アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで 作:gromwell
無機質な灰色の壁に囲まれた部屋。
やや手狭なその部屋の中央に置かれたテーブルで向かい合う女性と少女の姿があった。
「なにしろ突然だったもので、生徒指導室しか空いてなくて」
そんな事をしれっと言いつつ、教導官の吉阪凪沙は向かい合うあざみを鋭い目つきで見つめた。
百合ヶ丘の生徒たちと変わらない年齢でありながら、通常火器の扱い方の指導を任されるような相手だ。警戒は当然といえる。
(ましてや所属があのGEHENAなら、なおさらよね)
あざみの足下にちょこんと座っている弾薬箱さんも気になるが、ともかく押し付けられたこの仕事を終わらせようと、吉阪は話を進める。
彼女の持つ命令書が正式なものである事は確認済みだが、それ以外で何か目的があるのか否か。それを確かめねばならない。
(とはいえ、直接聞き出すのは無理かしらね)
取り敢えずは牽制しておくとして、どこかのレギオンに監視役として行動を共にさせればいい。
(幸い、彼女の任務にはレギオンとの連携戦術の研鑽も含まれているみたいだし)
そんな目論見も含みつつ、吉阪とあざみは今後の方針について話し合いを始めた。
そんな生徒指導室のすみっこでは弾薬箱さんがちょっとした疎外感を感じつつ、暇を持て余していた。
話し合いに参加出来ないので仕方ないとはいえ、存在すら忘れられたように放置されてしまっては淋しい。
(ちょっと偵察がてら学園内を探検してみようか)
近くをちょっと散歩するくらいは問題ないだろう。そう判断して弾薬箱さんは立ち上がってドアへと向かう。
「ねえ、あなたのその、脚付きの箱みたいなのって、外に出たそうなんだけど」
いいの?とあざみに問いかける吉阪。
「武器も付いてませんし、それほど遠くへ行くとも思えないので大丈夫だと思います」
そこは止めるべきなのでは?と思わなくもない。しかし、信用されてると思えばそう悪くないのかもしれない。
飛び上がって脚の先っぽを引っ掛けて器用にドアノブを回す。
(猫か!)
(猫ですか!)
そんな吉阪とあざみの声無きツッコミを背中に受けながら、弾薬箱さんは悠々と生徒指導室から脱出したのであった。
(さて、どこに行こうか)
せっかくの自由時間。満喫しないと勿体ない。
かといって、あまり生徒たちの目につく所を彷徨くわけにもいかないだろう。
歩く弾薬箱なんて怪しい物体なのである。ヒュージと間違われてしまっては命に関わる。
そんなわけで、手近な教室を横切って中庭へと向かう。
確かベンチなんかも設置されていてちょっとした休憩スペースになっていたはずだ。
外で授業が行われているのか、校舎内は殆ど人の気配はない。
これなら少しばかりベンチでぼーっとしても大丈夫だろう。
中庭の隅の日陰に設置されたベンチに飛び乗ってちょこんと座る。すると、心地よい風が弾薬箱さんのスチール製のボディを撫でた。
(ああー、生き返る……)
視界の隅に表示された気温の数字が少し下がるのを見て、オッサンじみた台詞を吐く。実際は吐けてないけれど。
ふっと気が弛むのを感じつつ、ぼんやりとする弾薬箱さん。
そうやって微睡んでいた意識が、不意にはっきりしゃっきりした。
(ふあっ!?)
いつの間にかずいぶん時間が経っている様子。
辺りにはちらほらと体操着姿の女生徒たちが見える。
(授業、終わってる!?)
どうしたものかと頭を悩ませる。
こんな怪しい物体。絶対なにかよからぬ物と勘違いされそう。
CHARMを持ったリリィたちに追いかけ回される自分の姿が自然と脳裏に浮かんできてしまう。いや、いま脳は無いけれど。
そんなガクブル状態の弾薬箱さんの目の前でひとりの女生徒が立ち止まった。
ちょこんと屈んで弾薬箱さんと目を合わせて、手を伸ばしてくる。
(やられる!?)
ビクリと過剰に反応する弾薬箱さん。目の前の女生徒もビクリと伸ばしていた手を引っ込めた。
弾薬箱さんのつぶらな瞳と女生徒の翡翠色の瞳が見つめ合う。
少しつり目のクールそうな美人さんにこうも見つめられると、どうにも照れくさい弾薬箱さんであった。
ともかく、このまま見つめ合っていても仕方ないので立ち去ろうと弾薬箱さんは立ち上がる。
「……迷子なの?」
眉間に皺を寄せた女生徒の唇から溢れた言葉が弾薬箱さんのハートにグッサリと刺さった。その痛みによって彼は心の中で涙した。
世間一般ではおっさんと呼ばれても仕方ない年齢で、迷子。
そう、今の状況は間違いなく迷子そのもの。
迷子の迷子の子猫ちゃん状態である。にゃおん。
心なしか弾薬箱さんの塗料の剥げかけた瞳がうるうるしていた。
「
そこへ、別の女生徒がやってきた。
雨嘉と呼ばれた女生徒が、弾薬箱さんを両腕で優しく抱き上げて、あとから来た女生徒の方へ振り返る。
「あ、
迷子、確定しました。
「午前中に来られた方と一緒に歩いていた物体ですね」
神琳へ向かって頷く雨嘉。
「うん、持ち主の子、きっと探してる。返してあげなきゃ」
そんな彼女へ神琳は言った。
「オープンテラスへ参りましょう。二人よりも皆で探した方が、早く見つかりますわ」