アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯14 帰り道

 あちらこちらにヒュージ襲撃の傷痕が刻み込まれた街中をライトで照らしながら、鎌倉府防衛隊の輸送車両のエンジンが重く唸りを響かせて走る。

 輸送車両の屋根のない荷台には左右の両端に設えられた木箱を並べただけの急拵えの長椅子がある。その右側の長椅子の真んなか辺りに腰かけて、外を不安げに眺める梨璃。

 彼女の視線の先には、住民が避難して無人と化した街がシンと静寂と暗闇に沈んでいた。

 そんな梨璃の隣に座る夢結が優しく言葉を掛けた。

「安心なさい。殆どの地区は被害が軽微だったから明日のお昼には住民が戻ってこられるそうよ」

「よかったぁ……」

 少し赤みが増した頬を梨璃はふにゃりと緩ませた。

 今回のヒュージの襲撃は対処が迅速だったこともあり、防衛隊の隊員に僅かに負傷者が出た程度に被害が抑えられた。街のほうは道路のアスファルトがあちこち陥没したり剥がれてはいるものの、インフラ関係の被害が極めて軽微なのではないかと予想されていた。

 被害に関しての本格的な調査は夜が明けてからになるのだが、おそらくはそう深刻な被害はないであろうというのが鎌倉府防衛隊司令部の見立てだった。

 ふと梨璃が車両のうしろへと首を巡らせた。その時、運悪くタイヤが瓦礫に乗り上げたのかガタリと揺れ、その拍子に浮いた梨璃のお尻が硬い木箱で作られた長椅子にうちつけられた。

 少し荒れた道路を輸送車両は慎重にのそりのそりと走っているけれど荷台はそれなりに揺れが強い。

 あいたたた、と梨璃が姿勢を崩して痛むお尻をさすりながら、輸送車両のうしろにゆらゆらと揺らめく灯りに目を向けた。

 荷台には灯りと呼べるものは足下に置いてある数個のLEDランタンくらいだ。だからその頼り無さげな灯りもはっきりと見えてしまう。

「元気よね、彼女」

 そんな梨璃の視線を追うようにして鶴紗がそんな言葉をこぼした。

「うん。いちばん大変だったの、あざみちゃんだったのに」

 行きの移動中に無断で借りて乗り捨てた自転車を鎌倉府防衛隊の隊員が回収してくれていた。その自転車に何故だかあざみは再び乗って帰ることにしたのだった。

「せっかくですから、夜道のサイクリングを経験しておきたいのです」

 真面目な表情でそんな事を言い出して、自転車を漕ぐあざみを一柳隊の面々は苦笑しつつ黙って見守っていたりする。

「あざみさんの事だけれど、どうだったかしら?」

 たまにブレーキランプに照らされるあざみに視線を向けたままの夢結が訊く。

「夢結さま、それがですね!」

 二水が身振り手振りを交えて夢結にあざみの戦いっぷりを説明していく。

 夢結はそれに相づちを打ちながらさりげなく楓や梨璃にも質問する。そうして、夢結は情報を集めていく。

(現状ではこれで充分かしら)

 ひととおり話を聞いたところで夢結はそう結論付けた。

 たった一度の出撃で集められる情報も限りがある。無理に問い詰めるような真似をしてもこれ以上は何も出ないだろう。

(それにしても、こんなスパイじみた真似をさせられるなんて)

 夢結は内心、ため息を吐くのだった。

 はじまりは教導官である吉坂からあざみに対する監視やら何やらを任務という形で押し付けられたことだった。

 仕方なしにその任務を受けた夢結は、とりあえずどういった人物であるかを調査することにした。

 梨璃たちをあざみの救援に向かわせたのもそういった理由からだ。

 梨璃であればそう警戒されることなくコミュニケーションがとれるだろうし、二水と楓は観察力に優れている。ただし、夢結は吉坂から与えられた任務のことは一柳隊のメンバーにも秘密にしている。特に梨璃は嘘が下手すぎる。簡単にバレてしまうだろう。

