ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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 やはりにじファン時代から見ていたという方も多く、凄くありがたいです。

 10/31:文章修正(段落付け・文章一部改定など)


第7話「暴君と荒武者」

 今、重低音が砂漠中に響き渡った。

 

 金槌などといった鈍器で金属の塊を打ち付けたかのような金属音。

 相当大きな者同士が衝突しなければ生じないほどの大音量が、一体どこから発しているというのか。

 その答えは、ジャギィシリーズで身を固めた女ハンター・アザナが持つ双眼鏡で目撃できた。

 

―鎧蟹と角竜が激突している。

 

 一方は噂のアラムシャザザミ。その分厚い鋏を合わせて盾にし、防御体勢を取っている。

 そんなアラムシャザザミに挑んでいるのは、「砂漠の暴君」の二つ名を持つ飛竜―ディアブロス。

 ボルボロス以上のパワーを持つ竜が全速力でアラムシャザザミにぶつかった結果、先ほどのような衝突音が響いたのだ。

 

 かつてハンターとして初めてアラムシャザザミを目撃したアザナ。そんな彼女だが、あの時から今まで、アラムシャザザミを目撃することができなかった。

 しかし今日は、当初以上に貴重な様子をその眼で見ることができたのだ。

 

 それが、一方的ではない、明らかな闘争心を持って挑むアラムシャザザミの姿だ。

 加えて、彼女の故郷では強豪と噂されているディアブロスを、この地で初めて見ることができた。

 砂漠の暴君と荒武者の戦い。ハンターとして観戦……いや観察しない手は無い。

 食いつくように双眼鏡で観戦しているハンターの存在など気づくこともなく、二頭は争い続けていた。

 

 ディアブロスはこの地の縄張りを確保する為、1番の邪魔者であるアラムシャザザミを倒そうとしている。

 だがアラムシャザザミはそんな縄張り意識はなく、むしろ一方的に攻撃されているから反撃しているに過ぎない。

 

 なによりも、これほどまでに高い攻撃力と生命力を持つ生物を相手にすること自体、アラムシャザザミは初めてだった。

 いくら甲殻に大量の鉱石が含んでいるとはいえ、よくてカブレライト鉱石。限度というものがある。

 アラムシャザザミの硬度と重量を上回るほどのパワーが、このディアブロスにはある。

 

 かといって、ディアブロスもこれほどまでに強固な相手を知らなかった。若くも暴君の名に恥じない凶暴さとパワーは、今まで多くの飛竜を返り討ちにしてきた。

 決して世間を嘗めているわけではなく、単純に豊富な戦闘経験とそれに似合う勝利の数から得た事実だ。

 ダイミョウザザミですら突き飛ばした経験もある彼だが、アラムシャザザミは別格だった。

 

 

 

 世界は広い。各々が自身を強者だと思っていても、それは自惚れでしかないと諭されるほどに。

 巡りあってしまえば、嫌でも互いの力を知り、己よりも上が居ると思い知らされる。それが野生の世界だ。

 

 

 

 接近戦に持ち込んだディアブロスだが、アラムシャザザミは鋏で角の行く先を塞ぎ、刺されまいと防御する。

 するとディアブロスは、角を地面に突き立てたかと思えば、アラムシャザザミを下から掬い上げるようにして頭を上げる。

 両足に踏ん張りを入れ、若干だがジタバタともがくアラムシャザザミを持ち上げることに成功した。

 

 このままではひっくり返ってしまうが、鋏は空振りするし、水ブレスは一直線に飛ぶので当たらない。

 そこでアラムシャザザミは、体内に含まれている麻痺毒を霧状にして噴霧。周囲を黄色い霧で覆った。

 

 短時間だったうえに一定量を吸わなければ効果が出ないとはいえ、ディアブロスは若干吸っただけで麻痺毒に気づいたようだ。

 濃霧の危険性に気づいたディアブロスは持ち上げを中止し、すぐさま地中へと退避する。

 

