アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
「「それで、何で私たちなのかしら?」」
訓練や授業を終えた生徒たちで華やぐ放課後のオープンテラスの一角に、妙に緊迫した空気を醸し出す空間があった。
奥の隅っこのテーブルに陣取って顔を付き合わせた三人組の周辺は、混みあう時間帯にも関わらず綺麗に空席となっていた。
声を揃えて疑問をぶつけたふたりの険しい視線。その先では注文したレモンティーに添えられたレモンの輪切りをはむはむする明野あざみの姿があった。
「実は、おふたりに友だちの作り方をお教え願いたいと思いまして」
カップにインするはずのレモンを失い、もはやただのストレートティーと化したソレをぐいっと飲み干したあざみが意を決した様子でそんな台詞を吐いたのだった。
「どうして私たちなのかしら?他に適任の子がいるでしょうに」
眉間に皺を寄せた安藤鶴紗が隣の白井夢結をチラ見して、正面のあざみに他にあたれと告げる。
「そうね。そういうのは梨璃に相談した方が良いのではなくて?」
夢結も鶴紗の意見に頷いてみせた。
「そうでしょうか?」
いったいなにを期待しているのかと問い詰めたくなるようなキラキラと輝くあざみの瞳から鶴紗も夢結もついっと視線を反らした。
((明らかに人選ミスでしょうに))
内心、頭を抱えたふたりだった。
何せふたりとも事情があったとはいえ、最近まで周囲の人間と距離をとって過ごしてきた身である。突然、友だちの作り方なんてものを訊かれても困るのだ。
「梨璃さんのあの社交性は夢結さまの指導の賜物ではないのですか?」
不思議そうに首を傾げるあざみの様子に鶴紗はピンときてしまった。
(GEHENAで育成された弊害ね)
あそこでは自らの意思で行動する自由など存在しない。強制的に押し付けられたものをただ受け入れる他ないのだ。
とどのつまり、あざみは梨璃のあの性格も彼女を導くシュッツエンゲルである夢結に与えられたものと勘違いしたのである。
なんとも迷惑であるが、あざみの生い立ちを考えれば仕方のない事だろう。
(私のほうは、さしずめ類似した事例の成功例として参考にするつもりかしらね)
鶴紗のGEHENAの実験台にされた過去などあの胡散臭い博士が既に調べているのだろう。
「そういうわけだから、こういった事は梨璃に──」
頼みなさいという鶴紗の言葉を遮って、テーブルの脇からにょっきり褐色の腕が伸びてきた。突如出現したそれは、まだ中身の残っていた鶴紗のカップを引っ掴んでテーブルの下へと姿を消していった。
「何をしてるの、梅」
夢結がテーブルの下に腕を突っ込んで、梅の首根っこを掴む。そのまま、カップに口をつけた梅がテーブル下からぷらりと釣りあげられた。
「……砂糖が足りないナ」
夢結の声などスルーして勝手に角砂糖みっつをカップに投入した梅はズズっと紅茶を飲み干した。
ジロリと夢結と鶴紗が睨み付けるとしぶしぶと梅は説明をはじめた。
「訓練で梅は学院に潜伏したヒュージの役をやってたんダ」
そうしてオープンテラスの隅っこのテーブルの下に隠れたのはいいが、そこに夢結と鶴紗、そしてあざみが座ってしまった。
「そうしタラ、誰も探しに来てくれなくてナ。さっき時間切れになったんダ!」
あはは、と笑う梅。
そういえば何度かやけに落ち着かない生徒たちが食堂に来ていたが、あれが梅の訓練相手だったのだろう。
知らなかった事とはいえ、迷惑をかけてしまった。
「それは申し訳ないことをしました」
せっかくの訓練を邪魔してしまったと知って、しゅんと肩を落としたあざみが梅に頭を下げた。当の梅はといえば、夢結に首根っこを掴まれたまま、子猫のようにぷらんぷらんされながらにぱにぱと笑顔だった。
