ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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 溜めているのを載せるだけですし、もう少し更新ペースを速めてみようと思います。

 10/31:文章修正(段落付け・文章一部改定など)
 2014/6/26:誤字修正。ご指摘ありがとうございました!


第8話「進め!火山に行き隊!・前編」

 今、郵便配達を生業としている一匹のアイルーが郵便帽を被ったガーグァの背に乗り、砂漠を立ち去っていった。

 

 この時代にも手紙というものはあり、それを書いて出す者、届けに行く者、そして受け取って読む者の3つが居る。

 それは人間もアイルーも、そしてメラルーも同じだ。

 

 先ほどの郵便アイルーから手紙を受け取った、青が混じった黒い毛並みが特徴的な一匹のメラルー。

 他のメラルー達がそれぞれ手紙を読み終えて好き勝手しているというのに、その青メラルーだけはじっと手紙を見続けていた。

 大小様々な肉球のスタンプが意味ありげに並んでおり、獣人族特有の文字で綴られている。

 人間からしたらちんぷんかんぷんだが、青メラルーの目から涙が溢れている所を見る限り、その手紙の内容は悲しいものらしい。

 

 鼻を鳴らしながら、青メラルーは砂漠の青空を見上げる。そこには大きな白い雲が流れていた。

 彼の目には、雲の上から手を振って自分の名を呼ぶ、老夫婦らしき二匹のメラルーが見えていた。

 手紙を握り締めてポタポタと涙を零す所からして、その手紙は故郷の両親からの手紙のようだ。

 そりゃ泣きたくもなるだろう。両親に会いたくなってたまらなくなるのだから。

 

 だが、彼の故郷は火山の麓にある。砂漠から歩いて向かうには遠すぎる。両親の下から旅立ち、砂漠で仲間のメラルー達と上手くやっている青メラルーだが、流石に長い旅路を一人で行くのは難しい。

 なにせこの時期だと、アイルーやメラルーが行商の為に通る道に大型のモンスターが見えるようになるのだ。

 モンスターがいるとなれば、さすがに渡ろうとは思わない。渡ろうとすれば喰われるのがオチだ。

 だが青メラルーの気持ちは変わらず、むしろ強くなる一方だ。

 

―両親に会いたい。

 

―お土産に竜骨結晶を持ってきて両親を驚かせてやりたい。

 

―親父のツルハシを振る姿が見たい。

 

―お袋の作る、紅蓮石で焼いたこんがり魚が食べたい。

 

 青メラルーの頭の中では、かつての暖かく、そして懐かしい記憶の映像を再現していた。

 悪戯好きなメラルーにだって、親孝行したくなる時があるものなんです。

 

―さて、どうするかニャ。

 

 だからといって、感情に任せてモンスターの蔓延る道へ出掛けて行くほどバカなメラルーではない。

 いくら行きたいという気持ちが強かったとしても、目の前の問題が事前に解決してくれるはずがないのだし。

 大型モンスターを上手く避けつつ火山へ向かう事ができるかどうか。それが目の前にある課題だ。

 途中の渓流付近に村があるはずだから、道中で食料と水の補給はできる。後は移動手段だ。

 これが厄介で、移動手段でお馴染みのガーグァやアプトノスでは、大型モンスターに食べられてしまう。

 せめて旅路に連れて行けるモンスターが強い奴だったら……そこまで考えて、青メラルーはあることに気づいた。

 

―そうニャ、『奴』ニャら使えるかもしれニャい。

 

 あるモンスターの姿と実力を思い出した青メラルーは、そのまま考え込む。

 腕を組んで首を傾げている青メラルーの姿を見た他のメラルー達は、何しているのだろうと首を傾げる。

 やがて一匹のメラルー(どうやら青メラルーの友達のようだ)が青メラルーに声を掛けようとするが……。

 

―閃いたニャー!

