アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯06 黄昏の防衛戦

 ヒュージはケイブという一種のワームホールを通じて襲撃してくる。

 そのケイブの発生の兆候を如何にはやく正確に感知するかが、防衛における最重要課題であった。

 GEHENAが鎌倉府にて試験運用中のケイブ早期警戒システム。従来のそれよりも詳細かつより早期のケイブ発生予測を目指した観測システムである。

 それによりケイブ発生の兆候有りとの連絡を受けたあざみは、百合ヶ丘女学園を飛び出して単身、予測地点へと急いでいた。

 同じ情報は鎌倉府防衛隊を通して鶴紗の端末にも送信されている。だが、彼女は出撃準備を整えて待機と指示された為、百合ヶ丘女学院にて他のレギオンメンバーと共に出撃命令を待っているところだ。 

「まさか、弾薬箱さんに通信機能があったなんて思いませんでした」

 あざみが通信機能を起動中の弾薬箱さん越しに博士へと声をかけた。

 さして驚いた様子も見せず淡々と話すあざみに、オペレーターを務める博士はつまらなそうにため息を吐いた。

「あっれー?もっと驚いてくれるかと思ったのに」

「ケイブの発生予測地点の絞り込みは終わったのですか?」

 博士の無駄口はスルー。状況は一刻を争うのである。

「だいたいはね。でも山沿いの住宅地のほうに寄ってる感じかなぁ」

 通信端末の向こう側で博士がカタカタとキーボードを叩く。

「住民の避難は?」

「まだだね。ケイブ発生の確度はまだ低い状況だから」

 現状の数値では、ケイブの発生の可能性はかなり低いようだ。

「まあ、発生したとしても小規模のものだろうね。ただ、複数の地点でケイブ発生の兆候らしきものが観測されているみたいだから」

 つまりは本命を絞り込まない限り、おいそれと出撃命令を下せない状況。

「そう……、ですかっ……!」

「あー……、大丈夫?たぶんその辺りは上り坂がキツいと思うけど」

「だったら、迎えくらい……!よこしてください!」

 荒い息づかいとペダルをこぐ音が言葉の間に響く。

 ただいま、あざみちゃんはママチャリに乗ってサイクリングの真っ最中なのだ。

「盗んだバイシクルで走り出すー」

 下手くそな博士の替え歌が通信端末と化した弾薬箱さんから聞こえてくる。ちょっとイラっとする下手さだ。

「盗んでません。ちょっと無断で借りただけです」

(それを盗んだって言うんだよ……)

 ママチャリのカゴに押し込められている弾薬箱さんのツッコミは相変わらず誰の耳にも届くことはなかった。

「うーん、まだどれが本命か判別出来ないね。もしかしたら全部でケイブが発生しちゃうかも」

 そうなったら大変だ。こちらの戦力を分散させるとなると、物量で押し切られる恐れがある。

「仕方ない。ここは防衛するにあたって優先順位をつけよう」

 博士の持つ端末には既に幾つかの予測地点で避難が開始されたとの情報が入っている。

 ならば、あざみを優先して向かわせる地点は自然と限られてくる。

「あざみちゃん、このまま山の方へ向かってほしい。少し市街地から外れたところだね。そこには老人ホームがあるようなんだ」

 博士の出した結論は、最も住民の避難の困難な地点へ、あざみを向かわせる事だった。

 避難が完了した地点でケイブが発生したのであれば、少なくとも人的被害は抑えられるはずだ。

「人的被害がでると、世間様の風当たりが強くなっちゃうからねぇ」

 冗談めかして笑う博士に対して、あざみはひと言だけ「了解」と応えた。

 すぐさま、取り出した自前の通信端末を操作して鶴紗の端末へと繋ぐ。

 自転車は片手運転になってしまうが仕方ない。

「何かしら?そちらは好き勝手に動いているようだけど」

 いきなり単独行動したせいか鶴紗の言葉には棘があった。

 しかし、あざみは気にする様子もなく用件を伝える。

「山手のほうの老人ホーム近辺に小規模ながらケイブ発生の兆候有りです。先行して防衛にあたります。ですが、複数の地点でも同様の兆候が観測されています」

「上の方針は?戦力を分散させるの?」

「いえ、避難が遅れている地点を優先して防衛にあたるようにと」

「わかった。通り道の発生予測地点を確認しながらそちらに向かうわ」

 鶴紗は言い終えるとブツッと通信を切った。

 恐らくはすぐにでも移動を始めるのだろう。

 だったら、あざみのやる事はただひとつ。

 ようやく見えてきた老人ホームの建物を見上げて、あざみはペダルを踏みつける足に力を込めた。

 こうして傾いた陽が染め上げる茜色の空の下で防衛戦が始まったのだった。

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