アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
突然の転入生を驚きとともに迎えた百合ヶ丘女学院一年椿組。
それでも当然ながら授業は通常どおり行われていき、午前の授業もひとつの教科を残すのみである。
「えっと、次は銃火器の射撃訓練かぁ……」
梨璃が教室の時間割り表を眺めながら呟いた。
昨日の出撃で見た、レアスキルを展開しつつMP5や手榴弾でラージ級ヒュージと戦うあざみの姿が梨璃の脳裏に浮かぶ。もちろんあざみはCHARMも扱う。しかし、彼女は魔力《マギ》をレアスキルの展開・維持に費やす為に主に通常の兵器で戦うという珍しいリリィだ。
対ヒュージ決戦兵器CHARMを武器に戦うリリィたちだが、授業のなかには通常の軍隊が使用する拳銃や小銃などの使い方を学ぶものがある。
現在の主力CHARMはグングニルやダインスレイフに代表される遠距離攻撃用のシューティングモードと近接攻撃用のブレードモードという状態に変形可能な第二世代といわれるものである。
それ以前の第一世代のCHARMは変形機能を持たず、近接攻撃型と遠距離攻撃型に完全に別れていた。
第一世代の近接型CHARMを扱うリリィはサブウェポンとしてライフルや拳銃などを携帯する者も多かったと聞く。
この授業もそういった時代の名残なのだろうか。
「でも必修科目だから頑張らないと」
なんとなく銃は怖いものというイメージがある梨璃は気持ちを奮い起たせて不安を抑える。
「最初から弱気じゃ駄目だよね!」
握り拳でふんすと気合いを入れる梨璃にあざみが首を傾げる。
「先ほどから何をしているのですか?」
「あ、うん。ちょっと気合いをね。なんだか銃の扱いって慣れなくて」
それよりと梨璃はあざみの制服姿を見詰めて訊いた。
「制服のことなんだけど、大丈夫?」
心配そうな梨璃に向けてあざみが薄く微笑みを浮かべた。
「問題ありません。少し胸元が弛いですけど」
「えへへ、よかったぁ」
早朝にあざみの制服がまだ届いていない事に気づいた吉坂とあざみは急遽、梨璃の制服を借りる事にしたのだった。
いきなりの頼みに梨璃は嫌な顔ひとつせず、予備の制服を快く貸してくれたのだった。
「……梨璃さんの制服をあざみさんが?」
二人のやりとりに聞き耳をたてていた楓がなにやら呟いたようだが、多分気のせいだろう。
「こほん!梨璃さん、あざみさん」
いつの間にか背後に立っていた楓が梨璃の手をとった。
「更衣室へ急ぎますわよ。次の授業に遅れてしまいますわ」
「え?まだ時間あるよ!?」
驚いた梨璃が時計を指差して言うが楓は首を横に振る。あざみは怪訝な表情で楓の顔を見詰めた。
「いいえ、時間はありませんわよ。着替えたあとにじっくりと観賞……ではなくておかしなところがないかチェックしなければいけませんわ!」
「ちょっと楓ちゃん!?」
鼻息の荒い楓に腕を抱えられた梨璃が慌てて着替えの入ったバッグを掴んだ。
そのままズルズルと楓に引きずられるように梨璃は教室から出ていってしまった。
「まったく、仕方ないわね。あなたも遅れないようにね」
楓と梨璃を追いかける鶴紗があざみを一瞥して教室を出ていく。
「それでは、わたしたちも移動しましょう」
足下の弾薬箱さんへ声をかけると、あざみはクラスメイトとは別方向へとむかうのだった。
「あー……。なんで今さら銃器の訓練なんてしなきゃいけないのかしら」
「そんな時間あるならCHARMの訓練に使いたいよ」
「実際、ヒュージ相手じゃ役に立たないんじゃない?」
着替えを終えて訓練場に着いてみれば、リリィとしていくつかの実戦を乗り越えたクラスメイトがそんな風に愚痴をこぼすのが梨璃の耳にはいった。
実戦で拳銃や自動小銃を携行したことがないリリィたちがほとんどだから、それも仕方ないことなのだろう。
「そういえば、わたしも出撃の時はCHARMしか持ってってなかったなぁ」
梨璃があれこれ思い返しても実戦では鎌倉府防衛隊の隊員が携行しているのを見かけたくらいだ。
「そうですわね。わたくしたちはなかなか使う機会に恵まれませんから」
「まあ、手榴弾や閃光弾なんかは補助兵器として充分効果をあげられるんじゃないかしら」
「目眩ましですね!それに昨日あざみさんがやったように物理的な衝撃を与えてスキをつくることも可能ですし」
左隣の楓がうんうんと頷き、右隣の鶴紗と二水が実戦での具体的な運用法を教えてくれる。
「あの、ところで鶴紗さん。そろそろわたくしの手を離していただけません?」
「貴女が大人しく梨璃のお尻に伸ばした手を引っ込めるなら、よろこんで離してあげるわ」
「あ、あははは……」
梨璃の背後では梨璃のお尻を巡って鶴紗と楓の攻防がいつの間にやら展開されていたのだった。これには梨璃も若干乾いた笑いしかでない。
「そういえば、あざみちゃんは?」
「たしかに遅いですね」
梨璃と二水が心配そうに辺りを見渡す。
楓もなんだか落ち着かない様子だった。
そうこうしているうちに時間が過ぎて、時計の針は授業開始の時刻を指そうとしていた。
「だいたいCHARMがあるんだし、銃なんて必要あるのかな……」
「だよねー……」
こちらはこちらでいまだ愚痴を溢すクラスメイトたち。
一部の生徒のなかには銃火器使用の訓練の存在に疑問を感じる者もいるらしい。
既にCHARMが対ヒュージ戦の主力兵器であるのだから旧兵器の訓練など無駄ではないのか。そりゃあ使えないよりは使えた方がいいのだろうが、せいぜいスモール級ヒュージを倒すのがやっとの武器の訓練に時間を割くのはどうなのだろう?と疑問に思うのは無理のないことだ。
リリィとしての全盛期はアスリートと比べてずっと短い。だからこそ出来うる限り無駄をなくし、少しでも力を付けるべく努力している。
彼女たちもまた、リリィという在り方に真摯に向き合っているのだった。
「……なるほど、そういった疑問を持つのは当然のことですね 」
そんな場面にジャージに着替えたあざみがひょっこりと姿を現したのだった。