アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
全身の細かな傷と大きく開いた太股の傷口から流れ出る血のせいか、意識が朦朧とし始める。そんな状態でも、彼は足下に転がった拳銃を拾い上げ、空のマガジンを抜いた。
新しいマガジンを差し込んで、弾丸の装填を済ませる。そうして、彼に向かって突き出された手に拳銃を手渡した。
「これが、最後です……」
カラカラに渇いた喉から掠れた声を絞り出して、弾薬が尽きた事を伝えた。
「……お疲れさまでした。後のことは、わたしが」
もはや満足に動かない彼の身体が、少女によって、優しくゆっくりとひび割れたアスファルトの上に、仰向けに寝かされた。
おかげで沈みゆく陽の光で赤く染まる空が見えた。その下に逆光のなか黒く浮かび上がった敵の姿も──
ヒュージと呼称される人類の敵。ミドル級と呼ばれるタイプが数体、彼の右上空に浮かんでいる。
地上にはそれより小型の十数体のスモール級の姿もあった。
首を右へ倒す。すると、九十度傾いた視界に彼女の後ろ姿が見えた。
赤茶色のセミロングの髪、赤い瞳をした彼よりもずっと年下の少女。華奢な体つきだけれど、それでも軍属の補給係に過ぎない彼よりもずっと強い。
──リリィ。
ヒュージに対抗する為の兵器、CHARMを扱うことの出来る存在。
彼女が振り返り彼を見た。その揺れる視線に、頷いて見せた。
──迷う事は無い。もう自分は助からないのだから。
そんな彼の意志が伝わったのか、彼女の気配が変わる。
右手に携えた銀色の剣。その刃が紅く儚い光を放つ。
彼女のCHARMであるノルト・リヒトが起動したのだ。
そして、彼女を中心とした円形状に赤い霧が広がっていく。
半径二十メートルほどに薄く広がった赤い霧。そこへスモール級が三体、飛び込んで来た。
金属音に似た耳障りな音をぶちまけながら、少女へと突進する三体。
しかし、それらは全て彼女が左手に持つ拳銃に撃ち抜かれ、落下する。アスファルトの地面にぶつかった後、動かなくなった。
スモール級であれば、CHARMでなくとも撃破は可能だ。だがたった一発の銃弾で、しかも拳銃でとなると難しい。
けれども、赤い霧のなかに踏み込んだスモール級は、次々にその体躯を撃ち抜かれて、あるいは紅い刃に両断され倒れていく。
その光景を見守る彼もまた、赤い霧に触れて、徐々に衰弱していた。
少女のレアスキル、ツェアレーゲンの効果だ。範囲内の敵味方双方の防御を無効化し、衰弱させる。別名、魔女の血界。
レギオンと呼ばれるチームでの集団戦術が主流のリリィのなかで、少女が単独で戦わざるを得ない原因。
非常に強力ではあるが、同時に扱い難いレアスキルだ。
しかし、味方へのリスクを気にする必要が無いこの状況では心強い。
少女が弾切れの拳銃を投げ捨てる。
スモール級は全滅。残るはミドル級のみ。
この調子なら、彼女は大丈夫。そう彼は安堵のため息を吐いた。
左耳のインカムから彼がこれまで補給を担当し、そして現在、彼女が撤収を支援している部隊の離脱を知らせるオペレーターの声が聞こえる。
(あちらも大丈夫か……)
安心したせいか、それとも彼女のレアスキルの影響なのか酷く眠い。もう、このまま意識を手放してしまおう思った矢先、それは姿を現した。
ミドル級の倍の大きさを誇る巨体が、少女を見下ろしている。
「ラージ級!」
忌々しげに呟いた少女がラージ級へ向けて駆け出そうとして、数歩進んだところで膝をついた。
同時に赤い霧も霧散している。
「魔力切れ……!?こんな時に」
蓄積した疲労もあって、立ち上がる事もままならない彼女に向かって、ラージ級が腕を振り下ろす。
これまでかと彼は目蓋を閉じた。ほどなく、自らもあれにやられるだろうと覚悟して──
直後、インカムからオペレーターの叫ぶような声が聞こえた。
「救援部隊、到着!百合ヶ丘所属のレギオン、一柳隊が突入します!!」
直後、轟音とラージ級の悲鳴が辺りに響く。
重たい目蓋を開いた彼の霞んだ目に、地面に倒れたラージ級の姿が飛び込んできた。
損傷は軽微な様だが、長距離からの狙撃によって両脚を撃ち抜かれていた。
「あれほど高い精度の狙撃を連続で……。流石は雨嘉さんですわね。鶴紗さん、わたくしたちも負けてられませんわ!」
「そうね。神琳、タイミングはこっちに合わせて!」
両腕を支えにして上体を起こし、立ち上がろうとするラージ級。
そこへ左右から挟み込むように突撃する二人のリリィ。彼女たちのダインスレイフの斬撃がラージ級を襲った。
華麗な連撃と豪快な一撃によって両腕を斬り落とされ、支えを失ったラージ級が再び倒れる。
「フゥ、人を抱えながらの縮地は疲れるナ」
その光景に目を奪われていた彼のすぐ傍で明るい少女の声がした。
「酷い怪我だナ、大丈夫カ?あ、この子なら心配いらナイ。無事だゾ」
褐色の肌のリリィが、ノルト・リヒトを握ったまま気を失った彼女を彼の隣に寝かせた。
「だ、大丈夫ですか!?ってその出血じゃ大丈夫じゃないですよね?どどどどうしよう……!」
彼の傍に駆け寄ってきた明るい茶色の髪のリリィが、あたふたと慌てた様子で腰のポーチの中身を取り出している。
「落ちつケ、二水。止血の方法は授業で習ったダロ?」
「あ、はいそうでした!」
少し落ち着きを取り戻した少女の処置を受けながら、彼はラージ級へと視線を向けた。
その先では、倒れたラージ級へと身の丈を超える巨大なCHARMを構えた黒髪の少女が跳躍する。
そこへ空に浮いていたミドル級の一体が、体当たりを仕掛けてくる。
「やらせない!」
ピンクのサイドテールのリリィが構えたブリューナクspから放たれた熱線が、黒髪の少女に迫るミドル級を貫く。
黒煙を吐きながら落下するミドル級を一瞥した黒髪の少女は薄く笑みを浮かべ、眼下のラージ級へ紫電を纏う斬撃を振り下ろし──
そこで、彼の意識は途切れた。