 麻痺の霧で難を凌いだアラムシャザザミだが、地中へ潜った音を察知した以上は安心しきれない。ディアブロスほど早くはないが、こちらも急いで地中へと潜り込む。

 黄色い濃霧が晴れた頃には、二匹の姿は無い。だが地中を潜る音が周囲に響き渡っている以上、出てくるのは時間の問題だろう。

 

―今、地中で鈍い音が響き、地面が一部膨れ上がった。

 

 どうやら地中でディアブロスとアラムシャザザミが衝突したらしい。

 ディアブロスのパワーとアラムシャザザミの重量、そして互いの潜行速度が合わさることで、地震のような衝撃が周囲を襲う。

 その激突の余波は凄まじく、遠くから見ているアザナにも若干の揺れを感じさせるほどだ。

 

 やがて地中からアラムシャザザミが這い出て……というよりは投げ飛ばされた。

 緩やかな軌道を描いて地面に激突するアラムシャザザミだが、幸いにもすぐに起き上がることができた。

 しかし僅かな隙をも見逃すまいと、ディアブロスが勢いよく地中から現れ、そのまま体当たりを仕掛ける。

 完全に体勢を立て直したアラムシャザザミだが、この状態で霧を放ってもぶつかるだけだ。

ならばと両の鋏を広げ、ディアブロスの頭部に生える角を鋏で挟み、動きを封じ込める。

 

 しかしさすがはディアブロス。鋏で頭部を押さえつけられていても、じりじりと押していく。

 そのパワーを受け止めるだけの力をアラムシャザザミは有していたが、このままでは力負けしてしまう。

 ディアブロスは角を挟む鋏を振り払おうと頭を振るうが、アラムシャザザミの鋏は離れない。

 もはや体当たりを仕掛けていたことなど忘れ、力強く首を振ってアラムシャザザミの鋏を振り払おうとし……。

 

―ボギンと、嫌な音が鳴った。

 

 ついにアラムシャザザミの強力な鋏がディアブロスの立派な角をへし折ったのである。

 それにより頭を振るってアラムシャザザミを振り払うことができたものの、ディアブロスは気が気でない。

 地面に刺さった己の角を見るなり、ディアブロスは怒りの余り黒い吐息を吐き出し、強烈な咆哮を上げる。

 高周波にも耐性を持っているはずのアラムシャザザミだが、咆哮の前で後退りしてしまう。その様子は、まるで角を折ってしまったことに対して罪悪感を抱いているかのようだった。

 

 

 

 太陽が地平線の彼方へと沈んでいき、月が浮かぶ頃。夕焼けを通り越して星が映える夜空が広がり、生き物達を眠りへと誘う。

 だが例外もある。夜行性の生き物と、この二頭の存在だ。

 

 荒い呼吸を繰り返す、片角のディアブロス。ぐったりしている、傷だらけのアラムシャザザミ。

 時間ギリギリまで観察していたアザナが帰った後もぶつかり合いを続けていた二頭は、いつしか互いに傷だらけになり、睨み合う程度に留まっていた。

 ディアブロスはアラムシャザザミが放つ様々な毒で疲労が溜まり、アラムシャザザミは空腹で体力切れを起こしていた。

 それでも互いに睨み合っているのは、隙を見せたらやられると思っているからだろうか。

 

 しかしいつしか夜になったと気づけば、さすがに諦めるべきだと悟ったようだ。

 まずはディアブロスがアラムシャザザミに向けて軽く吠えると、背を向けてゆっくりと歩き出す。

 それに続くようにして、アラムシャザザミもゆっくりとした動きで地中へと潜っていった。

 

 この勝負は引き分け、という結論に達したのだろう。

 いずれ雌雄を決めなければならない戦いだが、彼らは死ぬまで戦い抜くようなバカではないし、体力もない。

 生き残る為には諦めが必要な時もあると彼らは理解している。だからこそ、退くという選択肢を選んだのだ。

 

 そして、今回でお分かりいただけただろうか?

