まぁ私はやっていないんだけど(ぇ)
彼らは思う。自分達は何故このような事をしているのだろうか、と。
何をしているのか、という事は解っている。解らないのは、そこに至るまでの過程だ。
刀蟹ツジギリギザミと対峙した時からか?
ギルドナイトに捕まり、密猟の罪を軽くするから依頼を受けろと命じられた時からか?
セルレギオスに遭遇し、撤退していたギルドナイトに見つかった時からか?
オウショウザザミを先に発見したハンター達を妨害せず、さっさと逃げなかった時か?
オウショウザザミを金儲けに利用できないかと企み、ドンドルマに潜り込んだ時からか?
それら数多もの過程と要因が走馬灯のように脳裏に巡り、やがて彼ら一同は一つの真理を見出す。
その心理には気づいてはいけないし、気づいても意味はないのだが、彼は叫ばずにはいられない。
「密猟ハンターなんてやるんじゃなかったッスー!」
グラビドXシリーズを纏った小太りな男・ドドは、分厚く大きな木製の扉にしがみつきながら泣き叫び。
「ええい喚くんじゃねぇ見つかるだろ!ていうかいい加減ダイエットしやがれドド!」
巨大な門を登り終え塀の上に立ったレウスXシリーズの男・レガッダは、ドドの胴体に巻かれたロープを引き上げている。
「いいから登りな!ヤツが来る前に登り切っちまえばこっちのもんだ!」
それでも重いドドの無駄にデカいケツを押し上げているのは、レイアXシリーズを着込んだ美丈夫・カラン。
「早くしろ早く!来てる来てるって!」
恐らくは一番先に登り見張り役を気絶させたであろう、ガララXシリーズを着た狡賢そうな男・ギギレは彼方を見張りながら叫ぶ。
双眼鏡越しに見える景色には、解り易い程に刃の鋏を振り回すツジギリギザミと、その前を走る荷台車。
荷台車はどうでもいい。問題はツジギリギザミだ。真っ直ぐと此方―ドンドルマに向かってきている。
密猟者のギギレ達とて、自然の恩恵に預かり、弱肉強食の世界を生き抜くハンターだ。
さらに密猟という法に反する悪事を働く以上、並のハンターとは違った、しかし一歩誤れば凄惨な最期を迎える危険な生き方をしてきた。
ギルドナイトに見つかりかけた危機感は古龍種と遭遇した時に似ているし、幾度のピンチや逆境も味わってきた。身の丈に合わない恐ろしいモンスターにも何度も遭遇した。
だがアレは別物だ。元の強さや狂竜化の影響など関係ない。
今まで味わったことのない殺意と鋭すぎる爪を向けられた一同だからこそ解る、心を折るどころか真っ二つにするような重圧。
故に逃げの姿勢。クシャルダオラが居ても関係ない。とにかく逃げ込める先が欲しいから。
「一度ドンドルマに入り込めばこっちのもんだ!仮にヤツが乗り込もうが関係ねぇ、入り組んだ地形なら逃げ切れらぁ!」
「んなこと言っている暇あったら手伝え!ドドいい加減痩せろよ!」
「だってぇ~」
泣き言を言うドドを必死に引き上げているレガッダが怒鳴り、ギギレは慌てて手伝いに入る。
「おう、手伝おうか!」
「おおありがとよ―――へぶっ!?」
背後に掛けられた声に助かったと振り向くレガッダに顔面パンチ!
「レガッダ!?」
ギギレは突然の出来事に思考が追い付けず、しかもレガッダが気絶した事でロープの重みが増加。
思わず手を離しそうになって踏ん張るも、ギギレ一人ではドドを落とさずにいるのがやっとだ。
そして踏ん張った状態で振り向く先には。
「すまないな!こうしないと暴れられそうだったんでな!」
ウェスタンハットが似合うダンディな男と、無言で指をペキペキと鳴らす巨漢の竜人族。
何が起こったと下から二名の声が響くが、見るからに強そうな巨漢を前にしたギギレはそれどころではなく。
(あ、これ詰んだな……)
口角をヒクつかせて、自分達は逃げ場を無くしたのだと自覚したのだった。予想していたとはいえ、こうも早く結果が出ると悲しくなるものである。
―――
一方、密猟ハンターとは違って腹を括ったハンターが2人いる。
ツジギリギザミの猛攻をギリギリの所で掻い潜っている、イリーダとクカルだ。
2人をドンドルマ前に下した後にアイルーとガーグァを逃がし、ツジギリギザミを引き寄せる役を買って出たのである。
強い風と強かに打ち付ける雨を全身に浴びながら、雨水が染みて滑りやすくなっている大地をしかと踏みしめ体を動かす。
一歩でも間違えれば転倒、ほんの些細な不運で目に雨水が入り一瞬だけ視界が悪くなることもあろう。
だが2人には余裕も余念も与えられない。縦横無尽に駆け巡り、一瞬の油断ですら考慮して動き続けなければならなかった。
そうしないと、ツジギリギザミの猛攻を回避することはできないから。
元々ショウグンギザミは長いリーチを活かした素早くて広い攻撃と、4脚故の高めの機動力を有している。
加えてツジギリギザミの攻撃性は群を抜いて高く、一刀一刀が振られる速度と威力は桁違い。
さらに嫌なオマケとして、凶竜化による我武者羅めいた攻撃はイリーダとクカルを鎧ごと刈り取らんと迫りくる。
死にそうな思いを連続で体感しながらも、イリーダとクカルは悪態をつく事なく回避を続けている……悪態をつく暇もないのだが。
2人にとって一番の危惧にして恐怖する事は、己の命が尽きる時であり……人類の拠点が奪われることだ。
ドンドルマは人類の要の1つだ。この街は人々の暮らしを守る砦であり、全ての駆け出しハンターが夢見る聖地でもある。
そんなドンドルマを……これまで多くの人々と英雄が守ってきた歴史ある街を壊されてなるものか。
クシャルダオラという脅威を前に別のハンター達が戦ってくれているというのに、横やりを入れられてなるものか。
そんな思いがイリーダとクカルの恐怖心を抑え込み、されど避け続けるという緊張感を保ちつつ、刀蟹を前にするという選択を選んだ。
おかげでドンドルマ前ではあるが、ツジギリギザミの対象は2人のハンターに目が行っている。
眼前で敵がチョコマカと動いていて鬱陶しいのか、それとも未だ命を狩れない事への苛立ちか、一心不乱に刀を振り回す。
だがクカルとイリーダは人間だ。嵐の中、強烈な殺意と攻撃を避け続けるだけの緊張感と体力が持ちそうにない。
雨水に交じって汗が流れ、息切れが風音に搔き消される。傷はつかねど心身は確実にすり減っていく。
そしてツジギリギザミから距離を取った途端……。
―ドゴンッ!
高所から突如としてオウショウザザミが落下し、1匹と2人の間の地面にめり込んだ。
何故か知らないが、背中にメラルー数匹とチャチャブーを乗せて……。
「お、親方!空からオウショウザザミが!」
展開に物凄く悩んだので、こういう形とさせてもらいました。
誤字訂正などありましたら宜しくお願いします。いつも投稿前に確認とかしてるんですがね(汗
そしていつも誤字報告及び訂正、本当にありがとうございます(礼