アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯28 夢結さまと相談事

 その時、白井夢結は酷く落ち込んでいた。

 原因はここ最近の暑さのせいか大好物のラムネジュースを梨璃が飲み過ぎたことである。訓練等で運動量がかなりあるとはいえ、砂糖が相当量含まれるラムネジュースを十本も飲んでしまえば流石に健康面が心配にもなる。

 シルトである梨璃を導くシュッツエンゲルである夢結はそれを到底看過するわけにはいかずに、梨璃に対して一日のラムネジュースの消費量を制限することを言い渡したのである。

「そういうわけだから、これからラムネジュースは一日に四本までとするわね」

 心を鬼にして冷徹に、無慈悲にそう言った夢結の顔を見上げる梨璃の驚愕の表情とその目尻に浮かぶ涙の粒。

 もっとも、当の梨璃は四本も飲んで良いの!?という驚きと安堵で涙ぐんだのが真相だったりする。

 しかし、そんなことを知るよしもない夢結の胸は、梨璃の表情を思い返すたびに張り裂けんばかりに痛むのであった。

 そんな彼女を放って置けなかった吉村・Thi・梅が明野あざみに自分の代わりにと夢結の相談相手を丸投げ……、もとい依頼したのがつい先ほど。

 しかし、明野あざみは悪名高いヒュージ研究機関であるGEHENA所属なのである。結果、警戒されて夢結が相談事を打ち明ける相手には自身は不適格と判断したあざみが提案したのが、博士から借りたノートパソコンを利用したビデオ通話によるお悩み相談であった。

『そう、それでこんなに落ち込んでいるのね』

 ノートパソコンのモニター越しにお台場迎撃戦で共闘して以来、夢結と親交のある関東地区のガーデンであるルドビコ女学院のリリィ、福山ジャンヌ幸恵が事情を話し終えた夢結に向けて、優しく声を掛けた。

『でも、梨璃さんを思えば言うべきことだったと思うわ』

 幸恵の言葉に俯いていた夢結がようやく顔をあげた。

 その表情は幾らか明るくなった様子をみるにあざみの提案は成功したようだった。しかし──

『大切な梨璃さんが虫歯にでもなったら大変だものね』

 ポロリと溢れた幸恵の言葉で事態はおかしな方向へと進むことになった。

「「はい?」」

 幸恵のどこかずれた発言に耳を疑ったのは夢結の隣で黙って話を聞いていたあざみと幸恵の隣でこれまた話を聞いていた岸本ルチア来夢だった。

「そこは糖分の過剰摂取による肥満や生活習慣病の心配をすべきでは?」

 そんなあざみのもっともな発言に頷きを返しつつも、けれど虫歯も馬鹿にできないのよ、と幸恵は人差し指を立てた。

「幸恵さまっ!?」

「このあいだ、来夢が虫歯になってしまって」

 なにやら慌てた様子の来夢が幸恵が話をするのを止めようとするも時すでに遅しであった。

 

 

 

 それは虫歯になってしまった来夢が幸恵に付き添われて歯科医院を訪れたときのこと。

 幸恵と隣り合って、待合室のソファーに座っていたところ、ズキズキする奥歯の痛みに気をとられてぼぅっとしていた来夢が、治療室内から響いてきた歯科特有のチュイーンというあの音にびっくりして涙目になるという非常に些細な事件が起こったのだった。

 自分のちょっぴり情けない姿をシュベスターである幸恵に見られたのが恥ずかしさもあって余計に涙目な来夢。そんな彼女の様子を見た幸恵が見事に勘違いしてしまったのだ。

 来夢が虫歯の治療を怖がっていると──

 結局、虫歯の治療はすんなりと終えたけれど、幸恵の誤解を解くことは出来なかった来夢であった。

 そんな彼女はどこか遠い目をして、いかに虫歯の治療を怖がって涙目な来夢が可愛らしかったかを語る幸恵の言葉を聞くほかなかったのであった。

「虫歯は治ったけれど、ちゃんと歯を磨けているか心配だわ」

 話の最後に呟いた幸恵の言葉に反応したあざみが放った言葉が事態をさらに混迷の渦に叩き込むことになる。

「それほどに心配なのであれば、確認がてら歯磨きの仕上げをして差し上げれば良いのでは?」と……。

 あざみの発言を聞いた途端に来夢は頬を朱に染めた。

 幸恵はいいアイディアねと喜んだ。

 そして夢結はと言えば、なにやらギガント級ヒュージと決闘でもせんばかりの気迫とともに、あざみから手渡された新品未開封の歯ブラシを握りしめていたのだった──

 

 

 

「あの……、夢結さま?」

 その時、一柳梨璃は困惑していた。

 百合ヶ丘女学院学生寮にある自室でまったりしていた彼女が、そろそろ夜間の自主訓練に出掛けようとした矢先にいつの間にか自室に侵入していた夢結に、これまたいつの間にやら自分のベッドに押し倒されていたという状況である。しかも、夢結に膝枕されてるというのであれば余計にだ。

 豊かなふたつの膨らみの谷間からこちらを覗き込む逆さまの夢結の顔を見上げながら、梨璃は再び「夢結さま?」と問い掛けた。

 そんな怯えたような梨璃の声など届いていないかのように、歯ブラシを片手に夢結は口を開いた。

「梨璃、口を開けなさい」

「え?」

「歯を磨くわ」

「え……?えええ!?」

 この日を境に、一柳梨璃はラムネジュースを飲み過ぎることはなかったという──

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