アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
「任務ついでに、助けてもらった御礼をしてきなさい」
そう言う博士に研究所から送り出された二人は電車とバスを乗り継いで目的地近くへと到着していた。
バス停から暫く歩けば目的地である。
そんなわけで、彼こと弾薬箱さんは今、あざみの足下に寄り添うようにして歩いている。
彼の姿が変わるとともに、立場と所属も変わっていた。
対ヒュージ研究機関GEHENA。
その研究成果及びあざみのサポート役というのが彼の新たな所属先での立場だった。
(死んだと思ったら弾薬箱に転生とか、ラノベかよ……)
しかも脚が生えていたりとか。
もう、どこをどうツッコミしていいのやら。
嘆いてみたところで、状況はなんにも変わったりはしないのが哀しい。
それでも、隣を歩くこの少女が無事であったことは喜ばしい。
(まあ、自分もこうして生きているし、あまり贅沢も言えないな)
そんな風に考える事で、彼は何とか現状を受け入れていた。開き直りともいうが……。
それにしても、校門を過ぎてからどのくらい歩いたのだろうか。ずいぶんと歩いたように思うのだが、一向に建物が見えてこない。
(流石……と言うべきなのかな)
世界的に有名なだけあって、下手な大学の敷地よりも格段に広い。うんざりするほど。
長い長い丘の登り坂を歩き続けて、ようやく校舎と思われる建物が見えた。
(あと、ひと息!)
隣を額に汗を浮かべながらも、涼しい顔で歩く少女に気付かれない程度に気合いを入れ直して、弾薬箱さんは歩く。
まだ午前中だというのに、日差しが強い。
肉体的な疲労こそ感じないが、精神的にしんどい。気温が数字で視界の隅に表示されているから尚更だ。
しかし残念なことに、そんな彼の事情などお構いなしにトラブルは襲い掛かってくるものらしい。
「あら、部外者は立ち入り禁止ですわよ?」
あと少しで建物の中へ入れるというところで、制服姿の学生と思しき少女に二人は呼び止められてしまった。
(どうしよう、なんて説明したら……)
赤みの強い髪色の少女の青い瞳に射すくめられた弾薬箱さんが考えを巡らせていると、隣のあざみが動いた。
「本日付けでこちらに配属になりました、臨時教導官兼学生の明野あざみです」
あざみが着用したブレザー風の上着から一枚の紙を取り出して、少女に見せる。
紙には鎌倉府防衛隊より発せられた、通常火器取り扱い指導及び訓練相手を務めつつ、勉学に励むようにとのあざみ宛ての命令が記されていた。
「これは失礼いたしましたわ」
「いえ、お気になさらず」
ゆるふわウェーブの少女とあざみが互いに頭を下げた。弾薬箱さんも慌てて少女に向かって頭を下げる。
「わたくし、楓・J・ヌーベルと申します。どうぞお見知りおきを」
「丁寧な挨拶、恐縮です」
改めて挨拶を交わすと楓と名乗った少女がすっと目を細めた。
「それにしても……」
自然に、そうあるべきと思えるような仕草で楓があざみに歩み寄る。
「可愛らしい方ですわね」
ふわりとあざみを抱きしめた。あざみの方が身長が小さいので、覆い被さる感じのハグだ。
「!?」
驚きの表情を浮かべるあざみ。それもそのはず、彼女のお尻には楓の手が伸びていた。
(うわー……)
いきなりの出来事にどん引きする弾薬箱さん。
「……あ、うん」
そんな彼を尻目に、しばらくフリーズしていたあざみが何やら納得した様子で頷いた。
「……え?ひゃん!」
不意に楓が可愛らしい声をあげた。あざみの手が楓のお尻に伸びていたのだ。
──さわさわ、さわさわ、なでなで……。
抱き合った二人の少女が互いのお尻を撫であう珍妙な光景が、そこには広がっていた。
(なんだこれ?)
困惑する弾薬箱さん。
止めようにも、あざみと楓が密着しているので、実力行使する訳にもいかない。かといって音声が出せない弾薬箱さんには、普通に声を掛けて止めさせる事も出来ない。
そんなわけで、弾薬箱さんはただアワアワと右往左往するしかなかったのだった。
そうこうするうちに、ようやく満足した楓があざみを抱擁から解放すると「教室までご案内いたしましょうか?」と、そう申し出てくれた。
上機嫌の楓に手を引かれて歩くあざみの後ろを弾薬箱さんがついて行く。
ただし、案内してもらうのは職員室だ。
その道中、ぼそりとあざみが呟くのを弾薬箱さんは聞き逃さなかった。
「先ほどのは、百合ヶ丘独自の挨拶というわけではなかったのですね……」
廊下の生徒達の様子を観察した結果、自らの勘違いに気付いてくれた様子。
ちなみに楓本人にもそれとなく確認済みである。楓曰わく彼女なりの『可愛らしい女の子への挨拶』なのだそうだ。
(あんなセクハラ紛いの挨拶はダメ、ゼッタイ)
音声出力機能が無いため、弾薬箱さんのツッコミは結局、誰にも気付かれはしなかった。
そうして、別段何事もなく職員室前に到着。鼻歌混じりに去っていく楓を見送って、あざみと弾薬箱さんは職員室のドアをノックするのであった。