アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯18 明日の為に撃て

「あ、え?転入生!?」

 授業の内容にぶつくさと文句を垂れていた三人組のひとりがふるふると震える人差し指をあざみへと突きつけた。

「はい。本日、転入してきました明野あざみです」

 ホームルームの時と同じように自己紹介をするあざみ。違っているのはクラスメイトのように体操服に着替えずに、教導官用のジャージを着ていることだ。

「は?あんたが教導官!?」

 三人組の別の少女が驚きの声をあげる。まさか転入したばかりのクラスメイトが教導官を務めるなんて予想外もいいところだ。

「貴女に何を教われっていうのかしら?」

 銃器の訓練に不満たらたらな三人組最後のひとりが鼻で笑った。

「銃器の扱い方を教えるのがわたしの任務です」

 何かおかしいでしょうか?とあざみが首を傾げた。

 その仕草が気に触ったのか、三人組が一斉にあざみを睨み付ける。

 そんな険悪な空気が漂うグラウンドに突如、大声が響いた。

「えっと、ラージ級をCHARMも使わずに倒したあざみちゃんなら大丈夫だね!」

「そうですわね。CHARMの光弾が効かないヒュージの防護膜をショットガンの一斉射撃で吹き飛ばしたあざみさんの授業であれば、わたくし是非とも受けてみたいですわ」

「独特の戦術にも私、興味ありますし!」

「あ、えっと。実戦経験はこのクラスの誰より積んでるでしょうから」

 あわあわしながらわざとらしく梨璃があざみの昨日の戦果を叫ぶとそれに続けて、楓と二水があざみが教導官を務めることに賛同の意を示す。最後に梨璃のすがるような視線に負けた鶴紗がだめ押しの賛同を口にした。

 その効果は絶大で不安そうだった椿組の面々も梨璃が言った戦果に疑わしげに眉をひそめたものの、学年トップクラスの実力者である楓に授業を受けてみたいと言わせたあざみに興味津々な視線を向ける。

 不満を露にしていた三人も、流石に場の空気を読んだのか静かになった。

「梨璃さん、楓さんに二水さん。それから鶴紗さん、ありがとうございます」

 一柳隊四人の気遣いに頭を下げたあざみが、ひょいと足下の弾薬箱さんを抱き上げた。ついでに授業開始を告げるチャイムが響く。

「それでは皆さん、早速はじめましょう」

 そんなあざみの台詞とともにパカッと弾薬箱さんの蓋が開く。

 弾薬箱さんのなかからあざみが引っ張り出したのは、こぢんまりとした銃だった。

「あ、なんだか可愛いね」

 コンパクトな見た目に梨璃はホッとしたような表情を浮かべた。あんまり大きいのはやはりちょっと怖いのだろう。

「MP5Kです。シンプルな操作性で扱いやすいサブマシンガンです」

 あざみの簡単な銃の説明に耳を傾ける椿組生徒たちの足下へ弾薬箱さんが歩いて行ってはにゅっとMP5Kを取り出しては配っていった。

 自然と半円形に並んだ生徒たちの前で、あざみが実際に操作して見せながら扱い方を教えていく。

 一通り説明が終わると、二水が首を傾げた。

「ところであざみさん。どうして射撃場ではなくグラウンドで授業なんですか?」

 そう言われれば確かにと、生徒たちは頷いた。もしかして実際に銃を撃つことはしないのかと少し残念そうな顔をする生徒もいた。

「射撃場では実際に動いている標的で訓練するのは難しいですから」

 二水の疑問にそんふうに答えたあざみが手近な数名の生徒を呼んでマガジンを渡した。

「他の皆さんはここで待機していてください」

 そう言い残したあざみが足下に戻って来た弾薬箱さんをひしっと抱き上げて、マガジンを渡した生徒とともにグラウンドの中央へと歩いていった。

 およそ百メートルほど離れたところで、あざみが自身のCHARMであるノルト・リヒトを弾薬箱さんのなかから引っ張りだす。

 何するんだろうと注目する生徒たちの前でおもむろに何かノルト・リヒトを操作したあざみを中心にしてドーム状の結界が広がる。それはノインベルト戦術における特殊弾の起動時に展開される結界を模したものである。

 突然、半径四十メートルほどのマギの膜に閉じ込められ、慌てる生徒たちにあざみは告げる。

「これから先ほど渡したマガジンの銃弾を撃ち尽くすまでに、もしくは五分経過する前に、弾薬箱さんに一発でも当ててください」

 は?と生徒たちの動きが止まる。

(は?)

 そして弾薬箱さんの思考も止まる。

(え?標的?マジで!?)

 身の危険を感じた弾薬箱さんがあざみの腕のなかから脱出して逃走する。

(ちょっ!?出られない!)

 しかし弾薬箱さんのボディはマギの膜にぽよよ~んと跳ね返されてしまう。

「この膜がある限り外には出られませんし、流れ弾が外部に到達することもありません。フレンドリーファイアだけは気をつけてくださいね」

(ちょっとぉおおお!)

 当然ながら音声を出力できない弾薬箱さんの抗議は誰の耳にも届かない。

 ぐりぐりとボディを膜に擦り付けながら外側へ逃げようとする弾薬箱さんの姿を見て、流石に生徒たちも可哀想になったのか銃を向けるのを躊躇っている。

「弾薬箱さんは丈夫なので大丈夫です。それに避けるのも得意なので遠慮は要りませんよ」

 しれっと冷静に弾薬箱さんを追い詰めていくあざみ。

 それでも生徒たちの戸惑いは消えない。

 しかし、そんな生徒たちの背中をこれでもかとあざみはプッシュした。

「弾薬箱さんに命中させたチームは明日のランチをご馳走します」

 マジで?と生徒たちはあざみを見た。

 マジで!とあざみは生徒たちへと親指を立てて見せた。

(あ、ダメだこれ)

 生徒たちの爛々とした瞳を見て弾薬箱さんは悟った。逃げなきゃ、と──

 くるりと右向け右をして駆け出した弾薬箱さんのあとを追うように地面が点々と土埃をあげる。

「ランチー!」

「何としてもAランチをGETしなきゃ!」

「今日は豪勢にデザート付けちゃう!」

 銃を乱射しつつ弾薬箱さんを追う生徒たち。

 こうしてあざみの初授業は幕を開けたのだった。

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