 

 頭の上で雷光虫が光り輝いた青メラルーが突然叫び出した。

 それを間近で聞いた友達メラルーは驚きのあまり気絶してしまったが、張本人の青メラルーはそれどころではない。

 その表情はとても活き活きとしており、興奮ではしゃぎまわっているほどだ。

 

―これで故郷の両親に会いに行けるニャ!

 

 我ながら天才ニャ!としきりに騒ぐ青メラルーを見て、より深い角度に首を傾げるメラルー達。

 家族も大事だろうが、まずは友達を大事にしてあげなさい。

 

 

 

 さっそく青メラルーは行動に移すことにした。

 

 まずは火山に行きたい者と渓流に行きたい者を中心に旅路を共にする仲間を集める。

 商売をしに行きたい者も居れば、青メラルーと同じく故郷の家族に会いに行きたい者と、結構な数が揃った。

 続いて先ほど浮かんだ、火山と渓流に向かう為の移動手段を教える。彼のアイディアは仲間内からは好評で、上手く行けば今後の行商にも使えるかもしれないと言われた程だ。

 次に旅の支度。これは仲間達と一緒に集めたり揃えたりしていく。十分な食料と水、テントや日よけの布など、キャラバンとしての装備を充実させる。

 最後に『奴』の確保。これが一番重要だ。

 なにせモンスターが相手なのだから、いくらいけそうだとはいえ、こればかりは運任せだ。

 しかし確信に近い物がメラルー達にはあるようで、意気揚々と『あれ(・・)』を採取し始める。

 

 

―メラルー達の企みは、着々と準備を進めていくのだった……。

 

 

 所は変わって、とある砂原。今日もデルクス達が元気良く泳ぎ回っている。

 灼熱の日差しを受けているにも関わらず、アラムシャザザミは暢気に食事を満喫していた。

 本日の昼食は、毒水ブレスで仕留めたリノプロス。肉を鋏で千切り、それを食べる。

 最近はキノコの生え具合や植物の育ちが悪いらしいので、こうして肉を食らう事にしたのだ。

 

 というのも、ディアブロスが現れ砂原の縄張りが分断された日から、食べる場所が徐々に限られたからだ。

 アラムシャザザミからしてみればディアブロスは避けたい相手なので、なるべく彼の縄張りには入らないようにしている。

 何せ出会う度にどつかれるのだ。同じくよく頭突きにくるボルボロスならまだしも、彼となれば話は別だ。

 そんなこともあって、彼の縄張り内にある食べ物を我慢しているおかげで、最近はどうも食い足りない。

 肉でも魚でも鉱石でも食べられる雑食性だからいいものの、彼としてはキノコを存分に食べたいようだ。

 それでも、鋏で挟める物はとりあえず食べる。それがアラムシャザザミの悲しい食性だった。

 

 黙々とリノプロスの肉を食べていると、アラムシャザザミのすぐ上に何かが見えた。

 なにかと思って見上げてみれば、なんと彼が最も好む希少なキノコ、マンドラゴラが浮かんでいるではないか。

 しかも沢山。数にすると10本程度だが、アラムシャザザミにとっては宝の山にも見える。

 希少な上にここしばらく食べていなかったのか、視線は宙に浮かぶマンドラゴラに夢中だった。

 さっそく頂こうと鋏を伸ばすが、ひょい、とマンドラゴラが距離を取るべく離れ出した。

 人間なら不思議がるなり怪しむなりするだろうが、残念ながらアラムシャザザミはモンスター。発達していない知能はマンドラゴラに鋏が届かないだけと判断し、ゆっくりと歩き出して取ろうとする。

 それでもマンドラゴラに鋏は届かない。だから歩く。届かない。歩く。でも届かない。また歩く。

 もはや執念とも言える食性が彼にはあり、それを原動力に徐々に歩行速度を上げるのだった。

 

 

 

―こいつバカじゃニャいか?

