アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
「だからもっと生産数を増やせと言っとるのだ!」
パソコンのモニター越しに響く叱責の言葉も博士はへらりと軽薄に笑うだけでスルーした。
「そんなことを言われても被験体の培養槽を増やそうにも予算も場所もありません。あったとして、諸々の用意をして生育を促進しても半年はかかるんですよ。他の研究員より貴方を優先して提供しているというのにあまり我が儘を言わないでもらいたい」
大袈裟にため息を吐いた博士がアメリカンなコメディ調に肩をすくませた。
「この三ヶ月で二体も廃棄場送りにしているにも関わらず、肝心の研究成果は頭打ちではね。これ以上、僕の量産する被験体の供給は無理ですよ」
ほら、とタブレット端末の画面を相手に見せる博士。
そこには博士が量産する被験体を切実に催促する他の部署からのメールがびっしりと並んでいた。
「くっ……。そもそも貴様がもっとマシなモルモットを用意しないから」
「いえいえ、ちゃんとした研究員は貴方と違って少なくとも一年は持たせますよ。貴方、ちゃんと安全性を考慮して研究してます?」
煽るような博士の言葉に顔を真っ赤にした相手は一方的に通信を切ってしまった。まったく、大人げないものだ。
「アレ、よろしいのですか?なんなら──」
もうひと研究いっちゃうよ?とはしご酒的な軽いノリで問いかけてくる、あざみにそっくりな少女へ向けて博士は首を横に振った。
「君は担当の研究が完了して廃棄処分が決定してるでしょうに。それにもう書類にサインしちゃってるので」
ぴらりとサイン済みの研究備品廃棄書を少女に渡しながら博士が「お疲れさま」と声をかけたのだった。
その後、博士から渡された研究備品廃棄書を所定の部署に提出して廃棄場に顔を出し終えたところで晴れて廃棄処分を完了したあざみそっくりの少女は、さてどうしようかと腕を組んだ。
「困ったわね。暇だわ」
そう、唯一の職であった研究の被験体をお役御免となったので少女はやることがないのである。
一応、博士のツテで住み込みの再就職先は確保しているものの、それはしばらく休養してからとなっている。なので、とても暇なのである。
これまでやれ投薬実験だの検証作業だの資料のコピーにお茶汲みだの研究室の掃除だのとやたら忙しいモルモット兼雑用係をやっていたために、こんなにやることがないと戸惑ってしまうのだ。
仕方ないので街にでも出掛けて、どこかのカフェでのんびりお茶でもしようかと踏み出した足がピタリと止まる。
「そうだ、せっかくなので授業参観に行こう」
少女のあざみそっくりの顔に、あざみなら絶対にしないであろうウェヒヒ的なニヤけた表情が浮かんでいたのだった。
百合ヶ丘女学院の廊下を何かを探すかのようにキョロキョロと挙動不審な様子で歩く明野あざみの姿があった。
怪しさしか感じられないその様子を見詰める生徒たちの視線がズバズバと突き刺さっているものの、当の本人はそれどころではないのか気にした素振りはない。なお、あざみは気づいていなかったけれど、幾人かの生徒はあれ?さっき私服姿のあざみさんを見掛けたような?と首をかしげていた。
「何処ですか姉さまぁ……」
なかなか目的の人物が見つからず立ち止まったあざみがちょっぴり涙目でうなだれているところへ、ちょうど一柳梨璃が通りすがったのだった。
「あれ?あざみちゃん、どうしたの?」
いつも淡々としているあざみが見せる切なげな表情にびっくりしつつ、放っておくわけにはいかないと梨璃は声をかけてみた。
「ええ、実は案内していた外部からのお客さまとはぐれてしまって……。こうして探しているですがいっこうに見つからないのです」
目尻に涙を浮かべてそう訴えるあざみのただならぬ様子に、元来のお人好しな梨璃はふんすと気合いを入れた。
「大丈夫だよ。私もお手伝いするからね!」
「ええ、感謝します。このままでは姉さまが何かしらやらかしかねませんので……」
「へ?」
お礼のあとに続くなにやら不穏なあざみの言葉に、こてりと梨璃が首をかしげていると──
「ひゃあああー!?」
絹を裂くような悲鳴が二人の鼓膜に突き刺さったのであった。
「「大丈夫ですか!?」」
キンキンする耳鳴りをものともせずに現場に駆けつけたあざみと梨璃の目の前に、私服姿でなにやらはしゃいでいるあざみのそっくりさんに抱きつかれた楓・J・ヌーベルがいた。おまけに彼女らの周囲を困惑した様子で弾薬箱さんがパタパタと駆け回っている。
「あのあざみさんがこんな熱烈な抱擁を!?いいえ、いいえ、いけませんわ。わたくしには梨璃さんという運命のお相手がいますのに。それにしたってわたくし、罪な女ですわね。ああ、あざみさんも梨璃さんもわたくしのために争わないでくださいましっ!」
酷く混乱しているのかそれとも妄想に浸っているのか不明な状態で訳のわからない事を口走っている楓。そんな彼女を梨璃が背中から腕を回して私服のあざみのそっくりさんから引き剥がす。同時にあざみも自身のそっくりさんを羽交い締めにして楓から引き剥がした。
そうしてようやく落ち着いたのか、あざみのそっくりさんはあざみに頭を下げた。
「あの、ごめんね。お姉ちゃん、リリィの方に声をかけられたのが嬉しくって」
「姉さま、謝罪は楓さんにしてください」
「そ、そうよね」
「そうです」
ポッと頬を染めたあざみのそっくりさんとあざみのそんなやり取りを梨璃と楓がしげしげと眺めていた。
「姉妹にしても本当にそっくりですのね」
手を頬にあてて、楓がほぅと息を吐いた。
双子のような二人に交互に視線を向ける梨璃も目をパチクリとさせている。
そんな二人に向けて揃って首をかしげたあざみとそのそっくりさんは割りとあっさり爆弾発言を放り投げた。
「私たちは姉妹ではなくて──」
「複製されたクローン体です」