アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯15 博士襲来

「やあ、遅くまでご苦労様」

 百合ヶ丘女学院の正門前。教導官の吉坂の隣で鎌倉府防衛隊の輸送車両の荷台から降りた一柳隊のメンバーとあざみを出迎えた白衣の彼はそう労った。

「……なんでいるんですか」

 今朝別れたばかりの博士の登場にあざみの眉間には深い皺が刻まれていた。だいたいお前は研究室でモニタリングしてたんじゃないのか。

 そんなあざみのじっとりとした視線が突き刺さる博士はへらっと笑う。

「せっかくだし僕もあざみちゃんのお友達といっしょにご飯を食べたくてね」

 そんな博士の言葉に一斉に眉をひそめる一柳隊のメンバーと吉坂。小学生のお母さんがよく口にする『同級生だったら誰でもお友達』理論か。

 冷めた雰囲気のなかで空気をまったく読んでないのか満面の笑みを浮かべた博士がワクワクウキウキしている。

「いやあ、誰かと食事をするなんて何年ぶりだろうね」

 そんな博士の様子にあざみがため息混じりに口を開いた。

「わたしと食事を摂っていたのはカウントされないのですか?」

「君のあれは食事じゃなくて栄養補給でしょうに。博士は断固としてあれを食事とは認めません」

 ふんすと鼻息荒く博士はきっぱりと言いきった。

「だって君、いっつもサプリメントとかパック入りのゼリーとか固形栄養食ばっかりじゃない」

 さりげなくあざみの食事情を暴露した博士がつまらなそうに口を尖らせた。

「そんなの目の前で摂取されてもいっしょに食事したことにはならないよ」

 日頃の味気ない食事風景を思い出してしょぼんと眉を垂れた博士が一柳隊のメンバーに視線を向けた。

「もしかしたら、同年代の子たちといっしょに過ごしたらあざみちゃんの食生活も改善されるかなって」

 どっちかというとこっちの方が本題かもしれないと博士は苦笑した。

「なんだか納得しかねます」

 栄養面では理想的な食事を効率良く行っているだけだと自負するあざみは少し不機嫌だった。

「うん、重症だね。あざみちゃん」

 梨璃がしょんぼり呟いた。臨時休暇で訪れた熱海の保養施設で一柳隊と壱番隊のみんなで夕食に鍋を食べた事を思い出していた。

 鍋の味付けや締めを雑炊にするかうどんにするか等々で揉めてしまい、大変な思いもした。けれど、やはり大勢での賑やかな食事は楽しいものだった。

(でも、あざみちゃんはそれを知らないんだよね)

 それがなんだかちょっと寂しい気がするのだ。

「梨璃、そんな顔しないの」

 表情を曇らせた梨璃の肩に優しく誰かの手が触れた。

「鶴紗ちゃん……」

 顔をあげた梨璃の目の前では、口調こそ厳しいものの、何かと梨璃を気遣ってくれる少女が柔らかな笑みを浮かべていた。

「せっかくの機会ですし、いま祝勝会とあざみさんの歓迎会をやりましょう」

 ぽふと両手を合わせて楓が提案した。

「ちょっと、それは私が言うべき言葉でしょう」

「あら、そうでしたの?ですがこういうのは早いもの勝ちですわよ」

「ぐぬぬ……」

 楓に先を越されて悔しげな鶴紗とドヤ顔の楓が睨みあう。

「もう二人とも喧嘩は駄目だよ」

 そんな二人に挟まれた梨璃があたふたと仲裁をはじめる。

 そんな三人を夢結や梅、神琳が温かい笑みを浮かべて眺め、雨嘉と二水がまた始まったと苦笑する。ミリアムはのじゃあーと大きな欠伸をしつつ眠気と戦っていた。

「いやあ、いい子たちだね」

 そんな彼女たち一柳隊を見つめる博士は眩しげに目を細めた。

「ええ、とても」

 そう答えるあざみに歩み寄った博士は彼女の背中に優しく手を添える。

「さあ、行っておいで。それは君の姉たちの願いでもあったのだから」

 博士の言葉に応えるかのようにあざみの心臓はとくんと一際強く鼓動を打つ。

「そうですね。姉さまたち……。いえ、わたしたちの願い。わたしたちを造った母さまの望み。やっとその一歩が踏み出せます」

 まるで熱に浮かされたように呟くあざみの瞳は陶酔に濡れていた。

(やれやれ、これはもはや呪いだね)

 内心ため息を吐きつつ、博士はあざみの足下にぺたりと座る弾薬箱さんへ視線を向ける。

(彼に詰め込んだのは僕の精一杯。だから……)

 何かに祈るように目を閉じる。いや、神など信じてはいない身だ。だから、それは祈りではないのだろう。

(あざみちゃんを頼んだよ、弾薬箱)

 半年という短い付き合いながら彼女の信頼を得ていた補給係のおっさんの成れの果てへ願いを託す。

 自分の立場で出来る精一杯を彼のボディに詰め込んだのだ。出来ないなんて言わせない。

「よおっし、博士がみんなにご飯を奢っちゃおっかなー!」

 閉じていた目を開いた博士はいつもの調子だった。

 じたばたと抵抗する弾薬箱さんをむんずと掴んで無理矢理に蓋を開けると、なかに手を突っ込んだ。

 あんまりといえばあんまりな絵面に唖然とする一柳隊のメンバーと吉坂教導官。

 しかし、お腹は空いているらしく誰も文句は言わない。

 そうしてしばらくかき回すような素振りをしていた博士がずるりと弾薬箱のなかから銀色の袋を引き抜く。

「じゃーん、鎌倉府防衛隊レーションセットー!」

 よいしょよいしょと博士は弾薬箱に手を突っ込んでは引き抜いて、レーションセットの袋を三つ地面にどちゃっと置いた。

 一人分にはあまりに大きな袋が三つも目の前に置かれて驚く者もいれば、レーションと聞いてちょっとがっかりする者もいた。あと、ビールは無いのかとちょっと不満げにタバコを咥える吉坂教導官。

 しかし、銀色のシンプルな袋に印刷された文字に気付いた鶴紗が表情筋を微動だにさせないポーカーフェイスでちいさくガッツポーズした。食いしん坊キャラだと思われるのは心外なのだ。

「それじゃあ、オープンテラスまで袋を運びましょう」

 夢結が早くも息切れしている博士に呆れつつ指示を出した。

 本当は食堂を使いたかったがとっくに閉まっている時間なので仕方ない。

 さっそくそわそわと落ち着かない鶴紗がひとつ、袋を抱える。袋の文字をもう一度確認してニマリと微笑んだ。

 その袋には太めのゴシック体で『焼肉・特上』と印刷されていたのだった。

 

 

 

 その後、オープンテラスはお腹を空かせたリリィたちが肉を奪いあう壮絶な戦場と化したという──

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