アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
真っ直ぐに此方に向けられる赤い瞳も、穏やかながらどこか機械的な冷たさを感じる口調も、リリィとしての真摯さも。そのどれもが自分の弱さを突きつけられているみたいで。
もちろん、あざみにはそんなつもりはまったくないのだから、雨嘉が勝手にそう感じているだけなのだけれど。
そんな事をぼんやりと考えてしまうのはそんな彼女が自分の隣をてくてくと歩いているからだろうか。
どうしてこうなったのかと雨嘉は密かに頭を抱えるのだった。
それは放課後、あざみが教導官を務める銃火器のカリキュラムで配られた学期間の成績表を寮にある自室で読んでいた時のこと。
弾薬箱さんを標的として行われた様々な条件下での射撃訓練の内容と結果、それから評価が記された成績表を読んでいくほどに雨嘉の背中が丸まっていく。
(射撃、特に中・長距離はBとA。だけど……)
評価が高いのはそのくらいで、あとは平均点かそれを下回る項目もある。
特に水鉄砲を使用しての敵味方入り交じった至近距離での乱戦を想定した訓練の成績が特によろしくない。
自信のなさが影響してか、フレンドリーファイアを恐れて引き金を引けなかった場面が何度もあった。
そんなわけで客観的かつ事実そのまんまなあざみのコメントが雨嘉の胸にクリティカルヒットしてしまったのであった。
(ちょっとくらい加減してくれてもいいのに……)
そんな風に思ってしまうけれど、常日頃からリリィたちの生還率を上げるのが自分の仕事と言い切るあざみの一生懸命さを思えば、甘えた言葉を口にするのは躊躇われた。
「はあ……」
無意識に重苦しいため息が溢れた。
ちょうどそんなときに何だか困惑した様子のあざみが訪ねて来たのだった。
そんなわけで雨嘉とあざみは吉坂教導官に外出許可を得て、百合ヶ丘女学院に程近い商業施設にやって来ていた。思いのほかすんなり許可を得られたのはGEHENA絡みだからなのだろう。
道すがらあざみに事情を訊いた雨嘉の眉間には前人未踏の険しい渓谷の如く深い皺が出現したのは言うまでもない。
なんでもGEHENAの研究者のストレス軽減のための物資の調達を命じられたのだそうだ。しかし、その指定された物資というのがある意味で問題なのである。
「かわいいものって、その、具体的にはどんなものなのかな?」
「なんでも、見るからに愛らしい癒し系なかわいいものだそうです」
雨嘉の問いに答えるあざみの眉間にも深い渓谷が出現していた。
お互いの眉間の渓谷を見つめあった二人はがっくりと肩を落とす。
「もう癒し系グッズでいいんじゃない?」
「わたしもそう判断したのですが、施設内は香りの強いものや火を使用するものは厳禁だと……」
残念ながらお手軽に任務達成できそうなアロマキャンドルやアロマミストは規則的にNGなのである。
ヒュージ関連の種々様々、合法非合法な研究や実験を日夜繰り広げるGEHENAの施設はいろいろと制限が厳しいようだ。
「そもそもどうしてあざみさんに頼むんだろう?」
どこかのバイヤーにでも依頼すれば良いだろうにと雨嘉は思うのだ。
「さあ?博士をはじめとしてあの組織の人間の思考は理解不能ですので」
立ち止まってこてりと首を傾げた二人の前にはファンシーな雑貨がショーケースにディスプレイされたショップの入り口。
「とにかく実際に商品を見てみましょう」
買い物かごを頭に乗っけた弾薬箱さんを引き連れたあざみが、お店に足を踏み入れる。
ショーケースに目を奪われていた雨嘉は慌ててその背中を追うのだった。
そうして始まったお買い物はというと、雨嘉の精神力をガリガリと削り取るものであった。
「こういうのはどうでしょう?」
あざみが雨嘉に広げて見せたのはなんとも言えない微妙なキャラクターがプリントされたタオルだった。
「えっと……、あざみさんはそれで癒されたりする?」
「……商品棚に戻してきます」
お店に入ってからこんなやり取りの繰り返しである。
あざみが手に取る商品は何故だか素直にかわいいと言えないものばかりだった。
きもかわいい系だったりちょっぴり不気味なテイストだったりと、とにかくストレートなかわいさからズレてしまっているのである。
「あの、こういうのでいいんじゃないかなって、思うんだけど」
雨嘉が選んだのは手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみだった。まるっとしたフォルムとつぶらな瞳がかわいらしい。
「なるほど……」
真剣な表情でそれを食い入るように見つめたあざみがふんすと気合いを入れる。
どうやら再びトライするつもりのようだ。
そうして店内を巡りめぐってあざみがチョイスしたものは──
「これはないと思う」
内気な雨嘉さえも思わずきっぱり拒絶してしまうもの、すなわちもふもふな熊さんの被り物であった。ぬいぐるみっぽくデフォルメされたデザインがポップでキュートではある。だがしかし、被り物である。しかも顔がバッチリでちゃうヤツ。
ちゃっかり試着しちゃってるあざみの姿はなんだかんだでかわいらしいとは思うけれど。しかし、残念ながらこれをGEHENAの研究員が被るとなると果たしてかわいいといえるのか?そんな光景を想像した雨嘉の眉間に再び深く険しい渓谷が現れた。
「もふもふですよ?」
しかし、あざみも猫さんの被り物を追加して推してくる。
いったい何が彼女の琴線に触れたのだろうか。いや、これまでのものよりかわいいのは事実であるのだけれど。
「この肌触りは癒されると判断しました」
そう言うなり雨嘉に猫さんをぽすっと被らせるあざみ。
当然、雨嘉の頭部はもふもふに包まれた。
長すぎず短すぎない絶妙な長さの柔らかな毛が雨嘉の頬を心地よくくすぐる。
もふもふに包まれた途端、雨嘉の眉間に出現していた深い皺が消えた。
「癒し効果の検証を終了。これより購入手続きを開始します」
そんなあざみの声が聞こえた気がしたけれどもふもふに夢中の雨嘉は割とどうでもよくなっていたのだった。
──後日、視察に訪れた研究施設で、猫や熊などの被り物を被りつつ働く研究員たちの姿を目にしたGEHENAの幹部たちが頬をひきつらせる事になるのだが、それは彼女たちの知らなくて良い話である。