アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
ひとまずは一柳隊の面々と親交を深めたことで、明野あざみへの『お友達をつくりましょう』という博士からの命令は達成とみなされることになった。
それは同時に、あざみに課せられた任務が次の段階へと進行することを意味していた。が、それには相応の準備期間が必要ということで、あざみはのんびりと日常を過ごすことになった。
加えて、あざみが担当していた通常火器運用の授業は百合ヶ丘女学院生徒たちのあまりの優秀さのおかげでカリキュラムを前倒しで消化していったために惜しまれつつも終了することになってしまう。
そんなわけで暇をもて余してしまったあざみであったが、弾薬箱さんのほうはわりとそうでもなかった。
「と、いうわけで弾薬箱さん。これを君に託す……」
弾薬箱さんの視界に強制的に表示されたビデオメッセージは、そんな言葉を遺して博士がお饅頭の山に顔を突っ込み倒れたとこで暗転、再生が終わった。
(えぇ……)
そんな映像を突然見せられてドン引きする弾薬箱さんの蓋がひとりでにぱかりと開くと、厚紙でできた箱が二十箱ほど出てきて彼の目の前に積み上がった。
箱の側面にはやたらまるっこい書体で『げへな饅頭』という名称と消費期限が表記されていた。ちなみに十個入りである。
(なんだこれ……!消費期限が明日までじゃないか)
差し迫った消費期限に頭を抱えたい衝動に駆られた弾薬箱さんだったが残念。彼には両足しかなかった。
(こんなものをいったいどうしろと?)
そんな途方に暮れた弾薬箱さんの視界の端にメールの着信を示すアイコンが表示された。
恐る恐る開いたメールの中身はGEHENA広報課から関係各所へのお願いのメッセージである。
GEHENAの広報イベントの物販コーナーで大量に売れ残ったげへな饅頭を廃棄するのは忍びないのでどうにか消費してほしいとの内容に、弾薬箱さんは存在しない肩をガックリと落とした。ちなみに同時に販売されたマギリフレクター煎餅は完売したそうだ。なぜだ。
しかし、このまま放置するわけにもいかない弾薬箱さんは、とりあえず生徒会へ報告したあとで、げへな饅頭を一柳隊のお茶会に出すことにしたのだった。
「これはGEHENAからの宣戦布告なのかしら?」
青ざめてそんな呟きを溢した白井夢結の手にはティーカップではなく、はんぶんこにされたことで中に詰まった餡を露出したげへな饅頭があった。
「これは流石に駄目じゃろ。食べ物がしていい色をしてないぞい」
ミリアム・ヒルデガルド・V・グロピウスがいつになく真剣な表情でげへな饅頭のダメ出しをする。
他の一柳隊メンバーも険しい表情でげへな饅頭を睨んでいるばかりで、誰も口にしようとはしなかった。
(だよね。それが当たり前の反応だよね)
その光景を眺めていた弾薬箱さんはなにかを悟ったような穏やかな心情であった。
だって、誰がすき好んで蛍光色の餡が詰まった饅頭を食べるというのか。
「ううっ、目が……。強烈な蛍光オレンジが目に痛いですぅ」
二川二水は目が、目がー!とばかりに両手で顔を覆って悶絶していたりする。
「え、っと……」
蛍光グリーンの餡がやっぱり目に痛いのか目を細めた王雨嘉の眉間には、グランドキャニオン級の深い皺が出現していた。
「原材料の記載では特におかしな材料は使われていないようですけれど……。それに着色料、添加物不使用らしいですよ?」
雨嘉の隣の椅子に腰かけて、しげしげとげへな饅頭の包装を眺めていた郭神琳が不思議そうに首をかしげた。
「……さすがGEHENA汚い」
お茶会に饅頭が出るというので密かに楽しみにしていた安藤鶴紗が瞳のハイライトをオフにしてGEHENAに対する呪詛を吐いた。食べ物の恨みは怖いのだ。
「見た目はこんなでも味はお饅頭なんだナ……」
「梅様!?食べちゃ駄目ですわ。ペッってしてくださいましペッって」
「痛い。それは餅が喉に詰まったときの対処方法だゾ」
蛍光色の水色が爽やかな印象の餡の詰まった饅頭を何でもない様子でひとくち噛った吉村・Thi・梅。その行動に目を剥いた楓・J・ヌーベルが慌てて梅の背中をバチンバチンとひっ叩いた。
「梅さま、大丈夫なのかの?」
心配そうなミリアムの視線に気づいた梅がニッカリと笑った。
「背中は痛いけど、饅頭は美味いゾ」
マギの粒子のようなものがげへな饅頭を食べた梅の口から放出されているが、本人が大丈夫というのならそうなのだろう。
実のところ、げへな饅頭は見た目はともかく開発責任者が自ら老舗和菓子店の職人に弟子入りしたりとやたらとGEHENAが本気で作り上げたお饅頭なのである。なので味は意外と美味なのだ。
ただもうちょっと見た目に対ヒュージ研究機関的な要素を盛り込むようにという上層部からの要望に応えた結果が、やたらケミカルな蛍光色の餡と食べた者はしばらくのあいだ、口からマギ的な粒子を放出するというギミックだったわけで……。まさにGEHENA驚異の技術力の発露である。
「なんてはた迷惑な饅頭なのかしら……」
ぽつりと呟いた夢結。
つまりはまぁ、実態のよくわからないGEHENAの印象なんてそういうものなのだ。
「百由さま、こっち終わりましたー」
「うん、それで最後ね。お疲れ様」
百合ヶ丘女学院工廠課の真島百由の研究室では一柳梨璃が乱雑に積み上げられていた素材の整理を手伝っていた。
「いやー、助かったわ。いつも手伝ってくれてた後輩はお茶会だからってさっさと逃げちゃうし」
「あ、あはは……」
部屋の天井に届かんばかりの段ボールの山を思い出して梨璃は苦笑い。
「あ、そうだ。最近、意気投合した研究者からの貰い物だけどよろしければどうぞ」
百由に差し出された箱を見た梨璃は一瞬驚いたあとに嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。夢結さまやみんなと美味しくいただきますね!」
百由の研究室から退出する梨璃が抱える箱には、げへな饅頭ラムネ味の文字が──