「ん、気にするナ。おかげで楽だったゾ」
ヒュージとの戦闘のとき以外は大抵、だらっと怠けているっぽい梅らしい言葉だった。
梅が良いというならそれでいいかと納得したあざみが、せっかくだからと梅にも夢結たちと同じ問いを投げかけた。
「梅さまはどう思われますか?」
真摯に訊ねるあざみに対して、これまた真剣な表情で梅は口を開いた。
「あざみは難しい事ばっかり考えてるんだナ?」
そうして梅は自身の左右のこめかみの辺りをむぅーと唸りながらグリグリとマッサージしはじめた。
「ちょっと頭痛くなってきたゾ」
それはこめかみをグリグリしてるからでは?と鶴紗と夢結は思ったが知らんぷりすることにした。体よく梅にあざみの厄介な質問を押し付けた格好である。
「友達といってもいろいろだからナ」
ちょっぴり遠い目をした梅が呟いた。
「そうね。どれだけ貴女に振り回されたことか……」
夢結も遠くをぼんやり眺めながら呟いた。
「そうだナ。梅と夢結みたいに相手を振り回したり、振り回されたりな関係もあるしナ」
「……私は振り回された記憶しかないのだけれど、梅?」
たははと笑う梅をギロリと睨む夢結。
「実際の友人関係はいろいろと複雑なのですね」
そんなふたりの様子にあざみは何やら納得していた。
そんな彼女たちの耳に何やら言い争う声が飛び込んできたのだった。
ぐるりと見渡してみれば梅と訓練していたと思われるふたりの二年生が怒鳴りあう姿を見つけた。そのふたりの間ではなんとか争いをおさめようと小柄な生徒が奮闘していた。
「あちゃー。あのふたり、梅を見つけようと躍起になってたからナ」
いくら偶然とはいえ、なんだか反則をしてしまったような気まずさを感じるあざみたちだった。
「仕方ないナ。梅にも責任あるし、ちょっぴり頑張って止めてくるゾ」
よいしょと気怠げに梅が立ち上がる。そんな梅の隣には申し訳なさげな様子のあざみがいた。
「お手伝いします。もとはといえばわたしが梅さまの隠れていた場所で夢結さまと鶴紗さんに相談事を持ち掛けたせいですし」
あざみの申し出をそっかーと受け入れた梅がニヤリと笑う。
「助かるゾ。じゃあ耳を貸セ」
ポソリポソリと何やらあざみに耳打ちする梅の姿に不安を感じたものの無視を決め込んだ夢結と鶴紗だった。
そして、そんなふたりの予想は見事に的中するのである。
突然、梅とあざみの仲裁の言葉さえ無視して言い争っていたふたりから悲鳴があがったのだ。
羞恥で頬を赤く染めたふたりは揃って制服のスカートを抑えている。
「ふむ、赤だったナ……」
「こちらは黒ですね」
スカートを抑えてぷるぷると震える二年生ふたりの背後にはそれぞれ冷静に呟くあざみと梅の姿があった。
「まぁ〜いぃ〜……!」
「いきなり何するのよ、あんたたち!」
目を釣り上げた二年生ふたりがギロリと梅とあざみを睨む。
「よし、逃げるゾあざみ!」
「了解です。逃走、開始」
即座に逃げ出す梅とあざみを先程まで喧嘩していたふたりが追いかける。
「なるほど、スカートをめくるのは喧嘩を止めるのに効果的なのですね」
「あははは、あざみと梅は共犯だナ!」
どこか楽しげに走る梅と何やら間違った知識を得てしまったあざみ。
「「待てぇ〜!!」」
そんなふたりを仲良く追いかける二年生ふたり。
「ちょっとふたりとも!?」
そんなふたりを喧嘩を止めようとしていた小柄な生徒が追いかける。
そんな光景はこのあと一時間ばかり続くのであった。
この日を境にしばらくの間、人目のあるところで喧嘩をするとスカートめくりに遭うという噂が百合ヶ丘女学院内でまことしやかに囁かれるのであった。