アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
梨璃、楓、二水と合流したあざみと弾薬箱さんは防衛隊の輸送トラックの荷台で揺られながら移動していた。
つい先ほど、夢結から逃げ遅れた民間人の保護と特殊なミドル級から襲撃を受けたとの通信が入り、至急救援に向かっている最中である。
移動手段である防衛隊の車両に民間人を乗せて退去させた夢結たちは特殊なミドル級を含むヒュージの群れの足止めを行っているという。
「お姉様達の現在位置がここだから……」
端末に表示した作戦域周辺の地図とにらめっこしながら梨璃が唸る。
「このまま最短距離を行くとして、そのあとをどうしよう……」
梨璃なりに考えを纏めようとして頭を悩ませている。
「うぅ……。二水ちゃん、お願い」
「あ、はい!」
そしていろいろ考えた結果、二水と相談して決める事にしたようで、二人で端末の地図を覗き込む。
そんな彼女たちを見守りつつ、あざみは意識を集中して、自身の魔力《マギ》の残量を確認する。
(ツェアレーゲンをあと一度、展開出来るかどうかですか……)
レアスキルを中心にした戦い方をするあざみにとっては何とも心もとない。
(弾薬に余裕があるのが救いですね)
足下をうろちょろしていた弾薬箱さんを抱き上げてスチールのボディをそっと撫でた。
「よろしいかしら、あざみさん?」
そんなあざみに楓が声をかけてきた。
「先ほどは治療していただいてありがとうございました」
「うふふ、どう致しまして」
ぺこりと頭を下げたあざみに楓が微笑みを返す。
「それでどういった用件ですか?」
いつになく真剣な表情の楓にあざみが問う。
「貴女のレアスキルの事でお訊きしたい事がありますの」
それはあざみにとっても重要な用件だ。彼女たちと共に戦う為にも。
「ツェアレーゲンの効果ですね。ちょうど皆さんにも説明しなければいけないと思っていたところです」
そうですかと楓が頷く。
そこへ相談を終えた梨璃と二水があざみへ視線を移す。
「ちょうどよかった。お二人にも聞いてもらう必要があります」
「なんだか凄いんだね……」
あざみのレアスキル、ツェアレーゲンの説明を聞き終えた梨璃が理解したのかしていないのか、微妙な表情で呟いた。
「わたくし達のマギによる防御やヒュージの彎曲結界を無効化。それに加えての衰弱効果。恐ろしく強力ですわね」
「だけど、敵味方の区別無くというのはあまりにも……」
楓と二水が難しい顔でうーんと唸った。
半径二十メートルに及ぶ効果範囲もこのレアスキルを余計に扱いにくくさせている。
身を守る術が無くなるという事は、ヒュージよりはるかに肉体の強度で劣るリリィにとっては死活問題だ。
もっとも、世間には防げないなら避ければいいじゃない!なんて言い放つ猛者もいるらしいが。
ともあれ、あざみがレアスキルを発動している間は無闇に近づき過ぎないように注意する事にした梨璃達であった。
「あ、だからあんなに怪我しちゃったんだね、あざみちゃん」
梨璃があざみの腕のガーゼを見つめながら呟いた。
「そうですよね。普段なら魔力で守られてるから。あのくらいで怪我なんてしないですから……」
二水も梨璃の言葉に頷く。
「じゃあさっき楓ちゃんが怒ったのはそれを知ってたから……?」
何かに気づいた梨璃が楓に視線を向けた。
「ええ、わたくしも耳にしていましたから。マギの守護を消し去る、赤い霧のレアスキルを保持するリリィ。赤の魔女《ロート・ヘクセ》の噂は……」
渋い顔で楓は白状した。
「赤の魔女……!?てっきりただの噂話だと思ってました」
二水も噂を聞いた事があるのか、驚きの表情であざみを見る。
「え?そんなに凄いの?」
ひとり、話題に取り残された梨璃が首を傾げた。
「凄いなんてものじゃないですよ!」
興奮状態の二水が叫んだ。
「多数のヒュージの奇襲で戦闘不能に陥ったレギオンをたった二人で守り抜いたというリリィのうちのお一人です!」
完全にオタク心に火の点いた二水がまくし立てて説明する。
「大袈裟ですよ。確かに当初は二人での防衛戦を展開しましたが、すぐに落ち着きを取り戻したレギオンメンバー全員が戦闘に復帰しています」
それに加えて、レギオンが戦闘不能になった原因のひとつはあざみのレアスキルである。あざみにとっては自分の失敗の後始末をしたにすぎない。
そんな事実関係も含めてピシャリと訂正するあざみだったが、興奮している二水にギュッと手を握られてしまう。
「ですがッ!第一波のスモール級の群れを単独で殲滅したのは事実ですよね!?」
「ええ。ですが、それはわたしだけの成果ではありません」
二水にぶんぶんと手を振り回されながらあざみはその問いに頷いてみせたが、もちろん訂正も忘れない。
確かに押し寄せたスモール級たちを受領したばかりのノルト・リヒトと機関銃MG3を用いて全滅させている。
けれどそれは、もう一人のリリィが発動させたレアスキル、ヘリオスフィアがスモール級の攻撃を無力化してくれたお陰だ。
もし彼女がいなければ、瞬く間にあざみの身体は群がるスモール級によってズタズタにされていただろう。
白い制服姿が凛々しい彼女はその功績を讃えられ、白きアイギスという二つ名を贈られたらしい。
「今度、彼女と連絡をとってみましょうか」
頬を上気させてあざみの話に聞き入る二水の笑顔を眩しげに見つめながら、あざみはそんな事を口にした。
かつての戦友である彼女は今、リリィとして活動しつつ防衛部隊の育成と防衛戦術の研究に没頭していると聞く。
二水と話も合うだろう。
二つ名を呼ばれる度に顔を真っ赤にしていた懐かしい顔を思い浮かべながら、あざみは喜びのあまりテンションが振り切れた二水に揺さぶられ続けるのだった。