アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
「私たちは姉妹ではなくて──」
「GEHENAの研究のために開発及び複製・量産された実験体のクローンです」
明野あざみとその姉というおんなじドヤ顔をした二人が仲良く横に並んで、ズビシィッと見事に左右対称にポーズを決めた。
「それはどういうことですの?」
あざみちゃんズのドヤ顔を鮮やかにスルーしつつ指差した楓・J・ヌーベルが平坦な声で訊いた。
「「これは博士がとりあえず話のネタにでもと考案した決めポーズです」」
「いえ、そうではなくて!」
楓がバッサリとあざみたちの言葉を切り捨てて見せると、その隣で一柳梨璃が苦笑いを浮かべた。
「あの、ひとまず場所を変えません?目立っちゃってるし……」
梨璃の指摘にぐるりと辺りを見渡してみればなるほど、多くの百合ヶ丘女学院の生徒たちが何事かと此方を見詰めていた。ぽそりと「まさか梨璃さんを巡っての争いかしら?」等と見当違いな呟きが聞こえた気がする。
「そう、ですわね。ではテラスへ参りましょうか」
何かしら勘づいてしまったのか珍しく硬い楓の声に促され、あざみたちはオープンテラスへと向かうのだった。
「あ、これやばいかも」
博士のやたらと大きな独り言が彼の研究室に響いた。
普段と変わらないのほほんとした口調ながら、その言葉を溢した博士の頬はひきつっていた。
彼の視線はオープンテラスに向かうあざみちゃんズと楓、梨璃のうしろをてこてこ歩く弾薬箱さんから、本人も知らずに送られてくるリアルタイムな映像を映したモニターとは別のモニターに釘付けだった。
「やっぱり、外部からアクセスした痕跡がある。比較的表層部分だけだけどちょっと前の研究のレポートなんかを盗まれたな」
ぎゅむぅと眉間に皺を寄せた博士の指がカタカタとキーボードを叩く。
カタカタカタタタ、たーん!とエンターキーを叩くとモニターに盗まれただろうデータの一覧が表示された。
そのほとんどは博士の初期のレポートなどで特に重要なモノではなかったが、それでもひとつだけヤバいフォルダ名を見つけて博士の額に汗が吹き出た。
「弾薬箱さんに搭載してる小型人工ケイブ発生・制御装置の開発データ盗まれちゃった……」
弾薬箱さんのほぼ無限の収納力の正体である博士式人工ケイブ発生装置とその制御装置。
博士は単純に個人的に借りている貸倉庫と弾薬箱さんの中を繋ぐワームホールとして利用しているが、これが悪用されると割りととんでもないことになりかねないのである。
極々小規模なワームホールを形成可能なこの装置。
GEHENAはもちろん、各ガーデンや国防軍の観測装置による警戒網にすら発生を感知されることなく、しかも長時間の維持が可能。人間であればひとりやふたりくらいは簡単に任意の場所へ転移させることが理論的には可能なのである。
「そう、理論的にはね……」
実際に博士は生き物を使った転送をまだ試したことはないのである。
もし失敗すれば生命に関わる結果が予想できるのではあるが……。
「何処の研究室の馬鹿がやらかしたのか知らないけど絶対やっちゃうよね」
しかもおあつらえ向きに、装置を積んだ弾薬箱さんは百合ヶ丘のリリィたちの側にいて、そして彼の視た映像を博士のパソコンへと転送するために常時インターネットに接続されている弾薬箱さんには──
「一切のセキュリティが施されてない状態なんだよね」
ぽしょりとそう呟いた博士が天を仰いだ。
「そうなんだ。弾薬箱さんっていま、ハッキングやり放題なんだぜ……」
そんななんともわざとらしい博士の独白に──
普段どおりで冷静であったなら、簡単に罠だと見抜けてしまうはずのそんなあからさまな言葉に、功を焦ってしまった誰かは、実に軽率に行動を開始してしまったのだった。
弾薬箱さんが違和感を感じたのは目指すオープンテラスが視界に入ったときだった。
(あ、なんか嫌な感じがする)
例えればうなじがチリチリとする感じだろうか。あんまり心地のよいものではない。
その次の瞬間にはスチール製のボディと同じ素材の蓋が弾薬箱さんの制御下から脱して勝手にぱかりと開いたのだ。
(どうせまた博士のイタズラだろうな)
呑気にそんなことを考えつつ、トトトと小走りに本能的に梨璃の足下から離れようとした瞬間。蓋が開いたことで丸見えな弾薬箱さんの空っぽのボディからぐるぐると渦を巻くワームホール、博士謹製の装置から発生した小型の人工ケイブが姿を現した。
(なんだこれ!?と、とりあえず離れなきゃ)
もしそのまま弾薬箱さんが梨璃の足下にいたのなら、その瞬間に間違いなく梨璃が吸い込まれていただろう。
けれど、ほんのちょっぴりとはいえ弾薬箱さんが梨璃から離れたことによって、そんな事態は避けられたのだった。
「梨璃さん、離れてくださいましっ!」
楓の手が背中を押した勢いで梨璃は弾薬箱さんから離れた。
危険を感じて咄嗟に梨璃を突き飛ばして人工ケイブから遠ざけた楓だったが自身は半身を既にケイブに飲み込まれた状態だ。
「楓ちゃん!」
必死に楓へと手を伸ばす梨璃に向けて、楓は柔らかく微笑んだ。
「心配なさらないで梨璃さん。わたくし、必ず貴女のもとへ帰還してみせますから」
ぐっと親指を立てた楓の左手がケイブのなかへと消えてゆく。わずかに「あいるびーばーっくですわー!」と聞こえた気もする。結構、余裕綽々なのかもしれない。
とはいえ楓を独りにしておくわけにもいかない。
「楓さんを追います。梨璃さんは一柳隊の皆さんと合流を。今後のことは恐らく此方に向かっているはずの博士と相談してください」
(あのマッドサイエンティスト何をやらかしたんだ!?)
そう言い残したあざみが両足をバタバタさせて怒りを表現している弾薬箱さんを小脇にかかえて、今にも消えてしまいそうなケイブに飛び込んでいった。
「うん、待っててね。楓ちゃん、あざみちゃん、あとアンモちゃん!」
一柳隊の控え室へと、ときおり出くわす教導官に廊下を走らない!と注意を受けながらも梨璃は駆けてゆくのだった。