 それに梨璃はもうすっかり、あざみを信用してしまっている様子だ。出来るのなら梨璃には誰かを疑うような真似をさせたくはない。

 そんな夢結の事情など誰も気が付く訳もなく、先ほどの水まんじゅうな外見のミドル級との戦いに話題は変わっていた。

「本当に先ほどは肝が冷えましたわ」

「まったく、私が言えた事でもないけど無茶苦茶だわ」

 楓が表情を僅かに強張らせて言葉を溢すと、うんうんと頷きながら鶴紗が同意する。

「そうじゃのう。楓がしくじれば命を落としていてもおかしくない状況じゃぞ」

 ミリアムが楓にジト目を向けながら呆れた様子でそんな言葉を吐いた。

「それは、わたくしの実力を信頼しての判断ですわ。ええ、わたくしがあの程度の事で、しくじるどころか動揺する事すらありえませんわ」

 ミリアムへそう反論する楓。しかし、ここで二水がぽつりと呟いた。

「でも楓さん、あの時、一瞬ですけど戸惑ってましたよね?」

 この一言が図星だったのか楓は身体をくの時に曲げて「うっ!」と呻いた。そのままことんと長椅子の上に倒れ込む。

「楓ちゃん、大丈夫!?」

 倒れた楓の隣に座った梨璃の呼び掛けに力無く応える楓。

「あぁ、わたくしもう駄目かもしれませんわ……」

「え、あの、どうしよう……」

 おろおろとするばかりの梨璃を尻目に、ちゃっかりと頭を梨璃の膝にのっけて太ももに頬擦りする楓。  

「また始まったナ……。楓の悪い癖ガ」

 げんなりした様子で梨璃たちの向かい側に座っていた梅がこてんと長椅子に寝転んだ。

「あの、梅さま!?」

 ちょうど膝の上に梅の頭がのっかったせいで雨嘉が驚きの声をあげた。

「おー……、雨嘉の膝まくらは柔らかいナ!」

 しかし梅は気にした様子もなく、雨嘉の太ももを堪能している。

「梅、はしたないわよ」

 見かねた夢結がそう窘めるが、梅は知らんぷりを決め込んだ。

 長椅子はあと二、三人寝転んでも余裕があるので問題ない。

「神琳もどうダ?」

 だからというわけでもないのだろうが梅は我関せずと梅の反対側で傍観していた神琳に声をかけた。

「梅さま?」

 訝しげに太ももの上の梅の顔を見つめる雨嘉の眉間には深い皺が刻まれていた。そんな雨嘉に起き上がった梅がぽしょぽしょとなにやら耳打ちする。

 そうして、しばらくの沈黙のあとにおずおずと雨嘉が口を開いた。

「えっと……神琳さん。よかったら……その、どうぞ……」

 恥ずかしげに頬を染めて瞳を潤ませた雨嘉が太ももをぽんぽんと叩いた。気弱な性格の雨嘉らしからぬ行動に流石の神琳も戸惑ってしまう。

「雨嘉さん?」

「……」

 試しに呼びかけてみたが返事がない。おそらくは梅の指示だっただろう膝まくらのお誘いが不発に終わって困り果てているのだろう。

 そんな雨嘉を放って置くわけにもいかない。下手に断れば雨嘉を傷つけてしまうかもだ。仕方ないと覚悟を決めた神琳は、恨めしげに元凶の梅を一瞥したあと、羞恥でぷるぷるしている雨嘉に柔らかな笑みを向けた。

「それではお言葉に甘えて、失礼いたしますわ」

 ゆっくりと優しく雨嘉の太ももに頭をのせると、ほどよく柔らかい感触を後頭部に感じた。無意識にほぅと神琳はため息を吐いていた。

「えっと……、どうかな?」

 こちらを覗き込む雨嘉の顔を、何故だか気恥ずかしく感じて、神琳はつい目を逸らしてしまった。

(あ、なんだか可愛いかも)

 いつも毅然としている神琳の意外な一面にそんなことを思う雨嘉。

「たまには誰かに甘えるのも悪くないだロ?」

 二人の様子を見守っていた梅がにぱぁと笑顔でそう言うと、チラリと神琳が雨嘉の顔を見上げた。

「……そうですわね。たまには、ですけど」

 目を閉じた神琳が穏やかに頷いた。

「神琳は頑固で意地っ張りだからナー。見ていて心配になル」

 だからと梅は神琳に優しく言った。

「今回はいい機会だから、信頼してる相手に上手に甘えル方法を覚えるんだナ!」

 梅の言葉に素直に頷く神琳を眺めながら雨嘉は頬を緩ませる。

(誰かに甘えられるのってはじめてかも)

 いつもは誰かに甘えるばかりだった自分が、まさか神琳のようなしっかりとした人物に甘えられる日が来ようとは思いもしなかった。

(なんだか嬉しい……かな)

 しかし、彼女たちは気付いちゃいなかった。

 微笑みを浮かべた雨嘉が神琳を膝まくらする様子を一柳隊のメンバー全員が温かな眼差しで見守っていたことを。

 後に二水は語る。

「あの神琳さんがデレた歴史的瞬間でした!」

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