 世の中には強い者が確かに存在する。それは弱肉強食の世界では当たり前の事だ。

 チート並に硬いアラムシャザザミでも、現時点では若いディアブロスと互角に戦えるレベル。

 このディアブロスが後に「ユクモのマ王」と呼ばれる程の逸材だったとしても、それは未来の話だ。

 上には上がいるのだ。それはアラムシャザザミも、若きディアブロスも同じ。

 頂点はまだまだ先にある。それを目指す為に、彼らモンスター達は日々成長を繰り返さなければならない。

 

―それが、モンスターにとっての「生きる意味」なのだから。

 

 

 

 余談だが、この日を境に、砂漠での頂点はアラムシャザザミとディアブロスとなった。

 しかし好戦的で誇り高いディアブロスはそれを許さず、何度かアラムシャザザミに戦いを挑むようになった。

 とはいえ、今回のような生死を分けた戦いではなく、ディアブロスの一方的な喧嘩程度に収まってはいるが。

 それでもアラムシャザザミにとっては迷惑でしかなく、良くて逃げて、悪ければ喧嘩に付き合う他なかった。

 二匹の頂上決戦は頻繁に行っており、運よくお目にかかれるハンターが多くなったとか。

 

 

 

 

 

 一方、ユクモ村のとあるハンターギルドでは。

 

 先ほどお偉い方にディアブロスとアラムシャザザミの戦闘を報告し終えたアザナ。

 彼女は、最近になって出てきたという温泉に身を浸らせながら、ぼーっと夜空を眺めていた。

 憎き湯煙が彼女の裸体や水面に浮かぶモノを見る権利を邪魔するが、当人はそれどころではなかった。

 

 彼女の頭の中では、今日の争いが鮮明にリプレイされていた。

 重量級がぶつかり合い、広範囲かつ多種類の猛毒、それに耐える角竜、突進を受け止めた鎧蟹。

 かつて彼女の父が聞かせてくれた老山龍との戦いよりもスケールは小さいが、それ以上に迫力があった。

 現在の彼女が戦える相手といえば、精々ボルボロス程度。あの領域には到底及ばない。

 ユクモ村で一番強いと噂される、ナルガクルガを討伐した経歴を持つハンターにだって、あの二匹に勝てるかどうか……。

 そもそもこの地は未だ解明しきれていない。それこそ、あの二匹を超える古龍種も存在している可能性だってある。

 

―強くなりたい。そして戦ってみたい。

 

 父譲りの闘争本能と好戦的な性格は、彼女の向上心と野心を掻き立てていた。

 震える身体を抑え、あの二匹の戦いを間近で見たいと思った自分を抑制できたのが奇跡にも思えてきた。

 あの域に到達するには、より強い素材を手に入れ、技を磨き、心身を鍛えなければ。

 長い先に目標を築きあげたハンターの成長は凄まじい。それは夢の大きさに比例する。

 挫折も多くなるだろう。だが彼女の眼には、まだ見ぬモンスターと戦う自分の姿が見えていた。

 

 

 

―モンスターも成長するように、人間も成長していく。

 

 

 

―いずれ、互いがぶつかり合うことを想定して……。

 

 

 

 

 

 ちなみに、このユクモ村の温泉は混浴である。いくらタオルで巻いているとはいえ、そのナイスバディな流体線は隠し切れない。

 いつのまにか入ってきた男数人がこちらを見ていることに気づいたアザナは、恥ずかしさのあまりリオレウスの咆哮にも負けないほどの絶叫を上げたそうな。

 

 

 

―完―




 ……そしてその拍子に、布が(ry

 ……すみません、ユクモ温泉で一度でもいいからやってみたいネタだったので(汗)
 消去依頼が1件でも出たら消去する次第でございます(土下座)

 そんなこんなでディアブロス戦。いかがでしたか?
 アンケートで初めてマ王の存在を知りましたが、どんなものなんでしょうかね?

 そして今回のテーマは「チートのようでチートでないことの証明」です。
 この作品では、よくある「最初からチート」ではなく、「徐々にチート化」を目指しています。
 今回のディアブロス戦で、世界にはまだまだ強豪がいる、ということをアピールしたかったんです。
 目指せシェンガオレンサイズを目標とし、のんびりとした日々を描いていきます。
 ですので、どうか今後も末永く見守っていただけると光栄です。

 次回からはより強化を目指します。またお会いしましょう!

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