 

―いや、単に食い意地が張っているだけだニャ。

 

 マンドラゴラを詰め込んだ網を吊るしている竿を握り締めながら、2匹のメラルー達は呆れたようにアラムシャザザミを見下ろした。

 宙に浮かぶマンドラゴラの正体―――それはメラルー達の仕業だったのだ。

 旅の荷物をヤドごと雁字搦めにロープで巻き、数匹のメラルー達がヤドの頂上に居座って周囲を見渡している。

 

 青メラルーが閃いた、火山へ向かう為の安全な方法。

 それは餌でアラムシャザザミを誘き寄せ、馬車に見立てるという事だった。

 長年に渡り砂原でアラムシャザザミと付き合っていた彼ら一族だからこそ、アラムシャザザミの生態を良く知っている。

 それはつまり、アラムシャザザミの食性や食い意地、そしてマンドラゴラを好んでいる事を知っている、ということだ。

 加えて暢気な性格だからこそ、自分達に危害が及ばず、かつ餌で釣られる単純さがあるだろうと確信したのだ。

 

 加えて、アラムシャザザミはここいらの砂漠の中では一番強いモンスターだ。ディアブロスという同格もいるが、奴とは比べものにならない頑丈さと安心さがある。

 旅路に出会うモンスターにだって簡単には負けないし、村人をむやみに襲うことも無い。

 そんな彼を用心棒兼移動手段にして進めば、きっと安全に旅路を歩むことができるはず。

 

 そして今に至る。

 竿で吊り下げたマンドラゴラを原動力にアラムシャザザミを動かし、移動手段兼用心棒として旅をする。

 とりあえず餌で釣れたことだけでも大成功だ。旅の荷物にも気づかないし、乗り心地も悪くない。

 後は、旅の目的地である渓流付近の村と火山地域に辿り着けるかが問題だ。どこかでバレないかも不安だ。

 だが、発案者である青メラルーには確信に近いものがあった。きっと上手くいくと。

 

―そして何より、これで両親に会いに行けるという小さな希望が、彼を新たな挑戦へと導いたのである。

 

 そんな彼らの企みなど露知らぬアラムシャザザミはといえば。

 食べたいという欲求ばかりが彼の脳ミソを侵食し、必死にマンドラゴラを追いかけていた。

 

 

 

 こうして、アラムシャザザミとメラルー達の、火山へ向かう旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―おいこら勝負しろやーっ!

 

 なお、上記の台詞はイメージです。

 

 地面から突如として姿を現したのは、砂原のもう一匹の支配者、ディアブロスである。

 今日も自分からアラムシャザザミの縄張りを侵し、それをきっかけに争いを仕掛けようと張り切っていた。

 しかしそこにあるのは食べ残しのリノプロスの死骸と、それに貪りつくジャギィ達だけだった。

 ジャギィ達はすぐに逃げ出したが、ディアブロスはそんなこと気にせず、呆然としていた。

 

―おかしい。ここにいると思ったのに。

 

 アラムシャザザミに喧嘩を売ろうとあちこちを回ったのに、何故居ないのか。

 先ほどメラルー達の陰謀(?)によって火山へと出発したことなど知らぬディアブロス。

 砂漠の暴君たる証を見せ付けるべく挑んできたというのに、これはどういうことか。

 

 呆然と立ち止まるディアブロスには、どことなく哀愁が漂っていた。

 もし今の彼に効果音をつけるとしたら、こんな感じになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ショボン

 

 

 

―完―




 この後、頭突き師匠であるボルボロスに八つ当たりに行ったとかなんとか。はた迷惑なディアブロスの後日談だったとさ(笑)

 そんなこんなで、火山行きです。次回は渓流付近になりますが。
 このお話は原作であるMHP3rdで言えば、アマツが村を襲う前の話になります。
 なので渓流付近にまだ村があるという設定です。そこにも補給の為に向かいます。

 こんなバカなアラムシャザザミですが、こうでもしないと火山に行かないなぁと(笑)
 食料が不足していたのも一つの理由として浮かんだのですが、ほのぼの行きたいからこういうネタにしました(笑)

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