アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯27 楓さんはバスのなかで

(まさしく、これは両手に花ですわ!)

 目的地であるショッピングモールのバス停へと向かう、ほぼ貸し切り状態のバスのなかで、楓・J・ヌーベルはご機嫌であった。

 一番うしろの五人掛けの座席の中央に座った楓の両肩には、それぞれ穏やかに寝息を立てる一柳梨璃と明野あざみの頭がもたれかかっていたからである。

 昨晩、遅くまで自主訓練に励んだ梨璃と教導官としての職務で徹夜だったあざみはバスに揺られているうちにすっかり居眠りしてしまったのであった。

 そんな三人の様子を見た弾薬箱さんは自身から取り出した小さめのブランケットをそれぞれの膝に掛けて、ひとつ前の席へ座った。なかなかの紳士っぷりである。

 そんなわけで邪魔者のいないバスのなかで楓はひとり、自身の幸福を噛みしめるのだった。

(本日は、待ちに待った梨璃さんとあざみさんとのショッピング。たしか、おふたりは私服をお望みとか。ここはわたくしがしっかりとコーディネートして差し上げなくては!)

 本日の予定を頭のなかで再確認してふんす、と楓が膝のブランケットの陰で拳を握りしめて気合いを入れていると、バスがガタンと揺れた。

 その弾みで梨璃の頭がずるりと楓の肩からずり落ちて、ぽふんと楓の太ももにぽすんと軟着陸した。端からみれば楓が梨璃を膝枕している状態だ。

 楓の程よい肉付きの太ももと弾薬箱さんが掛けてくれた少し厚手のブランケットが優しく受け止めてくれたせいか梨璃が目を覚ますことはなかった。

(ナイスですわ、ブランケット!)

 心中でブランケットを称賛しつつ、楓は迷わず梨璃の頭を撫でた。というより撫でない選択肢などあるはずもないのである。

 そして知らず知らずのうちに頬を紅潮させた楓が、夢中になって梨璃の桃色の髪を手櫛で梳いてはそのさらさらとした感触を堪能する。

 ここがバスのなかという公衆の目のある場所でなかったら他の部位も撫でまわしていたのだろう。

 けれど、深い青の瞳の奥に仄かな情欲の焔を灯しつつもそれを実行しない辺り、まだ楓の理性は踏ん張っているようだ。

 ともあれ僅かに欲求不満は感じつつも、思う存分無防備に眠る梨璃に触れられるとあって、まさに楓の幸せの絶頂であった。

(せっかくの機会ですもの。思う存分、梨璃さんを堪能しなくては)

 いつもであれば梨璃とのスキンシップを邪魔してくる安藤鶴紗がいないこの機会に普段は欠乏気味な梨璃成分の備蓄をしなければならない。

 それまで頭をやさしく撫でていた楓の手が梨璃の頬に伸びた。手のひらで包むように梨璃の頬に触れる。

 じんわりとした梨璃の体温の温もりが手のひらから胸の奥へと染み込んでくるような感覚は楓を恍惚とさせた。

「はぁ……」

 すべすべつるりとした肌触りとふにふにとした心地よい弾力の梨璃の頬。その感触に思わず艶やかな吐息がこぼれた。

(これはもう無限にぷにぷにしてられますわね)

 薄く施されたメイクが崩れないようさわさわと頬をさする楓の表情筋はすっかりゆるゆるになっていた。

 ひとしきり梨璃成分を補給して落ち着いた楓の視線が自身の左腕に向いた。それはいまだ熟睡中のあざみの両腕にがっちりホールドされている。

 普段の淡々とした言動からは想像もつかない、ともすれば梨璃よりも少し幼く見えるあどけないあざみの寝顔に楓はつい見入ってしまう。

 ヒュージ研究機関であるGEHENAに所属し、百合ヶ丘女学院では生徒として勉学と訓練に励みながらも通常火器運用のカリキュラムの教導官を務めるあざみの年相応の少女らしい姿は楓の好ましいものだった。

(そうでしたわね。いくらしっかりしていると言えど、あざみさんもわたくしと同年代……)

 こと戦闘については知識も能力も非のうちどころのないあざみだったが、私生活については少々残念であったことを思いだした。

 見かねた郭神琳の生活指導でだいぶ改善したと聞いたが、そこのところが少しだけ不満な楓であった。

(わたくしに任せてくだされば、あざみさんをどこに出しても恥ずかしくない立派な淑女にして差し上げましたのに)

 そんなことを考えて思わずぷっくりと頬を膨らませてしまった楓だった。

 GEHENAの所属と聞いたときにはずいぶんと警戒したものだったが、幾度か共にヒュージの迎撃に出撃したり、授業を受けるうちにあの胡散臭い博士はともかくとして、あざみ個人は信頼できると判断していた。

 それは楓のみならず、一柳隊全員の意見でもあった。もっとも、隊長である梨璃ははじめから疑ってすらいなかったけれど。

(念のため、あざみさんの事を調べてみましたけれどいっそ清々しいまでの白でしたわね)

 一時期欧州に渡っていたのはわかっていたため、その辺を中心に自身の交友関係を伝手にして調べてみたのだ。

 少々心苦しくはあったがこれも愛しの梨璃を守るためである。

 そうして得られた情報はといえば、当時のあざみのリリィとしての評価と彼女の参加した幾つかの戦闘のレポートであった。

 迎撃や防衛に際してヒュージの撃破数が低い。評価のほうもヒュージ撃滅への積極性の低さにより、かなり辛辣なものとなっていた。

 しかし、一方で都市部などの防衛を担うレギオンや軍からは高い評価を得ていた。

 これらの評価のあまりに極端な差異に首を傾げた楓であったが、それはすぐに納得へと変わる。

(あざみさんの参加したレギオンの被害が他に比べて極端に少ない?)

 少数だけ手に入った戦闘のレポートのどれもが、ほとんど被害らしい被害を報告していなかった。

 少数の軽傷がほとんどで、ほぼ無傷で戦闘を終えたというものもある。

(無傷で終えた戦闘では決まってあざみさんがポジションについていない……)

 恐らくはヒュージを引きつける囮として別行動をとったのだろう。レポートが示す戦闘の経緯もそれを物語っていた。身を隠して一旦やり過ごしたのちに背後からの強襲やヒュージを特定の地点に誘い込んでからの十字砲火等々である。

 あざみの使うCHARM、ノルト・リヒトは刃から赤い残光を発する。それがヒュージを引きつける囮役にはもってこいなのだろう。

 はぁ……、とため息がこぼれた。あざみの無茶は昔っからだったのだ。

(リリィは大切なもののために命を懸けるものとはいえ、梨璃さんもあざみさんもあまり無茶はしないで欲しいですわね)

 それまで梨璃のぷにぷにの頬っぺたを撫でていた楓の手が、あざみの頭へと伸びる。

『わたしはリリィを戦場から無事に帰還させる為に存在するのですから』

 それはあざみが教導官としての初めての授業の最後に呟いた言葉。

 楓はそれを腹立たしく、けれどどこかこそばゆく感じながら、あざみの頭を撫でるのだった。

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