オウショウザザミという甲殻種モンスターが、この世には存在している。
この世は様々なモンスターが跋扈している。各地の環境に合わせた生態系を築き、そこに大小様々なモンスターが集う事で食物連鎖が発し、自然の一部として食う食われるの弱肉強食の世界が繰り広げられる。
そんなモンスターも多種多様な種が居るが、そこから更なる進化を経たモンスターも少なくない。ある物は別の環境に適応した「亜種」として。ある物は強大な力を得て限られた地域に生息する「希少種」として。ある物は別大陸に進出した「遷悠種」として。逆に現存するモンスターの祖先である「始種」という存在も確認されている。
その中の1つとして、短期間で環境に適応し姿を変えた「変異種」というものがある。オウショウザザミもそれに分類されており、当時甲殻種の存在が確認されていない時期の孤島に流れ着いたヤオザミが、突然変異によって今の姿になったと言われている。
各地のギルドの情報を照らし合した結果、オウショウザザミの歴史は長いという訳ではなく、しかし波乱に満ちた生態であった。
ヤオザミの頃には既に突然変異が生じ、食した鉱石類を己の甲殻に混ぜ込むという性質を手にしていた。
幼少時から高い防御力を有していたヤオザミはドスジャギィの群れに襲われても平然と過ごし、日々色々な物を食べながら孤島に暮らし、火竜夫婦が到来した頃には新しいヤドを求めて別の地域へと旅立った。
ヤオザミとダイミョウザザミの中間である「ブシザミ」の頃は、硬いヤドを求めて砂原に出現し、ボルボロスの頭蓋骨を手に入れた。
この頃からは食した毒物を体内に蓄積、敵を撃退する術を得ており、それを用いて潜口竜を倒した。この時から、今では名高き商いメラルー「青毛」の冒険が始まったとされている。
鋼色の盾蟹となった「鎧蟹アラムシャザザミ」からは苦難の連続だった。「ユクモのマ王」ことディアブロスの若き頃からの宿命のライバルだったらしく、片方の角を折られてからは毎度の如く角竜に喧嘩を売られていたらしい。
しかし様々な鉱石を食らっては外殻を強化してきたアラムシャザザミはディアブロスの猛攻に耐えてきた。その攻防は長らくユクモ地域を震撼させてきたが、あるメラルーの策略によって鎧蟹は砂原を去った。
火山地帯の良質な鉱石を食した事、そして自然の恵みが豊富な島「楽土」の発見により、鎧蟹の防御力は益々強化され「鬼鉄蟹オニムシャザザミ」へと変貌。とあるハンター達に撃退されるまでの間、楽土の支配者として君臨していた。
また火山地域に多く発掘される護石関連を大量に摂取したことで、相手に護石を付着させ様々なスキルを付与する新たな状態異常「護石やられ」という荒技を生み出したが、多くの炭鉱夫ハンターの憎しみを買ったそうな。
その他にも、奇面族の子供がついてきたり、メゼポルタの脅威を知ったり、狂竜化したりと色々な騒動に巻き込まれてきた。
そして現在の最終形態、天廻龍シャガルマガラと対峙した事で弱点の背部を改善した虹色の蟹「冠蟹オウショウザザミ」へと変貌。その稀少性と珍しい鉱石を排出する体質により、ドンドルマの悩みの種としてバルバレ管轄の地域を騒がせることとなった。
しかし最終的にはダイミョウザザミ亜種と結ばれ、その後の行く先をアイルー達に探らせており、現在も調査隊アイルーとザザミ夫婦の追いかけっこが続いている。
このように、オウショウザザミの人生はとても濃ゆい物だった。ここだけでは語れぬ記録は多々あり、たった一匹の甲殻種は多くの人々に影響を与え続けてきた。
例えば、鎧蟹の頃から追い続けてきた男女2人。常に上を目指した求道者であったが、最後にはハンター夫婦として共に暮らす事となった。
例えば、鬼鉄蟹と奇面族を行動を共にしたとある王女。遠い未来、ワガママな彼女は王族でありながら伝説の蟹を求めハンターとなって旅に出る。
例えば、鬼鉄蟹の素晴らしく頑丈な甲殻に魅了されたハンター。彼は「世界一硬い防具」の為にオウショウザザミを追うべく、日々鍛冶職人及びハンターとしての鍛錬を続けている。
