アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
目覚めは最悪だった。
デスクや床などあらゆる場所に、様々な器具が散らかった部屋。そこで彼は意識を取り戻した。
自らが生きていることに驚きつつも、安堵する。そして、同時に困惑した。
なんとか両脚は動くものの、その他の部位は存在しないかのように動かないのだ。両腕も、首も、何もかもがだ。
「げぇっへっへっなぁー!」
そして、さっきからまき散らされている、この奇妙な笑い声。酷く耳障りで、酷く不安になってくる。
「さあ目覚めるのだ、おっさん!君は生まれ変わったのだぁ!!」
(誰がおっさんだ!?)
あんまりな台詞に対して、全力でツッコミの言葉を叫んだ。そう、叫んだつもりだった。が、しかし部屋には耳障りな男の笑い声しか響いていない。
「ふっ、残念だが音声出力機能は付いていないのだよ。あしからずご了承ください」
こちらを小馬鹿にしたような台詞は無視した。相手にしたら負けな気がする。
両脚をなんとか動かして立ち上がってみると、やたらと視点が低い。
そして、ビデオカメラでも装着されているのだろうか?視界の端には「×1」という表示やバッテリー残量を示すアイコンなどが並んでいる。
「ふむ、歩行機能は概ね正常に機能しているな。む、もう走れるのかね!素晴らし……ぶべらぁ!」
いちいちこちらの行動を観察し、感想を大声で叫ぶ白衣の男へ、彼は助走たっぷりの飛び蹴りをご馳走した。
ごめんなさい、負けでもなんでもいいのでコイツを黙らせたかったのです。
「ぐふっ、まさか飛び蹴りを放ってくるとは……。ロボット三原則を無視したこの行動。処置は成功したということか!」
何やらニヤニヤしながら白衣の男が呟いた。やだ、このひと怖い。
白衣の男が、ポケットから手鏡を取り出した。
その、ピンクのラインストーンが煌びやかな、やたらと乙女チックなデコレーションの施された手鏡を彼へ向ける。
鏡に映ったのは、いつもの見慣れた姿ではなかった。
いや、見慣れてはいたのだ。ずっと補給任務で常に共に在ったものなのだから。
薄汚れたスチール製の箱。垂れた眉毛とつぶらな瞳と口、歪なハートマークが落書きされた彼が愛用する弾薬箱が鏡に映っていた。
ただ違うのは、その弾薬箱に二本の脚がにょっきり生えていたこと。
そして──
「認識したかね?君は生まれ変わったのだよ」
白衣の男がかけた眼鏡を無駄にクイックイさせながら告げた。
「自立型補給支援機・弾薬箱さんへと!私の研究成果の結晶として!!」
信じがたい事実を、悪夢のような現実を……。
白衣の男は嬉々として、彼に突きつけたのだった。
(う、うん……?)
ぱたぱたとその場で足踏みしてみると、鏡に映った脚付き弾薬箱も足踏みする。
(ええ……)
もう間違いない。彼は弾薬箱になってしまっていた。
(なんで?え、なんで弾薬箱!?)
混乱して白衣の男の周りをぱたぱた走りまわる。そんな彼に少年のように瞳を輝かせた白衣の男が言う。
「僕はいろいろと手広く研究をしていてねぇ。ほら電子生命体とか素敵じゃない?憧れない?」
(憧れません!)
全身を左右にぶるんぶるん振って白衣の男の意見を全面的に否定する。
「いやいや、でもね?君、心停止しててね、蘇生できなくてね……」
白衣の男が急にしんみりと語り始めた。ぴたりと弾薬箱な彼の脚が止まる。
「幸い、脳はまだ大丈夫そうだったから、ヒトの電子生命体化の研究素材にぴったりだなって……」
(ちょっとおぉぉお!!)
げしげしと白衣の男の脛を蹴飛ばす弾薬箱な彼。
(このマッドサイエンティストめ!)
「はっはっは!そんなに喜んでくれなくても」
ぺろりと舌を出して照れ笑う白衣の男と男の脛を蹴る弾薬箱。
そんな珍妙な場面が展開される部屋に足を踏み入れる者があった。
カチャリとドアノブを回す音とともに見慣れた赤茶色の髪の少女が姿を現す。
「随分と仲がいいですね、博士」
「いやあ、照れるなぁ」
少女の言葉を聞いて、ちょっぴり頬を赤らめた博士と呼ばれた白衣の男が頭を掻いた。
(仲良くないし!照れるなー!)
相変わらず弾薬箱な彼の叫びは誰の耳にも届かなかった。
「それで、この子が例の補給支援機ですか?」
よいしょと、少女が弾薬箱な彼を抱きかかえた。
「これ、彼の使っていた弾薬箱ですよね?」
「うん、彼の事は実に残念だった。それに戦術実験部隊は無事だったけれど、これ以上の成果は望めないようなので解散する事になったよ」
やれやれと博士は肩をすくめた。
「君というリリィと一般兵士の混成部隊でガーデン精鋭のレギオンを支援……。悪くないと思ったんだけどね」
「レアスキルの発動時はスモール級、ミドル級共に対処可能です。ですが……」
「行動時間の短さはともかく、露払い以上の成果は見込めないか……。これじゃあ、君単独での運用と大差ないねぇ」
んふーと博士はため息を吐いた。
「少しアプローチを変えてみようか。この弾薬箱さんのサポートがあれば弾薬補給の問題も解決するし、君の継戦時間も延びるはずだよ」
コクリと頷いた少女は抱いた弾薬箱さんの蓋部分を優しく撫でた。
「わたしはあざみ。宜しく」
(いや、知ってるし)
少女の慎ましい胸に抱かれながら彼はツッコミをいれた。
特殊なレアスキルを持つリリィと一般兵士たちという変な編成の部隊の補給係を務めること半年。名前くらいは当然知っていた。
(しかしまあ、あの部隊がそんな役割だったとはね)
ヒュージとの物量差・戦力差を考えれば対抗手段を増やしたいと思うのは当たり前なのかも知れない。例えそれが、微々たるものでも……。
「それで、早速だけどあざみちゃんに任務があるんだなぁ」
弾薬箱な彼が考え込んでいる間にも、博士の話は続いていた様子。
「とあるガーデンの臨時教導官をやってくれない?いくらCHARMが主力でも、通常火器の取り扱いは必須じゃん?」
国防軍や鎌倉府の防衛隊が都市の防衛に手一杯で、そういった指導が出来る人員が不足しているらしい。
それからと、博士はニンマリ笑って言った。
「今度はレギオンとの連携戦術について色々試して欲しいな。ノインベルト戦術とかね」
よろしくね、と博士はあざみに命令書を手渡すのだった。