持を徹底し、とあるモンスターの襲来に備え、オウショウザザミを観察し、街中の密猟者を取り締まる必要がある。

 

 ……ぶっちゃけ忙しいにも程があるだろう。大長老が過労で倒れなければいいのだが。

 

 4名はそんな現状に頭を悩ませて唸り、傍から見ていた看板娘がお茶を入れようと料理長に話を持ちかけた所。

 

「ハンタ……教官さーん!お客さんだよー!」

 

 明るく元気な声に一同が振り向けば、こちらへ走ってくる鍛冶屋の娘と、後ろに続くようにして歩く3人の人影があった。

 

 

 

―――

 

「話は聞かせてもらいましたわ」

 

 せっかくだからと看板娘から受け取った茶を飲み干し、クカルはそれをトンと卓上に置く。

 

 クカル・イリーダ・ランボルが聞いた話は、オウショウザザミについての情報とドンドルマの現状。ハンターと商人にとっては無視できない話だった。

 筆頭ハンターにとっても有益な情報を得る事が出来た。何しろ、2人のハンターはつい先ほど旧砂漠でオウショウザザミを目撃したというのだから。

 しかしそれで終わりではない。経験と人脈が豊富なクカルと、ロックラックとドンドルマに詳しいランボルは一計を案じた。

 

「よーするにG級の人材が足りんゆうんやろ?うちの知り合いに何人かおるさかい呼んでみますわ」

 

「私の方からも知人に声を掛けてみるよ。元々復興作業を手伝う為に来たようなものだし、追加の食料を取りに行くついでに連れて来よう」

 

 要するに人手が少し増えるかもしれない程度だが、それでもいないよりはマシだろう。

 陽気で人柄の良いクカルと大陸を渡る豪商である彼は良質なハンターと多く知り合っている為、一声掻ければある程度は来てくれるはずだ。

 本来なら真面目な筆頭ハンターとしては色々と言いたい事があるが、ドンドルマの現状と自身の人脈の無さを考え、甘えることにする。

 

「来て早々すまないな。世話になる」

 

「お堅い事言わんでええで~。全部片付けるまで仲良ぉしようや、筆頭はん」

 

「ひ、筆頭はん……」

 

 真面目ではあるが、片方は堅物で片方は陽気。この先この女ハンターを相手にやっていけるのかと、ある種の不安が過ぎってしまう。

 ランボルはといえば、さっそく竜人商人と料理長のコンビと仲良くやっている。グルメな商人として通じる何かがあるのだろうか。

 

 一方のイリーダはといえば。

 

「そ、そんなに凄い蟹なんですか!?」

 

「そうじゃ。この失った片腕が証拠じゃぞい」

 

 ジグエが対峙したという、イリーダが持つ綺麗な欠片の持ち主であるオウショウザザミの逸話を聞かされていた。

 驚愕と期待で煌く眼を持ってイリーダは興味津々とばかりに話に食い込み、隣では今まで聞かされていなかった蟹の生態を知り興奮する看板娘と鍛冶屋の娘がいる。

 そしてジグエは堂々と語る。オウショウザザミの恐ろしさを。

 

 

 

 

「背中の殻から反射光をばら撒き、鋏からは摩擦によって発生した雷電を放ち、時には電気で熱せられた高温の鋏で殴り殺し、特殊な体液で周囲の地面を一気に冷やして氷付けにし、極めつけは口から吹き出る水で空を飛ぶのじゃあ!」

 

「ナニソレ本当に蟹ですか!?」

 

「凄い!凄いよオウショウザザミ!流石は王様の蟹だね!」

 

「是非ともスケッチしてみたいですね!教官さん、今度連れて行ってくれませんか?」

 

「ダメニャこりゃ」

 

 

 

 ジグエのオトモアイルー・トラは最近になって知った。ジグエは意外にもホラ話が好きなのだと。

 

 

 

―続―




ジグエさんはハンターを辞めてから茶目っ気が増えました。クックラブトリオほどではないですが(笑)

この作品ではMH4Gのソロストーリーを主軸にG級クエストが発注される設定です。
ソロでのクエストは【我らの団】ビスカと新入り(後日登場予定)が、G級クエストはイリーダ達を中心に動きます。
なので今後はストーリーを織り交ぜつつ、活動報告で上げられたハンター達をポツポツ出す予定です。

更新は本編を中心にする為、番外編であるデルシオンは遅めになります。すみません。

それではまた次回おあいしましょう。

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