例えば、冠蟹の甲殻のカケラを手にした老人ハンター。年老いた彼は身を焦がす冒険心をカケラと共に、仲間である幼き鍛冶屋の娘に託した。
例えば、冠蟹と敵対した刀蟹の切っ先を手にした若きハンター。同じく世界に一匹しか居なかった甲殻種の素材を内密で手にした彼と、その素材の行方は今も解っていない。
その影響力は今もなお世界中に轟いており、その高硬度の甲殻が採掘可能ということもあって、各地のハンターとギルドが冠蟹を追い続けている。中には密猟者も入っている為、対処に追われるギルドの仕事は増える一方だとか。
最近では天外魔境と名高きメゼポルタ地方も目を光らせているらしい。刀蟹の素材があまりにも優秀で鍛冶し甲斐があったのか、同じく世界に一匹しかいない甲殻種であるオウショウザザミに注目しているらしい。
多くの注目を集める中、オウショウザザミは各地を巡りながらのんびりと暮らしている。
だが敢えて言おう。これがダイミョウザザミ変異種の生態なのだと。
オウショウザザミは、のんびり屋でマイペースで、危機が迫れば臆病になり即座に逃げる。これも弱肉強食で生き抜ける一つの性質である。
オウショウザザミの人生は波乱万丈で、それでいてノンビリとした不思議な生態。数多くの厄介ごとを耐えきり、彼は今日も食事を求め大地を歩むのだ。
―――
長き旅路だった。この道中にも様々な出来事が起こった。ジェット噴射する古龍種に掴まって蟹が空の旅をすると誰が予想できるだろうか。
だが彼は辿り着いたのだ。己のルーツである、ユクモ地方の砂原地域に。
とばっちりや面倒ごとに巻き込まれてと巡り廻って、いつしか地平線一杯に広がる砂の大地と、それを泳ぐデルクスの群れを拝める日が来るとは……甲殻種特有の無表情であるはずのオウショウザザミも、感動しているのか暫し其の場に佇んでいた。
いつしか自分の周りを囲んでいたメラルー達もニャーニャーと騒いでおり、歓迎を受けているようだ。オウショウザザミは悪くない気分なのか、そんな騒ぐメラルー達に注意しつつ前を歩く。
まずオウショウザザミが鋏で摘まんだのは、サボテンだった。水分を欲しているのか丁寧に根元から千切り、それをもう片方の鋏で摘まんでサボテンを口に運ぶ。
だがオウショウザザミは忘れていた……忘れて当然だった。そして誰がこの事態を予想できようか。
かつてよりユクモ地域の砂原には「ユクモのマ王」と呼ばれし凶悪なモンスターが生息していること。
そのモンスターはオウショウザザミの若かりし頃であるアラムシャザザミ期からのライバル的存在(一方的)であったこと。
そしてそのライバルは今も生きており、今も力をつけ続け、常に砂原の王者として君臨し続けている。
突然地面が揺れたかと思えば、砂の中から勢いよく飛び出し、オウショウザザミを地中から天高く突き上げた。その存在の名は―――
長年ザザミの存在を忘れなかった鏖殺の暴君は、積年の鬱憤を晴らすかのように水蒸気を発生、落ちてきたオウショウザザミを白い爆発で覆い尽くした。
オウショウザザミの苦難はまだまだ続くようである……だがこの世に楽な道などない。苦悩があるからこそ進化への道を歩み、常日頃変化する自然界に適応するのだ。
それはハンターもモンスターも同じ。常に新しい可能性を求めて生きていく。例え弱き存在であろうとも、生き残りさえすれば未来がある。
―――
―ヤオザミ成長記より―
ずっと、ずっと考えていたユクモのマ王の再来。しかも二つ名持ちになって帰ってきました。
当分ユクモ地方はオウショウザザミと鏖魔ディアブロスに悩む日々を過ごすことでしょう(ぇ)
これにてヤオザミ成長記、一応の完結です。
色々と語りたいような語れないような、頭の中がゴチャゴチャしております。なのでシンプルに。
長らくヤオザミの成長を見守ってくれた読者の皆様、本当にありがとうございました!
今後は別の作品に力を注ぎつつ、たまに番外編という事で書いていく予定です。
では皆様、良きモンハンライフを!