アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯19 駆け抜ける標的

 弾薬箱さんは駆けていた。

 あざみが指名した生徒で構成された即席のチームに追いたてられているのだ。

 左右にジグザグに、あるいはフェイントを交えながら銃弾を回避する弾薬箱さんを生徒たちも必死に追いかける。

 乾いた発砲音が連なり響く直径約八十メートルのドーム状の結界に覆われたグラウンドを両者はまさしく縦横無尽に駆け抜ける。

『お願い頑張って弾薬箱さん!博士のお財布の未来がかかってるの!』

(なんで!?)

 どうしてか事態を把握している博士が通信越しに弾薬箱さんへ声援を送ってくる。

 思いがけない応援に戸惑う弾薬箱さんを無視して博士はずぞぞと鼻をすすりながら叫んだ。なんだか泣き寸な感じで声が震えている。

『さっき、あざみちゃんからメールが届いてね。だけど、このランチ代は経費で落ちないんだ!』

(知ったことか!)

 後方から放たれる銃弾がボディの脇や頭上を掠めるように飛んでいくなか、誰にも届かない叫び声をあげながら弾薬箱さんは走る。

 すでに三分の二のクラスメイトが弾薬箱さんに弾丸を当てることが出来ないまま、弾切れや時間ぎれで訓練を終えていた。

 しかし、残ったメンバーが問題だった。

「なるほど、おおよそ回避パターンは把握できましたわ」

「楓ちゃん離してよ~……」

 淡々と弾薬箱さんの動きを観察している楓。そして背後から楓にがっしり抱きしめられている梨璃。

「要するに逃げ道さえ塞いでしまえばいいのね」

「ですね!ひとりが追いかけて残りのメンバーで弾幕を張れば──」

 作戦を練っている二水と鶴紗。

 そして──

「よし。みんな、そのまま追いかけて!」

 そして、いままさに弾薬箱さんに照準を合わせ、引き金に指をかける六角汐里。

 リリィとして既に活躍中の彼女たちから逃げきるのは絶望的である。

『こうなったら博士の本気を見せてやる』

(やめなさいよ、大人げない)

『僕の財布の中身のピンチなんですぅ。僕にも参加の権利くらいありますぅ!』

(なんか腹立つなその口調!)

 聞こえてないとわかっていても博士への文句は言わずにはいられない弾薬箱さんだった。

「……そこ!」

 そうしてほんの僅か、博士に気を取られて弾薬箱さんの走る速度が緩んだ瞬間、汐里の狙撃が弾薬箱さんのボディの真ん中に命中する。

(やられたー!?)

『うぁああっ!!』

 ついに被弾し博士の断末魔の叫びとともにパタリと倒れた弾薬箱さんを確認して、歓声をあげる椿組生徒たち。

 それを眺めながら淡々と名簿から次の生徒たちの名前をピックアップするあざみ。

「では、次のチームを呼んできてください」

 汐里たちのチームを手招きして食堂の無料券をひとりずつ手渡すと、あざみは結界の一部を解除する。

 彼女たちは大はしゃぎで待機している生徒たちのもとへ駆け寄ってあざみから指定された生徒を呼び集めている。

 こうして生徒たちの興奮と博士の絶望のなか、あざみから渡されたマガジンを受け取った次のチームと弾薬箱さんの追いかけっこが再び始まるのだった。

 

 

 

「えへへ、作戦どおりですね!」

「ええ、見事な作戦でしたわ二水さん」

 小さく控えめにガッツポーズをする二水を褒め称える楓がその豊かな胸の前でぽふんと両手を合わせた。

「私も作戦を考えたのだけど?」

「あら、そうでしたの?けれど活躍したというのなら、この楓・J・ヌーベルがかの弾薬箱さんを仕留めましてよ?」

 自分には何もないのかと鶴紗が不満を漏らすと、楓はどこ吹く風とばかりにそちらこそ褒めてくれてもいいですわよ?と言いたげに胸を張った。

 そんな二人の間に漂うどこか気の抜けたような、されども一触即発の空気を察して「楓ちゃんも鶴紗ちゃんも凄かったよ」と梨璃が二人を褒めてなんとか宥めようと奮闘していた。

 ぽてりと倒れた弾薬箱さんはそんな光景を眺めながら博士がすすり泣く声を通信越しに聞いていたのだった。

 弾薬箱さんの回避パターンの作成と指示に全力を投入した博士だったが、わりとあっさり一柳隊の作戦に嵌められてしまったのだから無理からぬことである。

 特に追いたてる役の梨璃のスタミナがずば抜けていて終始走力が衰えなかった事が博士の予想外の要素であり敗因だった。

「追いかける人員の交代の隙を突くはずだったのに……」

 お陰で他の三人の十字砲火のなかに追い込まれてしまった弾薬箱さんのボディにはあちこちに銃痕が刻まれていた。

「皆さん、お疲れさまでした」

 ぐったりとした弾薬箱さんの取っ手を掴み持ち上げたあざみが、生徒たちから貸し出していた銃を回収しつつ声をかけた。

「でもさ、最初のほうのチームはなんか不利だったよね」

 ひとりの生徒が漏らした不満に皆が頷いた。

 順番が後のチームほど弾薬箱さんの行動を観察し、そこで得た情報をもとに作戦を練る事が出来る分、有利といえた。

「そうですね。特に最後の一柳隊の四人は最初のチームに比べて半分以下の弾薬を使い切ることなく弾薬箱さんに当てる事が出来ましたし」

 さらりと告げたあざみの言葉に大半の生徒たちはクエスチョンマークを浮かべた。

「ああ、やっぱりそういうこと」

 そんななかで鶴紗がむぅっと苦い表情で言った。

「マガジンを装填する時に確認してみたら半分も銃弾が入ってなかったのはミスでも何でもなかったわけね」

「え?そうなの!?」

「はぁ。後半から妙に弾切れがはやいと思ったら……」

 幾人かの生徒たちも気がついた様子だ。

「はい。後半にいくにつれ、支給する銃弾の数を減らしていました。それに制限時間を短くしていましたね」

 そして暴露された事実に一部の生徒たちからブーイングが起こる。

「ですが、結果的には公平だったでしょう。前半のチームは時間と弾薬に余裕があり、後半のチームは事前に情報を得て作戦を立てられるわけですから」

 あざみの指摘でブーイングは収まったものの不満顔な生徒がちらほらいる。

「実戦を体験している皆さんは実感していると思いますが、情報と戦力のどちらかが不足している状況での出撃がほとんどであるはずです」

 ゆっくりとクラスメイトでもある生徒たちを見渡しながらあざみは話を続ける。

「さらにそこに、民間人の保護や施設防衛などの要素が加わればヒュージとの戦闘はより不利な状況で遂行せねばなりません」

 幾人かの生徒がごくりと喉を鳴らす。

「そんな状況下でCHARMが使用出来なくなる場合も当然、想定すべきです。その為の銃火器の訓練であることを皆さんに理解してほしいのです」

 戦場でCHARMよりも銃のほうが調達しやすいのは言うまでもない。鎌倉府防衛隊の隊員のほうがリリィよりも人数は多いし、輸送車両で武器・弾薬の補給も容易だからだ。

「わたしの役割はCHARMに比べて対ヒュージ性能で劣る銃器をわずかでも有効に運用出来るような訓練を実施することであると考えます」

 あざみが静かに瞳を閉じた。つられて弾薬箱さんがぶらりと揺れた。

「わたしはリリィを戦場から無事に帰還させる為に存在するのですから」

 小さく、無意識に溢れたその言葉は、授業の終了を報せるチャイムの音に溶けた。

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